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11 僕の愛しい呪われた魔女【前編】
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「せめてお前だけでも生き延びておくれ」
その時の僕はまだ子供だった。そう、ほんの小さな子供だったのだ。
彼女の胸に抱かれて、優しく頭を撫でられ……ただまもられるだけで、僕は彼女の死期を悟ることになっても何も出来ないでいた。
ドンドン!と家の扉が激しく叩かれ、そして蹴破られた。村人達がそれぞれに斧や鎌をもって恐い顔をして彼女を睨んでいる。
「さぁ、お逃げなさい……早く」
彼女は彼らの視界から隠すように僕をタンスの影に下ろし、小さな抜け穴を指差した。
僕は震えながら抜け穴の先に足を踏み入れそこで小さく丸まっただけだったが、彼女は「動いてはダメよ」と呟いてからほんの一瞬だけ優しい笑みを浮かべて見せたのだ。
そして、彼女は死んだ。狂ったように襲ってくる村人達に惨殺されてーーーー。
彼女と暮らした家は赤く燃え、そして灰と化した。僕からしたらとても大きな家だったのに、灰になると僕より小さくなってしまうと初めて知った。
村人がいなくなってから僕はまだ柔らかな爪が折れて血が滲むまでその灰の山を掘り返した。そして、白い骨の欠片を見つけたのだ。
わずかに残る彼女の気配と香り。僕はその骨の欠片に頬擦りしながら鳴くことしかできなかった。
「にぁおーーーーん」
それから3日3晩、僕の鳴き声は村に響きわたり……そして消えた。
彼女は所謂“魔女”と言われる存在だった。魔女といっても不老不死とか怪しい魔術を使うわけでもなく、薬草に詳しくて薬学に長けている者を“魔女”と呼ぶのだが、ここの村人は“魔女”を特別な存在として彼女を尊敬し崇めていた。彼女が薬を作り、村人はそれをありがたいと彼女を敬っていたのに……ある時、村に疫病が流行りだしたせいでその運命がねじ曲がることになる。
その疫病は彼女にも治すための薬がすぐには作り出せない新種の疫病だった。村人は次々と死に至り、村の半分以上が死に絶えた頃……彼女を逆怨みした村人達が暴動をおこしたのだ。
彼女こそが、疫病を撒き散らした犯人だと訴えて。
彼女は親から捨てられた僕を助けて救ってくれた恩人だった。まだ幼く何も出来ない子供だった僕だけれど、彼女の事を母親のように姉のように慕い……いや、この人こそ最愛の人と気づいてこの人と共に生きようと決めたのに、その決意は果たされることはなくなったのだ……。
小さな子猫だった僕は彼女の骨の欠片を体で包むように抱き、無力なままその儚い命を終えた。
……そんな前世を思い出した時、僕の頬は涙に濡れていた。
そして、必ず彼女を探しだして今度こそ幸せにして見せると誓ったのだ。
例え、やっと探しだした彼女の生まれ変わりが今世の僕の兄の婚約者で……今、目の前で婚約破棄を突きつけられ断罪されようとしてるとしてもーーーーだ。
「メリーサ・アルバトロス侯爵令嬢、お前との婚約を破棄する!」
漆黒の黒髪と琥珀色の瞳をしたメリーサ侯爵令嬢は、彼女と同じ眼差しでこう言った。
「いいえ、婚約破棄などお断り致します。私は王妃にならなければならないのですから」と。
その時の僕はまだ子供だった。そう、ほんの小さな子供だったのだ。
彼女の胸に抱かれて、優しく頭を撫でられ……ただまもられるだけで、僕は彼女の死期を悟ることになっても何も出来ないでいた。
ドンドン!と家の扉が激しく叩かれ、そして蹴破られた。村人達がそれぞれに斧や鎌をもって恐い顔をして彼女を睨んでいる。
「さぁ、お逃げなさい……早く」
彼女は彼らの視界から隠すように僕をタンスの影に下ろし、小さな抜け穴を指差した。
僕は震えながら抜け穴の先に足を踏み入れそこで小さく丸まっただけだったが、彼女は「動いてはダメよ」と呟いてからほんの一瞬だけ優しい笑みを浮かべて見せたのだ。
そして、彼女は死んだ。狂ったように襲ってくる村人達に惨殺されてーーーー。
彼女と暮らした家は赤く燃え、そして灰と化した。僕からしたらとても大きな家だったのに、灰になると僕より小さくなってしまうと初めて知った。
村人がいなくなってから僕はまだ柔らかな爪が折れて血が滲むまでその灰の山を掘り返した。そして、白い骨の欠片を見つけたのだ。
わずかに残る彼女の気配と香り。僕はその骨の欠片に頬擦りしながら鳴くことしかできなかった。
「にぁおーーーーん」
それから3日3晩、僕の鳴き声は村に響きわたり……そして消えた。
彼女は所謂“魔女”と言われる存在だった。魔女といっても不老不死とか怪しい魔術を使うわけでもなく、薬草に詳しくて薬学に長けている者を“魔女”と呼ぶのだが、ここの村人は“魔女”を特別な存在として彼女を尊敬し崇めていた。彼女が薬を作り、村人はそれをありがたいと彼女を敬っていたのに……ある時、村に疫病が流行りだしたせいでその運命がねじ曲がることになる。
その疫病は彼女にも治すための薬がすぐには作り出せない新種の疫病だった。村人は次々と死に至り、村の半分以上が死に絶えた頃……彼女を逆怨みした村人達が暴動をおこしたのだ。
彼女こそが、疫病を撒き散らした犯人だと訴えて。
彼女は親から捨てられた僕を助けて救ってくれた恩人だった。まだ幼く何も出来ない子供だった僕だけれど、彼女の事を母親のように姉のように慕い……いや、この人こそ最愛の人と気づいてこの人と共に生きようと決めたのに、その決意は果たされることはなくなったのだ……。
小さな子猫だった僕は彼女の骨の欠片を体で包むように抱き、無力なままその儚い命を終えた。
……そんな前世を思い出した時、僕の頬は涙に濡れていた。
そして、必ず彼女を探しだして今度こそ幸せにして見せると誓ったのだ。
例え、やっと探しだした彼女の生まれ変わりが今世の僕の兄の婚約者で……今、目の前で婚約破棄を突きつけられ断罪されようとしてるとしてもーーーーだ。
「メリーサ・アルバトロス侯爵令嬢、お前との婚約を破棄する!」
漆黒の黒髪と琥珀色の瞳をしたメリーサ侯爵令嬢は、彼女と同じ眼差しでこう言った。
「いいえ、婚約破棄などお断り致します。私は王妃にならなければならないのですから」と。
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