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第二章 不穏なカルテ
◾️八月三十日土曜日Ⅰ
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一週間の仕事が終わり、八月最後の休日がやってきた。
今週も酒井先生からのお説教時間は日増しになっていった。金曜日には一週間の疲れがどっと溜まっていて、とてもじゃないが華金気分を味わうなんてこともできなかった。仕事中、毎日のようにずっと視線を感じていたのも変わらない。酒井先生の視線もあると思うが、それ以外の目がどこからか私を見つめているような感覚がしていた。
そして昨晩、山吹先生から食事に誘われた時には驚いた。一応、お酒をたくさんくれたお礼とのことだった。それでも奥さんがいるのに、私と食事に出かけようだなんて、山吹先生も罪な男だな。そういう付き合いは夫婦同士で許しているのかもしれないけれど、私が彼の妻だったら結構嫌だ。お礼なんてとんでもない、ちょっと体調が優れなくて、とやんわりとお断りすると、「そうか、残念だけどお大事にね」と眉を下げて笑っていた。
そしてようやく休日に突入したというわけだ。
今日と明日、やることは決まっている。
再び清葉病院に行くのだ。
今回は二日間滞在するため、近隣のホテルを予約してある。近隣と言っても、清葉病院のある霜月町からはバスで三十分ほど揺られなければいけない。霜月町は田舎すぎて、宿泊施設なんてろくにないからだ。隣の市まで行けばそれなりに栄えているので、そちらのビジネスホテルを予約した。直前の予約だったが、空きは十分にあるようで、電話するとすぐに予約をとることができた。
前回同様、土曜日の朝から新幹線に乗って、お昼頃盛岡駅に到着した。今日も駅近くのレストランで昼食をとり、そのまますぐに霜月町へと向かった。
先週とまったく同じコースだ。デジャヴだなと感じながら、バスに乗り込む。途中、山道でトンネルを通るのだが、そのときふと、窓の外にまた人間の顔の形をした白い影が見えて、はっと目を瞬かせた。
「まただ……」
前回、盛岡からの帰りに新幹線に乗っている最中にも、同じような白い顔の影を見たのだ。目と鼻と口が真っ黒の空洞になっている、白い顔を。あの時もトンネルの中だった。あの日以降、仕事中もずっと感じていた視線。その視線と、今目にした白い顔に穴が空いたような黒い目が想像の中で合致する。
他にバスに乗っている乗客は三人ほどしかいないが、誰も私が目にしたものに気づいているような人はいなかった。
私だけに見える怪異。
それが意味するところを深く考えるのが恐ろしくて、これから向かっている先に待ち受けているものを想像すると、すでにざわざわと心臓が激しく脈打ち始めていた。
今週も酒井先生からのお説教時間は日増しになっていった。金曜日には一週間の疲れがどっと溜まっていて、とてもじゃないが華金気分を味わうなんてこともできなかった。仕事中、毎日のようにずっと視線を感じていたのも変わらない。酒井先生の視線もあると思うが、それ以外の目がどこからか私を見つめているような感覚がしていた。
そして昨晩、山吹先生から食事に誘われた時には驚いた。一応、お酒をたくさんくれたお礼とのことだった。それでも奥さんがいるのに、私と食事に出かけようだなんて、山吹先生も罪な男だな。そういう付き合いは夫婦同士で許しているのかもしれないけれど、私が彼の妻だったら結構嫌だ。お礼なんてとんでもない、ちょっと体調が優れなくて、とやんわりとお断りすると、「そうか、残念だけどお大事にね」と眉を下げて笑っていた。
そしてようやく休日に突入したというわけだ。
今日と明日、やることは決まっている。
再び清葉病院に行くのだ。
今回は二日間滞在するため、近隣のホテルを予約してある。近隣と言っても、清葉病院のある霜月町からはバスで三十分ほど揺られなければいけない。霜月町は田舎すぎて、宿泊施設なんてろくにないからだ。隣の市まで行けばそれなりに栄えているので、そちらのビジネスホテルを予約した。直前の予約だったが、空きは十分にあるようで、電話するとすぐに予約をとることができた。
前回同様、土曜日の朝から新幹線に乗って、お昼頃盛岡駅に到着した。今日も駅近くのレストランで昼食をとり、そのまますぐに霜月町へと向かった。
先週とまったく同じコースだ。デジャヴだなと感じながら、バスに乗り込む。途中、山道でトンネルを通るのだが、そのときふと、窓の外にまた人間の顔の形をした白い影が見えて、はっと目を瞬かせた。
「まただ……」
前回、盛岡からの帰りに新幹線に乗っている最中にも、同じような白い顔の影を見たのだ。目と鼻と口が真っ黒の空洞になっている、白い顔を。あの時もトンネルの中だった。あの日以降、仕事中もずっと感じていた視線。その視線と、今目にした白い顔に穴が空いたような黒い目が想像の中で合致する。
他にバスに乗っている乗客は三人ほどしかいないが、誰も私が目にしたものに気づいているような人はいなかった。
私だけに見える怪異。
それが意味するところを深く考えるのが恐ろしくて、これから向かっている先に待ち受けているものを想像すると、すでにざわざわと心臓が激しく脈打ち始めていた。
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