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ラッパー高山
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朝、歯を磨くために洗面所に行くと、一人の男が何かを熱心に洗っていた。
3階の住人で、何度かすれ違ったことのある顔だ。
彼の第一印象は、「世紀末リーダー伝たけし!」の主人公「たけし」、だった。
青々とした髭の剃り後や、鼻の穴の開き具合、目元などそっくりだ。タンクトップさえ着ればそのままで立派なコスプレになるだろう。
彼は、すれ違うときはいつも僕を無表情に疑るように下から見上げるので、少し不気味だと感じていた。
金髪坊主とは違うタイプの「要注意人物」として、絶賛警戒中だった。
彼の横に並び、それとなく洗い物を覗き込んでみると、果たしてそれはパンツであったため、僕は驚いた。
「なんだこいつ。オネショでもしたのか」と思わず彼の顔を見てしまう。
すると彼はニタッとした不気味な笑顔を見せながら、おもむろに口を開いた。
「ワイよぉ、ははっ……。む、夢精してよぉ……ははっ……。」
(えぇ、今なんと言った? ムセイだと……夢精のことなのか? )
生まれてこの方、夢精をした人に出会ったことがない。あれは保健体育の教科書に出てくる都市伝説では無いのか。
というか、語尾の「YO」ってなんだ。都会で流行っているという噂の「ラッパー」を意識しているのだろうか。
「doragon ash」みたいなノリか。
それに一人称を「ワイ」って言う人、初めて見た。
とりあえず色々有り得なさ過ぎて、めちゃくちゃ吹き出しそうになる。
ラッパーが夢精したパンツを手洗いしているってどういう状況だよ。情報量多過ぎるやろ。
色々と問い詰めたいことはあったが、限界だった。抑えきれずに爆笑してしまった。
「ふふっ……ふふ……」と彼も不気味に笑っている。
「わはは。一個いいですか。 ふ、普通、もうそのパンツ捨てませんか? 洗うとか無いでしょ」と、笑いながら思わず言ってしまった。
言った後にまた笑いが込み上げてきて止まらない。
福知山から出てきた田舎ピュアボーイの僕には刺激が強過ぎる。
さすが大阪、大きい、大きすぎるでコレ。世の中にはスゲェ奴がいっぺぇいるぞ!
寮に入ってから続いていた緊張の糸がプッツンと切れ、決壊した由良川堤防のように止め処なく笑いがこみ上げてくる。
「うっさいわぁ! しばくぞ」と、彼も爆笑しだした。
彼も何かが弾けるのを、パンツを洗いながら待っていたのかも知れない。
その後、彼とは食堂でばったりと出会い、一緒に朝飯を食べた。
「そういえば名前なんていうの? 俺は高山」
「僕は伊澤。あまりに衝撃的やったから、名前聞くのも忘れてた」と答えた直後からまた思い出し笑いがプスプスと出てしまう。
「あはは、もうええやろ。 ほいでよぉ、とりあえずよぉ、その……誰にも言わんでくれよ? ははっ。 恥ずかしいから」
「うん、まぁわかった」と答えた。面白くはあるけど、ちょっと汚いので積極的に語りたいことではないと思った。
彼は和歌山出身で、僕と同い年とのこと。夢精パンツを洗っていること以外は、割と普通な感じだ。
また一人、話せる人が増えて、僕は嬉しかった。
「えぇ? 自分のこと『ワイ』って言わへん? ワイんとこでは普通やったけどな」
「そんなん聞いたことないで。 番長の清原くらいちゃう、そんなん言うん」
清原も決してワイとは言わない。
「なんやろ、あと『わいわいサタデー』くらい? ワイワイ♪ ワイワイ♪」
「ふふっ……ふふっ……ほんま、お前しばくぞ」
「そう言えば、どんな夢を見て夢精したん?」と、気になっていたので聞いてみた。
「うん、まぁ……いや、それだけは言えん……」
その後1年間に渡り、何度も彼にはネタを聞いてみたが、決してこれだけは口を割らなかった。
3階の住人で、何度かすれ違ったことのある顔だ。
彼の第一印象は、「世紀末リーダー伝たけし!」の主人公「たけし」、だった。
青々とした髭の剃り後や、鼻の穴の開き具合、目元などそっくりだ。タンクトップさえ着ればそのままで立派なコスプレになるだろう。
彼は、すれ違うときはいつも僕を無表情に疑るように下から見上げるので、少し不気味だと感じていた。
金髪坊主とは違うタイプの「要注意人物」として、絶賛警戒中だった。
彼の横に並び、それとなく洗い物を覗き込んでみると、果たしてそれはパンツであったため、僕は驚いた。
「なんだこいつ。オネショでもしたのか」と思わず彼の顔を見てしまう。
すると彼はニタッとした不気味な笑顔を見せながら、おもむろに口を開いた。
「ワイよぉ、ははっ……。む、夢精してよぉ……ははっ……。」
(えぇ、今なんと言った? ムセイだと……夢精のことなのか? )
生まれてこの方、夢精をした人に出会ったことがない。あれは保健体育の教科書に出てくる都市伝説では無いのか。
というか、語尾の「YO」ってなんだ。都会で流行っているという噂の「ラッパー」を意識しているのだろうか。
「doragon ash」みたいなノリか。
それに一人称を「ワイ」って言う人、初めて見た。
とりあえず色々有り得なさ過ぎて、めちゃくちゃ吹き出しそうになる。
ラッパーが夢精したパンツを手洗いしているってどういう状況だよ。情報量多過ぎるやろ。
色々と問い詰めたいことはあったが、限界だった。抑えきれずに爆笑してしまった。
「ふふっ……ふふ……」と彼も不気味に笑っている。
「わはは。一個いいですか。 ふ、普通、もうそのパンツ捨てませんか? 洗うとか無いでしょ」と、笑いながら思わず言ってしまった。
言った後にまた笑いが込み上げてきて止まらない。
福知山から出てきた田舎ピュアボーイの僕には刺激が強過ぎる。
さすが大阪、大きい、大きすぎるでコレ。世の中にはスゲェ奴がいっぺぇいるぞ!
寮に入ってから続いていた緊張の糸がプッツンと切れ、決壊した由良川堤防のように止め処なく笑いがこみ上げてくる。
「うっさいわぁ! しばくぞ」と、彼も爆笑しだした。
彼も何かが弾けるのを、パンツを洗いながら待っていたのかも知れない。
その後、彼とは食堂でばったりと出会い、一緒に朝飯を食べた。
「そういえば名前なんていうの? 俺は高山」
「僕は伊澤。あまりに衝撃的やったから、名前聞くのも忘れてた」と答えた直後からまた思い出し笑いがプスプスと出てしまう。
「あはは、もうええやろ。 ほいでよぉ、とりあえずよぉ、その……誰にも言わんでくれよ? ははっ。 恥ずかしいから」
「うん、まぁわかった」と答えた。面白くはあるけど、ちょっと汚いので積極的に語りたいことではないと思った。
彼は和歌山出身で、僕と同い年とのこと。夢精パンツを洗っていること以外は、割と普通な感じだ。
また一人、話せる人が増えて、僕は嬉しかった。
「えぇ? 自分のこと『ワイ』って言わへん? ワイんとこでは普通やったけどな」
「そんなん聞いたことないで。 番長の清原くらいちゃう、そんなん言うん」
清原も決してワイとは言わない。
「なんやろ、あと『わいわいサタデー』くらい? ワイワイ♪ ワイワイ♪」
「ふふっ……ふふっ……ほんま、お前しばくぞ」
「そう言えば、どんな夢を見て夢精したん?」と、気になっていたので聞いてみた。
「うん、まぁ……いや、それだけは言えん……」
その後1年間に渡り、何度も彼にはネタを聞いてみたが、決してこれだけは口を割らなかった。
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