【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

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20 その微笑みは毒を撒く(アミィ視点)

 ※大人向けの表現があります。苦手な方、嫌悪を感じる方は御注意ください。





 ***






「アミィお嬢様、お茶をお持ち致しました」

     お気に入りの若い執事があたしの名前を呼んだ。この男はあまり仕事は出来ないが顔が良いのでいつも側に侍らせている男だった。なぜ、仕事の出来ない男を側に侍らせているのかって?

     うふ!そんなの、あたしの周りには美しい男が似合うからに決まってるじゃない。だってあたしはこれからもっとも高貴な存在になる運命だと決まっているんだから!

  あたしは艶やかで綺麗だと必ずみんなが誉めてくれる緩やかに巻いた黒髪をふわりと靡かせ、澄んだ空のように煌めく瞳をにこりと細めた。こうすれば大概の男は頬を染めると知っているもの。ほら、やはりこの執事も頬を染めたわ。熱を帯びた瞳であたしを見つめる様子は特に楽しいが、毎回同じ過ぎて少し飽きてきたなぁとも思う。テンプレって簡単だけど、飽きやすいのが難点よね。

「……ここにいるわ」

     わざと気だるげに長椅子に体を預け、ドレスの裾から白く美しい素足をちらりと覗かせた。そうすればその視線はそこに釘付けになる。すぐに反らそうとする態度に若干むかつくが、頬の火照りや泳ぐ視線が勝利を確信させた。

     この男は散々焦らしてやっているがまだ襲っては来ないのよね。焦らして遊ぶのは好きだが、全然手を出されないとそれはそれであたしに魅力が無いと言われているようで腹が立った。ここまで理性を保とうとされるのはさらにむかつく。男なんてあたしの前では本能のままに動く獣と同じなのだから。

     あたしの魅力にやられて、理性を忘れた男が破滅していくのが楽しいのにーーーー。

     だからあたしはわざと胸を寄せ、大きく開いたドレスの胸元からこぼれ落ちるギリギリのところをその執事に見せつけてやった。ギラギラと切羽詰まったような瞳が向けられて背筋がゾクゾクと粟立つのを感じる。あぁ、この優越感が堪らない。だってあたしはなんですもの!

     必死に目を反らそうとする執事だが、頬を染めて息が荒くなるのがわかる。今日はいつもの香水をさらに振りかけたから、効果は抜群のはずだ。我慢出来るはずかない……はそうゆう仕様なのだから。

「お、お嬢様?なにを……」

 あたしが少し動く度に甘ったるい香りが部屋に充満する。あの時、偶然手に入れたこの魔法のようなアイテムのおかげであたしはを思い出したのだ。

「あぁ、なんだか胸が苦しいわ。誰か助けてくれないかしら……。お前はあたしを助けてはくれないの?」

     本当はあたしに触りたいんでしょう?と、しっとりとした目で訴えてやれば、執事がゴクリと息を飲んだのがわかった。そしてトドメとばかりに目尻に涙を浮かべ、ぽろりと一雫の水滴を零す。モブの奴らなんかこれでイチコロだと知っている。だってあたしを愛さない男なんてには存在しない……いえ、してはならないのよ!

「あたしには、お前しかいないのに……。あたしのこと、愛してくれないの……?」

「お、お嬢様!ほんとは俺はあなたのことが……!」

    その瞬間、 むしゃぶりつくように胸に顔を埋めてきた執事は荒々しくドレスの中に手を突っ込んでくる。ほら、もあたしの勝ちだ!あはは!やっぱり男はみんな同じだ。なんて簡単なんだろう!やっぱり男たちだけじゃ物足りないもの。いい男はぜーんぶあたしの虜になるべきなのよ!

「あんっ。あ、そんな……ダメよ……!あたしには婚約者が……っ」

「お嬢様!俺は本気なんです!どうか俺の想いを……!」

「あっーーーー」










     前のクビにした男はヘタクソだったけど、この男はなかなか上手かったな。顔も好みだしもうしばらくは側に置いてもいいかもしれない。

     最近は1番お気に入りのエドガー玩具が急に顔を見せなくなったから少し退屈だったのだ。あの男は顔はまぁまぁなのだが中身がてんで馬鹿だったので少し話を合わせてやれば山ほど貢いでくれたな、と思い出す。

     うふふっ、大粒ダイヤのネックレスを持ってきたご褒美に褒めちぎって手を握ってやったらめちゃくちゃ喜んでたっけ。だいたいの男は身体を与えて操っていたが、そんな関係を持たずにあそこまで自由に操れたのはエドガーだけだ。まるで尻尾を振る忠犬のようにあたしに纏わりついて何がそんなに楽しいのかと思ったが本人は満足そうにしていた。しかしその貢ぎ物もエドガーが持ってこないせいで最近は全然増えないのが少し不満である。せっかく可愛がってやっていたのに、ペットの分際でどこへ行っているのか。エドガーの婚約者とやらも、あんな男のどこがいいのか理解出来ない。

     エドガーは実力も無いのにマザコンで自意識過剰。思い込みが激しくて差別意識の強い、良くも悪くも真っ直ぐな男だった。二言目には「母上は賢い」「母上は素晴らしい」「母上は優しい」と悦に浸った顔で語られるのも気持ち悪かったし、いい加減飽き飽きてきていた。あんなのの婚約者でいられるなんて相当悪趣味なんだろう。確かに、ただ笑顔で頷いてやればいいだけだったし扱いは楽ではあったが、あれをひとりの男として愛するなんて金塊を積まれてもごめんである。まさにモブ中のモブってところだろうか。

 そう言えば、あの男の婚約者はなんて名前だったかしら?伯爵令嬢だってことは覚えているんだけど……自分の婚約者が実は山程あたしに貢いでるって知ったらどんな顔をするのかしらね?面白そうだから今度エドガーが来たらやらせてみようかしら。あ、でもそのせいであたしと結婚したいって言われても面倒だわ。それに、エドガーにはちゃんと伯爵家当主になってもらわないといけないもの。あたしと心が結ばれているらしいエドガーは「俺が伯爵になったらもっと宝石を持ってくるから」「馬鹿な女と結婚するけど、その女は2番で1番はアミィだけだ」とあたしに心底溺れているからそれこそ抱えきれない程の宝石を貢いでくれるはずだ。

     そうそう、昔、あたしが隣国の王子と婚約すると言ったら急にプロポーズしてきたのには笑いをこらえるのに大変だったっけ。婚約指輪にあんなショボい指輪なんか持ってきたのには驚いたが、たかが子爵令息のくせに王子に張り合うなんて本当に馬鹿だと思った。まぁ、貢ぎ物は欲しかったから適当に喜びそうな事を言ってやったら本気にして今に至るわけだけど。ちょっとモブに夢を見させ過ぎたのよね。公式の攻略対象者でも無いくせに、その気になりすぎなのよ。ほんとダサい!

     思い出し笑いをしそうになったとき、執事が急にあたしの髪を撫で出した。

「あぁ、アミィ。君はまるで美しい毒のようだ。こんなにも俺を虜にする。……なぁ、俺は君に本気なんだ。俺と駆け落ちして結婚してくれないか?」

     その言葉に、一気に楽しかった熱が冷める。

     あぁ、この男はダメだ。もういらない。あたしはアールスト国の王子と結婚して、将来はアールスト国の王妃になるのよ?せっかく遊んでやったのに、本気と遊びの違いもわらないなんて……なんてつまらない男なの。こいつもエドガーと同じでダサいモブだったのだ。せめて貢ぎ物でもあれば少しはマシだが、一介の執事に出来ることなんてたかが知れている。それに……。

「……」

     あたしは無言で執事から離れ、乱れたドレスを整える。そして少しだけ胸元をはだけさせた。

「ア、アミィ?」

     不安気な声で執事があたしに触れようとした瞬間。

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!誰か助けてーーーーっ!!」

「アミィ?!なにを……!」

     執事……いや、執事だった男が慌て出すがもう遅い。あたしの叫び声を聞いた警備兵が部屋にやって来て問答無用で男を捕まえた。

「アミィ様!どうなされました?!」

     あたしが次に狙ってる隣国から派遣されてきた騎士がよろめくあたしを支えてくれる。うん、やっぱりいい男だわ。青髪もアニメのキャラみたいだしモブの中でも上位のイケメンだ。

「こ、この執事が!あんな格好で襲ってきたの!急にあたしのドレスを引き裂こうとーーーー。とても怖かったです!」

「なんと!いくらアミィ様がお美しいからとそのような事をするなんて!そのふしだらな犯罪者をを今すぐ捕まえろ!!」

「ま、待ってくれ!俺とアミィは愛し合ってーーーー「その男が生きていたらあたしは安心できないわ。今すぐ殺して」え」

     騎士の剣が舞うように凪ぎ払われ、ぶしゅっ!と音を立てて男が倒れた。

     騎士に抱きつきながら目の前で血まみれになり物言わぬ骸となった男を見て震える素振りをしながらニヤリと口元を歪める。

「お怪我はありませんか、アミィ様」

「大丈夫よ……。でもまださっきの恐怖で震えが止まらないの。しばらく側にいてくださらない?」

「もちろんです。アミィ様のことはアールスト国の王子より命に代えてもお守りするように命じられておりますので」

「頼もしいわ」

     ーーーーあぁ、なんて楽しいの。この世の全てがあたしの思うがままだ。それに、あんな男の命なんて消えた方がいいのよ。だってあの男はあたしのことを“毒”と言った。そうね、ある意味“毒”なのだろう。だが、それは他人にバレてはいけないのだから。

 それにして、宝石も名誉も人の命すらも簡単に手に入る。悪役令嬢として排除したレベッカも簡単に断罪出来た。王子はあたしの言いなり。あたしが涙をひとつ零し、にこりと微笑めば世界なんてどうとでもなるのだ。

まるで、神にでもなった気分だった。

 あ、違った。神様じゃなくてヒロインね。だってあたしは、あたしがチートで無双出来る最高の乙女ゲームのヒロインに転生してきたんだからーーーー。






     そんな頃、あたしにお茶会の招待状が届く。なんと王女からだ。あのワガママ小娘はなにかとあたしに渋い顔をしていたので、てっきり嫌ってると思っていたがわざわざお茶会に招待するなんて一体どんな風の吹きまわしだろうか。

「……ラスドレード国の聖女がくる?」

     なんと、今話題になっている異国の聖女とやらがそのお茶会に来るらしい。しかもその聖女はこの国の伯爵令嬢が選ばれたと言うではないか。

「異国ねぇ……。てっきりお伽噺だと思っていたけど、聖女って本当にいたのね。悪役令嬢みたいなものかしら?」

     ラスドレード国と言えば、詳しくは知らないがとんでもない大国で権力も財力もたっぷりだと聞く。あんまり興味なかったけど、とても魅力的に感じてきた。それに聖女になれば王族と同じくらいの権力が持てるらしい。しかしよく見れば、招待状には聖女に失礼なことはしないように。と嫌味が書かれている。やっぱりあの小娘は気に入らないわ。

     使用人を捕まえて噂話を聞き出すと、どうやらラスドレード国から聖女を探しに来た大使というのは男らしい。その大使が指名したからその伯爵令嬢は聖女になれたのならば……上手く行けばその聖女の座を奪い取ってやれるんじゃないかと思ったのだ。

「アールスト国の未来の王妃と、ラスドレード国で崇められる聖女。どちらが上なのかしら?」

     宝石とドレスで着飾り、聖女と讃えられたあたしの姿を想像する。きっと足元にはたくさんの男たちが侍っているだろう。うん、そんなヒロインも悪くない。もしかしたらこれは隠しルートなんじゃない?そうなると、その大使も攻略対象者なのかもしれないわ。

「これが所謂逆ハーレムルートってやつね!」

     なんだか面白くなってきた。いくら簡単なゲームだって言っても少しは刺激がなくちゃね?

「うふふ」

     あたしは誰もが虜になる微笑みを浮かべて、まるであたしの溜めだけに煌やいているかのような美しい月を仰いだのだった。




     
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