魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり

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118話 館への帰還

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「ランファーリ……シャルム・ローズがやられたさね!」

「わかってるっての……!」


 砂煙などで視界は決して良くはないが……天網評議会のアナスタシアとランファーリの二人は、シャルムの死を認識していた。それと同時に、敵戦力の圧倒的さも……。


「ライラック老師も死んだ……こりゃあ、私たちが逆立ちしても勝ち目はなさそうだな……」


「そ、そんな……! あんたがそれを言えば……!」


「仕方ねぇだろ……これが現実だ……」


 ランファーリの召喚能力を駆使すれば、アルビオン王国を滅ぼすことも可能と言われている。そんな彼女からの発言は非常に説得力のあるものだった……。現にランファーリが召還した数々のドラゴンは全滅しているのだから。

 そして、ハズキを含め、智司、アリス、レドンド、エステラ、ミヤビにはほとんどダメージがない。この状況でアルビオン王国やマリアナ公国が勝てる未来などなかったのだ。


「天網評議会の何人かは国王たちと共に不在だが……今のアルビオン王国の全兵力を一斉投入したところで、勝ち目なんてねぇよ。それどころか、魔神の軍勢の一人も殺せずに敗北することが濃厚だ」

「ランファーリ……!」


 アナスタシアは力なく蹲ってしまうが、現実は無常だった。アルビオン王国最高戦力のランファーリですら、現在攻めて来ている魔神の軍勢のメンバーの誰よりも弱い。アルノートゥンのメンバーが事実上、戦局から去った現状では特に不可能となっていた。


「敵を倒せる可能性があるとすれば……前に議題で上がったナパーム弾を街中に降らせるしかないさね……」

「ナパーム弾程度があいつらに効くとは思えないけどな……」

「まあ、確かにそうさね」


 智司率いる魔神の軍勢の独壇場と言えばいいのか。デイトナと含めた、アルビオン王国の生殺与奪は智司の気分次第となっていた。



「おい……なんだか、様子が変だぞ……?」

「ああ……あいつら……去っていくね……」


 二人にとっても、それは驚くべき事態と言えた。完全に敗北を確信していたランファーリ達だが、魔神の軍勢はそれ以上の進撃を行わなかったのだ。



--------------------------------------------




「ハズキちゃん~~~~!! 大丈夫だった? 怪我とかしてない!?」


「アリス……心配かけてごめんなさいね。私は大丈夫だから」


「ううん、大丈夫ならいいんだ! 心配したんだよ~~~!」

「ふふ、ありがとう、アリス」


 アリスは涙ぐみながら、ハズキに抱き着いている。智司はその光景を見ながら、微笑ましい感情に苛まれていた。


「さて、一度、ランシール学園に戻ろうか。戦略拠点にする予定だったけど……必要はなかったね」


 戦局が複雑になることを想定してランシール学園を占拠した智司。場合によっては生徒たちを人質にしたり、兵士要員にしたりと考えていたが、それも必要なくなったわけである。

「とりあえず、レドンド達のところに行くか」

「は~~~~い」

「畏まりました、智司さま」


 アリスとハズキは智司の言葉に頷き、その後を付いて行った。



------------------------------------------------




 ランシール学園にて、智司とレドンド達は合流を果たす。魔神の軍勢の総出演といったところだろうか。実際には違うのだが……。


「ハズキ……無事だったか」

「心配を掛けたわね、レドンド」

「バカを言うな。私が貴様の心配などするものか……」

「ああ、それもそうね」


 ハズキとレドンドはどこかライバル同士のようにそっぽを向いてしまった。共に智司に最初期に生み出された者達……それなりに、譲れないものがあるのかもしれない。


「もっと素直になったらいいのに~~~」

「うるさい、黙れ」

「ぶ~~~~! レドンドってば素直じゃない~~~!」


 アリスからの反論にも応じる気配はなく、レドンドは己の我を貫き通していた。本心ではハズキの無事を喜んではいるが、態度で現すことができないのだ。


「あんたがハズキよね?」

「ええ、そうなるわね」


 初対面のエステラは、ハズキを品定めするように見渡す。智司に召喚された者同士は、例え会っていなくても、ある程度お互いの知識を共有しているのだ。


「言っておくけれど、より魔神様に近いのは私だから。そこのところはよろしくね?」

「あら、負け犬の遠吠えと捉えてもいいのかしら?」

「言ってくれるわね……」


 エステラは性格的に智司に最も近い存在とも言える。それだけにハズキの態度が気に食わないのだった。


「これは、なかなか強敵が多いですな~~~。人間の中にも何人か居るみたいですし……」


 エステラの隣に控えるミヤビは智司の一番の女になる候補が多いことを把握していた。さりげなく、生徒たちに紛れているサラにも目を通しているようだ。


「とりあえず、本拠地に戻るとしようか」

「はい、畏まりました、魔神様」


 智司の言葉には皆が一斉に振り返る。仲間内でのイザコザは絶えないところではあるが、それも仲の良さの現れとも言えるだろう。全ては智司の為に奉げる……この一点に於いて、彼の配下に陰りはなかった。


 ちなみにエステラは短時間の間に、ランシール学園と本拠地を往復している。デュランの意味深な発言のせいで……。


 魔神である智司を先頭にランシール学園を去ろうとした時……。


「ま、待ってくれ……!」


 去って行こうとする魔神の軍勢に声を掛けたのはナイゼルだ。顔中が汗だらけではあるが、流石の勇気と言えるだろうか、ソウルタワーへの挑戦を目指す者としての。


「……なんだ?」


 仮面越しではあるが、絶対に悟られないように智司は声色を使っていた。


「あんた……魔神なんやろ? 目的はなんなんや……? なんで俺らを全滅させへん? リキッドは殺されたけど、あんたからすれば、俺ら全員の命なんて虫けらみたいなもんやろ……?」

「虫けら? 確かにそうかもしれんが……」


 智司はどのように答えようかを思案していた。正体をバレないようにするためには、なるべくナイゼルとの無駄な会話は避けるべきだ。


「あなた勘違いしているわよ」


 そんな智司の心中を悟ったのか、ハズキが代弁をする。


「な、なんやて……?」


「魔神様は相手が例え虫けらでも、無駄な殺生は好まれないの。私達の姿を見れば想像は付くでしょうけれど、同じ人間型の情けとでも言えるかしら? でも、魔神様は住処を荒らす者には容赦はされないわ……そのことは肝に命じておきなさい」


 戦力数値にして30万を記録する圧倒的なハズキからの言葉は、ナイゼルの脳裏に深く刻まれることになった。こちらから手を出さなければ魔神の軍勢は人間を脅かすことはない、と。


「と言っても、我々の言葉は信じられないだろう。だが、そこは弱肉強食の習わしに従ってもらおうか。我々はいつでも貴様らを消すことが可能だ。怯えながら今までの生活を楽しむか、遠方へと逃げるか、それとも死を覚悟で攻めて来るか……判断するがよい」


 智司は無常な言葉をナイゼルに言うと、ハズキやアリス達を引き連れてランシール学園を去って行く。ハズキ、アリスは智司の両サイドを陣取り、その背後にはエステラとミヤビの二人……そして、一番後方をシルバードラゴンのレドンドが闊歩していく構図となっていた。


 絶対なる魔神の進撃……超巨大台風よりも性質の悪いそれは、デイトナの街全体をある程度破壊した段階で過ぎ去って行った……。


「ナイゼル……」

「ああ、何も出来へんな、あれは……。リリーの奴が居らんかったんは良かったかもな。それにしても……智司の奴は何処に行ったんや?」

「智司くんはリリーと用事があったみたいですので、デイトナには居たでしょうが、難を逃れた可能性は高そうですね」

「そうか……智司やったら、もしかしたらあいつらとも渡り合えるかと思ったんやけどな……」

「いえ、いくらなんでもそれは……」


 相手は異次元の化け物たちだ。いくら智司でも、彼らには勝てないというのがナイゼルやサラの結論だった……。
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