私の居場所を見つけてください。

葉方萌生

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第五章 かわいい我が子です

◾️九月二十五日——後日Ⅰ

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 友人の藤島みよ子が行方不明になって十日が経った。
 みよ子から“皐月”と呼ばれている私が最後に彼女に会ったのは、九月六日のことだ。あれから九日後に彼女がいなくなり、さらに十日が経っても帰ってこない。みよ子のお母さんとも話したけれど、みよ子のお母さんは私のことを怯えるようなまなざしで見ていた。認知症を患っているらしい。まだそこまで重度というわけではなく、時々物忘れや、関係が薄い人間のことを忘れてしまうようだ。私はみよ子のお母さんに会ったのが初めてだったので、最初から警戒された。

「どうか……あの子のことを……、見つけてやってください」

 それでも最後には私にすがるようなまなざしを向けていた。大事な我が子のことがいなくなって、藁にもすがりたい思いなのだろう。

「みよ子さんを見つけられるよう、できるかぎり尽力します」

 とは答えたものの、正直一介の会社員でしかない私ができることは何か——SNSで呼びかけはしたものの、それらしい情報は入ってこない。DMで「みよ子さんぽい髪型のひとを見ました」「横浜にいましたよ!」「このひとじゃないですか?」とたくさんメッセージはいただくものの、どれもみよ子ではなかった。
 まあ、見ず知らずのひとを探すなんて不可能に近いわよね……。
 私はみよ子の友人だから、後ろ姿だけでも彼女かどうか判別できる。でも、赤の他人が彼女を探すのは困難だろう。DMのなかには冷やかしのようなメッセージも当然混じっている。それらは見ないようにして、私は何をすればみよ子が見つかるのか、淡々と考えていた。

 みよ子に最後にLINEを送ったのは、昨日。
【どこにいるの?】という問いかけに、もちろん「既読」はつかない。彼女の一人暮らしの自宅にはスマホがなかったようなので、スマホを持って出かけたことは確かであり、さらに岩手の清葉病院に行っていたことも分かっている。彼女の同僚である山吹という男性が、教えてくれた。

 そして私は今日、その山吹さんに会うために街へ繰り出した。
 新宿にある喫茶店で落ち合った。純喫茶の扉が開き私が座っている席に、彼がやってくる。

「初めまして、山吹です」

 爽やかな好青年だという印象だった。左手の薬指には指輪がついている。もし彼が独身なら、みよ子は恋をしていたんじゃないだろうかと思わされた。

「初めまして。みよ子の学生時代からの友人の——メイと申します」

 フルネームを名乗るか迷ったが、山吹さんの下の名前を私は知らないので、お互い様だということで名前だけ名乗った。
 みよ子は私のことを“皐月”と呼んでいたが、それは学生時代の私の筆名だった。
 現在は違う名前で活動をしている。みよ子は学生時代から私のことを皐月と呼んでいたので、そちらの方が馴染んでいるらしい。

「メイさん。今日はお忙しい中お会いしていただきありがとうございます」
 
「いえ、こちらこそです」

 時刻は十九時。今日は金曜日なのでお互いに仕事が終わってから待ち合わせをしていた。
 お互いにコーヒーと、それから軽く胃袋を満たせるホットケーキを注文してひとまずホットケーキを胃袋に収める。たぶん、この後家に帰ってまた別にご飯を食べるだろう。ぼんやりとどうでもいいことを考えつつ、山吹さんが「藤島さんのことなんですが」と本題に切り込むのを受けて彼のほうをじっと見つめた。

「藤島さんの居場所は今も……分からないんですよね」

「はい、そうですね。警察は、行方不明というより本人の意思で失踪したというふうにみなしているそうです。話を聞いた限りだと事件に巻き込まれた可能性は少ないのだと」

 そう。今回、みよ子がいなくなった件に関して、警察はそれほど積極的に捜査を行っていないという。成人が失踪した場合、事件性がある場合とそうでない場合で対応が変わってくるそうだが、みよ子の場合、自ら岩手へと向かっているという時点で事件性が低いとみなされたようだ。

「はあ……。そこらへんがよく分からないんですよね。僕が最後に藤島さんに電話をしたとき、明らかに様子が変だったんです。それなのに事件性がないと決めつけるなんて……」

 山吹さんは、みよ子が失踪前に清葉病院に行っていたこと、その際みよ子とずっと電話をしていたことを話してくれた。今回、彼と会うきっかけになったのは、私がみよ子の職場に連絡を取ったことだった。みよ子といちばん親しくしていたという山吹さんが、みよ子について何か知っているんじゃないかと思い、こうして二人で会うことにしたのだ。
 山吹さんのほうもみよ子のことを気にしていたらしく、二つ返事で了承してくれた。
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