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2、婚約破棄宣言は突然に
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「テイレシア、お前との婚約は今、この時をもって破棄させてもらう!」
なぜかものすごいそのドヤ顔に、私は首を傾げるしかなかった。
「は、ぁ……?」
***
私には婚約者がいる。それは今、眼の前にいるこの国の第1王子様であるフレデリック殿下だ。
フレデリック殿下は私よりひとつ年上で見目麗しく、まるで物語に出てきそうな容姿の殿方だと評判であった。確かにプラチナゴールドの髪も宝石のような青い瞳も美しく、たくさんの令嬢たちから憧れの的のように騒がれている。まぁ、見た目だけだと思うが。
私たちの婚約は王命だ。だが、王命の政略的な婚約とはいえ私たちの間柄は良好だったはずである……たぶん。
フレデリック殿下は少々……いや、だいぶ思い込みの激しい方なので、誰かから噂話を聞いたら素直にそれを信じて自分の正義を振り翳す困ったちゃんなのが玉に瑕である。迷惑レベルは計り知れない。 だが、これまではその度に私が真偽を確かめてフレデリック殿下が納得するように説明していた。たまに本当の噂話だった事もあったし、たまーに殿下の正義感が正しいと評価されることもあることにはあるのだ。だが、そのほとんどが偽りなので結局はフレデリック殿下の行動がさらなる混乱を呼ぶことになるのである。とんだ迷惑王子だ。
そして暴走した王子を諫めるのは私の役目だった。
周りの人間から見れば私はなんとも生意気な令嬢に見えていた事だろう。いくら婚約者とはいえ、王子を諌めているのだから。でもこの強気な性格は生まれつきだし、なんと言っても亡くなった母譲りで無意識にやってしまうのだからどうしようもない。
そういえば殿下の婚約者に選ばれたのも、とあるパーティーで人の話を聞かずに自分の思うままに行動して迷惑ばかりかけている殿下を思わず(イラッとして)回し蹴りして吹っ飛ばしてしまったのが原因だった。今から思えばなんてはしたなかったのかと憂鬱にもなるが……まだ子供だったので勘弁して欲しい。なぜかその時の行動が王妃様に気に入られてしまい婚約者に名指しされたのだが、もっとこっそりやればよかったと後悔したのは内緒だ。
とにかく、そんな縁があり私とフレデリック殿下は婚約することになった。私が10歳の時のことなのでもうあれから7年、フレデリック殿下はなにかと文句を言ってきたが(私の見た目が地味だとか、口うるさいとか)それなりにやって来たつもりだった。長年一緒にいれば多少は情もある。だが、今回のワガママはまさかの出来事だったのだ。
「婚約破棄、ですか……」
私が学園を卒業したらすぐに結婚式が執り行われる予定だったから、あと数ヶ月程でフレデリック殿下は私と結婚すると言うのに。それに殿下の母親である王妃様はどうしても外せない大切な用事があるとかで里帰り中で現在この国を留守にしているが、結婚式をとても楽しみにしていてできるだけ多く早く帰ると言われている。それまでに細かい事を決めておいて欲しいともお願いされていた。
なので、式の準備や進行の確認とドレスの調整、結婚後に行う公務の内容。等などを殿下と相談をしなければいけないことがまだたくさんある。結婚式まであとわずかしかないのにフレデリック殿下は全然協力してくれないので結局は私がひとりで進めていたのだが……そんな馬鹿みたいに忙しいこのタイミングでの婚約破棄宣言に言葉を失うしかなかった。
「そうだ!これは決定事項だ!」
「……できれば、理由をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
フレデリック殿下の勇ましい程の堂々とした宣言に、薔薇の咲き乱れる春先のお城の庭ではお茶を運んでいた侍女や側で控えていた執事たちがピシッと凍りついたように動かなくなった。私に付き添ってきた公爵家の侍女なんて視線で人が殺せるならすでに惨殺してそうな目で殿下を見ている。さすがに王族を睨みつけて不敬罪になったら困るので落ち着いて欲しいが。
まぁ、まさか久々の婚約者との対面に……というか、結婚目前の相手を前にしておいてまさか殿下から婚約破棄を突き付けるなんて誰も思いもしなかっただろう。
「なんだ、そんなこともわからないのか?お前の底が知れるな」
腰に手をあて「ふはははは!」と高笑いしているが、そんなことわかるはずない。私はエスパーではないんだぞ。と、訴えたいくらいだ。言わないけど。
「申し訳ございませんが、教えて下さいませ……」
とにかく理由がわからないことにはどうしようもないので渋々頭を下げる。するとフレデリック殿下は満足そうに「そこまで言うのならいいだろう」と頷いた。
確かに私は殿下にとって扱いやすい女ではなかっただろう。でも私は、暴走する殿下の歯止め役として婚約者になったようなものなのだ。今までも殿下の暴挙を私が止めたことによって丸く収まった時などは殿下も「お前のおかげで助かった」と珍しく謝罪してきた事もあったくらいだし(本当にたまにだけれど)、フレデリック殿下もその辺を承知の上で私と結婚すると決めたはずなのに……。
何か特别に婚約破棄されるような不始末をやった覚えも無く私は頭を悩ませた。私の有責で婚約が破棄されたとなれば公爵家に迷惑がかかってしまうからだ。
しかし、次の殿下の言葉に私は頭が真っ白になってしまった。
「それは、お前の義妹のロゼリアだ!俺はお前と婚約破棄して、ロゼリアと結婚すると決めたんだ!」
…………この阿呆は、なにを言っているか。
思わず言葉を失った私に殿下は「ふははは!驚いたようだな?!」とふんぞり返る。
ええ、驚きましたとも。なんで私の可愛い義妹を勝手に巻き込んでいるのかってなりましたとも!
なぜかものすごいそのドヤ顔に、私は首を傾げるしかなかった。
「は、ぁ……?」
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私には婚約者がいる。それは今、眼の前にいるこの国の第1王子様であるフレデリック殿下だ。
フレデリック殿下は私よりひとつ年上で見目麗しく、まるで物語に出てきそうな容姿の殿方だと評判であった。確かにプラチナゴールドの髪も宝石のような青い瞳も美しく、たくさんの令嬢たちから憧れの的のように騒がれている。まぁ、見た目だけだと思うが。
私たちの婚約は王命だ。だが、王命の政略的な婚約とはいえ私たちの間柄は良好だったはずである……たぶん。
フレデリック殿下は少々……いや、だいぶ思い込みの激しい方なので、誰かから噂話を聞いたら素直にそれを信じて自分の正義を振り翳す困ったちゃんなのが玉に瑕である。迷惑レベルは計り知れない。 だが、これまではその度に私が真偽を確かめてフレデリック殿下が納得するように説明していた。たまに本当の噂話だった事もあったし、たまーに殿下の正義感が正しいと評価されることもあることにはあるのだ。だが、そのほとんどが偽りなので結局はフレデリック殿下の行動がさらなる混乱を呼ぶことになるのである。とんだ迷惑王子だ。
そして暴走した王子を諫めるのは私の役目だった。
周りの人間から見れば私はなんとも生意気な令嬢に見えていた事だろう。いくら婚約者とはいえ、王子を諌めているのだから。でもこの強気な性格は生まれつきだし、なんと言っても亡くなった母譲りで無意識にやってしまうのだからどうしようもない。
そういえば殿下の婚約者に選ばれたのも、とあるパーティーで人の話を聞かずに自分の思うままに行動して迷惑ばかりかけている殿下を思わず(イラッとして)回し蹴りして吹っ飛ばしてしまったのが原因だった。今から思えばなんてはしたなかったのかと憂鬱にもなるが……まだ子供だったので勘弁して欲しい。なぜかその時の行動が王妃様に気に入られてしまい婚約者に名指しされたのだが、もっとこっそりやればよかったと後悔したのは内緒だ。
とにかく、そんな縁があり私とフレデリック殿下は婚約することになった。私が10歳の時のことなのでもうあれから7年、フレデリック殿下はなにかと文句を言ってきたが(私の見た目が地味だとか、口うるさいとか)それなりにやって来たつもりだった。長年一緒にいれば多少は情もある。だが、今回のワガママはまさかの出来事だったのだ。
「婚約破棄、ですか……」
私が学園を卒業したらすぐに結婚式が執り行われる予定だったから、あと数ヶ月程でフレデリック殿下は私と結婚すると言うのに。それに殿下の母親である王妃様はどうしても外せない大切な用事があるとかで里帰り中で現在この国を留守にしているが、結婚式をとても楽しみにしていてできるだけ多く早く帰ると言われている。それまでに細かい事を決めておいて欲しいともお願いされていた。
なので、式の準備や進行の確認とドレスの調整、結婚後に行う公務の内容。等などを殿下と相談をしなければいけないことがまだたくさんある。結婚式まであとわずかしかないのにフレデリック殿下は全然協力してくれないので結局は私がひとりで進めていたのだが……そんな馬鹿みたいに忙しいこのタイミングでの婚約破棄宣言に言葉を失うしかなかった。
「そうだ!これは決定事項だ!」
「……できれば、理由をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
フレデリック殿下の勇ましい程の堂々とした宣言に、薔薇の咲き乱れる春先のお城の庭ではお茶を運んでいた侍女や側で控えていた執事たちがピシッと凍りついたように動かなくなった。私に付き添ってきた公爵家の侍女なんて視線で人が殺せるならすでに惨殺してそうな目で殿下を見ている。さすがに王族を睨みつけて不敬罪になったら困るので落ち着いて欲しいが。
まぁ、まさか久々の婚約者との対面に……というか、結婚目前の相手を前にしておいてまさか殿下から婚約破棄を突き付けるなんて誰も思いもしなかっただろう。
「なんだ、そんなこともわからないのか?お前の底が知れるな」
腰に手をあて「ふはははは!」と高笑いしているが、そんなことわかるはずない。私はエスパーではないんだぞ。と、訴えたいくらいだ。言わないけど。
「申し訳ございませんが、教えて下さいませ……」
とにかく理由がわからないことにはどうしようもないので渋々頭を下げる。するとフレデリック殿下は満足そうに「そこまで言うのならいいだろう」と頷いた。
確かに私は殿下にとって扱いやすい女ではなかっただろう。でも私は、暴走する殿下の歯止め役として婚約者になったようなものなのだ。今までも殿下の暴挙を私が止めたことによって丸く収まった時などは殿下も「お前のおかげで助かった」と珍しく謝罪してきた事もあったくらいだし(本当にたまにだけれど)、フレデリック殿下もその辺を承知の上で私と結婚すると決めたはずなのに……。
何か特别に婚約破棄されるような不始末をやった覚えも無く私は頭を悩ませた。私の有責で婚約が破棄されたとなれば公爵家に迷惑がかかってしまうからだ。
しかし、次の殿下の言葉に私は頭が真っ白になってしまった。
「それは、お前の義妹のロゼリアだ!俺はお前と婚約破棄して、ロゼリアと結婚すると決めたんだ!」
…………この阿呆は、なにを言っているか。
思わず言葉を失った私に殿下は「ふははは!驚いたようだな?!」とふんぞり返る。
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