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42 聖女の役割らしいです
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ジルさんが異国の……ラスドレード国の王子ですって?
私が自身の手を見つめながら呆然としているとアニーが何かを言ってきていました。けれど全然耳に届かなくて、アニーが慌てていることだけがわかります。私の顔色が悪いとか……指先が震えているとか……。
私の指先、震えていますか?でも、さっきまでこの手に握っていたはずのジルさんの手はもうここにはありません。あっという間に異国の騎士たちに連れて行かれてしまったのですから。というか、あの人たちってジルさんが連れて来ていた使者の団体さんですよね?王女様への謁見が終わった頃からいつの間にかいなくなっていたと思ったら何故今頃になって……。いえ、今回の状況や態度を見る限り元々がこのような計画だったのでしょう。そう思うととんでもなく演技派な方々だったようです。
それにしても確かに隣国ではなく異国の関係者だろうとは予測していましたよ。ですが、まさか王子だったなんて思いもよらなかったです。なぜ王子という立場にいながら他国のスパイを装うなんて危険な事をしていたのか……。それに“呪われた王子”だなんて。いくら不吉な灰色の瞳をしているからってあんまりだと思いました。
あの時、ジルさんはにっこりと笑顔のまま私に別れを告げ馬車を降りてしまいました。いつものにんまり顔とは違う、まるで全てを諦めたかのような笑顔。そんな顔、あなたらしくないじゃないですか。そしてラスドレード国の騎士だという方が乗り込んできて、事情を説明してくれたのですが……。
私は偽りではなく本物の選ばれた聖女で、“呪われた王子”である彼を滅する存在だと言われてしまったのです。
なんだかそんなことをずっとぐるぐると考えていたらあっという間に異国に到着してしまいました。
***
「聖女様、ようこそラスドレード国へ」
私がラスドレード国へ到着するとすぐさま数人の騎士に囲まれ、国王の所へと連れていかれました。さっきの顔ぶれとは違ったので、やはり彼らはジルさんを捉えるためにあそこにいたのでしょう。そしてアニーは侍女だからと先に連れて行かれてしまいました。さすがに聖女の侍女なので特別待遇してくれるそうですが、一時でもアニーと引き離されるのは少し不安です。
まず、国王と王妃が並んで頭を下げてきました。その隣に王子だろう成人男性がひとり。その後ろには側室らしき女性がふたり並び、さらに王女と思われる3人がにこにこと笑顔を見せながら順番に頭を下げてきたのです。
「聖女様は占星術師の言った通り美しい方ですね。僕の名はアヴァロンと申します。あなたのように美しい方がラスドレード国の聖女になってくださるなんて王太子としてとても嬉しく思います」
「……ロティーナと申します」
王太子だと名乗り出たその人はにこやかに微笑み、私の手をとって手の甲に唇を落としてきました。一瞬悪寒を感じましたがなんとか顔には出さず、ジルさんに叩き込まれた“聖女らしい振る舞い”を徹底します。出来るなら今すぐ手を洗いたいんですけど。
「今日はお疲れでしょうから詳しいお話は明日に致しましょう。聖女様用のお部屋にご案内致します」
そしてアヴァロン王太子にエスコートされ、部屋へと連れていかれました。もちろん私とアヴァロン王太子の周りは騎士たちに囲まれています。護衛なんでしょうけど、どちらかというと私を逃さないために囲っているような雰囲気でしょうか。
そしてそれをひたすらにこにこしながら見つめてくるラスドレード国の王族たちの姿になんだかゾッとしました。
「聖女様はとても奥ゆかしい方なのですね。僕が王太子だと知っても動揺なさらない女性に久々に出会いました」
黙ってエスコートされる私にアヴァロン王太子がにっこりとしたまま話しかけてきました。異国の王族の方々はみんな青みがかった濃い紺色の髪と瞳をされていて、もしジルさんが本当にこの国の王子でこの人たちと家族なのだとしたら確かに異質なのかもしれません。というか、動揺ならしています。ジルさんの教育の賜物のおかげで顔に出ていないだけです。
だって、色はまったく違うけれどなんとなくジルさんに似た顔をしたアヴァロン王太子はもしかしなくてもジルさんの兄弟なのですよね?似た顔なのにこちらの顔にはひたすら嫌悪感しか感じないくらいには動揺しているのですが……つまりこの王太子は色んな女性に嫌悪されているということでしょうか?そして得意気にそれを語ってくるなんてもしかしてあのアールスト国の王子のようにこの人も特殊な趣味があるのかしら。嫌われることに歓びを感じるなんて……やっぱりアニーがこの場にいなくてよかったです。アニーは思ったことをすぐ口に出してしまうから下手に王太子を罵って気に入られてしまったら私の大切な侍女を奪われてしまうところでした。
「……そうでしょうか。不快に思われたなら申し訳ございません」
「あぁ誤解されたのなら謝罪します。責めているのではありませんよ。実は僕は嬉しいのですよ。これまでの女性は僕が王太子だとわかるとやたらすり寄ってきたり、体で籠絡しようとする者が多かったので……そのように嘘でもまるでまったく興味が無いような振る舞いをされるのは初めてなので新鮮だったのです。やはり聖女様はその他の女はとは違いますね」
「……」
その言葉と視線が「本当は興味があるくせに」と訴えているようで気持ち悪かったのですが、またもやジルさん直伝の“聖女らしいスルースマイル”で乗り切りました。あの時はなんでこんなに笑顔の練習をさせるのかと思っていましたが、まさにこの時の為の練習だったのではないかと思うくらい私は聖女の微笑みを浮かべていました。頬が筋肉痛にならないといいのですけれど。
「そうでしょうか」
確かにアヴァロン王太子は美形の類いかもしれないですが、さりげなく私を値踏みする目で見てくるのでどちらかというと嫌いなタイプでしかないです。本人はバレてないと思っているのでしょうけれど、幾度となくそんな視線を感じてきた私は敏感に感じ取ってしまうのです。
「全然違いますよ!なにせ顔や地位に目が眩んだ女性はどうにも醜い。それに比べてあなたはそんなものに惑わされない心の美しい方なのだと感じたのです。なにせ、その辺の令嬢だったらそれこそこの場で僕を誘惑してくるような場面ですからね!ですがあなたはそんな感情は見せずにとても優雅だ」
この人は何を言ってるのでしょうか?こんな護衛たちに囲まれた場面で誘惑してくる令嬢なんているわけ……あ、アミィ嬢だったらやっていたかしら?でもあの方はある意味別格でしたし……それともラスドレード国の貴族令嬢はみんなあんなのなのかしら?あ、もしやそれを罵って欲しいという遠回しの欲求でしょうか?イマイチわからないわ。
「……王太子殿下。ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「なんでしょう?聖女様のご要望であればなんなりとお答え致しましょう。ちなみに僕には婚約者はいません。早く相手を決めろと周りにせっつかれていまして……」
「そんなことはどうでもいいのですが。……ジルさん、いえ、私をここへ連れてきてくれた銀髪の方はどこへいかれたのですか?」
ジルさんの事を口にした瞬間。ピリッ……と空気が張りつめた気がしました。王太子の目つきが鋭くなりましたね。周りの護衛たちの視線も遠慮がなくなってきました。
「……どうでもいい……だと。あ、いえ……あぁ、アレですか。やはりアレが目障りでしたか?申し訳ございません。本当なら拘束して地下牢に幽閉するべきなのですが占星術師が聖女様をラスドレード国へお連れ出来るのはあの出来損ないだけだとおっしゃられてしまい、どうしても仕方なかったのです。ですが聖女様がご不快になられるならやはり僕がお迎えに行くべきだっ……」
「ですから、そんなことはどうでもいいのです。私を彼に会わせて下さい」
ジルさんを蔑むような物言いについイラッとしてしまいアヴァロン王太子の言葉を遮ってしまいました。本当なら不敬だと言われそうですが、こっちだって同等の権力を持つ聖女なんですからいきなり咎められたりはしないでしょう。まさか今更ニセモノだからとかなんて言わないですよね?いえ、私だって本当に本物の聖女なのかどうか自分自身を疑っている最中ではあるのですが、ここまで聖女として向かい入れられたのならそれなりに確信はあると思ったわけです。
「……会いたい?まさか、あの不吉な灰眼と?
聖女様、アレは不吉の象徴で、あなたが滅しなくてはならない存在です。もし変に同情なされているならお止めになった方がいい。アレは産まれたことが間違いだったのですから」
「彼が不吉な灰眼なら、私は母国では不気味な桃毛と呼ばれていましたよ」
私が短くなった自身の髪の毛を摘んで見せると王太子は眉と口の端を歪めました。
「あっはは!おかしなことをおっしゃる。確かに桃毛は不気味と言われていますが、占星術師が“奇跡の桃色の髪”と言ったのです!ですから、もう聖女様のお髪は神聖な物なのですよ?占星術師の言葉がある以上、この国にいる限りなんの心配もありません。さぁ、お部屋につきました。今夜はゆっくりおやすみ下さい……絶対に出てはいけませんよ!」
「えっ?!」
王太子はそう言って不気味な笑顔を浮かべたまま私を部屋に無理矢理に押込み、ガチャリと鍵をかけてしまったのです。
扉ごしに「見張りをつけておけ!」とか「絶対に逃がすなよ!!」などと王太子のいらついた声が聞こえ、足音が遠ざかるのを確認すると一気に体の力が抜けます。はぁ、疲れました。
「お嬢様!」
「アニー!よかった、ちゃんと案内されていたのね」
先に部屋に通されていたアニーと無事に再会できたことに安堵し、部屋の中を見渡しました。かなり広い部屋で、バスルームなど水回りも完備されている様子です。テーブルには飲み水や果物、それに軽食なども準備されていますし、どうやら閉じ込められたようですが不便はなさそうですね。
「アニー、早速で悪いけれどお願いを聞いてくれるかしら?」
「それはもちろん!どうなさいますか?」
まず私がすること。それは決まっています。
「お風呂よ!あの王太子にベタベタ触られて気持ち悪いから今すぐ綺麗にしたいの!さっぱりしたら食事を取りながら今後の作戦会議をするわ!なんとしても、ジルさんに会ってちゃんと話を聞かなくちゃ!」
「お嬢様、なんだか吹っ切れたみたいですね!それでこそお嬢様です!」
確かにジルさんのことはショックでしたが、あの王太子を見ていたらイライラしてきたんですもの。それに、あんな王太子なんかに従って私から離れてしまったジルさんにも。ここまで連れてきたのはジルさんなんですから、ちゃんと責任とってもらうんですからね!
私が自身の手を見つめながら呆然としているとアニーが何かを言ってきていました。けれど全然耳に届かなくて、アニーが慌てていることだけがわかります。私の顔色が悪いとか……指先が震えているとか……。
私の指先、震えていますか?でも、さっきまでこの手に握っていたはずのジルさんの手はもうここにはありません。あっという間に異国の騎士たちに連れて行かれてしまったのですから。というか、あの人たちってジルさんが連れて来ていた使者の団体さんですよね?王女様への謁見が終わった頃からいつの間にかいなくなっていたと思ったら何故今頃になって……。いえ、今回の状況や態度を見る限り元々がこのような計画だったのでしょう。そう思うととんでもなく演技派な方々だったようです。
それにしても確かに隣国ではなく異国の関係者だろうとは予測していましたよ。ですが、まさか王子だったなんて思いもよらなかったです。なぜ王子という立場にいながら他国のスパイを装うなんて危険な事をしていたのか……。それに“呪われた王子”だなんて。いくら不吉な灰色の瞳をしているからってあんまりだと思いました。
あの時、ジルさんはにっこりと笑顔のまま私に別れを告げ馬車を降りてしまいました。いつものにんまり顔とは違う、まるで全てを諦めたかのような笑顔。そんな顔、あなたらしくないじゃないですか。そしてラスドレード国の騎士だという方が乗り込んできて、事情を説明してくれたのですが……。
私は偽りではなく本物の選ばれた聖女で、“呪われた王子”である彼を滅する存在だと言われてしまったのです。
なんだかそんなことをずっとぐるぐると考えていたらあっという間に異国に到着してしまいました。
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「聖女様、ようこそラスドレード国へ」
私がラスドレード国へ到着するとすぐさま数人の騎士に囲まれ、国王の所へと連れていかれました。さっきの顔ぶれとは違ったので、やはり彼らはジルさんを捉えるためにあそこにいたのでしょう。そしてアニーは侍女だからと先に連れて行かれてしまいました。さすがに聖女の侍女なので特別待遇してくれるそうですが、一時でもアニーと引き離されるのは少し不安です。
まず、国王と王妃が並んで頭を下げてきました。その隣に王子だろう成人男性がひとり。その後ろには側室らしき女性がふたり並び、さらに王女と思われる3人がにこにこと笑顔を見せながら順番に頭を下げてきたのです。
「聖女様は占星術師の言った通り美しい方ですね。僕の名はアヴァロンと申します。あなたのように美しい方がラスドレード国の聖女になってくださるなんて王太子としてとても嬉しく思います」
「……ロティーナと申します」
王太子だと名乗り出たその人はにこやかに微笑み、私の手をとって手の甲に唇を落としてきました。一瞬悪寒を感じましたがなんとか顔には出さず、ジルさんに叩き込まれた“聖女らしい振る舞い”を徹底します。出来るなら今すぐ手を洗いたいんですけど。
「今日はお疲れでしょうから詳しいお話は明日に致しましょう。聖女様用のお部屋にご案内致します」
そしてアヴァロン王太子にエスコートされ、部屋へと連れていかれました。もちろん私とアヴァロン王太子の周りは騎士たちに囲まれています。護衛なんでしょうけど、どちらかというと私を逃さないために囲っているような雰囲気でしょうか。
そしてそれをひたすらにこにこしながら見つめてくるラスドレード国の王族たちの姿になんだかゾッとしました。
「聖女様はとても奥ゆかしい方なのですね。僕が王太子だと知っても動揺なさらない女性に久々に出会いました」
黙ってエスコートされる私にアヴァロン王太子がにっこりとしたまま話しかけてきました。異国の王族の方々はみんな青みがかった濃い紺色の髪と瞳をされていて、もしジルさんが本当にこの国の王子でこの人たちと家族なのだとしたら確かに異質なのかもしれません。というか、動揺ならしています。ジルさんの教育の賜物のおかげで顔に出ていないだけです。
だって、色はまったく違うけれどなんとなくジルさんに似た顔をしたアヴァロン王太子はもしかしなくてもジルさんの兄弟なのですよね?似た顔なのにこちらの顔にはひたすら嫌悪感しか感じないくらいには動揺しているのですが……つまりこの王太子は色んな女性に嫌悪されているということでしょうか?そして得意気にそれを語ってくるなんてもしかしてあのアールスト国の王子のようにこの人も特殊な趣味があるのかしら。嫌われることに歓びを感じるなんて……やっぱりアニーがこの場にいなくてよかったです。アニーは思ったことをすぐ口に出してしまうから下手に王太子を罵って気に入られてしまったら私の大切な侍女を奪われてしまうところでした。
「……そうでしょうか。不快に思われたなら申し訳ございません」
「あぁ誤解されたのなら謝罪します。責めているのではありませんよ。実は僕は嬉しいのですよ。これまでの女性は僕が王太子だとわかるとやたらすり寄ってきたり、体で籠絡しようとする者が多かったので……そのように嘘でもまるでまったく興味が無いような振る舞いをされるのは初めてなので新鮮だったのです。やはり聖女様はその他の女はとは違いますね」
「……」
その言葉と視線が「本当は興味があるくせに」と訴えているようで気持ち悪かったのですが、またもやジルさん直伝の“聖女らしいスルースマイル”で乗り切りました。あの時はなんでこんなに笑顔の練習をさせるのかと思っていましたが、まさにこの時の為の練習だったのではないかと思うくらい私は聖女の微笑みを浮かべていました。頬が筋肉痛にならないといいのですけれど。
「そうでしょうか」
確かにアヴァロン王太子は美形の類いかもしれないですが、さりげなく私を値踏みする目で見てくるのでどちらかというと嫌いなタイプでしかないです。本人はバレてないと思っているのでしょうけれど、幾度となくそんな視線を感じてきた私は敏感に感じ取ってしまうのです。
「全然違いますよ!なにせ顔や地位に目が眩んだ女性はどうにも醜い。それに比べてあなたはそんなものに惑わされない心の美しい方なのだと感じたのです。なにせ、その辺の令嬢だったらそれこそこの場で僕を誘惑してくるような場面ですからね!ですがあなたはそんな感情は見せずにとても優雅だ」
この人は何を言ってるのでしょうか?こんな護衛たちに囲まれた場面で誘惑してくる令嬢なんているわけ……あ、アミィ嬢だったらやっていたかしら?でもあの方はある意味別格でしたし……それともラスドレード国の貴族令嬢はみんなあんなのなのかしら?あ、もしやそれを罵って欲しいという遠回しの欲求でしょうか?イマイチわからないわ。
「……王太子殿下。ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「なんでしょう?聖女様のご要望であればなんなりとお答え致しましょう。ちなみに僕には婚約者はいません。早く相手を決めろと周りにせっつかれていまして……」
「そんなことはどうでもいいのですが。……ジルさん、いえ、私をここへ連れてきてくれた銀髪の方はどこへいかれたのですか?」
ジルさんの事を口にした瞬間。ピリッ……と空気が張りつめた気がしました。王太子の目つきが鋭くなりましたね。周りの護衛たちの視線も遠慮がなくなってきました。
「……どうでもいい……だと。あ、いえ……あぁ、アレですか。やはりアレが目障りでしたか?申し訳ございません。本当なら拘束して地下牢に幽閉するべきなのですが占星術師が聖女様をラスドレード国へお連れ出来るのはあの出来損ないだけだとおっしゃられてしまい、どうしても仕方なかったのです。ですが聖女様がご不快になられるならやはり僕がお迎えに行くべきだっ……」
「ですから、そんなことはどうでもいいのです。私を彼に会わせて下さい」
ジルさんを蔑むような物言いについイラッとしてしまいアヴァロン王太子の言葉を遮ってしまいました。本当なら不敬だと言われそうですが、こっちだって同等の権力を持つ聖女なんですからいきなり咎められたりはしないでしょう。まさか今更ニセモノだからとかなんて言わないですよね?いえ、私だって本当に本物の聖女なのかどうか自分自身を疑っている最中ではあるのですが、ここまで聖女として向かい入れられたのならそれなりに確信はあると思ったわけです。
「……会いたい?まさか、あの不吉な灰眼と?
聖女様、アレは不吉の象徴で、あなたが滅しなくてはならない存在です。もし変に同情なされているならお止めになった方がいい。アレは産まれたことが間違いだったのですから」
「彼が不吉な灰眼なら、私は母国では不気味な桃毛と呼ばれていましたよ」
私が短くなった自身の髪の毛を摘んで見せると王太子は眉と口の端を歪めました。
「あっはは!おかしなことをおっしゃる。確かに桃毛は不気味と言われていますが、占星術師が“奇跡の桃色の髪”と言ったのです!ですから、もう聖女様のお髪は神聖な物なのですよ?占星術師の言葉がある以上、この国にいる限りなんの心配もありません。さぁ、お部屋につきました。今夜はゆっくりおやすみ下さい……絶対に出てはいけませんよ!」
「えっ?!」
王太子はそう言って不気味な笑顔を浮かべたまま私を部屋に無理矢理に押込み、ガチャリと鍵をかけてしまったのです。
扉ごしに「見張りをつけておけ!」とか「絶対に逃がすなよ!!」などと王太子のいらついた声が聞こえ、足音が遠ざかるのを確認すると一気に体の力が抜けます。はぁ、疲れました。
「お嬢様!」
「アニー!よかった、ちゃんと案内されていたのね」
先に部屋に通されていたアニーと無事に再会できたことに安堵し、部屋の中を見渡しました。かなり広い部屋で、バスルームなど水回りも完備されている様子です。テーブルには飲み水や果物、それに軽食なども準備されていますし、どうやら閉じ込められたようですが不便はなさそうですね。
「アニー、早速で悪いけれどお願いを聞いてくれるかしら?」
「それはもちろん!どうなさいますか?」
まず私がすること。それは決まっています。
「お風呂よ!あの王太子にベタベタ触られて気持ち悪いから今すぐ綺麗にしたいの!さっぱりしたら食事を取りながら今後の作戦会議をするわ!なんとしても、ジルさんに会ってちゃんと話を聞かなくちゃ!」
「お嬢様、なんだか吹っ切れたみたいですね!それでこそお嬢様です!」
確かにジルさんのことはショックでしたが、あの王太子を見ていたらイライラしてきたんですもの。それに、あんな王太子なんかに従って私から離れてしまったジルさんにも。ここまで連れてきたのはジルさんなんですから、ちゃんと責任とってもらうんですからね!
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