【完結】ヒロインはラスボスがお好き

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初デートとファーストキス?

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    夕焼けで海がオレンジ色に染まっている。その砂浜をふたつの影が寄り添って歩いていた。

 私はセバスチャンと腕を絡め、ゆっくりと砂に足跡を残す。
 このプライベートビーチはかなり広い上に、ルーちゃん専用らしいのでほかに人は誰もいない。
 ルーちゃんも「別荘で待ってますから、ご自分の想いをぶつけてきてください」と応援してくれた。

 あぁ、でも念願の初デート。こうやってふたりきりで腕を組んで歩くなんて夢のようだ。

「……歩いているだけなのに、ずいぶん楽しそうですね?」

 私の口元がニマニマしてたせいか、セバスチャンが呆れたように聞いてくる。

「だってうれしいの!私、初デートは吸血鬼様とって決めてたのよ」

「私は、デートとはなにをするものかよくわかりません」

「なんでもいいのよ。デートしてるって思えばデートなの」

「……人間は難しいですね」

「こうゆうのは乙女心っていうのよ」

 セバスチャンはなんだか難しそうな顔をした。

「私の初恋は吸血鬼様なんだから」

「……初耳です」

「あら、ずっと言ってるじゃない!剥製にしたいと思ったのも、ペットにしたいと思ったのも、結婚したいと思ったのも吸血鬼様だけよ?
 だから初デートの夢も叶ったわ」

 私がセバスチャンの腕から手を離し、くるりと弧を描く。

「私が初めて愛したのは吸血鬼様。そして死ぬまで愛するのも吸血鬼様。……だから、私のすべての初めては吸血鬼様って決めてるの」

「……」

 セバスチャンは足を止め、黙ったまま私を見た。

「……ひとつ、聞いてもいい?」

「…………なんでしょう」

「今日の私は、ちょっとは可愛い?」

 私が首を傾げて聞くと、セバスチャンは何も言わず、私に近づきそっと肩を抱き締めてくる。

「……!」

「……肌を露出しすぎです」

「今は、セバスチャンしかいないよ……」

 私はセバスチャンの胸に頬を擦り寄せ、そのひんやりした体温を感じた。

「あなたは不思議な人間だ。私もあなたに出会ってから初めての感情ばかりでした。イライラして、モヤモヤして、ムカつくことばかりです」

 それって、いいことなの?セバスチャンがモヤモヤしてたなんてそれこそ初耳だ。

「私は……いえ、――――俺様は』

 声の変化にセバスチャンを見上げると、いつもの黒曜石のような瞳が紅く変化しその唇の端から牙が覗いていた。

「……吸血鬼様」

『……こんな色々な感情を初めて知った気がする。ならば、アイリも俺様の初めての相手だな』

 吸血鬼様の指先が私の頬に触れる。

「吸血鬼様、私……」

『いつも、ペットだ結婚だと言っているが、その意味が本当にわかっているのか?俺様は人間じゃない。永遠に一緒にいるなど無理なことだ。
 俺様はお前を吸血鬼の仲間にするつもりは無いし、糧を得るための獲物にするつもりもない』

「……私の真の願いが叶うのなら、そんなこと些細なことです」

 吸血鬼様の紅い瞳。それはいつも私を虜にする。この瞳が曇ることなく輝き続けるなら、私は……。

『お前の真の願いとはなんだ?』

「あら、それは内緒です。乙女って、いろんな秘密を持ってる方が魅力的でしょ?」

『それは、この契約の1年で叶えられるのか?』

「……叶えて見せます」

 私は再び吸血鬼様の胸に顔を埋め、小さく深呼吸をする。今日のデートの1番の目的を果たすために!

「あ、あの……吸血鬼様に聞きたいことが」

『……なんだ』

「あの海で、人魚に……その、か、かみちゅかれっ」

 舌がもつれて変な発音が出てしまった。

「……そ、そのときの、あれが、そのっ……」

 ダメだ。聞きたかったことがまったく伝えられない。恥ずかしくなってきて顔が熱いし、たぶん真っ赤になってるだろう。

「あ、あの……っ」

『――――あのときの』

 吸血鬼様の手が私の頬に添えられ、上を向かされた。

『魚類に噛まれた傷は全部治ったな?』

「……はい」

『ここも』

 私の唇の上に吸血鬼様の指先が滑る。

「!吸血鬼様、私、私……。やっぱり初めてのキスは吸血鬼様がいいです……!
 あのときしてくれたのは、キ、キスに入りますか……?!」

『……あれは、魚類に噛まれた傷を治しただけだ。それに、俺様はまだお前のペットにも夫にもなるつもりはないぞ?』

「……それでも、初めてはあなたがいい」

 夕焼けが沈み出し、暗い闇が舞い降りる。吸血鬼様の顔が少しづつ近づいて、私は目を閉じようとした……。




ザバァ――――ン!!!


 唇が届くまであと1ミリ。吸血鬼様の吐息を間近に感じ、もうほぼ届いたかどうかという瀬戸際。

「「おのれ、執事!アイリから離れろ――――!」」

 夜の海から現れたのは、ボロボロの服で海藻を頭から被ったびしょ濡れの双子王子だった。

『…………」

 吸血鬼様は私から顔を離し、手のひらで自分の顔を覆うと瞬時に目の色を変え牙を消す。そして私の背中に手を添え、くるりと方向転換させた。

「アイリ様、夜風は体が冷えてしまいます。帰りましょう」

「う、……うん」

「「無視するな――――!」」




 私のファーストキスのやり直しは、お預けのようである……。







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