厄介払いされてしまいました

たくわん

文字の大きさ
13 / 20

13

しおりを挟む
三日間の旅を経て、エリアーナとルーカスはグレンフォード領に戻った。

城門をくぐると、使用人たちが整列して出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、ルーカス様、奥方様」

セバスチャンが深々と頭を下げた。

「ただいま、セバスチャン。アレクシスは?」

「お元気です。お二人の帰りを、今か今かと待っておられました」

城に入ると、よちよち歩きのアレクシスが駆け寄ってきた。

「ママ!パパ!」

エリアーナは膝をつき、息子を抱きしめた。

「ただいま、アレクシス。良い子にしていた?」

「うん!」

ルーカスも、息子を抱き上げた。

「大きくなったな」

三日間離れていただけなのに、息子がとても愛おしく感じられた。

その夜、食堂で夕食を取りながら、セバスチャンに王都での出来事を報告した。

「国王陛下から勲章を授かったのですか。それは素晴らしい」

「ええ。でも、一番嬉しいのは、ここに帰ってこれたことです」

エリアーナは微笑んだ。

「王都は華やかでしたが、私の居場所ではありません。ここが、私の家です」

セバスチャンは、満足そうに頷いた。

「奥方様がそうおっしゃってくださると、我々も嬉しゅうございます」

翌日、エリアーナは村を訪れた。

領民たちが、温かく迎えてくれた。

「奥方様、お帰りなさい!」

「王都はどうでしたか」

「国王陛下にお会いになったんですって?」

エリアーナは、皆に報告会の様子を話した。

「国王陛下は、グレンフォード領の発展を称賛してくださいました」

「やった!」

領民たちは歓声を上げた。

「これも、皆さんが頑張ってくれたおかげです」

村長のハンスが進み出た。

「奥方様、実は王都にいらっしゃる間、村で新しいことを始めたんです」

「新しいこと?」

「ええ。薬草を使った料理です。ハーブティーだけでなく、料理にも使えるのではないかと」

ハンスの妻が、皿を持ってきた。

「ラベンダーのクッキーと、ペパーミントのゼリーです。試作品ですが」

エリアーナは一口食べた。

「美味しい!香りも良いですね」

「本当ですか!」

「ええ。これは、新しい商品になりそうです」

村の女性たちが、嬉しそうに顔を見合わせた。

「奥方様が教えてくださった薬草が、こんなにいろいろなことに使えるなんて」

「皆さんのアイデアが素晴らしいんです」

エリアーナは、領民たちの自主性に感動した。

かつては貧しく、希望を失っていた村。

でも今は、自分たちで新しいことに挑戦している。

これこそが、本当の豊かさだった。

マリアが駆け寄ってきた。

「奥方様、見てください!」

マリアは、ノートを広げた。

そこには、綺麗な字で文章が書かれていた。

「わあ、マリア!こんなに上手になったの?」

「ええ!先生が褒めてくれました」

学校の教師が、微笑んで言った。

「マリアは、一番の優等生です。他の子供たちにも教えてくれているんですよ」

「素晴らしいわ、マリア」

マリアは誇らしげに胸を張った。

「私、大きくなったら奥方様みたいになりたいです」

「マリアは、マリアのままで素晴らしいのよ」

エリアーナは、マリアの頭を優しく撫でた。

村から城に戻る途中、エリアーナは薬草園に立ち寄った。

秋の収穫を終えた薬草園は、少し寂しげだった。でも、土の中では次の春に向けて、根が静かに力を蓄えている。

「ただいま」

エリアーナは、薬草園に語りかけた。

「王都に行っていたけれど、やっぱりここが一番落ち着くわ」

風が吹き、葉が揺れた。

まるで、答えているかのようだった。

その夜、寝室でルーカスと二人きりになった。

「王都に行って、良かったか?」

ルーカスが尋ねた。

「ええ。姉とも和解できましたし、実家ともけじめをつけられました」

「過去と、決別できたんだね」

「ええ。でも、一番良かったのは」

エリアーナは、ルーカスに寄り添った。

「ここに帰ってこれたことです。改めて、ここが私の居場所だと確認できました」

ルーカスは、彼女を抱きしめた。

「僕も、君がここにいてくれて嬉しい」

「これからも、ずっと一緒ですよ」

「ああ、ずっと」

窓の外には、満月が輝いていた。

グレンフォード領は、静かに眠っている。

薬草園も、村々も、城も。

全てが、平和で幸せだった。

エリアーナは、深く息を吸った。

この空気、この景色、この温もり。

全てが、愛おしかった。

王都の華やかさとは違う、素朴だけれど心温まる幸せがここにはあった。

そして、それこそが、エリアーナが本当に求めていたものだった。

厄介払いで辺境に送られた次女。

でも、それが人生を変える転機となった。

今では、愛する家族に囲まれ、領民に慕われ、心から幸せだった。

「ありがとう、ルーカス様」

「何に対して?」

「私を、受け入れてくれて。認めてくれて。愛してくれて」

「こちらこそ、ありがとう」

ルーカスは優しく微笑んだ。

「君が来てくれて、僕の人生は変わった。この領地も変わった」

二人は、静かに抱き合った。

幸せな時間が、ゆっくりと流れていく。

グレンフォード領の、穏やかな夜だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ
恋愛
「君は優秀だが、王妃としては冷たい。正直に言えば――飾りとしては十分だった」 そう言って婚約者である王太子に公然と切り捨てられた、公爵令嬢アデルフィーナ。 さらに王太子は宣言する。 「王家は外部信用に頼らない」「王家が条文だ」と。 履行履歴も整えず、契約も軽視し、 新たな婚約者と共に“強い王家”を演出する王太子。 ――ですが。 契約は宣言では動きません。 信用は履歴の上にしか立ちません。 王命が止まり、出荷が止まり、資材が止まり、 やがて止まったのは王太子の未来でした。 自ら押した承認印が、 自らの継承権を奪うことになるとも知らずに。 公然侮辱から始まる、徹底的な強ザマァ。 救済なし。 やり直しなし。 契約通りに処理しただけですのに―― なぜか王太子が廃嫡されました。

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。 その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。 だが、思惑はことごとく空回りする。 社交界での小さな失態。 資金繰りの綻び。 信用の揺らぎ。 そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。 決して大事件ではない。 けれど積み重なれば、笑えない。 一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。 血筋とは何か。 名乗るとは何か。 国家が守るものとは何か。 これは、派手な復讐劇ではない。 怒号も陰謀もない。 ただ―― 立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。 そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。 世界は静かに、しかし確実に動いている。

処理中です...