3 / 5
【番外】外面騎士の告白。
しおりを挟む
***
見た目8割で近衛になれた、と揶揄されるジークヴァルド・マーシャル(19)。その実力はもちろん折り紙付だったが、金髪碧眼の美麗な顔立ちにすらりとした体躯は、世の令嬢達の噂に登るのにそう時間がかからなかった。
そもそも、騎士隊には『ファン』がついていて青田刈りされている。その時点から人気爆発していたのである。
近衛になったのは、偏に城に勤める方が何かと便利だから、というありきたりな理由だ。戦場に出る事は厭わないが、戦場に於いてその美貌は意外と邪魔になるのである。士気が下がるとまで言われた事もある。
それなら、と近衛を志願したところするりと試験をパスしてしまった。こうして王城勤めの日々に慣れてきた頃。幼馴染のティアナが、侍女として王宮へ入る事になったと実家の弟から連絡が来た。
「侍女ねぇ」
昼飯をとりながら手紙を広げて、ちょっとびっくりする。記憶にあるティアナは、夜会やドレスが嫌いであまり貴族令嬢らしくない。子供の頃は自分や弟と同様に男子の遊びに興じるような娘だった。王宮で侍女という職が務まるのだろうか?そもそも、だ。
「あいつまだ、婚約者いなかったのか……」
「あいつ、って誰?」
「あれ、ラルフ様」
いつの間にか王太子のランドルフ様が隣に座って食事をとっていた。メニューは特別なようだが、この人は騎士学校の頃から一緒だった事もあって、こういうところがフランクだ。
「誰でもないですよ」
「無いわけないじゃん。あ、もしかして恋人?」
「んな訳あるか」
「不敬。えー教えてくれてもいいじゃん」
「……嫌です」
「あれ、まじで恋人?」
「違うって」
違う、その気持ちは置き去りにしてある。しかし「誰、誰?」としつこい。
「あーもう!妹みたいなやつですよ」
「へえ!やっぱ珍しく女の子の事なんだ!なになに、侍女として王宮に……」
「読むな!」
「えー、王宮に来るの?見たい!ジークの妹!」
「妹じゃねぇ!」
「どっちだよ。ふーん。ティアナちゃんか」
「名前覚えないでください」
「余裕がないな?!」
ケラケラと笑いながら手紙を奪われてしまった。面倒な人に絡まれたな。
「ふーん、子爵令嬢なんだ。登城したら紹介してよ」
「しませんよ。大体、連絡もしてないし」
弟の手紙によれば、直近の年末には上がる予定らしいが……偶然でも無い限り、わざわざ連絡はしないだろう、と踏んでいる。それに、と王太子を改めて見る。
「ん?どした?紹介してくれる?」
銀髪翠眼のキラキラしい見た目は正に「王子様」である。自分も見た目でそう言われる事もあるが、彼は『本物』だ。立居振る舞いや所作がまるで違う。並んでしまえば、その差は歴然としている。そう、今のように。
「しません、絶対に」
「なんで絶対なんだよ。俺まだフリーなんだから、いい子なら紹介してくれよ」
「フリーとは。婚約者候補様方がおられるでしょう」
「それはそれ、出会いは出会いだからね~」
意外と奔放なんだよな、この人も。でも。
「こいつは王太子様にご紹介するに当たらない粗野な娘なので」
「粗野!粗野な貴族令嬢!いいね!ね、紹介」
「しつこい」
「だから不敬」
もはやコレは何を面白がられるかわからんので、戦略的撤退を決める。
「午後の仕事が始まるんで失礼します」
「ええー。まあ、頑張ってね」
「はい」
見回り勤務だけどな。
***
それから数日後。
中庭を見回っていたら、見覚えのある背格好の侍女を見つけてしまう。これは……と近寄れば、懐かしい雰囲気が漂っている。ティアナだ。
さらに近付くと、何やらぶつぶつと独り言を言っているようなので、気配を消してほぼ背後へ回る。
「……朝寝坊さえしなければ、あとは」
「後は?」
お、声かけちゃった。
「うわっ?!」
色気のねぇ悲鳴。やっぱこいつ、変わってない。
「ジーク!びっくりするでしょ!」
「びっくりさせようとして気配消して近づいたんだよ。油断しまくりだな?」
「侍女は騎士と違って警戒なんてしないんですぅ」
「お前の場合は、もう少し警戒してもいいと思うぜ?」
でないと簡単に襲えそうだった。いやマジで。昼はいいけど、夜は王城内部もなかなかに不埒な話も聞く。そこは注意しておきたい。
「なぁ、『あとは』なんなんだ?」
「いやいや。それよりお仕事中でしょ?こんなとこでサボってていいの?」
「サボってねえし。」
「その言葉遣い……王城では、やめるんじゃなかったの?」
そういやこいつは、俺の口の悪さを知ってて意外とこういう事を言わなかったんだよな。
「お前や仲間の前以外では出さないくらいの節度はあるぞ?」
「私ももう、王城の人間なのですが?」
「そりゃ大変失礼いたしました……ってか、ほんと、何かあれば言えよ?」
「うん、ありがとう。助かるよ」
へにゃ、と笑う顔も変わってない。久しぶりにちょっと安心した気がする。まぁ、見かけたら気にしといてやるか、と兄貴な気持ちがふと蘇ってきた。
ティアナとは子供の頃からの付き合いもあるが、なんとなく兄妹感がある。基本的に面倒なことが嫌な奴なので、それを奮わせるために何かしようとすると、自然に兄のようになってしまうのだった。
***
と、そんな悠長な事を考えていた自分を責めたい。あいつなんなんだ。
「新人の侍女で綺麗な子がいる」
近衛の間で噂になった相手を聞いてみれば、これがどうやらティアナらしい。確かに見た目はまあまあで、侍女のお仕着せをつけていてもその身体付きはすらりとしつつ出るとこは出てるのがわかるくらいだ。
でも中身、あいつだぞ?と思うが、その中身にこそ惹かれてる自分なので、如何ともし難い。
その後も会えば簡単に会話をしていたが、新年の夜会の話になって驚愕した。デビュタントの時のドレスで参加しようとしているとか正気じゃない、流石にそれはない!と言えば「頑張れば入る」とか見当違いな答えが返ってくる。頑張るのはそこじゃねぇよ!
フラフラされても気になるし、とドレスを買おうとしたらそれは断られた。ので、エスコートを無理矢理押しつける事にした。とても迷惑そうだったが、油断しまくりのこいつにはお目付役が必要だろう。男兄弟もいないしな、と自分にも納得の言い訳をする。
言い訳だ。わかっている。
それ以上踏み込めば、あいつは「面倒だ」と逃げ出すのを知っているからだ。だからせめて、と思ったのに。
「へぇ、いいな。ドレス付けたら一端の貴族令嬢に見えるぞ?」
「それ褒めてるの?まぁ、いいけど……」
本当に、いつの間にかとても綺麗になってしまっていた事に……改めて気づいてしまった。頑張れ俺の理性。なんだあの胸、白くてふわふわで、くそ、触りてぇ。
それでも正装した自分に瞠目したティアナを見て溜飲が下がる。よし、やはりこの格好は正解だった。俺の見た目は素直に好きそうなんだよな。
しかし、もう少しくらいご褒美は欲しい。アクセサリーをつけてやるついでに、首筋と耳朶に触ってやった。とても柔らかく、気持ちがいい。次の時はイヤリングを買ってやろう……とニヤつきながら、他の騎士への牽制も兼ねて侍女棟からエスコートした。
案の定、彼女に声をかけようとしていたらしき騎士が待ち構えていた。エスコートする事にして正解だったな、とヒヤヒヤした気持ちを隠して素通りする。
夜会が始まっても「ジークのファンの目線にいたたまれない」とか言いながら食ってばかりだ。俺だって、お前目当ての目線に耐えてるっつーの。とか思ってたら、またランドルフ様に絡まれた。
「お前が珍しくパートナー連れてきてるから、紹介してもらおうと思ってな?」
「しません」
「うわ!心せっま!!ねぇ、そう思いませんか?お嬢さん」
「あ、えと、はい、あの、レクラム子爵家のティアナと申します。」
「やっぱりそうか、君がティ」
王子に名前なんて呼ばせるかよ。
「マーシャル家のジークヴァルドと申します」
「お前は存じている」
そのままティアナを連れてホールへ出ると、まだ王子の方を気にしているので顔を無理にこちらへ向けさせた。
「王子様じゃなくて、俺を見てろっての」
お?ぽや、っと顔が赤くなった。よしよし。そのままダンスを一曲踊ったが、思っていたより楽しかった。相手がティアナだからだよな、というのを実感してしまう。
だが、先ほど王子に声をかけられた彼女に、俺の後にダンスを申し込もうとしている輩を見つけてしまう。ティアナは気づいていない。これ以上目立つのも癪なので、その後はそっと会場を抜け出し、彼女を侍女棟へと送り届けたのだった。
***
侍女棟の誰もいないホールで、少しだけ際どい触れ合いをしたすぐ後、俺はポケットにティアナのネックレスを入れたままなのに気づいた。急いで戻ると、まだ誰も帰ってきた気配はない。少しだけ、と規則を破って個室へと向かった。そして。
***
なんだよ部屋で全裸って……。俺の理性は死んだ。死ぬに決まってる。そして彼女を、思うさまに貪る事にした。
「ティアナ……ずっと、こうしたかった」
「うそ……ずっと『お兄ちゃん』だったじゃない」
「お前がそう呼ぶからだよ」
話してみれば、互いに逃げを打っていた事がわかる。そのまま貪欲に全てを奪ってしまいたくなったが、死んだ理性が1%くらい復活し、さすがにそこは踏みとどまった。寮だしな、ここ。確か少人数、残ってる人もいるはず。それでも堪えきれず、ティアナを啼かせてしまったが。
だってこの身体でこの中身。ギャップがまた、たまらない。何度か間違えて『おにいちゃん』て言ったんだが、その背徳感もすごかった……。
2度、互いに達すると、ティアナは疲れたように眠りについた。彼女の身体を綺麗にして、ドレスも片付けてそっと部屋を出る。幸い、まだ夜会から帰る人はいないようだったが裏口から侍女棟を後にした。
***
数日後。案の定、「もう?!」と面倒くさがるティアナを連れ、子爵家へとお邪魔する。概ね好意的に受け取ってもらい、ティアナとの婚約が成立することになった。これで全て安心だ、とはいかないかもしれないが……
とにかく婚約したことを騎士隊には早めに触れ回ろう。あの夜の乱れたティアナを思えば、そうするに越した事はない。彼女は俺が守って、囲い込んで、ドロドロに甘やかして溺れさせたい。
結婚するまでは互いにまだ寮暮らしが続く。城の中庭でたまに逢うのも楽しみにしよう、でもランドルフ様には会わせないように、と決意を新たにした新年となった。
***
見た目8割で近衛になれた、と揶揄されるジークヴァルド・マーシャル(19)。その実力はもちろん折り紙付だったが、金髪碧眼の美麗な顔立ちにすらりとした体躯は、世の令嬢達の噂に登るのにそう時間がかからなかった。
そもそも、騎士隊には『ファン』がついていて青田刈りされている。その時点から人気爆発していたのである。
近衛になったのは、偏に城に勤める方が何かと便利だから、というありきたりな理由だ。戦場に出る事は厭わないが、戦場に於いてその美貌は意外と邪魔になるのである。士気が下がるとまで言われた事もある。
それなら、と近衛を志願したところするりと試験をパスしてしまった。こうして王城勤めの日々に慣れてきた頃。幼馴染のティアナが、侍女として王宮へ入る事になったと実家の弟から連絡が来た。
「侍女ねぇ」
昼飯をとりながら手紙を広げて、ちょっとびっくりする。記憶にあるティアナは、夜会やドレスが嫌いであまり貴族令嬢らしくない。子供の頃は自分や弟と同様に男子の遊びに興じるような娘だった。王宮で侍女という職が務まるのだろうか?そもそも、だ。
「あいつまだ、婚約者いなかったのか……」
「あいつ、って誰?」
「あれ、ラルフ様」
いつの間にか王太子のランドルフ様が隣に座って食事をとっていた。メニューは特別なようだが、この人は騎士学校の頃から一緒だった事もあって、こういうところがフランクだ。
「誰でもないですよ」
「無いわけないじゃん。あ、もしかして恋人?」
「んな訳あるか」
「不敬。えー教えてくれてもいいじゃん」
「……嫌です」
「あれ、まじで恋人?」
「違うって」
違う、その気持ちは置き去りにしてある。しかし「誰、誰?」としつこい。
「あーもう!妹みたいなやつですよ」
「へえ!やっぱ珍しく女の子の事なんだ!なになに、侍女として王宮に……」
「読むな!」
「えー、王宮に来るの?見たい!ジークの妹!」
「妹じゃねぇ!」
「どっちだよ。ふーん。ティアナちゃんか」
「名前覚えないでください」
「余裕がないな?!」
ケラケラと笑いながら手紙を奪われてしまった。面倒な人に絡まれたな。
「ふーん、子爵令嬢なんだ。登城したら紹介してよ」
「しませんよ。大体、連絡もしてないし」
弟の手紙によれば、直近の年末には上がる予定らしいが……偶然でも無い限り、わざわざ連絡はしないだろう、と踏んでいる。それに、と王太子を改めて見る。
「ん?どした?紹介してくれる?」
銀髪翠眼のキラキラしい見た目は正に「王子様」である。自分も見た目でそう言われる事もあるが、彼は『本物』だ。立居振る舞いや所作がまるで違う。並んでしまえば、その差は歴然としている。そう、今のように。
「しません、絶対に」
「なんで絶対なんだよ。俺まだフリーなんだから、いい子なら紹介してくれよ」
「フリーとは。婚約者候補様方がおられるでしょう」
「それはそれ、出会いは出会いだからね~」
意外と奔放なんだよな、この人も。でも。
「こいつは王太子様にご紹介するに当たらない粗野な娘なので」
「粗野!粗野な貴族令嬢!いいね!ね、紹介」
「しつこい」
「だから不敬」
もはやコレは何を面白がられるかわからんので、戦略的撤退を決める。
「午後の仕事が始まるんで失礼します」
「ええー。まあ、頑張ってね」
「はい」
見回り勤務だけどな。
***
それから数日後。
中庭を見回っていたら、見覚えのある背格好の侍女を見つけてしまう。これは……と近寄れば、懐かしい雰囲気が漂っている。ティアナだ。
さらに近付くと、何やらぶつぶつと独り言を言っているようなので、気配を消してほぼ背後へ回る。
「……朝寝坊さえしなければ、あとは」
「後は?」
お、声かけちゃった。
「うわっ?!」
色気のねぇ悲鳴。やっぱこいつ、変わってない。
「ジーク!びっくりするでしょ!」
「びっくりさせようとして気配消して近づいたんだよ。油断しまくりだな?」
「侍女は騎士と違って警戒なんてしないんですぅ」
「お前の場合は、もう少し警戒してもいいと思うぜ?」
でないと簡単に襲えそうだった。いやマジで。昼はいいけど、夜は王城内部もなかなかに不埒な話も聞く。そこは注意しておきたい。
「なぁ、『あとは』なんなんだ?」
「いやいや。それよりお仕事中でしょ?こんなとこでサボってていいの?」
「サボってねえし。」
「その言葉遣い……王城では、やめるんじゃなかったの?」
そういやこいつは、俺の口の悪さを知ってて意外とこういう事を言わなかったんだよな。
「お前や仲間の前以外では出さないくらいの節度はあるぞ?」
「私ももう、王城の人間なのですが?」
「そりゃ大変失礼いたしました……ってか、ほんと、何かあれば言えよ?」
「うん、ありがとう。助かるよ」
へにゃ、と笑う顔も変わってない。久しぶりにちょっと安心した気がする。まぁ、見かけたら気にしといてやるか、と兄貴な気持ちがふと蘇ってきた。
ティアナとは子供の頃からの付き合いもあるが、なんとなく兄妹感がある。基本的に面倒なことが嫌な奴なので、それを奮わせるために何かしようとすると、自然に兄のようになってしまうのだった。
***
と、そんな悠長な事を考えていた自分を責めたい。あいつなんなんだ。
「新人の侍女で綺麗な子がいる」
近衛の間で噂になった相手を聞いてみれば、これがどうやらティアナらしい。確かに見た目はまあまあで、侍女のお仕着せをつけていてもその身体付きはすらりとしつつ出るとこは出てるのがわかるくらいだ。
でも中身、あいつだぞ?と思うが、その中身にこそ惹かれてる自分なので、如何ともし難い。
その後も会えば簡単に会話をしていたが、新年の夜会の話になって驚愕した。デビュタントの時のドレスで参加しようとしているとか正気じゃない、流石にそれはない!と言えば「頑張れば入る」とか見当違いな答えが返ってくる。頑張るのはそこじゃねぇよ!
フラフラされても気になるし、とドレスを買おうとしたらそれは断られた。ので、エスコートを無理矢理押しつける事にした。とても迷惑そうだったが、油断しまくりのこいつにはお目付役が必要だろう。男兄弟もいないしな、と自分にも納得の言い訳をする。
言い訳だ。わかっている。
それ以上踏み込めば、あいつは「面倒だ」と逃げ出すのを知っているからだ。だからせめて、と思ったのに。
「へぇ、いいな。ドレス付けたら一端の貴族令嬢に見えるぞ?」
「それ褒めてるの?まぁ、いいけど……」
本当に、いつの間にかとても綺麗になってしまっていた事に……改めて気づいてしまった。頑張れ俺の理性。なんだあの胸、白くてふわふわで、くそ、触りてぇ。
それでも正装した自分に瞠目したティアナを見て溜飲が下がる。よし、やはりこの格好は正解だった。俺の見た目は素直に好きそうなんだよな。
しかし、もう少しくらいご褒美は欲しい。アクセサリーをつけてやるついでに、首筋と耳朶に触ってやった。とても柔らかく、気持ちがいい。次の時はイヤリングを買ってやろう……とニヤつきながら、他の騎士への牽制も兼ねて侍女棟からエスコートした。
案の定、彼女に声をかけようとしていたらしき騎士が待ち構えていた。エスコートする事にして正解だったな、とヒヤヒヤした気持ちを隠して素通りする。
夜会が始まっても「ジークのファンの目線にいたたまれない」とか言いながら食ってばかりだ。俺だって、お前目当ての目線に耐えてるっつーの。とか思ってたら、またランドルフ様に絡まれた。
「お前が珍しくパートナー連れてきてるから、紹介してもらおうと思ってな?」
「しません」
「うわ!心せっま!!ねぇ、そう思いませんか?お嬢さん」
「あ、えと、はい、あの、レクラム子爵家のティアナと申します。」
「やっぱりそうか、君がティ」
王子に名前なんて呼ばせるかよ。
「マーシャル家のジークヴァルドと申します」
「お前は存じている」
そのままティアナを連れてホールへ出ると、まだ王子の方を気にしているので顔を無理にこちらへ向けさせた。
「王子様じゃなくて、俺を見てろっての」
お?ぽや、っと顔が赤くなった。よしよし。そのままダンスを一曲踊ったが、思っていたより楽しかった。相手がティアナだからだよな、というのを実感してしまう。
だが、先ほど王子に声をかけられた彼女に、俺の後にダンスを申し込もうとしている輩を見つけてしまう。ティアナは気づいていない。これ以上目立つのも癪なので、その後はそっと会場を抜け出し、彼女を侍女棟へと送り届けたのだった。
***
侍女棟の誰もいないホールで、少しだけ際どい触れ合いをしたすぐ後、俺はポケットにティアナのネックレスを入れたままなのに気づいた。急いで戻ると、まだ誰も帰ってきた気配はない。少しだけ、と規則を破って個室へと向かった。そして。
***
なんだよ部屋で全裸って……。俺の理性は死んだ。死ぬに決まってる。そして彼女を、思うさまに貪る事にした。
「ティアナ……ずっと、こうしたかった」
「うそ……ずっと『お兄ちゃん』だったじゃない」
「お前がそう呼ぶからだよ」
話してみれば、互いに逃げを打っていた事がわかる。そのまま貪欲に全てを奪ってしまいたくなったが、死んだ理性が1%くらい復活し、さすがにそこは踏みとどまった。寮だしな、ここ。確か少人数、残ってる人もいるはず。それでも堪えきれず、ティアナを啼かせてしまったが。
だってこの身体でこの中身。ギャップがまた、たまらない。何度か間違えて『おにいちゃん』て言ったんだが、その背徳感もすごかった……。
2度、互いに達すると、ティアナは疲れたように眠りについた。彼女の身体を綺麗にして、ドレスも片付けてそっと部屋を出る。幸い、まだ夜会から帰る人はいないようだったが裏口から侍女棟を後にした。
***
数日後。案の定、「もう?!」と面倒くさがるティアナを連れ、子爵家へとお邪魔する。概ね好意的に受け取ってもらい、ティアナとの婚約が成立することになった。これで全て安心だ、とはいかないかもしれないが……
とにかく婚約したことを騎士隊には早めに触れ回ろう。あの夜の乱れたティアナを思えば、そうするに越した事はない。彼女は俺が守って、囲い込んで、ドロドロに甘やかして溺れさせたい。
結婚するまでは互いにまだ寮暮らしが続く。城の中庭でたまに逢うのも楽しみにしよう、でもランドルフ様には会わせないように、と決意を新たにした新年となった。
***
0
あなたにおすすめの小説
騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない
柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。
バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。
カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。
そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。
愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。
無口な婚約者の本音が甘すぎる
群青みどり
恋愛
リリアンには幼少期から親に決められた婚約者がいた。
十八歳になった今でも月に一度は必ず会い、社交の場は二人で参加。互いに尊重し合い、関係は良好だった。
しかしリリアンは婚約者であるアクアに恋をしていて、恋愛的に進展したいと思っていた。
無口で有名なアクアが何を考えているのかわからずにいたある日、何気なく尋ねた質問を通して、予想外の甘い本音を知り──
※全5話のさらっと読める短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる