幻想世界のセラピスト ~言の音の呪いと聖賢の乙女~

鈴片ひかり

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サマリー7 ケース会議

姫無双

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 特級治療師イルミスは自身の功績をひけらかすことに終始した。だから自分の治療呪文が最高なのだと。

宮廷魔導師フォーベルも自身の功績といかに王から信頼されているかを主張し、宮廷治療師のモダールは自分こそが治癒呪文のエキスパートであるという弟子たちの証言を読み上げている。

最後に残った魔導学院教授のトランバルスは、自分が長年にわたり言の音の呪いと戦ってきた第一人者であると声高に叫ぶばかり。

 フィーネは光平の手を握りながらぐっと怒りに耐えていた。恐らく聞いているレシュティア姫やヴァキュラも同様であろう。
そしてついに光平の番になった。
下賤な民はさっさと帰れなどとヤジが飛んだが、光平は怯むことなく毅然と立ち上がった。


”光平”
まず、レインド殿下に起きている症状ですが、鼓膜過形成による外耳道閉鎖。それに伴い生じた伝音性難聴による聴覚フィードバック阻害が生じ、発語発音と魔法詠唱に障害が出ていると思われます。

所見ですが、口腔機能や中枢系の症状は出ておらず、器質(きしつ)的に外耳道閉鎖が顕著に表れています。先天性ではなく後天的な外耳道閉鎖が外傷などによらずして起こりうることは極めて稀であり、考えうる耳鼻科系の疾患では説明がつきませんでした。

そこで魔法・精霊感知能力に優れるフィーネさんから補足説明をお願いしたいと思います。


”フィーネ”
言の音の呪い時に発生する特殊なオルナ放出は、主に黒い波動として魔法受容体に作用し感じることが可能です。今まで10ケースほど解呪時に生じる黒霧放出現象に立ち会っていますが、すべてのケースにおいて黒い波動の放出が確認できました。

 今回レインド殿下の外耳道と鼓膜を魔法感知呪文と呪い探知の呪文を同時展開で観察したところ、黒い波動の兆候が確認できました。
光平先生の見立て通り、鼓膜に言の音の呪いの核が存在するものと推測します。

さらに、治癒呪文が過度に行使された結果、鼓膜内の呪いが反発を起こし皮膚成分が過形成を起こし外耳道閉鎖という反作用を生じさせてしまったものと考えられます。
以上”


 会議室に沈黙が訪れていた。光平たち以外は発言もせず下を向き、隣の連中とあれこれぶつぶつと囁いている。

「光平殿、フィーネ殿の意見誠に見事でした。他の方々の所見はどうなのだ? 申してみよ」

沈黙が続くばかりで誰も発言しようとしない。

「何も言えぬか? そうであろう! 貴様らは己の功績や評判を喧伝するばかりで愛しきレインドの状態を語る者など一人もいなかった! 功績を主張すれば人が救えるのか? 光平殿は最初から最後まで我が弟の解呪を果たそうと向き合ってくれていた。恥を知れ外道共!」

姫の一喝で会議室が震えた。

「お言葉ですが姫! 外道とはあまりに無礼な発言ではないですか? 我等はこの国の魔導の頂点でありますぞ?」
フォーベルの発言に姫は冷静に問い返す。

「無礼であったか? ならば覆すような所見や治療方針を示してみよ」

「そ、それは古より伝わるエルネバーグ式解呪の呪文を……」

「お主はそれを一度ではなく何度もレインドに試していたな?」

「そ、それは、その…‥‥」

「まさか、お主ら改善策や治療方針も決めず、光平殿を邪魔するためだけに集まったわけではあるまいな?」

「「「ぬぐっ!? ぐぬぬぬぬ!」」

「会議ではなく、俺様スゲー自慢話大会であったの。すまなかった光平殿、レインドのことよろしくお願いします」

「かしこまりました。フィーネさん、いこう」

「はい!」


 会議室を出たところでヴァキュラが姫に抱きついていた。

「姫様ぁ もう超絶にかっこよかったです! 一生お守りいたします!」

「もうヴァキュラったら」

「光平殿とフィーネ殿も、素敵すぎてもう次にお守りします!」

「あははありがとね、じゃあレインド殿下の元へ急ごうね」


 4人だけが部屋に戻ってくると、うれしかったのかレインドが姉に抱きついてきた。
光平が手を上げるとハイタッチ。フィーネともハイタッチ。寂しそうなヴァキュラもハイタッチで場が和みメイドたちにもやっと笑みが戻ってきた。

 しかし光平は解呪方法についてレシュティア姫に説明しなくてはいけなかった。

フィーネがレインド王子と遊んでいる間、光平の口から語られた治療計画。

当然の予測としてそんな危険なことはさせられないと、反対されるのを覚悟していたのだが……

「全て光平殿とフィーネ殿に一任いたします。これしか道はありませんよろしくお願いします」

姫が頭を下げるという事態にメイドたちもそれに続き、ヴァキュラさんが扉の外へと出て行きメイドに施錠するよう言い聞かせた。一人でここを死守するつもりなのだろうか、なんて覚悟だろう。

 光平はレインドの耳裏にある乳様突起という部分に小さなコインと、それに接続できるよう加工した小さめの非魔法型の拡声器を使い話始めた。

「あっ!」とレインドが声を発し奇妙な方向から音が聞こえることに驚きを隠せない。

フィーネが正面で手を握り、後ろから光平が話しかける。

「これから言の音の呪いを解くための治療を始めるからね、お姉ちゃんも一緒だから心配しなくていいよ」

「うん」

久方ぶりに発せられたレインドの声にレシュティア姫が既に泣き出している。

「じゃあベッドの上に移ろうか。大丈夫、寝ている間に終っちゃうしみんなついてるからね」

「うん、ありがと」

レインドは微笑んだように思う。正面にいるフィーネがやわらかい笑みを浮かべたからだ。

「光平殿、今いったい何をしたらレインドは言葉を話せたのだ?」

「骨伝導で声を届けたんです。これで伝わったということは私たちの仮説が正しかったという証明にもなりました」

「こつでん?」

「後で詳しく説明しますが、外耳道を通さずに音を伝える方法になります。ではフィーネさん」

「はい」

 フィーネが選んだのは麻酔呪文ではなく、子供が風邪になったときなどによく眠れるようにかける安眠かつ深い眠りに誘う呪文だった。
これであれば非常時の対応もしやすく、安全で多少の刺激にも起きることがない。

レシュティア姫に承諾と一任の書状を書いてもらい、フィーネの眠りの呪文がベッドできょろきょろしながら光平の手を握るレインドにかけられた。

すっと一瞬で眠りに落ちるレインド。ゆっくりと身体を横向きにしてからクッションと枕を使って体勢を固定維持させる。
仲の良かったPT(理学療法士)から、脳性麻痺児の身体固定用のクッション設置などのノウハウを教わっておいてよかったと、過去の思い出が通りすぎた。
光平とフィーネはベリダが加工してくれた額帯鏡(がくたいきょう)を装着し、レインドの外耳道を観察する。

やはり入り口から1cm程度のところまで外耳道閉鎖が迫っていた。


 
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