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四章 背徳のクルセイダー
劇的な変化は激情とともに
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マイヤは薄暗い小屋の中を見回した。
踏み固められ、ならされたむき出しの地面と、屋根には黒いプラスチックの板ーー先ほど自身が倒れて崩した板と同じものーー、壁は葦で編まれたむしろが使われていた。
外気の悪臭は凄まじく、圧倒的ですらあったが、不思議なことに小屋内は不可視のバリアでも張られているのかと思うほど、不快な臭いはしなかった。
シェルクロスの自宅を訪ねたことは一度もなかった。
木のフックに掛けられた聖十字騎士団の正装と日常着である僧衣があった。
粗末なベッドらしき台の横に、八端十字架の鞘に収められた広刃の剣が立て掛けてある。
これといって見るべきものもなく、生活臭も生活感もなかった。
机はあるが、椅子はなく、マイヤは両手に鞄を抱いてしばらく立ちすくんだ。
ロープに吊り下げられた薄いベニヤ板のドアが開く音がした。
マイヤは身を強ばらせ、わずかに後退りするとドアをくぐる黒い影を凝視した。
小屋に戻ったシェルクロスは天井から吊るされた埃まみれの燭台に灯を入れると、小さな洗面台の蛇口を捻って水を出した。
マイヤは、血で汚れた腕を肘から指先まで丁寧に洗うシェルクロスを無言で見つめた。
彼は水を止めると、タオルで腕を拭きながらマイヤの横を通ると、低い台の上に腰を下ろした。
「マイヤ、ここは君のような女性が来る場所じゃないよ」
その聞き心地のよい低音の声は穏やかで優しかったが、弱々しい燭台の灯に照らされたシェルクロスの顔には、憤りと憂いと煩わしさがない交ぜになった感情が浮かび、マイヤを見つめる琥珀色の瞳は、どこまでも冷たかった。
路地で、長身の黒い影を見たときは危機的状況ながら心が踊った。
マイヤ自身、決してファンタジーなストーリーを思い浮かべてたわけではない。
彼に会いに来た事は確かだが、初めてスラムに来たことに何も特別なことはなく、劇的な邂逅を期待していたわけでもない。
それでも、ひどく惨めな気持ちになった。
勝手にしたことではあったが、まるで迷宮のようなこの危険地帯に、他の誰でもない彼本人に逢いに来たというのに、当人は出逢えた奇跡に意を介すこともなく他人事のような態度だ。
この無法地帯に、他の誰かを訪ねて来たとでも思っているのか。
「やつらはならず者だよ。怪我がなくてよかった」
シェルクロスは淡々とした仕草でタオルを脇へ押しやった。
路地から野犬たちの貪欲な息づかいに重なって、男たちの嗚咽にも似た弱々しい悲鳴が聞こえた。
次々と集まる野犬の騒々しい足音と、男たちの不規則に引きずるような足音が遠ざかる。
マイヤを追っていた二人の男は、今度は野犬に追われる立場となった。
とことん簡素で窮屈な小屋のなか、お互いを推し量るように見つめ合うマイヤとシェルクロスの間に、満ち潮が海岸に立つ岩を包み込むような静寂が訪れた。
マイヤは抱えていた鞄を机に置くと、静かな動作でシャツを脱ぎ、スラックスも脱いだ。
怒り……あるいは失望、悲観、自棄といった感情を湛えた彼女の瞳は、シェルクロスを見据えたまますべてを脱ぎ去り、とうとうショーツを残して一糸まとわぬ姿になった。
その行為を微動だにせず見ていたシェルクロスは、「大胆なことをする」と小さく呟いた。
彼は、目を見開きもしなかったし、逸らしもしなかった。
燭台の微かな黄色い光の下で、粗末な台に座り、目の前のストリップを無機質に無感動に、ただただ漠然と見つめる人形だった。
劇的な変化は激情とともに始まる。
マイヤは鞄から護身用の小型のナイフを取り出した。
それと同時に、台から立ち上がったシェルクロスは、瞬時に間合いを詰めるとナイフを握るマイヤの手首をつかんだ。
彼は、手首をつかまれ、ふらつくマイヤの裸の腰を抱いた。
二人の姿は、仮面舞踏会の大広間で共に踊った姿勢とまったく同じ形になった。
「離して」
「離した方がいい」
言葉が拮抗した。
大胆で衝動的な行動にもかかわらず、マイヤの言葉は冷静だった。
「なにもかも一人で背負い込むのはもうやめて」
淡褐色の瞳から涙が頬を流れた。
「あなたはわたしの人生に責任がある。わたしもあなたの人生に責任がある。わたしとあなたは対等の立場なのよ。あなたが勝手に責任を放棄するなら、わたしもそうする。このナイフで」
シェルクロスは焦点を合わすようにマイヤの両の瞳を交互に見つめた。
何時間も同じ態勢でいる気がした。
が、実際は、二秒か三秒ほどの時間だった。
「離して」
「君が離した方がいい」
「あなたの指図は受けない。離して」
「それは、無理だ」
「離して」
「無理だと言ったよ」
シェルクロスはマイヤの流れる涙の滴を目で追った。
マイヤはこの押し問答にため息をついた。
「わたしが離さなければどうなるの?」
彼はその問いをゆっくりと受け止めてから、ぐっと押し戻すように答えた。
「君の手首が、あり得ない方向に曲がることになる」
「そんなこと……。いいわ。そうして」
マイヤは離す意思がないことを自暴自棄な言葉で伝えた。
しばしの沈黙のあと、シェルクロスは心臓がわしづかみにされたような感覚に、思わず下唇をなめた。
「離してくれ。頼むよ」
マイヤの涙で濡れる瞳が、期待で見開かれた。
「今、頼むよって言った?」
彼女の裸の腰を抱えるシェルクロスの腕に力が入った。
彼の視線は、マイヤの淡褐色の瞳から頬を流れる涙を通って、濡れた唇へ、柔らかく肩にかかるブルネットの髪に縁取られた細い首から、鎖骨を通り、胸の蕾を経て、同じ道をたどって淡褐色の瞳へと戻った。
「ああ、言った」そこに、初めて彼女の存在を認識したかのような、わずかな驚きのこもったかすれ声で答えた。
そして、意識を集中すると左太股にぐっと力を込めた。
「あなたが、わたしを置いてどこへも行かないって誓ってくれたら、勝手に死なないって誓ってくれたら、ずっと一緒にいるって誓ってくれたら、離すわ。今すぐに」
「でないと……わたし……」彼の瞳を見つめ、喘ぐように訴えると、ナイフをぎゅっとつかんだ。
「泣くな……」
シェルクロスはマイヤの頬に触れると、親指で涙を拭った。
「君に泣かれたら……今までの俺は……」
親指が彼女の唇をなぞり、下唇を微かに押し下げた。
「わかった。どこへも行かない。ずっと一緒にいる」
「誓います」マイヤが促すように言った。
「誓います」シェルクロスは倣って言った。
ナイフがむき出しの地面の床へ落ちた。
マイヤはさっとつま先立ちになると、シェルクロスの唇へすばやくキスした。
下腹部に彼のあたたかく硬くなったものを感じた。
もう限界だった。
全身に電流のような血の流れを感じた。
左太股に力を入れ、巻かれたベルトーー鉄の楔の取り付けられたベルトーーにさらなる圧力を加えて痛みを呼び起こしても、湧き上がる欲情を鎮めることはできなかった。
成人してからのシェルクロスの人生は、厳格な修道誓願に沿うものだった。
十三年前の十三日の金曜日以降は、処刑された兄弟たちの祈りをすべて背負ったかのように、狂信的ともいえる盲信さで自身の信ずる信仰にのめり込んだ。
二十年という長い禁欲生活のなかで、遠く忘れていた欲望がたった今、目を覚ました。
シェルクロスはマイヤを抱き締めると、その唇を貪った。
錬金術で金属が溶け合ってひとつになるように、激しく求めて開いた唇が重なりあう。
息もつけぬほどに重なりあう唇の中からマイヤが囁いた。
「良かった……。あなたがまだ男を棄てていなくて……」
下腹部を、その形がよくわかるようにぐっと押し付け、彼の首に腕を絡めた。
「俺を感じる?」
マイヤは小さくうなずいた。
シェルクロスはマイヤのヒップを両手でつかみ、抱き上げると、粗末な台へ運んだ。
二人はその上に重なりあった。
「待って。ドアに鍵をかけて」
「ない」シェルクロスは即答し、「鍵はない」と言い直した。
マイヤは一瞬戸惑ったが、すぐに笑みを浮かべた。
「じゃあ、変な人が入って来たら、あなたが追い払って」
「わかった」
シェルクロスは瞼に、頬に、唇に、貪欲に貪るようなキスをして身体を起こすと、マイヤの身につけるその部分を覆う面積が極端に小さいショーツをゆっくりと脱がした。
よく見ると、Tショーツだった。
内腿をなぞるように這う舌に、マイヤは身悶えした。
恥ずかしさのあまり、押し広げられた脚を閉じようと試みるが、力が強すぎてびくともしない。
舌が彼女の秘部へ到達する前に、シェルクロスはシャツとスラックスと下着を脱ぎ、膝立ちになった。
「見ない方がいい」
そう言うと、左太股に巻かれたベルトを取り去った。
マイヤは、楔が食い込んだ血の滲む痕と、紫色に変色した彼の太股を見て、そして彼自身を見た。
とても……むり……。
マイヤは目を閉じた。
シェルクロスは上に重なり、両腕で身体を支え、マイヤの髪と頬を撫でた。
ーー主よ……讃えたまえ。神は我のうちにありーー
祈りの言葉を呟くと、彼女のなかに深く自分を沈めた。
その時、修道士として生きた過去のいっさいは葬り去られ、彼はただの騎士として生まれ変わった。
踏み固められ、ならされたむき出しの地面と、屋根には黒いプラスチックの板ーー先ほど自身が倒れて崩した板と同じものーー、壁は葦で編まれたむしろが使われていた。
外気の悪臭は凄まじく、圧倒的ですらあったが、不思議なことに小屋内は不可視のバリアでも張られているのかと思うほど、不快な臭いはしなかった。
シェルクロスの自宅を訪ねたことは一度もなかった。
木のフックに掛けられた聖十字騎士団の正装と日常着である僧衣があった。
粗末なベッドらしき台の横に、八端十字架の鞘に収められた広刃の剣が立て掛けてある。
これといって見るべきものもなく、生活臭も生活感もなかった。
机はあるが、椅子はなく、マイヤは両手に鞄を抱いてしばらく立ちすくんだ。
ロープに吊り下げられた薄いベニヤ板のドアが開く音がした。
マイヤは身を強ばらせ、わずかに後退りするとドアをくぐる黒い影を凝視した。
小屋に戻ったシェルクロスは天井から吊るされた埃まみれの燭台に灯を入れると、小さな洗面台の蛇口を捻って水を出した。
マイヤは、血で汚れた腕を肘から指先まで丁寧に洗うシェルクロスを無言で見つめた。
彼は水を止めると、タオルで腕を拭きながらマイヤの横を通ると、低い台の上に腰を下ろした。
「マイヤ、ここは君のような女性が来る場所じゃないよ」
その聞き心地のよい低音の声は穏やかで優しかったが、弱々しい燭台の灯に照らされたシェルクロスの顔には、憤りと憂いと煩わしさがない交ぜになった感情が浮かび、マイヤを見つめる琥珀色の瞳は、どこまでも冷たかった。
路地で、長身の黒い影を見たときは危機的状況ながら心が踊った。
マイヤ自身、決してファンタジーなストーリーを思い浮かべてたわけではない。
彼に会いに来た事は確かだが、初めてスラムに来たことに何も特別なことはなく、劇的な邂逅を期待していたわけでもない。
それでも、ひどく惨めな気持ちになった。
勝手にしたことではあったが、まるで迷宮のようなこの危険地帯に、他の誰でもない彼本人に逢いに来たというのに、当人は出逢えた奇跡に意を介すこともなく他人事のような態度だ。
この無法地帯に、他の誰かを訪ねて来たとでも思っているのか。
「やつらはならず者だよ。怪我がなくてよかった」
シェルクロスは淡々とした仕草でタオルを脇へ押しやった。
路地から野犬たちの貪欲な息づかいに重なって、男たちの嗚咽にも似た弱々しい悲鳴が聞こえた。
次々と集まる野犬の騒々しい足音と、男たちの不規則に引きずるような足音が遠ざかる。
マイヤを追っていた二人の男は、今度は野犬に追われる立場となった。
とことん簡素で窮屈な小屋のなか、お互いを推し量るように見つめ合うマイヤとシェルクロスの間に、満ち潮が海岸に立つ岩を包み込むような静寂が訪れた。
マイヤは抱えていた鞄を机に置くと、静かな動作でシャツを脱ぎ、スラックスも脱いだ。
怒り……あるいは失望、悲観、自棄といった感情を湛えた彼女の瞳は、シェルクロスを見据えたまますべてを脱ぎ去り、とうとうショーツを残して一糸まとわぬ姿になった。
その行為を微動だにせず見ていたシェルクロスは、「大胆なことをする」と小さく呟いた。
彼は、目を見開きもしなかったし、逸らしもしなかった。
燭台の微かな黄色い光の下で、粗末な台に座り、目の前のストリップを無機質に無感動に、ただただ漠然と見つめる人形だった。
劇的な変化は激情とともに始まる。
マイヤは鞄から護身用の小型のナイフを取り出した。
それと同時に、台から立ち上がったシェルクロスは、瞬時に間合いを詰めるとナイフを握るマイヤの手首をつかんだ。
彼は、手首をつかまれ、ふらつくマイヤの裸の腰を抱いた。
二人の姿は、仮面舞踏会の大広間で共に踊った姿勢とまったく同じ形になった。
「離して」
「離した方がいい」
言葉が拮抗した。
大胆で衝動的な行動にもかかわらず、マイヤの言葉は冷静だった。
「なにもかも一人で背負い込むのはもうやめて」
淡褐色の瞳から涙が頬を流れた。
「あなたはわたしの人生に責任がある。わたしもあなたの人生に責任がある。わたしとあなたは対等の立場なのよ。あなたが勝手に責任を放棄するなら、わたしもそうする。このナイフで」
シェルクロスは焦点を合わすようにマイヤの両の瞳を交互に見つめた。
何時間も同じ態勢でいる気がした。
が、実際は、二秒か三秒ほどの時間だった。
「離して」
「君が離した方がいい」
「あなたの指図は受けない。離して」
「それは、無理だ」
「離して」
「無理だと言ったよ」
シェルクロスはマイヤの流れる涙の滴を目で追った。
マイヤはこの押し問答にため息をついた。
「わたしが離さなければどうなるの?」
彼はその問いをゆっくりと受け止めてから、ぐっと押し戻すように答えた。
「君の手首が、あり得ない方向に曲がることになる」
「そんなこと……。いいわ。そうして」
マイヤは離す意思がないことを自暴自棄な言葉で伝えた。
しばしの沈黙のあと、シェルクロスは心臓がわしづかみにされたような感覚に、思わず下唇をなめた。
「離してくれ。頼むよ」
マイヤの涙で濡れる瞳が、期待で見開かれた。
「今、頼むよって言った?」
彼女の裸の腰を抱えるシェルクロスの腕に力が入った。
彼の視線は、マイヤの淡褐色の瞳から頬を流れる涙を通って、濡れた唇へ、柔らかく肩にかかるブルネットの髪に縁取られた細い首から、鎖骨を通り、胸の蕾を経て、同じ道をたどって淡褐色の瞳へと戻った。
「ああ、言った」そこに、初めて彼女の存在を認識したかのような、わずかな驚きのこもったかすれ声で答えた。
そして、意識を集中すると左太股にぐっと力を込めた。
「あなたが、わたしを置いてどこへも行かないって誓ってくれたら、勝手に死なないって誓ってくれたら、ずっと一緒にいるって誓ってくれたら、離すわ。今すぐに」
「でないと……わたし……」彼の瞳を見つめ、喘ぐように訴えると、ナイフをぎゅっとつかんだ。
「泣くな……」
シェルクロスはマイヤの頬に触れると、親指で涙を拭った。
「君に泣かれたら……今までの俺は……」
親指が彼女の唇をなぞり、下唇を微かに押し下げた。
「わかった。どこへも行かない。ずっと一緒にいる」
「誓います」マイヤが促すように言った。
「誓います」シェルクロスは倣って言った。
ナイフがむき出しの地面の床へ落ちた。
マイヤはさっとつま先立ちになると、シェルクロスの唇へすばやくキスした。
下腹部に彼のあたたかく硬くなったものを感じた。
もう限界だった。
全身に電流のような血の流れを感じた。
左太股に力を入れ、巻かれたベルトーー鉄の楔の取り付けられたベルトーーにさらなる圧力を加えて痛みを呼び起こしても、湧き上がる欲情を鎮めることはできなかった。
成人してからのシェルクロスの人生は、厳格な修道誓願に沿うものだった。
十三年前の十三日の金曜日以降は、処刑された兄弟たちの祈りをすべて背負ったかのように、狂信的ともいえる盲信さで自身の信ずる信仰にのめり込んだ。
二十年という長い禁欲生活のなかで、遠く忘れていた欲望がたった今、目を覚ました。
シェルクロスはマイヤを抱き締めると、その唇を貪った。
錬金術で金属が溶け合ってひとつになるように、激しく求めて開いた唇が重なりあう。
息もつけぬほどに重なりあう唇の中からマイヤが囁いた。
「良かった……。あなたがまだ男を棄てていなくて……」
下腹部を、その形がよくわかるようにぐっと押し付け、彼の首に腕を絡めた。
「俺を感じる?」
マイヤは小さくうなずいた。
シェルクロスはマイヤのヒップを両手でつかみ、抱き上げると、粗末な台へ運んだ。
二人はその上に重なりあった。
「待って。ドアに鍵をかけて」
「ない」シェルクロスは即答し、「鍵はない」と言い直した。
マイヤは一瞬戸惑ったが、すぐに笑みを浮かべた。
「じゃあ、変な人が入って来たら、あなたが追い払って」
「わかった」
シェルクロスは瞼に、頬に、唇に、貪欲に貪るようなキスをして身体を起こすと、マイヤの身につけるその部分を覆う面積が極端に小さいショーツをゆっくりと脱がした。
よく見ると、Tショーツだった。
内腿をなぞるように這う舌に、マイヤは身悶えした。
恥ずかしさのあまり、押し広げられた脚を閉じようと試みるが、力が強すぎてびくともしない。
舌が彼女の秘部へ到達する前に、シェルクロスはシャツとスラックスと下着を脱ぎ、膝立ちになった。
「見ない方がいい」
そう言うと、左太股に巻かれたベルトを取り去った。
マイヤは、楔が食い込んだ血の滲む痕と、紫色に変色した彼の太股を見て、そして彼自身を見た。
とても……むり……。
マイヤは目を閉じた。
シェルクロスは上に重なり、両腕で身体を支え、マイヤの髪と頬を撫でた。
ーー主よ……讃えたまえ。神は我のうちにありーー
祈りの言葉を呟くと、彼女のなかに深く自分を沈めた。
その時、修道士として生きた過去のいっさいは葬り去られ、彼はただの騎士として生まれ変わった。
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