となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生

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第二話 三つ葉書店の大躍進

場違いなキャプション

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[一週間前に『やよい庵』の隣にオープンした『三つ葉書店』さん。京町家の木の温もりが香る素敵なお店です!

 一番の推しポイントは店主、薬師寺詩文さん!
 いつも着物を着ているのですがその方がなんともう……とんでもなくイケメンなんですっ。時代劇にでも出てきそうな風貌で、今話題の俳優、丸○涼さんに似ています。ふふ、まだこの店主のことを知っている人はそんなにいないんですよねー。話してみるととっても気さくな方で、やさしく、甘い声でおすすめの本を教えてくれますよ♡
 
 とにかくこの名物店主、一度会っておいて損はないです!
 京都の新しい“顔”になること間違いなし。
 ぜひみなさんの目で彼をご堪能ください~!]

「……って、なんなのこれは!?」

 モナの投稿を見た私は絶句し、すぐに叫んだ。
 見れば写真投稿だけでなく、二十四時間限定発信の方も同じような内容のキャプションが付いている。

「どう? いいでしょ? これで明日には店主見たさにお客さんがわんさかやってくるわよ」

「いやいやいや、ちょっとまって! これじゃどこぞの○ステトクラブのPRじゃない! 『三つ葉書店』は書店・・なの、書店・・! 店主の推しポイントを綴ってどうすんのよ。これ、純粋に本を買いたいお客さんには絶対響かないって!」

 それどころか、おかしな目的でお客さんがやって来るかもしれない。

「あら、だから『おすすめの本を教えてくれますよ』って書いたじゃないの」

「書いてはいるよ。書いてはいるけど! そこだってほら、『やさしく、甘い声で』って、詩文さんそんなことしないよ!?」

「その辺はまあ、大袈裟に書くぐらいがちょうど良いんじゃないの。PR文なんて全部が全部真実とは限らないでしょ。化粧品の広告だって『十歳若見え』なんて謳っていても、実際そんなことなかったり。ある程度適当なもんでもお客さんは期待しちゃうものだわ」

「それは、そうかもしれないけど……」

 モナの言うことは一理ある——いや、認めてしまったらダメなんだけれど。少なくとも、マーケティングの「マ」の字も知らない詩文さんよりは戦略的に考えてくれているような気はする。やり方はどうであれ、確かに間違っているとは断言できない。
 いや……でも。
 そもそも詩文さんがこんなふうにお客さんを集めることを望むだろうか。
 たとえお客さんがやって来たとしても、本ではなくて自分目当てだったら——私ならば傷つく。嬉しいけれど、複雑な気持ちになるだろう。
 まあ、実際にこの投稿を見てそんなにお客さんが押し寄せて来ることがあれば、の話だけれど。

「とにかくこれはこれでいいじゃない。あ、ほら、『いいね!』の通知音がたくさん聞こえるわ」

「ほえ!?」

 モナに指摘されて気づく。確かにさっきから、手の中のスマホから、ピコン、ピコン、と『いいね!』を押された時の通知の音が響いている。普段このアカウントでは新メニューの紹介なんかが中心になっていて、自分の店以外の投稿をすることは少ない。物珍しさからか、今回の投稿に注目してくれている人は多いようだ。
 さらに、通知は『いいね!』だけじゃなかった。
 コメント欄に次々と書き込みがされていくのを見てぎょっとする。

[『三つ葉書店』さん、初めて知りました。イケメン店主、会ってみたい♡]
[本は買わないかもだけど、店主の顔は拝みたい]
[丸○涼似の店主!? 絶対見にいく!]

 書き込んできたのはどれも女性のアカウントで、すべて詩文さんに関するコメントばかりだ。

「ああ、ああ……」

 止まらない詩文さんへの妄想コメントを、追いかけるだけで必死になっていた。
 このままじゃ、『三つ葉書店』が○ステトクラブになってしまう……。
 流れゆくキャプションをぼうっと見つめながら、「詩文さん、ごめん……」と心の中で謝る。どうして私が謝らなきゃいけないのかは分からないけれど、とにかくごめんなさい。

「そんなに悲嘆に暮れることないわよ。お客さんがたくさん来てくれたらいいじゃないの」

「そうかもしれないけど……」
 
 決して詩文さんが望むかたちにはならないだろうなあー……と想像して、なんだか切なくなった。

「それじゃ、明日からが見ものね。またね」

 一人、お気楽気分のモナは私の前からすっといなくなってしまった。
 モナのやつめ。言いたいことだけ言って逃げたな。
 文句の一つでも言ってやりたくなったが、彼女は彼女なりに『三つ葉書店』にお客さんを呼び込もうとしてくれたんだよね。そう考えると、憎めないところはあった。
 それにしても、モナの目的は一体何なのだろうか。
 詩文さんにはモナの姿が見えないようだし、彼女はどうして詩文さんの前に、私の前に、現れたんだろう。
 モナに対する疑問はまた一つ大きく膨らむばかりだった。
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