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第一話 三つ葉書店の黒猫
喋る黒猫
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とはいえ、行く当てがないことはいうまでもない。
とりあえず弥生小路からすぐ北に伸びる四条通へと出て、鴨川の方へと向かう。時刻は午後八時半。こんな時間でもまだ観光客が土産物屋さんの前をずらずら歩いている。お店は閉まっているところも多いが、京都の雰囲気を味わうにはもってこいの場所だからか、賑わいは廃れるところを知らない。
鴨川に向かったのは本当になんとなくで、特に理由はない。一人でいても不自然ではない場所を思い浮かべたらそこが鴨川だったというわけだ。
夜の鴨川はランニングをする若者や、自転車で縦に並んで駆け抜ける大学生らしき人、川沿いに座るカップルでいっぱいだ。特にこの夜の時間帯にはカップルたちが等間隔に並んで座っている。県外の人も知っている有名な光景だ。
私は、繁華街近くから離れるために、鴨川を南へと下っていった。清水五条よりも南まで行くと、メインの繁華街を離れるため、人気はぐんと少なくなった。無造作に設置されている椅子に座る。空を見上げると、三日月がぽんと浮かんでいたが、すぐに雲に隠れて見えなくなった。
しばらくそこで川の流れをぼうっと見つめていたのだが、少しすると足元でさわさわと何かが動く気配がした。
「え、何……?」
驚いて視線を下へと移す。すると、椅子の下からすっと黒い塊が飛び出してくるのを見て、思わず椅子からひっくり返りそうになった。
「な、なんだ、猫ちゃんか~」
目に飛び込んできたのは黒猫だった。昨日といい今日といい、最近黒猫によく遭遇するな。いやいや待てよ。よく見たらこの猫、昨日会った子と同じじゃない?
黄金色の瞳をキョロキョロと動かして、私と目が合うとすっと賢そうな目つきに変わった。綺麗な毛並みはまるで飼い猫のようだ。もしかしたら本当に飼い猫なのかもしれない。動物好きの私は、「ちょっと失礼」と断りを入れて、彼女(もしかしたら彼かもしれない)に触れようとした。
「え?」
するりと、宙を掴む感覚がして、猫の身体を触り損ねたのだと気づく。
避けられちゃったか、と残念に思ったんだけれど、よく見たら彼女はまだそこにきちんと座っていた。
「どういうこと?」
気を取り直してもう一度、猫の喉元を撫でようと試みた。
けれどやっぱり私の手は彼女の身体をすり抜けて——て、すり抜けてる!?
「えええええっ!?」
一人、夜の鴨川で大きな声を出してしまい、ちょうど間の前を通り過ぎた人がジロジロと私の方を見てきた。驚かせてすみません。いや、驚いてるのは私の方なんですっ! と、言い訳することもできずにその人は通り過ぎていく。
「うそだぁ」
きっと幻覚に違いないと思い、やっぱりもう一度、と黒猫に手を伸ばしかけたところで、聞こえた。
「触ろうとしても無駄よ」
「……は?」
知らない女の人の声に慌てて手を引っ込める。一体誰!? とささっと周りを見回したけれど、誰もいない。それどころか今、目の前の黒猫の口が動いて、彼女が言葉を発したように見たのは、日頃の疲れが溜まってるせい……だよね?
「わたし。喋ったのはわたしだよ。見りゃ分かるでしょ。あなた、頭大丈夫?」
「はあ……そっか。やっぱりきみか~。なあんだ~……って、はいいいいい!?」
もはや一人コントを繰り広げているような驚きっぷりに、時折通り過ぎていく人たちが不審者でも見るようなまなざしを向けてきた。だが今は周りの人の目など気にする余裕はない。なんてったって、目の前に座っている猫が、人語を喋っているんだものっ!
とりあえず弥生小路からすぐ北に伸びる四条通へと出て、鴨川の方へと向かう。時刻は午後八時半。こんな時間でもまだ観光客が土産物屋さんの前をずらずら歩いている。お店は閉まっているところも多いが、京都の雰囲気を味わうにはもってこいの場所だからか、賑わいは廃れるところを知らない。
鴨川に向かったのは本当になんとなくで、特に理由はない。一人でいても不自然ではない場所を思い浮かべたらそこが鴨川だったというわけだ。
夜の鴨川はランニングをする若者や、自転車で縦に並んで駆け抜ける大学生らしき人、川沿いに座るカップルでいっぱいだ。特にこの夜の時間帯にはカップルたちが等間隔に並んで座っている。県外の人も知っている有名な光景だ。
私は、繁華街近くから離れるために、鴨川を南へと下っていった。清水五条よりも南まで行くと、メインの繁華街を離れるため、人気はぐんと少なくなった。無造作に設置されている椅子に座る。空を見上げると、三日月がぽんと浮かんでいたが、すぐに雲に隠れて見えなくなった。
しばらくそこで川の流れをぼうっと見つめていたのだが、少しすると足元でさわさわと何かが動く気配がした。
「え、何……?」
驚いて視線を下へと移す。すると、椅子の下からすっと黒い塊が飛び出してくるのを見て、思わず椅子からひっくり返りそうになった。
「な、なんだ、猫ちゃんか~」
目に飛び込んできたのは黒猫だった。昨日といい今日といい、最近黒猫によく遭遇するな。いやいや待てよ。よく見たらこの猫、昨日会った子と同じじゃない?
黄金色の瞳をキョロキョロと動かして、私と目が合うとすっと賢そうな目つきに変わった。綺麗な毛並みはまるで飼い猫のようだ。もしかしたら本当に飼い猫なのかもしれない。動物好きの私は、「ちょっと失礼」と断りを入れて、彼女(もしかしたら彼かもしれない)に触れようとした。
「え?」
するりと、宙を掴む感覚がして、猫の身体を触り損ねたのだと気づく。
避けられちゃったか、と残念に思ったんだけれど、よく見たら彼女はまだそこにきちんと座っていた。
「どういうこと?」
気を取り直してもう一度、猫の喉元を撫でようと試みた。
けれどやっぱり私の手は彼女の身体をすり抜けて——て、すり抜けてる!?
「えええええっ!?」
一人、夜の鴨川で大きな声を出してしまい、ちょうど間の前を通り過ぎた人がジロジロと私の方を見てきた。驚かせてすみません。いや、驚いてるのは私の方なんですっ! と、言い訳することもできずにその人は通り過ぎていく。
「うそだぁ」
きっと幻覚に違いないと思い、やっぱりもう一度、と黒猫に手を伸ばしかけたところで、聞こえた。
「触ろうとしても無駄よ」
「……は?」
知らない女の人の声に慌てて手を引っ込める。一体誰!? とささっと周りを見回したけれど、誰もいない。それどころか今、目の前の黒猫の口が動いて、彼女が言葉を発したように見たのは、日頃の疲れが溜まってるせい……だよね?
「わたし。喋ったのはわたしだよ。見りゃ分かるでしょ。あなた、頭大丈夫?」
「はあ……そっか。やっぱりきみか~。なあんだ~……って、はいいいいい!?」
もはや一人コントを繰り広げているような驚きっぷりに、時折通り過ぎていく人たちが不審者でも見るようなまなざしを向けてきた。だが今は周りの人の目など気にする余裕はない。なんてったって、目の前に座っている猫が、人語を喋っているんだものっ!
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