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秋の訪れと共に、収穫の季節が来た。
亜麻畑では、茎が茶色く変わり始めていた。収穫の合図だ。
クラリッサは、アンリと共に畑を見回った。
「今週中に刈り取りを始める」
アンリは、亜麻の茎を手で確かめながら言った。
「タイミングは完璧だ。良い繊維が取れるだろう」
「それは良かった」
クラリッサは、安堵の息を吐いた。
この亜麻の成功が、次の段階への鍵だった。
翌日、村人総出で亜麻の刈り取りが始まった。
男たちが鎌で茎を刈り、女たちがそれを束ねていく。子供たちも、できる範囲で手伝っている。
クラリッサも、作業着に身を包んで参加した。
「お嬢様、こちらの束をお願いします」
「はい」
クラリッサは、刈り取られた亜麻を丁寧に束ねた。
正午過ぎ、村人たちは一斉に休憩を取った。
クラリッサが用意した食事が配られる。黒パン、チーズ、リンゴ。質素だが、十分な量だった。
「お嬢様」
若い農婦が、声をかけてきた。
「本当に、ありがとうございます」
「どうして?」
「こんなに良い待遇で働けるなんて、夢のようです」
農婦の目には、涙が浮かんでいた。
「私たち、もっと働きます。お嬢様の期待に応えたいんです」
クラリッサは、優しく微笑んだ。
「あなたたちは、既に十分に働いてくれているわ。無理はしないでね」
午後も作業は続いた。
夕方までに、十区画全ての亜麻を刈り取り終えた。
束ねた亜麻は、村の中心部に運ばれた。そこには、大きな水槽が用意されている。
「これから、浸水処理だ」
アンリが、説明を始めた。
「亜麻の束を、水に一週間浸ける。そうすると、繊維以外の部分が腐って、繊維だけが残る」
「腐らせるんですか」
村人たちは、不安そうな顔をした。
「心配いらない。これは必要な工程だ。むしろ、良いことなんだ」
アンリの説明を聞きながら、村人たちは亜麻の束を水槽に入れていった。
「一週間後、また作業だ。それまでは休め」
作業が終わり、村人たちは家路についた。
疲れていたが、皆の顔には満足感があった。
クラリッサは、屋敷に戻る前に村を一周した。
夕日が、村を赤く染めている。家々からは、夕食の準備をする煙が立ち上っていた。
「随分、変わったわね」
クラリッサは、呟いた。
数ヶ月前、この村は死にかけていた。人々は痩せ細り、希望を失っていた。
でも今は違う。
活気がある。笑顔がある。未来への希望がある。
「お嬢様」
振り返ると、トマスが立っていた。
「一つ、お願いがあるんです」
「何かしら」
「俺、もっと勉強したいんです」
トマスの目は、真剣だった。
「お嬢様から学んだことを、もっと深く理解したい。そして、いつかお嬢様の右腕になりたいんです」
クラリッサは、感動した。
「トマス」
「俺、読み書きもろくにできません。でも、必死に勉強します」
「分かったわ。教えてあげる」
クラリッサは、微笑んだ。
「毎晩、屋敷に来て。読み書きと、農業の理論を教えるわ」
「本当ですか」
トマスの顔が、輝いた。
「ありがとうございます、お嬢様」
その夜から、クラリッサの新しい日課が始まった。
夕食後、書斎でトマスに読み書きを教える。
最初は、アルファベットから。トマスは、不器用ながらも一生懸命に練習した。
「こうですか?」
「そう、上手よ」
クラリッサは、根気強く教えた。
一週間後、亜麻の浸水処理が終わった。
水槽から引き上げた亜麻の束は、独特の匂いがした。腐敗とは違う、発酵の匂いだ。
「よし、完璧だ」
アンリは、満足そうに頷いた。
「次は、乾燥だ」
村の広場に、亜麻の束が並べられた。日光に当てて、数日かけて乾燥させる。
その間に、小麦の収穫も本格化した。
今年の小麦は、去年より明らかに出来が良い。粒が大きく、収量も多い。
畑ごとに収量を測定すると、平均して従来の一・五倍以上だった。
「素晴らしい」
ヘンリーが、興奮した声で言った。
「これなら、予想以上の収入になります」
クラリッサは、冷静に計算した。
「小麦だけで、金貨六百枚ね」
「去年の倍以上です」
「でも、まだ借金返済には足りない」
クラリッサは、帳簿を見つめた。
「借金の利子だけで、年間金貨四千枚。元金を返すには、もっと収入を増やさなければ」
「亜麻のリネンがありますよ」
「ええ。それに期待しているわ」
数日後、乾燥した亜麻の加工が始まった。
アンリが、打麻という工程を実演した。
乾燥した亜麻を、木槌で叩いて砕く。そうすると、繊維以外の部分が剥がれ落ちる。
「力を入れすぎず、リズミカルに」
アンリの指導のもと、村の男たちが打麻作業を行った。
次に、櫛で繊維を梳く。長くて柔らかい繊維が、美しく揃っていく。
「これが、リネンの原料だ」
アンリは、梳かれた繊維を掲げた。
薄い金色に輝く、絹のような繊維。それは、予想以上に美しかった。
「素晴らしい品質だ」
アンリは、感心したように言った。
「これなら、最高級のリネンが織れる」
村の女たちが、織物工房に集まった。
アンリの指導のもと、繊維を紡いで糸にし、それを織機で織っていく。
最初の一反が完成したのは、それから一週間後だった。
クラリッサは、完成したリネンを手に取った。
滑らかで、光沢がある。高品質なリネンだ。
「アンリ、これは」
「最高級品だ」
アンリは、誇らしげに言った。
「王侯貴族が使う品質だよ」
クラリッサは、そのリネンをデュポンに見せるため、王都へと向かった。
デュポンの店は、王都の中心部にあった。
高級織物を扱う、立派な店構えだ。
「これは、フォンテーヌ令嬢」
デュポンは、クラリッサを歓迎した。
「早速、リネンを持ってきてくださったのですね」
「はい。見ていただけますか」
クラリッサは、リネンを広げた。
デュポンは、それを丁寧に触り、光に透かして見た。
表情が、徐々に変わっていく。驚き、そして感動。
「これは、素晴らしい」
デュポンの声は、震えていた。
「こんな品質のリネン、王都でも滅多に見られない」
「本当ですか」
「ええ。これなら、通常の倍の価格で売れます」
デュポンは、興奮した様子で続けた。
「令嬢、契約を変更したい。価格を、市場価格の一・二倍にさせてください」
クラリッサは、驚いた。
「でも、契約では」
「分かっています。でも、この品質なら、もっと高値で取引すべきです」
デュポンは、真剣な目をしていた。
「あなたは、素晴らしいものを作った。それに見合った対価を受け取るべきです」
クラリッサは、少し考えた。
「では、一つ条件を追加させてください」
「何でしょう」
「今後、私の領地で生産する全ての織物製品を、優先的に扱っていただきます」
「もちろんです」
二人は、新しい契約を結んだ。
屋敷に戻ると、ヘンリーが待っていた。
「お嬢様、どうでしたか」
「大成功よ」
クラリッサは、新しい契約書を見せた。
「市場価格の一・二倍。つまり、予想より二割増しの収入になるわ」
ヘンリーは、素早く計算した。
「年間で、金貨三百六十枚」
「小麦と合わせれば、金貨九百六十枚」
「年間収入が、去年の三倍以上になります」
二人は、顔を見合わせた。
「でも、まだ足りない」
クラリッサは、冷静だった。
「借金の利子を払い、元金を返済し、領地への再投資をすると、余裕はほとんどない」
「他の領地への指導料が入れば」
「ええ。でも、それは来年以降よ」
クラリッサは、計画書を見つめた。
「もっと、効率を上げなければ」
その時、ノックの音がした。
「失礼します」
セバスチャンが、入ってきた。
「お嬢様、また王都から客人です」
「また?」
客間には、見知らぬ男が座っていた。
三十代の、精悍な顔つきの男性だ。旅装束だが、品がある。
「フォンテーヌ伯爵令嬢ですね。私は、オスカー・フォン・シュトラールと申します」
「シュトラール」
クラリッサは、その名に聞き覚えがあった。
「辺境伯の」
「次男坊です」
オスカーは、にこやかに笑った。
「家督は兄が継ぎますので、私は騎士として各地を巡っています」
「それで、何の御用でしょうか」
「噂を聞きまして。あなたの領地が、驚異的な発展を遂げていると」
オスカーの目は、真っ直ぐだった。
「実際に見て、本当に素晴らしいと思いました。村人たちは活気に満ち、畑は豊かです」
「ありがとうございます」
「それで、お願いがあるのです」
オスカーは、真剣な表情になった。
「私を、あなたの領地で働かせてください」
「え?」
クラリッサは、驚いた。
「辺境伯家の次男が、なぜ」
「私は、本当に価値のあることをしたいのです」
オスカーの声には、熱がこもっていた。
「戦争で名を上げることより、人々を幸せにすることの方が、よほど価値があると思います」
「でも」
「報酬は要りません。食事と寝る場所があれば十分です」
オスカーは、膝をついた。
「どうか、私に学ばせてください。そして、働かせてください」
クラリッサは、彼の目を見つめた。
嘘はない。純粋な熱意と、誠実さがあった。
「分かりました」
クラリッサは、頷いた。
「一緒に、この領地を良くしましょう」
オスカーの顔が、輝いた。
「ありがとうございます」
こうして、クラリッサの元に新しい仲間が加わった。
その夜、書斎でオスカーと話をした。
「なぜ、本当に私の領地を選んだのですか」
「あなたの生き方に、感銘を受けたからです」
オスカーは、率直に答えた。
「婚約を破棄され、困難な状況にある。でも、あなたは諦めなかった。自分の手で、全てを変えた」
「見ていたのですか」
「ええ。王都では、あなたの噂で持ちきりです」
オスカーは、微笑んだ。
「貴族令嬢が、畑仕事をする。農民と共に汗を流す。そして、領地を驚異的に発展させる」
「誇張されているかもしれませんよ」
「いいえ。実際に見て、確信しました。あなたは本物だと」
クラリッサは、少し照れくさそうに笑った。
「では、明日から働いていただきます」
「はい」
オスカーは、力強く頷いた。
「全力で、お手伝いします」
窓の外では、月が昇っていた。
その光が、豊かな畑を照らしている。
クラリッサの領地は、日に日に発展していた。
そして、彼女の周りには、信頼できる仲間が集まり始めていた。
長い戦いは、まだ続く。
だが、勝利は確実に近づいていた。
亜麻畑では、茎が茶色く変わり始めていた。収穫の合図だ。
クラリッサは、アンリと共に畑を見回った。
「今週中に刈り取りを始める」
アンリは、亜麻の茎を手で確かめながら言った。
「タイミングは完璧だ。良い繊維が取れるだろう」
「それは良かった」
クラリッサは、安堵の息を吐いた。
この亜麻の成功が、次の段階への鍵だった。
翌日、村人総出で亜麻の刈り取りが始まった。
男たちが鎌で茎を刈り、女たちがそれを束ねていく。子供たちも、できる範囲で手伝っている。
クラリッサも、作業着に身を包んで参加した。
「お嬢様、こちらの束をお願いします」
「はい」
クラリッサは、刈り取られた亜麻を丁寧に束ねた。
正午過ぎ、村人たちは一斉に休憩を取った。
クラリッサが用意した食事が配られる。黒パン、チーズ、リンゴ。質素だが、十分な量だった。
「お嬢様」
若い農婦が、声をかけてきた。
「本当に、ありがとうございます」
「どうして?」
「こんなに良い待遇で働けるなんて、夢のようです」
農婦の目には、涙が浮かんでいた。
「私たち、もっと働きます。お嬢様の期待に応えたいんです」
クラリッサは、優しく微笑んだ。
「あなたたちは、既に十分に働いてくれているわ。無理はしないでね」
午後も作業は続いた。
夕方までに、十区画全ての亜麻を刈り取り終えた。
束ねた亜麻は、村の中心部に運ばれた。そこには、大きな水槽が用意されている。
「これから、浸水処理だ」
アンリが、説明を始めた。
「亜麻の束を、水に一週間浸ける。そうすると、繊維以外の部分が腐って、繊維だけが残る」
「腐らせるんですか」
村人たちは、不安そうな顔をした。
「心配いらない。これは必要な工程だ。むしろ、良いことなんだ」
アンリの説明を聞きながら、村人たちは亜麻の束を水槽に入れていった。
「一週間後、また作業だ。それまでは休め」
作業が終わり、村人たちは家路についた。
疲れていたが、皆の顔には満足感があった。
クラリッサは、屋敷に戻る前に村を一周した。
夕日が、村を赤く染めている。家々からは、夕食の準備をする煙が立ち上っていた。
「随分、変わったわね」
クラリッサは、呟いた。
数ヶ月前、この村は死にかけていた。人々は痩せ細り、希望を失っていた。
でも今は違う。
活気がある。笑顔がある。未来への希望がある。
「お嬢様」
振り返ると、トマスが立っていた。
「一つ、お願いがあるんです」
「何かしら」
「俺、もっと勉強したいんです」
トマスの目は、真剣だった。
「お嬢様から学んだことを、もっと深く理解したい。そして、いつかお嬢様の右腕になりたいんです」
クラリッサは、感動した。
「トマス」
「俺、読み書きもろくにできません。でも、必死に勉強します」
「分かったわ。教えてあげる」
クラリッサは、微笑んだ。
「毎晩、屋敷に来て。読み書きと、農業の理論を教えるわ」
「本当ですか」
トマスの顔が、輝いた。
「ありがとうございます、お嬢様」
その夜から、クラリッサの新しい日課が始まった。
夕食後、書斎でトマスに読み書きを教える。
最初は、アルファベットから。トマスは、不器用ながらも一生懸命に練習した。
「こうですか?」
「そう、上手よ」
クラリッサは、根気強く教えた。
一週間後、亜麻の浸水処理が終わった。
水槽から引き上げた亜麻の束は、独特の匂いがした。腐敗とは違う、発酵の匂いだ。
「よし、完璧だ」
アンリは、満足そうに頷いた。
「次は、乾燥だ」
村の広場に、亜麻の束が並べられた。日光に当てて、数日かけて乾燥させる。
その間に、小麦の収穫も本格化した。
今年の小麦は、去年より明らかに出来が良い。粒が大きく、収量も多い。
畑ごとに収量を測定すると、平均して従来の一・五倍以上だった。
「素晴らしい」
ヘンリーが、興奮した声で言った。
「これなら、予想以上の収入になります」
クラリッサは、冷静に計算した。
「小麦だけで、金貨六百枚ね」
「去年の倍以上です」
「でも、まだ借金返済には足りない」
クラリッサは、帳簿を見つめた。
「借金の利子だけで、年間金貨四千枚。元金を返すには、もっと収入を増やさなければ」
「亜麻のリネンがありますよ」
「ええ。それに期待しているわ」
数日後、乾燥した亜麻の加工が始まった。
アンリが、打麻という工程を実演した。
乾燥した亜麻を、木槌で叩いて砕く。そうすると、繊維以外の部分が剥がれ落ちる。
「力を入れすぎず、リズミカルに」
アンリの指導のもと、村の男たちが打麻作業を行った。
次に、櫛で繊維を梳く。長くて柔らかい繊維が、美しく揃っていく。
「これが、リネンの原料だ」
アンリは、梳かれた繊維を掲げた。
薄い金色に輝く、絹のような繊維。それは、予想以上に美しかった。
「素晴らしい品質だ」
アンリは、感心したように言った。
「これなら、最高級のリネンが織れる」
村の女たちが、織物工房に集まった。
アンリの指導のもと、繊維を紡いで糸にし、それを織機で織っていく。
最初の一反が完成したのは、それから一週間後だった。
クラリッサは、完成したリネンを手に取った。
滑らかで、光沢がある。高品質なリネンだ。
「アンリ、これは」
「最高級品だ」
アンリは、誇らしげに言った。
「王侯貴族が使う品質だよ」
クラリッサは、そのリネンをデュポンに見せるため、王都へと向かった。
デュポンの店は、王都の中心部にあった。
高級織物を扱う、立派な店構えだ。
「これは、フォンテーヌ令嬢」
デュポンは、クラリッサを歓迎した。
「早速、リネンを持ってきてくださったのですね」
「はい。見ていただけますか」
クラリッサは、リネンを広げた。
デュポンは、それを丁寧に触り、光に透かして見た。
表情が、徐々に変わっていく。驚き、そして感動。
「これは、素晴らしい」
デュポンの声は、震えていた。
「こんな品質のリネン、王都でも滅多に見られない」
「本当ですか」
「ええ。これなら、通常の倍の価格で売れます」
デュポンは、興奮した様子で続けた。
「令嬢、契約を変更したい。価格を、市場価格の一・二倍にさせてください」
クラリッサは、驚いた。
「でも、契約では」
「分かっています。でも、この品質なら、もっと高値で取引すべきです」
デュポンは、真剣な目をしていた。
「あなたは、素晴らしいものを作った。それに見合った対価を受け取るべきです」
クラリッサは、少し考えた。
「では、一つ条件を追加させてください」
「何でしょう」
「今後、私の領地で生産する全ての織物製品を、優先的に扱っていただきます」
「もちろんです」
二人は、新しい契約を結んだ。
屋敷に戻ると、ヘンリーが待っていた。
「お嬢様、どうでしたか」
「大成功よ」
クラリッサは、新しい契約書を見せた。
「市場価格の一・二倍。つまり、予想より二割増しの収入になるわ」
ヘンリーは、素早く計算した。
「年間で、金貨三百六十枚」
「小麦と合わせれば、金貨九百六十枚」
「年間収入が、去年の三倍以上になります」
二人は、顔を見合わせた。
「でも、まだ足りない」
クラリッサは、冷静だった。
「借金の利子を払い、元金を返済し、領地への再投資をすると、余裕はほとんどない」
「他の領地への指導料が入れば」
「ええ。でも、それは来年以降よ」
クラリッサは、計画書を見つめた。
「もっと、効率を上げなければ」
その時、ノックの音がした。
「失礼します」
セバスチャンが、入ってきた。
「お嬢様、また王都から客人です」
「また?」
客間には、見知らぬ男が座っていた。
三十代の、精悍な顔つきの男性だ。旅装束だが、品がある。
「フォンテーヌ伯爵令嬢ですね。私は、オスカー・フォン・シュトラールと申します」
「シュトラール」
クラリッサは、その名に聞き覚えがあった。
「辺境伯の」
「次男坊です」
オスカーは、にこやかに笑った。
「家督は兄が継ぎますので、私は騎士として各地を巡っています」
「それで、何の御用でしょうか」
「噂を聞きまして。あなたの領地が、驚異的な発展を遂げていると」
オスカーの目は、真っ直ぐだった。
「実際に見て、本当に素晴らしいと思いました。村人たちは活気に満ち、畑は豊かです」
「ありがとうございます」
「それで、お願いがあるのです」
オスカーは、真剣な表情になった。
「私を、あなたの領地で働かせてください」
「え?」
クラリッサは、驚いた。
「辺境伯家の次男が、なぜ」
「私は、本当に価値のあることをしたいのです」
オスカーの声には、熱がこもっていた。
「戦争で名を上げることより、人々を幸せにすることの方が、よほど価値があると思います」
「でも」
「報酬は要りません。食事と寝る場所があれば十分です」
オスカーは、膝をついた。
「どうか、私に学ばせてください。そして、働かせてください」
クラリッサは、彼の目を見つめた。
嘘はない。純粋な熱意と、誠実さがあった。
「分かりました」
クラリッサは、頷いた。
「一緒に、この領地を良くしましょう」
オスカーの顔が、輝いた。
「ありがとうございます」
こうして、クラリッサの元に新しい仲間が加わった。
その夜、書斎でオスカーと話をした。
「なぜ、本当に私の領地を選んだのですか」
「あなたの生き方に、感銘を受けたからです」
オスカーは、率直に答えた。
「婚約を破棄され、困難な状況にある。でも、あなたは諦めなかった。自分の手で、全てを変えた」
「見ていたのですか」
「ええ。王都では、あなたの噂で持ちきりです」
オスカーは、微笑んだ。
「貴族令嬢が、畑仕事をする。農民と共に汗を流す。そして、領地を驚異的に発展させる」
「誇張されているかもしれませんよ」
「いいえ。実際に見て、確信しました。あなたは本物だと」
クラリッサは、少し照れくさそうに笑った。
「では、明日から働いていただきます」
「はい」
オスカーは、力強く頷いた。
「全力で、お手伝いします」
窓の外では、月が昇っていた。
その光が、豊かな畑を照らしている。
クラリッサの領地は、日に日に発展していた。
そして、彼女の周りには、信頼できる仲間が集まり始めていた。
長い戦いは、まだ続く。
だが、勝利は確実に近づいていた。
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