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孤独と絶望の向こう側
しおりを挟む入寮早々に奈落の底に突き落とされた僕は、一つの決心をした。
「他の寮生と接触することは極力避けよう」
ここで生き残るにはそうするしかない。あの金髪坊主のような輩が他にもウヨウヨといるかも知れない。下手するとここは男塾ばりの筋骨逞しい強面ばかりが入寮するソッチ系専門の寮である可能性も……。そうなると、勉強はおろかやはり生命が危ない。
まだ彼女すらいたことが無いのに、こんな所で死ぬのは惜しい。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
決めた、他の寮生とは十分過ぎるほどの距離をとろう。これしかない。押忍、押忍、押忍、やると決めたら勇気はモーレツ。孤独に生きるのだ。
最初は、他の寮生との接触は上手く避けられそうな気もしたが、すぐに己の浅はかさに気付き悶絶した。
ご飯は食堂を利用することになっていて、風呂、洗濯機、トイレは共同である。
また、部屋には冷蔵庫は無く、これまでに見たことが無いほどに小さい、シルバニアファミリーサイズの冷蔵庫が廊下に一つ置いてあるのみ。「ちっさ過ぎるやろ……」と思ったが、どうやらこれも共同らしい。
どう足掻いても、他の寮生と出会ってしまうのだ。
「もう許してくれ」と、思わず呟きそうになる。
色々と作戦を考えた結果がこうだ。食堂には人がいなさそうな遅い時間に行き、風呂はシャワーのみを使用する。都合の良いことに大浴場とは別に、個室のシャワールームがある。
それからトイレは扉をそっと開き廊下を見て、誰もいなさそうなタイミングで一気に走っていく。もちろん大便用の個室トイレしか使わない。
他の寮生から逆に怪しい奴だと思われてそうでもあるが、仕方がない。
勉強に集中するためにこの寮に入ったはずだが、僕は一体、何をやっているのだろう。
大金を払って寮に入れてくれている親に心底申し訳ない。
まさか勉強以前に寮の生活でこのような難問が立ちはだかろうとは夢にも思っていなかった。
宅浪をしていた方がずっとマシだったのではないかと、冬の日本海のようにドス黒い後悔が押し寄せてくる……。
田舎のお祖母ちゃん、お父さん、お母さん、そして、弟と妹よ、スマン、もう僕は既に限界かも知れない。
数日の間はなんとかなったが、こそこそと生活することに限界が来た。
例えば、洗濯物が山のように溜まってきたのである。
実家では一度も洗濯を自分でしたことが無かったため、たった数日でこれほどまでに異臭がするのかと驚いた。まるでゴミのようだ。これは何とかせねばならぬ。
しかし部屋の外が怖い。
悩んだ挙句、人が少ない早朝に洗濯機を使おうと、洗面所に向かった。
するとそこには一人、先客がいた。
「やぁ、おはよう」
「あ、おはようございます……」
まずいぞ。非常にまずいことになってしまった。人を避け孤独に生きることを決意したにも関わらず、話しかけられてしまった。
ただ、外見は背が高く少しがっしりとした体格だが、怖いという感じはしない、いやむしろ優しそうでさえある。
あの金髪坊主とは明らかに違う雰囲気だ。
しかし、油断は禁物。この大都会大阪では、僕の常識は一切通用しないと思った方が良い。
「僕は309号室の川野です。3階の方?」
「そうです。303号室の伊澤です」
「ここにはいつから来てるん?」
「一昨日からです」
「俺は昨日来たとこなんやけど、洗濯機の使い方がわからなくて、色々試してんねん。壊してしもたらあかんしな」と、彼は笑いながら言った。
話してみると、拍子抜けするほどに普通の人である。滋賀県出身で、年は僕より一つ上、昨年は自宅で勉強していたが成果が挙がらず、勉強に集中するために今年は寮に入ったとのこと。予備校のクラスも理系で同じ。
何という僥倖であろうか、天涯孤独を決め込んでいたが、思いがけず普通の人に巡りあえた。恐怖心や猜疑心で壊れかけていた僕だが、少し持ち直せるかも知れない。
「川野くん、早速やけど洗濯機の使い方教えてもらえませんか」
「あはは、なんや君も知らんのかいな」
感謝しよう、彼と出会えたこれまでのすべてに。
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