【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました

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57 祈らずにはいられないのです

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「ジルさんは大丈夫でしょうか……」

「ロティーナ様……。大丈夫ですよ、今は彼を信じましょう」

    ジルさんとターイズさんが行ってしまってから、私はずっと落ち着けずにいました。「国王との決戦の前にやり残した事があるから」と言っていましたが、やはり心配です。

「あのおふたりならきっとやり遂げてくれますわ。まずは国王を城の外に連れ出してもらわなければなりません。そして国民の前でその罪を暴露するのです。今は合図を待ちましょう」

「はい……」

    レベッカ様の作戦は至極シンプルなものでした。ですが、シンプルだからこそ今のラスドレード国には効果があるのだとか。

    今のラスドレード国は王太子のせいで聖女が行方不明になった事に酷く動揺しています。その作戦とは立場の弱くなった国王を国民の前に引っ張り出し、そこに私が姿を現して“呪われた王子”のおかげで助けられた事を告げるというものでした。

    きっと国民たちは聖女の登場に注目するでしょう。そこで私がジルさんに祝福をして「もう呪いは消えた」と宣言するのです。すかさずレベッカ様が新たな占星術師の言葉を発表してしまえば、国民は必ず不安から解放されることを望んで賛同するはずだと。

    そうすればさすがの国王も諦めてもうジルさんを殺そうとはしないはずです。素直に王位を渡すかそれとも抵抗するかはわかりませんが、ジルさんがラスドレード国を乗っ取ると決めたからにはもしも抵抗されれば覚悟がいるでしょうけれど。


「……戦争になるのでしょうか」

「そうですね……。でも、密かにジーンルディ王子を支持する声も少なくはありません。唯一の不穏である呪いが消え、聖女の祝福があるとなれば流れはこちらに向くはずです」

「お嬢様、レベッカ様!気持ちの落ち着くハーブティーを淹れましたよ!ジルさんはしぶとい方なんで絶対に無事に決まってます!」

 私とレベッカ様の前に温かい紅茶が差し出されました。わざとらしいくらいに元気に振る舞うアニーの姿に少しだけ心が軽くなりました。

「そうね、ジルさんはしぶとそうよね」

「それに、これだけお嬢様を振り回したんだからちゃんと責任を取ってもらわないといけませんからね!お嬢様を悲しませるようなことをしたらこのアニーが許しません!」

「ふふふ、ロティーナ様の侍女は頼もしいですわね。わたくしも公爵家にいた頃は侍女たちとーーーーあ」

 昔を思い出したのかレベッカ様の表情が曇りました。あの断罪の時、レベッカ様の味方をした侍女や使用人はアミィ嬢が全て解雇してしまったのです。今の公爵家は落ち着きを取り戻したもののレベッカ様の冤罪が晴れたわけではなくレベッカ様を失った悲しみを受け入れきれずにいて使用人たちも戻っていないとおばさまたちからは聞いていました。

「レベッカ様……」

「……お気になさらないで、ロティーナ様。どのみちわたくしは公爵家には戻りません。本当ならばとっくに死んでいるはずでしたし、今はこの国の占星術師を受け継いだ身ですもの。それに、ロティーナ様が仇をとって下さいましたしね」

 レベッカ様には私がエドガーと婚約破棄したこと、アミィ嬢やアールスト国の王子がどうなったかを告げました。特にアミィ嬢の処遇についてはジルさんにまかせてしまったこともあり私も詳しくはわかりませんでしたからレベッカ様からしたら複雑かもしれません。

「アミィ嬢は公爵家と縁を切りそのまま行方不明とは……でも、じゅうぶんです。別にあの方の命を奪いたかったわけではありませんし、元婚約者のことも愛していたわけではありませんから」

「私の元婚約者も同じような感じです。ジルさんからは命は無事だけれどこれまでの生活とは一変するような苦労をしているはずだと……でも心を入れ替えればきっとささやかな幸せを掴める環境だとも。もう誰かを陥れようなんて考えずにどこかでひっそり生きていてくれればいいと思いますわ……ただ、二度と会いたくはないですけど」

 ついでに私はあの元王子のことはものすごく嫌いでしたので「とっても気持ち悪くなっていて、よくわかりませんが変態の専用になりました。いい気味です!」と告げておきました。

「気持ち悪い専用の変態……?まぁ、あの方は本当に人の話を聞かない愚かな人でしたので命があるだけ幸運だと思って反省してくださればいいですわ。でも散々わたくしを罵倒してましたから確かにいい気味ですわね」

「このアニーが罠を仕掛けましたよ!罠とは知らずに香水をバッシャーっとかけた時は驚きました!」

 アニーが手振り身振りで再現しているのを見て、レベッカ様が頬を緩めます。私も少しは気が紛れました。今となっては、もう復讐を終えた人たちに興味はありません。自分の過去を反省して私たちの眼の前にさえ現れなければいいのですから。

 そして、どんなに気を紛らわせても私の思考はすぐに同じことを考えてしまいます。




「…………ジルさん」

 私はきつく手を握りしめて祈りました。

    どうかジルさんが呪いから解放され、ルーナ様と一緒に穏やかな生活を送れるようになりますようにと。
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