11 / 19
11 僕の愛しい呪われた魔女【前編】
しおりを挟む
「せめてお前だけでも生き延びておくれ」
その時の僕はまだ子供だった。そう、ほんの小さな子供だったのだ。
彼女の胸に抱かれて、優しく頭を撫でられ……ただまもられるだけで、僕は彼女の死期を悟ることになっても何も出来ないでいた。
ドンドン!と家の扉が激しく叩かれ、そして蹴破られた。村人達がそれぞれに斧や鎌をもって恐い顔をして彼女を睨んでいる。
「さぁ、お逃げなさい……早く」
彼女は彼らの視界から隠すように僕をタンスの影に下ろし、小さな抜け穴を指差した。
僕は震えながら抜け穴の先に足を踏み入れそこで小さく丸まっただけだったが、彼女は「動いてはダメよ」と呟いてからほんの一瞬だけ優しい笑みを浮かべて見せたのだ。
そして、彼女は死んだ。狂ったように襲ってくる村人達に惨殺されてーーーー。
彼女と暮らした家は赤く燃え、そして灰と化した。僕からしたらとても大きな家だったのに、灰になると僕より小さくなってしまうと初めて知った。
村人がいなくなってから僕はまだ柔らかな爪が折れて血が滲むまでその灰の山を掘り返した。そして、白い骨の欠片を見つけたのだ。
わずかに残る彼女の気配と香り。僕はその骨の欠片に頬擦りしながら鳴くことしかできなかった。
「にぁおーーーーん」
それから3日3晩、僕の鳴き声は村に響きわたり……そして消えた。
彼女は所謂“魔女”と言われる存在だった。魔女といっても不老不死とか怪しい魔術を使うわけでもなく、薬草に詳しくて薬学に長けている者を“魔女”と呼ぶのだが、ここの村人は“魔女”を特別な存在として彼女を尊敬し崇めていた。彼女が薬を作り、村人はそれをありがたいと彼女を敬っていたのに……ある時、村に疫病が流行りだしたせいでその運命がねじ曲がることになる。
その疫病は彼女にも治すための薬がすぐには作り出せない新種の疫病だった。村人は次々と死に至り、村の半分以上が死に絶えた頃……彼女を逆怨みした村人達が暴動をおこしたのだ。
彼女こそが、疫病を撒き散らした犯人だと訴えて。
彼女は親から捨てられた僕を助けて救ってくれた恩人だった。まだ幼く何も出来ない子供だった僕だけれど、彼女の事を母親のように姉のように慕い……いや、この人こそ最愛の人と気づいてこの人と共に生きようと決めたのに、その決意は果たされることはなくなったのだ……。
小さな子猫だった僕は彼女の骨の欠片を体で包むように抱き、無力なままその儚い命を終えた。
……そんな前世を思い出した時、僕の頬は涙に濡れていた。
そして、必ず彼女を探しだして今度こそ幸せにして見せると誓ったのだ。
例え、やっと探しだした彼女の生まれ変わりが今世の僕の兄の婚約者で……今、目の前で婚約破棄を突きつけられ断罪されようとしてるとしてもーーーーだ。
「メリーサ・アルバトロス侯爵令嬢、お前との婚約を破棄する!」
漆黒の黒髪と琥珀色の瞳をしたメリーサ侯爵令嬢は、彼女と同じ眼差しでこう言った。
「いいえ、婚約破棄などお断り致します。私は王妃にならなければならないのですから」と。
その時の僕はまだ子供だった。そう、ほんの小さな子供だったのだ。
彼女の胸に抱かれて、優しく頭を撫でられ……ただまもられるだけで、僕は彼女の死期を悟ることになっても何も出来ないでいた。
ドンドン!と家の扉が激しく叩かれ、そして蹴破られた。村人達がそれぞれに斧や鎌をもって恐い顔をして彼女を睨んでいる。
「さぁ、お逃げなさい……早く」
彼女は彼らの視界から隠すように僕をタンスの影に下ろし、小さな抜け穴を指差した。
僕は震えながら抜け穴の先に足を踏み入れそこで小さく丸まっただけだったが、彼女は「動いてはダメよ」と呟いてからほんの一瞬だけ優しい笑みを浮かべて見せたのだ。
そして、彼女は死んだ。狂ったように襲ってくる村人達に惨殺されてーーーー。
彼女と暮らした家は赤く燃え、そして灰と化した。僕からしたらとても大きな家だったのに、灰になると僕より小さくなってしまうと初めて知った。
村人がいなくなってから僕はまだ柔らかな爪が折れて血が滲むまでその灰の山を掘り返した。そして、白い骨の欠片を見つけたのだ。
わずかに残る彼女の気配と香り。僕はその骨の欠片に頬擦りしながら鳴くことしかできなかった。
「にぁおーーーーん」
それから3日3晩、僕の鳴き声は村に響きわたり……そして消えた。
彼女は所謂“魔女”と言われる存在だった。魔女といっても不老不死とか怪しい魔術を使うわけでもなく、薬草に詳しくて薬学に長けている者を“魔女”と呼ぶのだが、ここの村人は“魔女”を特別な存在として彼女を尊敬し崇めていた。彼女が薬を作り、村人はそれをありがたいと彼女を敬っていたのに……ある時、村に疫病が流行りだしたせいでその運命がねじ曲がることになる。
その疫病は彼女にも治すための薬がすぐには作り出せない新種の疫病だった。村人は次々と死に至り、村の半分以上が死に絶えた頃……彼女を逆怨みした村人達が暴動をおこしたのだ。
彼女こそが、疫病を撒き散らした犯人だと訴えて。
彼女は親から捨てられた僕を助けて救ってくれた恩人だった。まだ幼く何も出来ない子供だった僕だけれど、彼女の事を母親のように姉のように慕い……いや、この人こそ最愛の人と気づいてこの人と共に生きようと決めたのに、その決意は果たされることはなくなったのだ……。
小さな子猫だった僕は彼女の骨の欠片を体で包むように抱き、無力なままその儚い命を終えた。
……そんな前世を思い出した時、僕の頬は涙に濡れていた。
そして、必ず彼女を探しだして今度こそ幸せにして見せると誓ったのだ。
例え、やっと探しだした彼女の生まれ変わりが今世の僕の兄の婚約者で……今、目の前で婚約破棄を突きつけられ断罪されようとしてるとしてもーーーーだ。
「メリーサ・アルバトロス侯爵令嬢、お前との婚約を破棄する!」
漆黒の黒髪と琥珀色の瞳をしたメリーサ侯爵令嬢は、彼女と同じ眼差しでこう言った。
「いいえ、婚約破棄などお断り致します。私は王妃にならなければならないのですから」と。
12
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
ここに聖女はいない
こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。
勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。
どうしてこんな奴がここにいる?
かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。
魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。
このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる!
それは、悪役教授ネクロセフ。
顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。
「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」
……のはずが。
「夢小説とは何だ?」
「殿下、私の夢小説を読まないでください!」
完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。
破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ!
小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。
もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】
青緑 ネトロア
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。
親代わりの枢機卿と王都を散策中、初対面の王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の義娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。
辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認識されていく。辺境から帰還した後。多くの王侯貴族が参列する夜会で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。
———————————
本作品の更新は十日前後で投稿を予定しております。
更新予定の時刻は投稿日の17時に固定とさせていただきます。
誤字・脱字をコメントで教えてくださると、幸いです。
読みにくい箇所は、何話の修正か記載を同時にお願い致しますm(_ _)m
…(2025/03/15)…
※第一部が完結後、一段落しましたら第二部を検討しています。
※第二部は構想段階ですが、後日談のような第一部より短めになる予定です。
※40話にて、近況報告あり。
※52話より、次回話の更新日をお知らせいたします。
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
聖女クローディアの秘密
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
神託によって選ばれた聖女クローディアは、癒しの力もなく結界も張れず、ただ神殿にこもって祈るだけの虚しい日々を送っていた。自分の存在意義に悩むクローディアにとって、唯一の救いは婚約者である第三王子フィリップの存在だったが、彼は隣国の美しい聖女に一目ぼれしてクローディアを追放してしまう。
しかし聖女クローディアには、本人すら知らない重大な秘密が隠されていた。
これは愚かな王子が聖女を追い出し、国を亡ぼすまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる