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34話 傾く政権 その2
しおりを挟む「あ~~~なるほど! テッドの奴とね~~!」
「あんまり恥ずかしいから言わせんといてや……」
異性と夜を過ごした経験のあるタイネーブ。気さくな印象のある彼女ではあるが、流石にその時のことを話すのは照れていた。貴重な彼女の表情と言えるだろうか。
「ていうか、なんで冒険者仲間のテッドのこと知ってるん?」
「えっ? あ、いや……ゆ、有名だからよ……!」
かなり苦しい言い訳をしてしまうアイリーン。テッドというのは、ゲーム内でアルガス伯爵以外の男キャラの一人だ。つまりは主人公のカンパニュラの恋人候補である。
彼女と同じく冒険者であり、相当な凄腕だった。しかし、二人は付き合ってはいないようだが。
「有名……? まあ、確かに凄腕やから、ゲシュタルト王国まで知れ渡っても不思議じゃないけど」
「で、でしょ~~? さすがタイネーブの恋人よね!」
「だから、恋人やないて」
なんとかごまかすことに成功した。アイリーンからしてみれば、付き合ってもいないのに、肉体関係があるのはおかしいと考えている。だが、実際問題として世の中はそんなに甘くないものだ。タイネーブの性格からして、ノリでしてしまったと聞いても驚きはしない。
「ゲシュタルト王国の民衆鎮圧対抗の時にさ、テッドも来るんでしょ?」
「もちろん打診してあるで。知ってるんやろうけ、凄腕やから期待しててや!」
「ええ、もちろん期待しているわ」
アランドロ女王国の正式な回答待ちというところではあるが、「蒼き月のカンパニュラ」は終盤に差し掛かっている。ゲシュタルト王国の王族や貴族連中の没落は最早、防げない段階にまで来ていた。
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その頃……ゲシュタルト王国のヴァルハーツ家の屋敷では……。
「金鉱山にて、新たな鉱脈の発見か……。ふふふ、まさかそのようなことが起こるとはな。アイリーンを追放した直後……偶然ではあるまい」
リグド・ヴァルハーツ侯爵は娘の手柄を内心では喜んでいた。隣国のアランドロ女王国に保護されているらしいとの情報も獲得している。たくましく生き抜いているようだ。
「ヴァルハーツ侯爵……民衆の暴徒化は止められるレベルではありません。このままでは国家の存続そのものが危うくなります」
屋敷に滞在している執事の一人が侯爵に話す。彼は焦ることもなく頷いた。
「これも時代の流れなのかもしれん。民衆のことを顧みない権力は滅びるというな……」
リグド・ヴァルハーツは窓の外を眺めていた。同じ空を見ているであろう娘と、二度と会うことはないだろうと考えながら。
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