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第二話 三つ葉書店の大躍進
信じられない光景
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***
信じられない光景が、目の前に広がっていた。
四月十三日日曜日。
お昼のラッシュ時間の後、いつのもように休憩がてら『やよい庵』を出ると、目の前にお客さんの列が伸びていた。ぎょっとして一歩後ずさる。
え、今からみんなご飯に並んでるの?
と錯覚したが、みんなが並んでいるのは『やよい庵』ではない。列の先を目で追いかけると、先頭はなんと『三つ葉書店』に続いていた。
「えー!?」
思わず大きな声が口から漏れて、並んでいた人が私を二度見する。すみません、すみません。でもまさか、こんなことが起こるなんて。もしかして夢? と、夢にしてはなんだか現実的すぎて引いてしまいそうになる。いやしかし、これは夢じゃない。目の前に並んでいる人たちはソワソワと落ち着かない様子で『三つ葉書店』の入り口の方を見守っている。若い女性客ばかりで、どう見ても本が好きそうな人はいない。と、偏見で解釈するのは良くないか。本を買いに来た人もいるだろう。でも十中八九、目的は別にあるようだった。
「あ、出てきた! あれが噂のイケメン店主?」
「うわー本当にイケメンじゃん。てか俳優?」
「噂通りすぎ。いや、噂より格好良いかも」
「わざわざ新幹線予約してまで来た甲斐があったわ」
「追いかけても逃げない丸○涼、最高」
聞こえて来る同伴者との囁き声に、頭がくらくらとしてきた。
この人たち、本当にあの投稿を見て詩文さんに会いに来たの……!?
にわかには信じがたい話だが、状況を見るに、信じざるを得ない。
彼女たちの目的が詩文さんなら、若い女性ばかりだという事実にも頷ける。
こんなにお客さんが突然溢れて、詩文さんは大丈夫なの?
心配になった私は、「ちょっとごめんなさい!」と長蛇の列を掻い潜り、店員のふりをして『三つ葉書店』の中へと突入した。
「詩文さん!」
私が声を張り上げて名前を呼んだ時、彼はレジの前であたふたとお客様対応に追われていた。
「え、え、姪御さんの二歳の誕生日で絵本を? おすすめの絵本、売れ行きの良い本ですか? ああ、それならあっちに……」
「本はいいからサインをくれ? えええっ、どういうことでしょう。ぼ、僕のサインですか!?」
「恋愛雑学本? あるような、ないような……」
女性客たちが次々と詩文さんに種々の要求をしている光景が目に飛び込んでくる。どのお客さんも、やっぱり本を探しに来たというより、詩文さんに話しかけるのが目的のようだった。だが詩文さんはそんなふうには思っていないだろう。純粋に本を探しに来たお客さんと考えて、あたふたと取り乱している。もともと接客が得意ではない上に突如として溢れんばかりの人が押し寄せたのだから、パニックになるのも仕方がない。
見かねた私は詩文さんの援護に回ろうと、レジの方へとずんずん歩いて行った。近くにいた女性客が異物を見るようなまなざしを私に向ける。だが私は、そんなこともお構いなしに彼に近づいていく。詩文さんがあまりにも困っている様子なのを、放っておけるはずがない。
「あの、詩文さん大丈夫——」
私が彼にそう話しかけた時だ。
足元をさーっと何かが歩く気配がして、はっと一瞥した。モナだ。相変わらず気まぐれだな。にしてもこんなに忙しい時になんだ、と彼女を睨みつけようとしたのだが、モナは私に「こっちに来て」と真剣に話しかけてきた。
信じられない光景が、目の前に広がっていた。
四月十三日日曜日。
お昼のラッシュ時間の後、いつのもように休憩がてら『やよい庵』を出ると、目の前にお客さんの列が伸びていた。ぎょっとして一歩後ずさる。
え、今からみんなご飯に並んでるの?
と錯覚したが、みんなが並んでいるのは『やよい庵』ではない。列の先を目で追いかけると、先頭はなんと『三つ葉書店』に続いていた。
「えー!?」
思わず大きな声が口から漏れて、並んでいた人が私を二度見する。すみません、すみません。でもまさか、こんなことが起こるなんて。もしかして夢? と、夢にしてはなんだか現実的すぎて引いてしまいそうになる。いやしかし、これは夢じゃない。目の前に並んでいる人たちはソワソワと落ち着かない様子で『三つ葉書店』の入り口の方を見守っている。若い女性客ばかりで、どう見ても本が好きそうな人はいない。と、偏見で解釈するのは良くないか。本を買いに来た人もいるだろう。でも十中八九、目的は別にあるようだった。
「あ、出てきた! あれが噂のイケメン店主?」
「うわー本当にイケメンじゃん。てか俳優?」
「噂通りすぎ。いや、噂より格好良いかも」
「わざわざ新幹線予約してまで来た甲斐があったわ」
「追いかけても逃げない丸○涼、最高」
聞こえて来る同伴者との囁き声に、頭がくらくらとしてきた。
この人たち、本当にあの投稿を見て詩文さんに会いに来たの……!?
にわかには信じがたい話だが、状況を見るに、信じざるを得ない。
彼女たちの目的が詩文さんなら、若い女性ばかりだという事実にも頷ける。
こんなにお客さんが突然溢れて、詩文さんは大丈夫なの?
心配になった私は、「ちょっとごめんなさい!」と長蛇の列を掻い潜り、店員のふりをして『三つ葉書店』の中へと突入した。
「詩文さん!」
私が声を張り上げて名前を呼んだ時、彼はレジの前であたふたとお客様対応に追われていた。
「え、え、姪御さんの二歳の誕生日で絵本を? おすすめの絵本、売れ行きの良い本ですか? ああ、それならあっちに……」
「本はいいからサインをくれ? えええっ、どういうことでしょう。ぼ、僕のサインですか!?」
「恋愛雑学本? あるような、ないような……」
女性客たちが次々と詩文さんに種々の要求をしている光景が目に飛び込んでくる。どのお客さんも、やっぱり本を探しに来たというより、詩文さんに話しかけるのが目的のようだった。だが詩文さんはそんなふうには思っていないだろう。純粋に本を探しに来たお客さんと考えて、あたふたと取り乱している。もともと接客が得意ではない上に突如として溢れんばかりの人が押し寄せたのだから、パニックになるのも仕方がない。
見かねた私は詩文さんの援護に回ろうと、レジの方へとずんずん歩いて行った。近くにいた女性客が異物を見るようなまなざしを私に向ける。だが私は、そんなこともお構いなしに彼に近づいていく。詩文さんがあまりにも困っている様子なのを、放っておけるはずがない。
「あの、詩文さん大丈夫——」
私が彼にそう話しかけた時だ。
足元をさーっと何かが歩く気配がして、はっと一瞥した。モナだ。相変わらず気まぐれだな。にしてもこんなに忙しい時になんだ、と彼女を睨みつけようとしたのだが、モナは私に「こっちに来て」と真剣に話しかけてきた。
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