【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

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39 偽りと現実(隣国の王子視点)

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 ーーーーへ?俺は今、なんて言ったんだ?

 俺を囲む人間たちが皆ぽかんとした顔をした後、嫌悪な視線を注いでくる。ヤバい。これは、ヤバい気がする。

「い、いや!ちがっ、違うんだ!こんなことを言いたかったわけじゃ……だ、だから!そ、そうだ!俺は……ロティーナにその冷たい眼差しで見下されながら尻を蹴って欲しいだけだったんだ!」

 ……は?俺は何を口走っているんだ?早く弁解しなくてはと、慌てて口を開くがそこから出てくるのはまたもやとんでもない言葉の羅列だけだった。

 ハァハァと荒い息が漏れ、体が熱い。落ち着かねばと思うが、脳裏に俺の尻を踏みつけてくるロティーナの姿を想像して思わず興奮してしまった。出来れば爪先で抉るようにやって欲しい。裸足ならばさらにいいだろう。最高だ!

「アシード殿下はなにを言ってるんだ」

「先ほどの行動といい、ご乱心にも程がある」

「もしやおかしくなられたのでは……」

「いやだ、気持ち悪いわ……」

 周りの人間たちがざわざわと、どよめきを隠せない様子を見せ始めた。これじゃ、どんなに俺が素晴らしい王子だとしてもまるで変態みたいじゃないか?!このような姿をさらしていては王子としての沽券に関わる!

 あぁ、ロティーナまでもが驚いた顔で俺を見ている。ダメだ、このままではロティーナにも俺が変態だと思われてしまう!なんとか誤魔化さなくては!あ、でもその汚ない物を見る視線はちょっといいかもしれない。

「これはちがっ……!本当に違うんだ!俺はただ、ロティーナに……!」

 ハァハァとさらに息が荒くなる。どうしよう、どうしよう!弁解したいが口を開けば開くほどさらに過激な言葉が出てくる気がする。だがもしその言葉が現実になったら俺は至福の絶頂に達するだろう。そう考えたら嬉しくて思わず口の端からポタポタと涎が溢れた。

    とにかく「違う」と叫ぶが、俺を中心にどんどん人が離れていく。みんな気持ち悪そうに眉間に皺を寄せ「こんな変質者だったとは」「こんなのが王位を継いだらこの国は終わりだ」と悪態をついているのが聞こえた。

「ち、違うんだ……これは何かの間違いだ……。そ、そうだ!俺は異国の秘密を握っているんだ!この香水こそが異国最大の国家機密だと俺は知っているんだぞ!?これをバラされたくなければ……!」

 俺は空になった瓶をロティーナたちの前に勢い良く突き出す。これであのいけ好かない灰眼野郎の顔色も変わるはすだ。それにロティーナにもそろそろ香水の効果が出てくるだろう。今のロティーナはだんだんと俺に惹かれているはずなのだから!

 しかし、大使の反応は俺の予想とは全く違っていた。


「異国の国家機密?なんのことやら……。それにその液体が香水?香水とは香りを楽しむモノですよ。第一王子殿下はそんな悪臭漂うモノの香りをお好みで?さっきからの発言といい、変わったご趣味ですね」

 大使の呆れたような言い方に周りが失笑する。クスクスと笑われ、馬鹿にされた!と思うと、ロティーナへの感情とは別の意味で体が熱くなる。

「なっ……!こ、この香水はなぁ、聖女の侍女が持ち出したんだぞ!俺は知っているんだ、お前がこの香水を使って聖女を操っていることをな!お前は信用していた侍女に裏切られた間抜けのくせに、俺を馬鹿にするなど……!「侍女?」そうだ!あのやたらと胸の大きい、ふしだらではしたない侍女だ!その侍女がお前とロティーナの秘密を知っているんだ!」

 ふはは、バラしてやったぞ!これで反論できまい!さぁ、顔色を変えて狼狽えて、俺に許しを請うのだ!!

 すると大使は、ほんの一瞬息を飲み込みーーーー「ぷっ!あはははは!!」と大笑いしだしたのだ。

「な、なにがおかしい?!」

「……これは失礼しました。あまりに笑いを誘う発言でしたのでつい。ですが、これがもし余興ではないのだとしたら……正気ですか?」

「は?」

「つまり第一王子殿下は、よく知らない使用人の戯言を疑うこと無く信じてこんな事をしたと?しかもオレが聖女様を操っている?そんな臭い液体がなんだというのか……こんな侮辱は初めてだ。聖女が是非とも友好関係を築きたいからとこの国へやってきたが……第一王子殿下はどうしても異国を敵に回したいらしい」

 大使の鋭い眼差しに体の熱が引いてゾクリと悪寒が走る。ざわざわとどよめく周りの人間が、さらに俺から距離を取った。

「ち、違う……こんなはずじゃ……。そうだ、とにかくその侍女をここへ連れて来い!そいつがきっと俺を騙したんだ!俺が自ら真実を吐かせてやる!そうすればすぐに俺が正しいと……!」

「聖女様付きの侍女は元は平民です。平民の彼女は第一王子殿下に言われた通りにしか答えられないでしょう。それがもちろん嘘だろうとね。第三者ではなく自身で尋問をすると言い出すということは、侍女に都合の良い証言をさせるつもりでは?」

「違う……違う違う違う!!俺は真実を……!そ、そうだ!宰相はどこへいった?!助けてくれ、宰相!みんなが誤解を……っ!!」

    宰相の姿を探してキョロキョロと顔を左右に振る。なぜか追い詰められている気がして俺は焦っていた。時折水滴が飛び散るが、涙なのか涎なのかわからない。

    宰相はどこにもいなかった。いつもは呼ばなくてもすぐに来てくれるのに……!



「何が誤解なんだ?」

「父上……っ?!」

    俺の前に現れたのは、宰相ではなく険しい顔をした父上だったのだ。

「そのようなみっともない姿をさらして、お前は何をしているんだ」

    みっともない?俺がみっともないだと?

    助けを求めようかとも一瞬考えたが、父上の見せた蔑む目が嫌悪感と憎悪を倍増させた。なぜ父上が俺をそんな目で見るんだ?そんな目で俺を見ていいのはロティーナだけだ!

「だ、黙れぇぇぇ!」

    俺は父上に掴みかかり、まずは父上をこの場で断罪してやろうと決めた。そうすれば純粋に聖女を愛している俺の方がだとみんなわかるはずだ。それに俺が国王となれば、異国とのいざこざなどどうとでもなる!

「俺より父上の方がよっぽどみっともなくて、気持ち悪いじゃないかぁ!俺は全て知っているんだ!父上が国王の権力を悪用して聖女を無理矢理手に入れようとしていることを!だから俺は聖女を救うためにこうやって……!この、若い女にうつつを抜かすこの変態のエロジジイめ!罰せられるべきはきさまの方だ!妻である母上の事も毒を盛って亡き者にしようとしているにきまっ「誰が誰に毒を盛られたと言うのですか?」だから母上が父上に……は?」

    父上とは違うよく知っている声が耳に届き、首をゆっくりと動かした。まるで錆びた機械のようにうまく動かず冷や汗が溢れ出る。父上が「こんなに馬鹿だったとは……」とため息をついた気がした。

    そこには、父上に毒を盛られて死にかけているはずの母上が立っていたのだ。

「確かに王妃はここしばらく体調を崩して臥せっていた。原因がわからず心配をかけまいと黙っていたのだが、聖女様のおかげで解決したのだ。
    皆のもの、王妃は懐妊していた。年明けには正統な後継者が産まれるぞ!」

    父上の言葉に「おぉーっ」と歓喜の声が上がる。俺から距離を取っていた者たちは流れるように母上の元へと集まっていった。

    母上が懐妊?え?毒は?しかも、正統な後継者だと?え、じゃあ俺は?

「王妃様、お加減はいかがでしょうか?」

「聖女様のおかげでとてもよくなりました。本当にありがとうございます。まさかこのような歳になって懐妊するとは思わず、お恥ずかしい限りですわ」

    母上の隣にはいつの間にかロティーナがいて、母上はとても元気そうだった。

「私の知識など本で得たものばかりですが、お役に立てたのなら光栄です。王妃様のご年齢で懐妊される方は少ないかもしれませんがこれも神からのご啓示ですわ。お大事になさって下さいね」

    え?あれ?母上はパーティーに出れないくらい臥せっていたのではないのか?なぜロティーナのおかげで回復?というか、父上の再婚は?

    訳がわからず頭がパニックになりそうだった。



「アシードよ、この失態をどう納める気だ。このパーティー会場にいるのは全て高位貴族や国の重鎮ばかり。聖女様のご好意で異国との友好が持てるかもと皆がこのパーティーに期待と希望を持って参加していたのだぞ。それなのに第1王子であるお前がこのような有り様では他の者に示しがつかん。……もちろん覚悟あってのことだろうな?」

    父上は俺の手を振り払い、威圧を込めた声を出した。

    失態?覚悟?一体どうなってるんだ?さっきからまるで別次元の話をされている気分だ。なんでこんな事になったんだ?俺はただ、ロティーナと真実の愛を確かめたかっただけなのに……。

「さ、宰相は……そうだ、宰相に聞いてくれればわかるはずだ!俺は悪くな「宰相ならここに」なっ……!」

    その声と共にロープで縛り上げられ巨大な芋虫と化した宰相が目の前に転がされた。

「アシード殿下がご乱心されたのを見てから慌てて城から逃げ出そうとしておりましたので捕獲致しました。どうやら重要書類を持ち出そうとしていた様子です」

「うむ、ご協力感謝する」

    父上に恭しく頭を下げた青髪の男は、確かアミィの護衛にと送り出した騎士だったはずだ。アミィの失踪を報告してきた後に「この役立たずめ」と騎士の称号を剥奪して国外追放してやったはずなのに、なぜこんなところにいるのか。

「いえ、聖女様より注意しておくように言われておりましたので」

「さすがは聖女様の騎士だ」

    おい待て、あれは元々俺の騎士だったはずだ。第1王子の騎士なのだから国王である父上が見繕ったんじゃないのか?わざわざ聞く事はしなかったが、俺に忠誠を誓い俺のために婚約者候補であるアミィを守ると自分から志願してきた男だったんだぞ。

    それが、なんで聖女の騎士になっているんだ?

「……それで、お前が聖女様の前で取り返しのつかない失態を犯した途端に見切りをつけて重要書類と共に逃げようとしたこの宰相だった男に、お前の何を聞けばよいのだ?」

    宰相が俺を裏切った。その事実が受け入れられなかった。

「この男はお前の教育係でもあったが、お前の影に隠れて横領していた事も調査済みだ。ちなみに帳簿には全てお前が散財したと記されていたぞ」

「う、そだ……。だって宰相は、いつも俺の味方で……」

「宰相を庇いたいのならば、国家予算をまるまる食い潰した罪はお前は背負うのだな?まぁ、どのみち半分は本当にお前だからあまり変わらないか」

「俺は第1王子で……だから国の金は俺のものだと宰相が……」

「国の金とは、国民が納めてくれた税金だ。国をより良くするためのものでお前のものではない。確かに教育係は宰相だったが、基本的なことはちゃんと教えてきたはずだぞ。結局お前は、自分に都合の良いことしか聞いていなかったのだな……。今までの婚約者の件といい、今回の聖女様への狼藉といい決して容認されるものではない。兵よ、この犯罪者を地下牢へ!」

    なぜだ?なぜ俺は兵士たちに体を押さえられているんだ?なんとかしようともがくが、より強く押さえられて体中の穴からいろんなものが滲み出た。

    そうだ、俺にはまだ聖女がいる。聖女なら俺を助けられるはずだ!

「ロティーナ……!ロティーナ、俺を助けろ……!そうだ、お前は実は操られてなかったんだろう?!本当は俺が好きだからアミィを始末したんだろう?!結婚してやるから俺をーーーー」

「……ねぇ、第1王子殿下。ひとつだけ言っておきたいことがあるんです」

    首をなんとか伸ばしロティーナを見上げる。氷のように冷たい視線に冷めた熱が再び加熱し、またもや快感が突き抜けた。こんな状況なのに局部が反応してしまった。あぁ、やはりこの目で見られると気持ちいい……。だが、そんな本能を必死に抑えてロティーナの言葉に耳を傾けた。

「な、なんだ?」

    俺を愛していると言いたいんだろう?そう期待していたのに、ロティーナの形の良い唇からは思いもしなかった言葉が紡ぎだされたのだ。




「私、レベッカ様の親友なんです。だから……
レベッカ様に酷いことをしたあなたが死ぬほど嫌いなんですよ」




「……へ?れ、れべ……?」

「聖女の権力を使ってあなたから全てを奪います。あなたがレベッカ様にしたように。ちなみにあなたを助けようとする人にも同じ目に遭わせますから、助けてもらえるなんて思わないでくださいね。ですが……」


    ーーーー命をかけて助けてくれるような人があなたにいるとは思いませんけれどーーーー。


    聖女は今までで1番綺麗な笑顔で、そう言った。


    お願いだ。誰か、嘘だと言ってくれ。

    誰かーーーー。



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