渡辺と彼女

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優しさに触れた少女

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「不思議...」

ややあって落ち着きを取り戻したわたしは冷静に周りを見渡して、どうしてこんな状況になったのかが分かる様なものを探してみたけれどそれらしき物は見当たらなかった。

どうして神様はこうも薄情なのだろうか

わたしは一旦横になってみたがどうにも落ち着かない。そして異様に寒い。わたしは一つくしゃみをした

わたしがくしゃみをした直後に隣で寝ていた男性がむくりと起き上がったので咄嗟に瞼を瞑って寝たふりをしてしまった。瞼を閉じると目の前は赤黒い世界に一瞬で変わって漠然とした不安感が脳裏をよぎる

「 あの…起きてますか?」

あの柔らかい笑みとは正反対の男性特有の低い声がわたしの耳に入ってくる。わたしは薄目を開けて男性の顔を確認した

「あっ...」

何にそんなに驚いたのかは分からないが男性の間抜けな声を聞いて少し笑いそうになってしまった。きっと今のわたしの顔は少し変顔っぽくなっている事だろう。まぁそれは置いといて寝たままでは話しも碌にできないと思い、起き上がろうとした瞬間男性の口から突拍子の無い言葉が発せられた

「良かったら一緒に住みませんか?」

その口調と態度は至極落ち着いていた
本当に彼の口から出たのかと疑いたくなる程に

「...どういう事でしょうか?」

「そのままの意味です」

「貴方とわたしが一緒に住むという事ですか?」

「そうなりますね。嫌でしたら...」

「ちょ、ちょっと待って下さい。その前に色々と確認したい事があるんですが... 」

「はい、何でしょう?」

「何でわたしは此処に居るんでしょうか?わたしの記憶では公園で寝ていた筈...」

「ああ、それは貴女がすぶ濡れでベンチに寝ていたから少しの間保護したんです。警察に届けようとも考えたのですがなにぶん距離が遠すぎたので僕の家に...。第一あんな場面を見せられて放って置けるわけが無いでしょう」

「はぁ...ごもっともだと思います」

「 でしょう。で、貴方は何故あんな所で寝ていたんですか?それと名前と住所を教えて下さい。送り届けますので」

わたしは男性の言葉に困り果てて何て伝えたらいいのか悩んだ。第一記憶が無い事を話して信じてくれるのだろうか。もしわたしが男性の立場だったら多分疑ってしまうだろう

暫くしてからわたしは伝える事を決めた。そして一呼吸してからか細い声でわたしなりにまとめて話し始めた。記憶が無い事、気が付いたら道端に立っていた事、記憶の全部を男性に話した。話している途中声が震えていたのが分かったのか男性はゆっくりでいい、大丈夫だからと言ってくれてほっとしたのは秘密だ

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