スティグマータ・ライセンス 〜異能者たちのバトルロイヤル〜

よもぜろ

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第一部・エピローグ

第一部・エピローグ 代償と旅立ち (2)

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 二週間後。

 医者を驚愕させるほど驚異的な回復力で退院した秀彰は、表向きには別の学校への転校という形で手続きを進めてもらうことにした。真道の居る特行水橋支部は数十キロ離れた隣県なので、親元からも離れて暮らすことになる。もっぱらの不安の種は彼の母親の説得だったが、これが意外にもすんなりと受け入れられたので秀彰も拍子抜けしてしまう。

(体の良い厄介払い、ってワケじゃねえだろうけど、親子同士だから何か感じるトコでもあったんだろうな)

 思えば痕印者になってから頻繁に怪我をして帰宅することが多かったが、母親から踏み込んだ話をされた記憶が無い。心配されている雰囲気はあったものの、それ以上に「あの息子ならきっと大丈夫」という無言の信頼感が感じられた。

 別に海外へ旅立つ訳ではないし、来ようと思えばいつでも帰って来れる距離だ。それでも引っ越し準備が完了した時には久方ぶりに母親の涙ぐむ顔を見てしまったので、さすがの秀彰もセンチメンタルな気持ちになった。死ねない理由が一つ増えた。

 そして転校当日の放課後、秀彰が何も伝えずとも自然と仲間が会いに来てくれた。

「そう、行くのね。本来なら私も付いていく所だけれど、素性が暴かれたらお仕舞いだから。ごめんなさい」
「別に謝る事は無いから。先輩は真田センセの事を頼む」

 ぎゅっと人形を抱きしめながら、鈴峰は寂しそうに呟く。一度は殺し合った仲なのに、ここまで親密な関係になるとは思ってもいなかった。渡した人形が綺麗で、いつも丁重に扱っているのが分かると、秀彰の心が少し嬉しくなる。

「……事情は分からないけど、お前が頑張るなら俺は親友として応援するだけさ。また、いつか遊びに来いよ、約束だからな!!」
「分かってるって。今度会うときには音痴治しとけよ」

 秀彰の学ランを引き千切るほどに引っ張りながら、信吾は上擦った声で叫んだ。思い返してみても、親友はコイツだけしかいないし、他に作る必要も無かった。馬鹿みたいに純粋で、彼と過ごした数ヶ月は、正直結構楽しかったように思う。

「あ、赤坂君っ、こ、これ……持っていって、下さい……っ」
「これ、手作りのお守りか。ありがとう中川、大事にするから」

 手製のお守りを秀彰が受け取ると、中川はすぐさま走り去っていった。入学式の日の一件で秀彰が停学処分を受けている最中、委員長である彼女は毎日欠かさず彼の家まで配布物を届けに来てくれた、言わば恩人だ。その誠実さとお人好しさには感謝してもしきれない。お守りを受け取るときに見えた彼女の細い指が傷だらけで、ちょっと辛かった。

 全ての知り合いに別れを済ませると、秀彰は下駄箱を抜け出して校門へ向かった。本当は真田にも改めてお礼と別れを告げたがったが、彼女の姿を見ると固めたはずの決心が揺らぎそうで自分から会いに行くのは憚られた。

(いや、これでいいんだ。次にセンセに会う時は一人前になってからって決めてんだからな)

 複雑な感情の入り混じった溜息を一つ吐き出すと、秀彰は外靴に履き替えて校門へと向かおうと歩き出す。最後の校舎の間を通過したその時、頭の上から見知らぬ封筒がぽすんっと落ちてきた。

「ほれ、餞別だ。持ってけ」

 声に反応して振り返ると、そこには車椅子姿の探し人が開けた窓ガラス越しに笑顔で佇んでいた。雑に投げ渡された、やけに膨れている封筒を開いて中を覗く。

 そこには、ピンの壱万円札が五十枚ほど詰まっていた。

「こ、こんな大金、受け取れる訳――」
「い・い・か・ら、持ってけ!! 後でちゃぁんと利子取るからな、出世払いで返すように!!」

 二階の渡り廊下に向かって叫ぶ秀彰の訴えを、真田も同じく叫びながら問答無用で突っぱねる。すると急に秀彰の鼻の通りが悪くなり、視界も何だか不明瞭になってきた。同時に浮かび上がる記憶。宿直室で丸机に頬を突っ伏しながら「公務員って薄給なのよ」と嘆く、真田の姿。

 掠れた声で、秀彰が頭を下げる。

「ありがとう、ございます、真田先生」
「……ん、ま…ぁ…、頑張、って」

 真田の方も鼻声で別れの言葉を述べ、ぷいっと首を横に向けてしまう。秀彰には見えなかったが、車椅子の下にはぽたぽたと雫が垂れていた。

「……それじゃ、俺はもう行きます」

 彼女の泣き顔を直視する事が出来ず、秀彰は顔を伏せたまま、恩師と学舎に背を向けて、校門を抜けた。

 進むべき道はようやく定まった。もう道に迷う事も、道を間違える事もない。

 新たなる成長の舞台、特行の水橋支部へ向かって、未だ半人前の痕印者――赤坂秀彰は新たな道を歩き始めたのだった―――。

【スティグマータ・ライセンス 第一部『痕印』・完】
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