お嬢様と執事~グリモワールと契約の悪魔~

As-me.com

文字の大きさ
5 / 12

しおりを挟む
    その日、俺は朝から笑いを堪えるのに必死だった。




***







    俺の名はこの国の第3王子ことカースレットだ。幼い頃から末っ子だからと、とても可愛がられた。欲しい物はなんでも手に入ったし、兄上たちも俺には優しくしてくれたものだ。

    兄上たちには幼少の頃から婚約者がいたが俺には最近までいなかった。それは俺が両親から真に愛されていた証拠だと思っていた。

    だって、所謂兄上たちの婚約は国の為の政略結婚だ。そこに愛は無くあるのは義務と政治の事情だけ。なんとも憐れなものだ。それに比べて俺だけ・・・は真実に愛する相手と婚約するのを許されている。だから俺には今になっても婚約者がいないのだ。そう思っていた。

    それなのに、唐突にあてがわれた婚約者。

    由緒正しい公爵家とはいえ、その相手は身分卑しき平民の女から生まれた庶子だと言うではないか。しかも足を患い車椅子での生活を余儀なくされている欠陥品だ。

    確かに見目は美しいかもしれない。だが黒髪に黒目の儚げな少女は決して俺に微笑むことはなかった。なんとも生意気だ。

    しかも、俺は将来この欠陥品と結婚して公爵家に婿入りすると聞かされて絶望した。

    せっかく自由を許された愛される王子として生まれたのに、この女のせいで王族ではなくなるなんて。と。

    きっとこの欠陥品女がこの素晴らしい俺に惚れて無理矢理この婚約を結んだに違いない。この公爵家は歴史だけは深くその血筋は貴重なのだと母上が言っていた。あんなに可愛がっていた俺を公爵家への生け贄にするなんて、父上も母上もなんて酷いんだ!もしかして公爵家に何かを弱味でも握られているのではないだろうか……。そうでもなければ可愛い俺を婿養子になど出す訳がない。きっと血反吐を吐くほどの決断だったに違いない。なんて、可哀想な俺なんだ!

    そんな絶望だらけで日々を過ごしていた頃、俺の前に女神が現れた。

    男爵令嬢のユリファ・ワンズデッドだ。

   なんと、ユリファはワンズデッド男爵の愛人の子供……庶子だそうだ。だがユリファは心清らかな、とても美しい女性でいつも優しく微笑んでくれる。

    いつも俺を褒め称え、いつも俺に優しくしてくれて、決して俺を否定しない。

    俺のすることは間違ってない。いつもそう言ってくれた。

    そうだ。俺は正しい。

    周りが「ワガママも酷すぎると問題だ」なんて騒ぐことも、ユリファは「大丈夫です」と優しく微笑んでくれた。
 
    やはり俺には“愛される”ことが似合っている。

    嫌いな勉強を放棄することも、女と楽しく遊ぶことも、“愛される”べき俺には正しいことなのだと、ユリファは改めて教えてくれた。

    同じ貴族の庶子なのに、こんなにも違うなんて……ユリファの人間としての価値があんな女とは価値が違い過ぎるんだろうな。そう思った。

    ユリファは素晴らしい女性だ。俺はいつしかユリファを愛するようになった。だがこれは必然だと思う。だってユリファは俺にとって理想的な女だったからだ。

    俺たちは誰にもバレないようにひっそりと愛を育んだ。だってあの欠陥品が邪魔しないとも限らないじゃないか。もちろん「婚約者の為に」と渡されたお金も全部ユリファに使った。あんな欠陥品女など着飾っても金の無駄だ。どうせ車椅子でうろうろするだけなのだからな。それならユリファをきらびやかにしたほうがどんなにいいか……。あの欠陥品はなぜか俺に絡んでこないので特にバレることはない。だから、どれだけユリファに使ってもいいはずだ。

    そうして俺とユリファは秘めた愛をひっそりと育んでいた。婚約者のいる身でこんな事をするなど背徳的だが、きっとユリファが俺の真実の愛の相手なのだと思ったら止められなかった。

    だが、俺と愛するユリファの秘めた愛が暴露される。ふたりで蜜月を過ごす日々を暴かれる日が来たのだ。

    まさか、あの欠陥品女がユリファを虐めるなんて。

    第3王子の婚約者という地位を笠に着て、あいつは男爵令嬢の庶子だからとユリファを虐げたのだ。

    お前だって庶子の分際でユリファを虐げるなど何様のつもりだ。と憤慨した。

   教科書を破り、ドレスを汚し、階段から突き落としたなど……容認できるはずがない。

    泣きながら訴え来たユリファを優しく抱きしめ、俺はあいつを断罪することを決めた。

   あの欠陥品女は車椅子がないと碌に動けないはずなのにユリファを階段から突き落とすなんて……もしかしたら足を患っているなんて嘘なのではないか?

    そう考えたら、すべてはしっくりとしたのだ。

    本当は普通に歩けるのに歩けないフリをして車椅子で生活をしてそう結論付けると一気に周りの同情を引く。なんて浅ましい女なのか。虫酸が走った。最低だ!

   だから、俺は車椅子でも参加できるパーティーを催して、あの女を誘ってやったんだ。

    いつもは冷たくあしらう俺がわざわざパーティーに誘ってやったんだから、きっと大喜びのはすだ。だが、その天にも登る幸福から地獄に落としてやろう。

    だから俺は正義の鉄槌を落とすのだ。







「お前のような醜く卑しき女とは婚約破棄する!」


    さぁ、俺のターンだ!そう思ったら、俺の興奮は留まる事を知らなかった。自分の婚約者を蔑む言葉は止めどなくあふれたし、自分の正統性を示す言葉もちゃんと言えた。

    俺は確信していたのだ。

    あの嘘つきな車椅子女と婚約破棄し、ユリファと新たな婚約者となる。そうすれば全てがうまくいくと、信じて疑わなかった。

    なぜかって?それは、今日この日に俺は真実の愛・・・・を貫き、“真実の愛”とは神聖かつ正しいからだ!





    たが。まさか。



    あんなことになるなんてーーーー。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

殿下は私を追放して男爵家の庶子をお妃にするそうです……正気で言ってます?

重田いの
恋愛
ベアトリーチェは男爵庶子と結婚したいトンマーゾ殿下に婚約破棄されるが、当然、そんな暴挙を貴族社会が許すわけないのだった。 気軽に読める短編です。 流産描写があるので気をつけてください。

処理中です...