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5、怒れる腐女子(ロゼリア視点)
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「なにを勘違いしたのか知りませんけど、お義姉様をいわれのない冤罪で断罪しようだなんて……許せません!」
わたしは怒りのあまり力いっぱいテーブルを殴った。
それにしても、どんな思考回路でどう勘違いしたらわたしがあのアホを好きになっただなんて思うのかしら?
***
わたしがあの阿呆殿下と出会ったのはいつだっただろうか……うん、忘れた。
その頃のわたしはまだお義姉様に本性をさらけ出せていなくて少しぎこちなかったかもしれない。でも初めての顔合わせで紹介されてからお義姉様のことが大好きになったので、この趣味(腐女子)が知られたら嫌われるかも……と臆病になっていたんだと思う。
あぁ、そうだ。 思い出した。お義姉様に婚約者がいると聞いたのでどんな相手か確かめてやろうと思ったんだった。
お義姉様よりひとつ年上だと言うその王子は、確かに見目麗しくまるで物語に出てきそうな容姿の男だった。プラチナゴールドの髪も宝石のような青い瞳も美しく、よその令嬢たちの憧れの的だというその姿にわたしもある意味衝撃を受けてしまったのだ。
「…………!」
……なんて腐女子心をくすぐる容姿なのか?!と。
なんとその王子は、まさに腐女子の妄想を掻き立てるために産まれてきたような素晴らしい見た目をしていたのだ!
顔はもちろん、背の高さに筋肉の付き方、その仕草も微笑み方も素晴らしい。
……こいつぁ、上物です……!(じゅるり)
「はじめまして、ロゼリアと申します」
なんとか挨拶をするものの、わたしの脳内では凄まじいスピードでこの王子をモデルにした登場人物があれやこれやなさっちゃう描写がとどまることを知らないくらい溢れ返っていた。
今すぐ執筆したい欲望を押さえているとついそわそわしてしまいお義姉様に注意されてしまう。しかしそれでも妄想は止まらずつい口から欲望が出てしまったが、お義姉様には聞こえてなかったみたいでよかったと胸を撫で下ろしたものだ。
あぁ、でもこれなら……ひ弱そうな美少年とのカップリングがいいだろうか?そして実はドMで受けだったってオチでもいける。それともイケオジを攻めちゃうとか?もちろんリバでもいい。これはどんなパターンにも順応できる究極の素材じゃないか……!腐女子の神よ!ここに降臨されたし!
はっ、ついあっちの世界へ意識が飛んでしまっていた。と、わたしが我に返るとなにやら不穏な空気が流れていた。
なぜわたしはこの王子に手を引っ張られていて、お義姉様と離されているのか意味不明だ。どうやらお茶に誘われているようだが、この王子のお義姉様に対する態度はなんなんだろう……足の骨をあらぬ方向に曲げてやろうか。
しかしこんなのでもお義姉様の婚約者で王子だし下手に逆らう訳にもいかず、わたしはガゼボに連れていかれてしまったのだ。
「ロゼリア嬢は俺の事をどう思う?」
椅子に座った途端、フレ……フレ?なんとか王子(名前なんだったっけ?)がそんな事を聞いてきた。
「えーと、素敵(な妄想の素材)だと思います」
わたしが首を傾げながらそう答えるとフレなんとか王子は満足そうに頷く。
「そうだろう、令嬢はみんなそう言うんだ」
あら、もしかして仲間(腐女子)がいるのかしら?と思ったが、さすがにそんなことは聞けないのでにこやかに笑顔で誤魔化しておいた。
そして似たような質問をされて適当に答える(なんせ脳内が忙しくてまともに質問も聞いてなかったが)を繰り返しているとお義姉様がお茶を運んできてくれたのだった。
それから屋敷に帰るなりわたしは自室に閉じ籠った。もちろん脳内に溢れ返ったこの素晴らしい愛の形たちを忘れてしまわないうちに全て紙にしたためるためだ。
そしてそれは三日三晩続き、ほぼ不眠不休で書き上げた紙の束に満足しながら久々に部屋の外へ出ると……扉の前には頬を涙で濡らし、少しやつれたお義姉様がいた。
「何も言わずに部屋に閉じ籠るなんて、心配したわ!」
わたしはお義姉様に泣きながら謝って、趣味を暴露した。
「ごめんなさい!実は趣味で(男と男の)幅広い愛について執筆活動をしていたのですが、お義姉様に知られたら嫌われると思って言えなかったんです……!」
そんなわたしをお義姉様は優しく抱き締めてくれたのだ。
「あなたの趣味がどんなものだろうと、あなたは私の義妹です」
「……お義姉様!」
それからわたしは腐女子であることを隠すのをやめた。
そして三日三晩かけた大作たちはクローゼットの奥へひっそりと隠すことにしたのだ。いくら趣味を理解してもらったとは言え、さすがにお義姉様の婚約者をモデルにした話(ちょっと過激なものまで)を見せるわけにはいかないと思ったからだったのだが……。
そのあと、あの王子の事をどう思ってるか聞かれたので「もちろん観賞用です!」と元気よく答えたのは今でもよく覚えている。
お義姉様にまさかあの男を愛しているかなんて聞かれるなんて思わなかったから思わず鳥肌がたってしまった。
なんなんだ、あの阿呆は。わたしが王子を慕ってるから、それに嫉妬したお義姉様がわたしをイジメた?だからお義姉様を捨てて訴える?
「ふっ、ふふふ……」
ほんの少しでもあんな男に気を使った過去の自分に教えてやりたい。あの男はとんだ愚か者であると!
「ロゼリア……?」
思わず笑い出したわたしをお義姉様が心配そうにみつめてくる。自分が窮地に立たされているというのに、こんな腐女子の心配をしてくれるなんて……やっぱりお義姉様は女神である!
「大丈夫です、お義姉様。……あんな男、腐女子の餌食にしてやりますわ!」
お義姉様を酷い目にあわす男には、それなりの制裁を与えてやろうじゃぁないの!
わたしは怒りのあまり力いっぱいテーブルを殴った。
それにしても、どんな思考回路でどう勘違いしたらわたしがあのアホを好きになっただなんて思うのかしら?
***
わたしがあの阿呆殿下と出会ったのはいつだっただろうか……うん、忘れた。
その頃のわたしはまだお義姉様に本性をさらけ出せていなくて少しぎこちなかったかもしれない。でも初めての顔合わせで紹介されてからお義姉様のことが大好きになったので、この趣味(腐女子)が知られたら嫌われるかも……と臆病になっていたんだと思う。
あぁ、そうだ。 思い出した。お義姉様に婚約者がいると聞いたのでどんな相手か確かめてやろうと思ったんだった。
お義姉様よりひとつ年上だと言うその王子は、確かに見目麗しくまるで物語に出てきそうな容姿の男だった。プラチナゴールドの髪も宝石のような青い瞳も美しく、よその令嬢たちの憧れの的だというその姿にわたしもある意味衝撃を受けてしまったのだ。
「…………!」
……なんて腐女子心をくすぐる容姿なのか?!と。
なんとその王子は、まさに腐女子の妄想を掻き立てるために産まれてきたような素晴らしい見た目をしていたのだ!
顔はもちろん、背の高さに筋肉の付き方、その仕草も微笑み方も素晴らしい。
……こいつぁ、上物です……!(じゅるり)
「はじめまして、ロゼリアと申します」
なんとか挨拶をするものの、わたしの脳内では凄まじいスピードでこの王子をモデルにした登場人物があれやこれやなさっちゃう描写がとどまることを知らないくらい溢れ返っていた。
今すぐ執筆したい欲望を押さえているとついそわそわしてしまいお義姉様に注意されてしまう。しかしそれでも妄想は止まらずつい口から欲望が出てしまったが、お義姉様には聞こえてなかったみたいでよかったと胸を撫で下ろしたものだ。
あぁ、でもこれなら……ひ弱そうな美少年とのカップリングがいいだろうか?そして実はドMで受けだったってオチでもいける。それともイケオジを攻めちゃうとか?もちろんリバでもいい。これはどんなパターンにも順応できる究極の素材じゃないか……!腐女子の神よ!ここに降臨されたし!
はっ、ついあっちの世界へ意識が飛んでしまっていた。と、わたしが我に返るとなにやら不穏な空気が流れていた。
なぜわたしはこの王子に手を引っ張られていて、お義姉様と離されているのか意味不明だ。どうやらお茶に誘われているようだが、この王子のお義姉様に対する態度はなんなんだろう……足の骨をあらぬ方向に曲げてやろうか。
しかしこんなのでもお義姉様の婚約者で王子だし下手に逆らう訳にもいかず、わたしはガゼボに連れていかれてしまったのだ。
「ロゼリア嬢は俺の事をどう思う?」
椅子に座った途端、フレ……フレ?なんとか王子(名前なんだったっけ?)がそんな事を聞いてきた。
「えーと、素敵(な妄想の素材)だと思います」
わたしが首を傾げながらそう答えるとフレなんとか王子は満足そうに頷く。
「そうだろう、令嬢はみんなそう言うんだ」
あら、もしかして仲間(腐女子)がいるのかしら?と思ったが、さすがにそんなことは聞けないのでにこやかに笑顔で誤魔化しておいた。
そして似たような質問をされて適当に答える(なんせ脳内が忙しくてまともに質問も聞いてなかったが)を繰り返しているとお義姉様がお茶を運んできてくれたのだった。
それから屋敷に帰るなりわたしは自室に閉じ籠った。もちろん脳内に溢れ返ったこの素晴らしい愛の形たちを忘れてしまわないうちに全て紙にしたためるためだ。
そしてそれは三日三晩続き、ほぼ不眠不休で書き上げた紙の束に満足しながら久々に部屋の外へ出ると……扉の前には頬を涙で濡らし、少しやつれたお義姉様がいた。
「何も言わずに部屋に閉じ籠るなんて、心配したわ!」
わたしはお義姉様に泣きながら謝って、趣味を暴露した。
「ごめんなさい!実は趣味で(男と男の)幅広い愛について執筆活動をしていたのですが、お義姉様に知られたら嫌われると思って言えなかったんです……!」
そんなわたしをお義姉様は優しく抱き締めてくれたのだ。
「あなたの趣味がどんなものだろうと、あなたは私の義妹です」
「……お義姉様!」
それからわたしは腐女子であることを隠すのをやめた。
そして三日三晩かけた大作たちはクローゼットの奥へひっそりと隠すことにしたのだ。いくら趣味を理解してもらったとは言え、さすがにお義姉様の婚約者をモデルにした話(ちょっと過激なものまで)を見せるわけにはいかないと思ったからだったのだが……。
そのあと、あの王子の事をどう思ってるか聞かれたので「もちろん観賞用です!」と元気よく答えたのは今でもよく覚えている。
お義姉様にまさかあの男を愛しているかなんて聞かれるなんて思わなかったから思わず鳥肌がたってしまった。
なんなんだ、あの阿呆は。わたしが王子を慕ってるから、それに嫉妬したお義姉様がわたしをイジメた?だからお義姉様を捨てて訴える?
「ふっ、ふふふ……」
ほんの少しでもあんな男に気を使った過去の自分に教えてやりたい。あの男はとんだ愚か者であると!
「ロゼリア……?」
思わず笑い出したわたしをお義姉様が心配そうにみつめてくる。自分が窮地に立たされているというのに、こんな腐女子の心配をしてくれるなんて……やっぱりお義姉様は女神である!
「大丈夫です、お義姉様。……あんな男、腐女子の餌食にしてやりますわ!」
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