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「地味すぎる」と婚約破棄された図書館司書は公爵に見初められる
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# 図書館司書の新天地(後編)
## 第三話:過去との決別
新学期が始まり、王立大学は活気に満ちていた。
カタリナの図書館は学生たちに大好評で、連日多くの利用者で賑わっていた。彼女の丁寧な対応と、的確な資料案内は、すぐに評判となった。セバスチャンの講義も人気が高く、彼の授業を受けた学生たちが図書館で熱心に研究する姿が見られた。
カタリナとセバスチャンの共同論文も、順調に進んでいた。二人は毎晩のように図書館に残り、古文書と向き合った。そして、研究の合間には、様々な話をした。
「カタリナは、結婚について考えたことはありますか?」
ある晩、セバスチャンが唐突に尋ねた。カタリナは手を止め、少し考えてから答えた。
「実は…以前、婚約していたことがあります」
「そうだったんですか」
「でも、二ヶ月前に解消されました。相手は、もっと華やかで社交的な女性を望んでいたようです」
カタリナは淡々と語ったが、その声には微かな痛みが残っていた。
「その人は愚かでしたね」
セバスチャンの言葉に、カタリナは驚いて顔を上げた。
「カタリナのような知的で、誠実で、美しい女性を手放すなんて」
「美しい…?私が?」
「ええ。本当の美しさは、外見だけではありません。カタリナの瞳は、知識を求めるときに輝く。カタリナの声は、古文書について語るときに情熱を帯びる。そういう内面の美しさこそが、本当の美しさだと僕は思います」
カタリナの目に涙が浮かんだ。誰も、こんな風に自分を見てくれたことはなかった。
「ありがとう、セバスチャン」
「僕の方こそ、カタリナに感謝しています。あなたと出会えて、本当に良かった」
二人の視線が交わり、図書館の静寂の中で、特別な時間が流れた。
しかし、その穏やかな日々は、突然の来客によって揺らぐことになる。
ある日の午後、カタリナが図書館の受付で仕事をしていると、見覚えのある声が聞こえた。
「カタリナ!」
振り返ると、そこにはエドワードが立っていた。以前よりも明らかにやつれた様子で、服装も少し乱れている。かつての洗練された雰囲気は、どこにもなかった。
「エドワード様…どうされましたか?」
「話がしたい。少し時間をもらえないか」
カタリナは躊躇したが、小さな応接室に彼を案内した。
「実は…クララと婚約解消になったんだ」
「え?」
「彼女は僕の財産目当てだった。僕の家が投資に失敗して財政難に陥ったとわかった途端、別の裕福な貴族のもとへ行ってしまったんだ」
エドワードは頭を抱えた。かつての自信に満ちた態度は、完全に消え失せていた。
「クララは最初から、僕の地位と財産しか見ていなかった。君のように、僕自身を見てくれる人ではなかったんだ」
「それはお気の毒に…」
「僕は愚かだった。君の価値がわからなかった。カタリナ、もう一度やり直せないだろうか?」
カタリナは静かに首を横に振った。
「エドワード様、それはできません」
「なぜだ?僕は本当に反省しているんだ。君のような誠実で知的な女性を手放したことを、心から後悔している」
「私はもう、あの頃の私ではありません。ここで新しい人生を始めたんです」
「だが…」
「それに、私にはもう…」
言葉を続けようとしたとき、応接室のドアが開いた。
「カタリナ、古文書の件で…失礼、お客様でしたか」
セバスチャンだった。エドワードは彼を見て、明らかに動揺した。
「アルトリウス公爵…!」
「あなたは…確か、ハートレー子爵家の」
「エドワード・ハートレーです」
セバスチャンの表情が一瞬曇った。彼はカタリナの過去を知っていた。二人で過ごす時間の中で、カタリナは自然と婚約破棄のことも話していたのだ。そして、セバスチャンはその話を聞いたとき、明らかに怒りを抑えているようだった。
「カタリナ、大丈夫ですか?」
セバスチャンの優しい声に、カタリナは頷いた。
「ええ、大丈夫です。エドワード様はもうお帰りになるところです」
エドワードは二人の様子を見て、何かを悟ったようだった。カタリナがセバスチャンを見るときの目の輝き。セバスチャンがカタリナを気遣う優しさ。それは、かつて自分とカタリナの間には決してなかったものだった。
「そうか…君には、もっと相応しい人がいるんだな」
エドワードは諦めたように立ち上がった。
「カタリナ、君が幸せならそれでいい。本当に…本当にごめん」
彼の声には、心からの後悔が滲んでいた。だが、カタリナの心はもう揺れなかった。
「エドワード様も、どうかお幸せに」
カタリナは穏やかに微笑んだ。恨みも、未練もなかった。ただ、過去として受け入れることができた。
エドワードが去った後、カタリナは深く息をついた。
「大丈夫?」
セバスチャンが心配そうに尋ねた。
「はい。もう、あの人のことは過去です。完全に」
「カタリナ、実は僕も話があるんだ」
セバスチャンは珍しく緊張した様子だった。彼の手が微かに震えているのを、カタリナは見逃さなかった。
「何でしょうか?」
「君と出会ってから、毎日が充実している。学問についても、人生についても、こんなに深く語り合える相手に出会えるなんて思わなかった」
カタリナの心臓が激しく鳴り始めた。
「僕は君に恋をしている、カタリナ。君の知性、誠実さ、そして静かな強さに惹かれている。古文書について語るときの情熱的な目。学生に優しく接する姿。そのすべてが愛おしい」
「セバスチャン…」
「僕と結婚してくれないか?公爵夫人としてではなく、一人の学者の妻として。一緒に研究を続け、この図書館を育て、知識を未来へ繋いでいく…そんな人生を共に歩んでくれないか」
カタリナの目に涙が溢れた。これが、本当の愛なのだと、心から思えた。エドワードは彼女の外見や社交性を求めた。でも、セバスチャンは彼女の本質を、彼女そのものを愛してくれている。
「はい…喜んで」
セバスチャンは優しくカタリナを抱きしめた。
「ありがとう。君を幸せにする。約束するよ」
「私も、セバスチャンを幸せにします」
窓の外では、春の陽光が図書館を照らしていた。過去の痛みを乗り越え、カタリナは本当の幸せを見つけたのだった。
数ヶ月後、王立大学の大講堂では、学術発表会が開かれていた。
カタリナとセバスチャンの共同論文が、王国歴史学会で最優秀論文賞を受賞したのだ。発表会には、王宮の高官、著名な学者、大学の教授陣、そして多くの学生が集まっていた。
「本日の発表者は、当大学図書館長のカタリナ・ロレンツ氏と、歴史学教授のセバスチャン・アルトリウス氏です」
壇上に立った二人は、発見した古文書について説明を始めた。カタリナは以前のように隅に隠れることはなく、堂々と自分の研究を語った。
「この古文書の発見により、建国王の思想についての理解が大きく深まりました。特に、宗教と政治の関係について、これまで知られていなかった側面が明らかになったのです」
カタリナの声は明瞭で、自信に満ちていた。かつて社交の場で小さくなっていた彼女とは、別人のようだった。
「そして、この研究において特筆すべきは、ロレンツ館長の古文書分類システムです。彼女の体系的なアプローチがなければ、この重要な文献は埋もれたままだったでしょう」
セバスチャンはカタリナを称賛し、聴衆も大きく頷いた。
発表が終わると、会場は大きな拍手に包まれた。
「素晴らしい研究です!」
「これは歴史学の新しい扉を開くものだ」
「ロレンツ館長の分類システムは、他の図書館でも採用すべきだ」
称賛の声が飛び交う中、聴衆の隅に、エドワードの姿があった。
彼は複雑な表情で、輝くカタリナを見つめていた。自分が捨てた女性が、こんなにも素晴らしい才能の持ち主だったことに、今更ながら気づいたのだ。
壇上のカタリナは、知的で美しく、そして何より幸せそうだった。彼女の隣に立つセバスチャンは、誇らしげに彼女を見ている。二人の間には、深い信頼と愛情が満ちていた。
エドワードは、自分が失ったものの大きさを、ようやく理解した。財産も地位も失った今、彼には何も残っていなかった。
質疑応答が終わり、会場が歓談の雰囲気に包まれたとき、セバスチャンが壇上で手を上げた。
「皆様、もう一つお知らせがあります」
会場が静まり返った。
「私たち二人は、来月結婚することになりました」
会場はさらに大きな拍手と歓声に包まれた。
「おめでとうございます!」
「お似合いのカップルだ」
「学問の世界に、また素晴らしい夫婦が誕生しますね」
祝福の言葉が次々と寄せられる中、カタリナは幸せな笑顔で、セバスチャンを見上げた。
エドワードは、その光景を遠くから見ることしかできなかった。かつて「地味で社交性がない」と切り捨てた女性が、今や学会の注目を集める研究者となり、王国でも有数の公爵と結婚する。
彼女は決して変わったわけではない。ただ、彼女の本当の価値を理解し、愛してくれる人と出会っただけなのだ。
エドワードは静かに会場を後にした。彼の人生に、もうカタリナの居場所はない。
発表会の後、カタリナとセバスチャンは図書館に戻った。
「疲れましたか?」
セバスチャンが優しく尋ねた。
「いいえ、とても充実していました。こんな日が来るなんて、以前は想像もできませんでした」
「カタリナは、自分の才能を十分に発揮できていなかっただけです。でも、これからは違う。僕たちは一緒に、もっと多くのことを成し遂げられる」
「ええ、楽しみです」
二人は図書館の窓から、夕日に染まる王都を眺めた。
「カタリナ、後悔はありませんか?公爵夫人になれば、様々な責任が生じます」
「後悔なんてありません。セバスチャンと一緒なら、どんな未来も乗り越えられます」
「ありがとう。僕も同じ気持ちです」
セバスチャンはカタリナの手を取り、優しく口づけた。
「これからも、ずっと一緒に」
「ええ、ずっと」
図書館の静寂の中で、二人は静かに抱き合った。
婚約破棄という痛みを乗り越え、カタリナは本当の愛と幸せを見つけた。地味で目立たないと言われた彼女は、自分の才能を理解し、愛してくれる人と出会い、真の幸せを掴んだのだった。
そして、かつて彼女を捨てた男は、その輝きを遠くから眺めることしかできなかった。
それから数年後、王立大学図書館は王国随一の学術機関として発展し、カタリナの分類システムは全国の図書館で採用されるようになった。
セバスチャンとカタリナの共同研究は続き、二人は歴史学の分野で数々の業績を残した。そして、二人の間には二人の子供が生まれ、幸せな家庭を築いていた。
ある日、カタリナは図書館で、一人の若い女性司書を指導していた。
「本の価値は、その装丁の美しさではありません。中身です。人も同じです」
若い司書は熱心に頷いた。
「カタリナ様のように、素晴らしい司書になりたいです」
「あなたなら大丈夫。自分を信じて、学び続けてください」
その姿を見ていたセバスチャンは、微笑んだ。カタリナは今や、多くの若者たちの憧れの存在になっていた。
かつて「地味で価値がない」と言われた女性が、今では王国の知的財産の守護者として、多くの人々に尊敬されている。
本当の価値は、外見ではなく内面にある。そして、その価値を理解してくれる人と出会えたとき、人生は大きく変わる。
カタリナの物語は、そのことを静かに、しかし力強く証明していた。
— 完 —
## 第三話:過去との決別
新学期が始まり、王立大学は活気に満ちていた。
カタリナの図書館は学生たちに大好評で、連日多くの利用者で賑わっていた。彼女の丁寧な対応と、的確な資料案内は、すぐに評判となった。セバスチャンの講義も人気が高く、彼の授業を受けた学生たちが図書館で熱心に研究する姿が見られた。
カタリナとセバスチャンの共同論文も、順調に進んでいた。二人は毎晩のように図書館に残り、古文書と向き合った。そして、研究の合間には、様々な話をした。
「カタリナは、結婚について考えたことはありますか?」
ある晩、セバスチャンが唐突に尋ねた。カタリナは手を止め、少し考えてから答えた。
「実は…以前、婚約していたことがあります」
「そうだったんですか」
「でも、二ヶ月前に解消されました。相手は、もっと華やかで社交的な女性を望んでいたようです」
カタリナは淡々と語ったが、その声には微かな痛みが残っていた。
「その人は愚かでしたね」
セバスチャンの言葉に、カタリナは驚いて顔を上げた。
「カタリナのような知的で、誠実で、美しい女性を手放すなんて」
「美しい…?私が?」
「ええ。本当の美しさは、外見だけではありません。カタリナの瞳は、知識を求めるときに輝く。カタリナの声は、古文書について語るときに情熱を帯びる。そういう内面の美しさこそが、本当の美しさだと僕は思います」
カタリナの目に涙が浮かんだ。誰も、こんな風に自分を見てくれたことはなかった。
「ありがとう、セバスチャン」
「僕の方こそ、カタリナに感謝しています。あなたと出会えて、本当に良かった」
二人の視線が交わり、図書館の静寂の中で、特別な時間が流れた。
しかし、その穏やかな日々は、突然の来客によって揺らぐことになる。
ある日の午後、カタリナが図書館の受付で仕事をしていると、見覚えのある声が聞こえた。
「カタリナ!」
振り返ると、そこにはエドワードが立っていた。以前よりも明らかにやつれた様子で、服装も少し乱れている。かつての洗練された雰囲気は、どこにもなかった。
「エドワード様…どうされましたか?」
「話がしたい。少し時間をもらえないか」
カタリナは躊躇したが、小さな応接室に彼を案内した。
「実は…クララと婚約解消になったんだ」
「え?」
「彼女は僕の財産目当てだった。僕の家が投資に失敗して財政難に陥ったとわかった途端、別の裕福な貴族のもとへ行ってしまったんだ」
エドワードは頭を抱えた。かつての自信に満ちた態度は、完全に消え失せていた。
「クララは最初から、僕の地位と財産しか見ていなかった。君のように、僕自身を見てくれる人ではなかったんだ」
「それはお気の毒に…」
「僕は愚かだった。君の価値がわからなかった。カタリナ、もう一度やり直せないだろうか?」
カタリナは静かに首を横に振った。
「エドワード様、それはできません」
「なぜだ?僕は本当に反省しているんだ。君のような誠実で知的な女性を手放したことを、心から後悔している」
「私はもう、あの頃の私ではありません。ここで新しい人生を始めたんです」
「だが…」
「それに、私にはもう…」
言葉を続けようとしたとき、応接室のドアが開いた。
「カタリナ、古文書の件で…失礼、お客様でしたか」
セバスチャンだった。エドワードは彼を見て、明らかに動揺した。
「アルトリウス公爵…!」
「あなたは…確か、ハートレー子爵家の」
「エドワード・ハートレーです」
セバスチャンの表情が一瞬曇った。彼はカタリナの過去を知っていた。二人で過ごす時間の中で、カタリナは自然と婚約破棄のことも話していたのだ。そして、セバスチャンはその話を聞いたとき、明らかに怒りを抑えているようだった。
「カタリナ、大丈夫ですか?」
セバスチャンの優しい声に、カタリナは頷いた。
「ええ、大丈夫です。エドワード様はもうお帰りになるところです」
エドワードは二人の様子を見て、何かを悟ったようだった。カタリナがセバスチャンを見るときの目の輝き。セバスチャンがカタリナを気遣う優しさ。それは、かつて自分とカタリナの間には決してなかったものだった。
「そうか…君には、もっと相応しい人がいるんだな」
エドワードは諦めたように立ち上がった。
「カタリナ、君が幸せならそれでいい。本当に…本当にごめん」
彼の声には、心からの後悔が滲んでいた。だが、カタリナの心はもう揺れなかった。
「エドワード様も、どうかお幸せに」
カタリナは穏やかに微笑んだ。恨みも、未練もなかった。ただ、過去として受け入れることができた。
エドワードが去った後、カタリナは深く息をついた。
「大丈夫?」
セバスチャンが心配そうに尋ねた。
「はい。もう、あの人のことは過去です。完全に」
「カタリナ、実は僕も話があるんだ」
セバスチャンは珍しく緊張した様子だった。彼の手が微かに震えているのを、カタリナは見逃さなかった。
「何でしょうか?」
「君と出会ってから、毎日が充実している。学問についても、人生についても、こんなに深く語り合える相手に出会えるなんて思わなかった」
カタリナの心臓が激しく鳴り始めた。
「僕は君に恋をしている、カタリナ。君の知性、誠実さ、そして静かな強さに惹かれている。古文書について語るときの情熱的な目。学生に優しく接する姿。そのすべてが愛おしい」
「セバスチャン…」
「僕と結婚してくれないか?公爵夫人としてではなく、一人の学者の妻として。一緒に研究を続け、この図書館を育て、知識を未来へ繋いでいく…そんな人生を共に歩んでくれないか」
カタリナの目に涙が溢れた。これが、本当の愛なのだと、心から思えた。エドワードは彼女の外見や社交性を求めた。でも、セバスチャンは彼女の本質を、彼女そのものを愛してくれている。
「はい…喜んで」
セバスチャンは優しくカタリナを抱きしめた。
「ありがとう。君を幸せにする。約束するよ」
「私も、セバスチャンを幸せにします」
窓の外では、春の陽光が図書館を照らしていた。過去の痛みを乗り越え、カタリナは本当の幸せを見つけたのだった。
数ヶ月後、王立大学の大講堂では、学術発表会が開かれていた。
カタリナとセバスチャンの共同論文が、王国歴史学会で最優秀論文賞を受賞したのだ。発表会には、王宮の高官、著名な学者、大学の教授陣、そして多くの学生が集まっていた。
「本日の発表者は、当大学図書館長のカタリナ・ロレンツ氏と、歴史学教授のセバスチャン・アルトリウス氏です」
壇上に立った二人は、発見した古文書について説明を始めた。カタリナは以前のように隅に隠れることはなく、堂々と自分の研究を語った。
「この古文書の発見により、建国王の思想についての理解が大きく深まりました。特に、宗教と政治の関係について、これまで知られていなかった側面が明らかになったのです」
カタリナの声は明瞭で、自信に満ちていた。かつて社交の場で小さくなっていた彼女とは、別人のようだった。
「そして、この研究において特筆すべきは、ロレンツ館長の古文書分類システムです。彼女の体系的なアプローチがなければ、この重要な文献は埋もれたままだったでしょう」
セバスチャンはカタリナを称賛し、聴衆も大きく頷いた。
発表が終わると、会場は大きな拍手に包まれた。
「素晴らしい研究です!」
「これは歴史学の新しい扉を開くものだ」
「ロレンツ館長の分類システムは、他の図書館でも採用すべきだ」
称賛の声が飛び交う中、聴衆の隅に、エドワードの姿があった。
彼は複雑な表情で、輝くカタリナを見つめていた。自分が捨てた女性が、こんなにも素晴らしい才能の持ち主だったことに、今更ながら気づいたのだ。
壇上のカタリナは、知的で美しく、そして何より幸せそうだった。彼女の隣に立つセバスチャンは、誇らしげに彼女を見ている。二人の間には、深い信頼と愛情が満ちていた。
エドワードは、自分が失ったものの大きさを、ようやく理解した。財産も地位も失った今、彼には何も残っていなかった。
質疑応答が終わり、会場が歓談の雰囲気に包まれたとき、セバスチャンが壇上で手を上げた。
「皆様、もう一つお知らせがあります」
会場が静まり返った。
「私たち二人は、来月結婚することになりました」
会場はさらに大きな拍手と歓声に包まれた。
「おめでとうございます!」
「お似合いのカップルだ」
「学問の世界に、また素晴らしい夫婦が誕生しますね」
祝福の言葉が次々と寄せられる中、カタリナは幸せな笑顔で、セバスチャンを見上げた。
エドワードは、その光景を遠くから見ることしかできなかった。かつて「地味で社交性がない」と切り捨てた女性が、今や学会の注目を集める研究者となり、王国でも有数の公爵と結婚する。
彼女は決して変わったわけではない。ただ、彼女の本当の価値を理解し、愛してくれる人と出会っただけなのだ。
エドワードは静かに会場を後にした。彼の人生に、もうカタリナの居場所はない。
発表会の後、カタリナとセバスチャンは図書館に戻った。
「疲れましたか?」
セバスチャンが優しく尋ねた。
「いいえ、とても充実していました。こんな日が来るなんて、以前は想像もできませんでした」
「カタリナは、自分の才能を十分に発揮できていなかっただけです。でも、これからは違う。僕たちは一緒に、もっと多くのことを成し遂げられる」
「ええ、楽しみです」
二人は図書館の窓から、夕日に染まる王都を眺めた。
「カタリナ、後悔はありませんか?公爵夫人になれば、様々な責任が生じます」
「後悔なんてありません。セバスチャンと一緒なら、どんな未来も乗り越えられます」
「ありがとう。僕も同じ気持ちです」
セバスチャンはカタリナの手を取り、優しく口づけた。
「これからも、ずっと一緒に」
「ええ、ずっと」
図書館の静寂の中で、二人は静かに抱き合った。
婚約破棄という痛みを乗り越え、カタリナは本当の愛と幸せを見つけた。地味で目立たないと言われた彼女は、自分の才能を理解し、愛してくれる人と出会い、真の幸せを掴んだのだった。
そして、かつて彼女を捨てた男は、その輝きを遠くから眺めることしかできなかった。
それから数年後、王立大学図書館は王国随一の学術機関として発展し、カタリナの分類システムは全国の図書館で採用されるようになった。
セバスチャンとカタリナの共同研究は続き、二人は歴史学の分野で数々の業績を残した。そして、二人の間には二人の子供が生まれ、幸せな家庭を築いていた。
ある日、カタリナは図書館で、一人の若い女性司書を指導していた。
「本の価値は、その装丁の美しさではありません。中身です。人も同じです」
若い司書は熱心に頷いた。
「カタリナ様のように、素晴らしい司書になりたいです」
「あなたなら大丈夫。自分を信じて、学び続けてください」
その姿を見ていたセバスチャンは、微笑んだ。カタリナは今や、多くの若者たちの憧れの存在になっていた。
かつて「地味で価値がない」と言われた女性が、今では王国の知的財産の守護者として、多くの人々に尊敬されている。
本当の価値は、外見ではなく内面にある。そして、その価値を理解してくれる人と出会えたとき、人生は大きく変わる。
カタリナの物語は、そのことを静かに、しかし力強く証明していた。
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