【完結】ヒロインはラスボスがお好き

As-me.com

文字の大きさ
56 / 58

セバスチャンはどうにも人狼が嫌いらしい

しおりを挟む
    季節はすっかり秋になってしまった。あれから何度かルーちゃんと連絡をとりたい!とニコラスにお願いしてるのだが「まだダメ。もうちょっと待ってて」と断られてしまっていた。

「おのれ、ニコラスめ……」

 私は自室でセバスチャンの作ったおやつのケーキにフォークをぶっ刺しながら憎々しげに呟いていた。ニコラスはヘラヘラしてるわりにはルーちゃんの事に関してだけは頑なに断るのだ。ちょっとくらい融通してくれてもいいのに!と、ついふてくされてしまいそうになる。

「アイリ様は最近あの犬の事ばかりですね」

「え?」

 耳元で声が聞こえて思わず振り向くと、いつの間にかセバスチャンの顔が近距離にあり黒曜石の瞳に私の顔がうつって見えた。

「そんなにお気に召しましたか?」

 セバスチャンが私の頬をそっとなでるとその指先が唇に触れる。ひんやり冷たい指先の感触にドキッと胸が鳴った。

「え、あの、だってルーちゃんを助けてもらったし!それに縦ドリルのいじめもなくなったし。そりゃ婚約は嫌だけど、そんなに悪い人じゃないかなって。だから、友達くらいには思ってる……けど……」

 いつもの無表情なのに、セバスチャンが悲しそうな顔をしているように見えたせいか言葉の後が続かない。

「そうですね、人狼ワーウルフとはいえやはり人間。そして権力を持つ異国の王子……。私には出来なかったことを簡単にやってのけました。
 私にはルチア様を救うこともあのいじめを止めることもできなかった」

「それは……セバスチャンのせいじゃないよ」

 ルーちゃんを助けられなかったのはゲームの進行状況が把握出来なかった私の責任だと思っているし、あのいじめも確かに煩わしかったけどセバスチャンが一緒にいてくれたからそこまで辛くはなかった。それに執事という立場のセバスチャンにどうにか出来る問題でもない気がする。なによりもセバスチャンはラスボスなのだから、ヒロインのいじめ問題に関わることすら無かったのだ。でもセバスチャンの唇から紡がれたのは私にとって残酷な言葉だった。

「私をペットにするより、あの犬とご結婚された方がアイリ様は幸せになれるかもしれませんね……」

 そう呟き、私から指先を離す。

「セバスチャン、なんで……」

 そんなこと言うの?と聞けなかった。
 セバスチャンは1年間の契約で執事をしているだけだし、もうその期間も半分過ぎてしまっている。もしかしたら今の言葉はもう私と一緒にいるつもりは無いって意味なんだろうか。と思ってしまったのだ。
 そんな不安に襲われた時、背後から2本の腕が伸びてきて私をぎゅうっと抱き締める。

「そんな顔して、どうしたの?リリー」

 私の肩の上に顎をのせ、ニコラスがいつものいじわるそうな笑みを向けてきた。

「……ここは女子寮なのになんで入ってこれるのよ?部屋にも鍵をかけといたはずなのに」

 私は手のひらでニコラスの顔を力いっぱい押し退けるが、びくとも動かない。

「リリーの婚約者なんだから顔パスで入れたよ?鍵もほら、合鍵もらいってぇぇ?!」

『ぎゅい!』

 勢いよく離れたニコラスの耳にはバレッタがぶら下がっている。すっかり元通りになったナイトはどうにもニコラスが気に入らないらしく(他の人がいなければ)隙あらば噛みつくようになってしまった。

「なるほど、合鍵を勝手に入手していましたか……。女子寮にも出入り自由とは……」

 セバスチャンが地を這うような低い声でニコラスの腕を掴むと、ピチャンと水音がして青い熱帯魚が金魚鉢から飛び出した。熱帯魚はあっという間に人魚の姿になるとニコラスの足をがっちりと掴んでいる。

「……それって、アイリが寝てるときでもいつでも忍び込んでくるってことよねぇ」

 人魚はいつものきれいな顔じゃなくてあの魔物の顔だった。

「に、人魚?!ちょっ、リリー?!人魚まで飼ってるなんて聞いてな……!」

「あたし、人狼ワーウルフって獣臭いから嫌いなのよぉ!」

 人魚が鋭い爪でニコラスを抱き締めると、セバスチャンが無言で金魚鉢の中の水をニコラスと人魚に頭からかけた。

「うわっ、この陰険しつ……!」

 ニコラスは最後まで言い終わることなく人魚と共に水の中に沈んで消えてしまった。床には小さな水溜まりが残ったがそれすらもセバスチャンがささっと掃除してしまうとニコラスがいた痕跡は欠片も残らなかった。

「な、なにごとなの……?」

「少々ムカついたので魚類の海に落としました。人魚と一緒なら水さえあればいつでも行けるそうでしたので。心配しなくてもちょっといたぶ……遊んだら帰ってくると言っていました。魚類だけですが」

「えーと、それは……」

 ニコラスを海のゴミ捨て場に置き去りにしてくる。と言うことでは?

「きゅーいっ」

 いつの間にかバレッタからコウモリに戻っていたナイトがパタパタと窓から外に飛んでいった。

「ナイトはどこに行くの?」

「少々散歩に行くようです。すぐに戻りますよ。……アイリ様」

「ん?なに、せば……!?」

 ふわりとセバスチャンの腕の中に包み込まれ、一瞬何が起こったのか理解できずに言葉を失ってしまう。

「やはり先程の発言は撤回します」

 撤回?なにを??

 撤回されるような言われた事を考えようとするが、セバスチャンのひんやりした胸に顔を押し付けられ抱き締められていると思うと考えがまとまらない。

「どうしてもあの犬がアイリ様に触れる度に、イライラしてムカついて、モヤモヤします。きっと、これは私が」

 ニコラスが私に触るとモヤモヤするってこと?

「私が、人狼ワーウルフという種族が大嫌いで見てると滅ぼしたくなると言うことだと思うんです」

 ……ん?どーゆーこと?

「ほ、滅ぼしたらダメなんじゃない?」

「そうですね、だからこれ以上むやみに増えないようにするしかありません」

 そういいながらセバスチャンは私を抱き締める腕に力を込めた。

「アイリ様が子犬を増やすというのは、とりあえず阻止します」

 私はよくわからなくて首を捻る。

「?セバスチャン?なんかよくわからないんだけど……」

 私が頭を悩ませているとセバスチャンは私を放し、手を取りその指先に自分の唇を押し付けた。ちゅっ。と小さく音が鳴る。

「……早く私をその気にさせてみなさい。ということです」

 いつもの執事スマイルとは違う優しい微笑みに、指先に残る熱い感触。私は久々のセバスチャンのお色気オーラに真っ赤になってしまいヘニャヘニャと腰が砕けた。

「が、がんばりまふ……」

 なんか、やっぱりよくわからないけど、とりあえずセバスチャンはまだ私の執事をやめる気はないと言うことでいいのだろうか?と再び頭を悩ませるのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

処理中です...