青瞬の日々

大志目マサオ

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近所のお嬢様。

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弟の話を聞いてから数日後、俺は近所にある3階建ての立派な一軒家の前にいた。

正直な感想を言おう。

どこのお嬢様ですか?

駐車場にはかなり有名な高級車が停まっているし……ここは大都会のド真ん中だぞ?

しかもくだんのつきまとい女は、といえばだ……。

弟よ。いや、秀人ひでとよ。

お前は何故こんな可愛らしい女の子を嫌がるんだい?

俺は兄として悲しいよ?

今、俺の目の前にいるのは、そんな付きまとうような感じの女ではない。

少なくとも俺の目にはそう映っている。

学校帰りに弟と合流して、近所だというその女の自宅前にやって来てみれば、まず我が家からの距離の近さに驚かされ、豪邸と高級車に驚かされ、最後はつきまとい女の可愛さに驚かされた。

一体どんなヤバい女が現れるのかと好奇心を膨らませていたらこれだ。

秀人と話してる感じも普通だし、なんなら明るくて取っ付きやすいぐらいだ。

俺は意外すぎる展開に面食らってしまい、その女……いや、その女の子と挨拶だけ交わしてからというもの、なかなか話しかけられずにいた。

しばらく秀人とその女の子が話しているのを見ていたら、向こうから話しかけてきた。

「あの、秀人くんのお兄さんなんですよね?」

「ああ、うん。そうだよ。似てないでしょ」

「そうですか? 目元なんか結構似てると思いますよ」

「そうかな? あんまり似てるって言われたことなくて」

……俺、緊張してんのか?

「そうなんですね。う~ん、でも私は似てると思います。私もお姉ちゃんがいるんですけど、私とお姉ちゃんの方が似てないと思います。ヘヘ」

笑い方、少し特徴あるな。

「そうなんだ。お姉さんはいくつなの?」

「えっと、私の2コ上なんで今高3ですね」

「へ~、じゃあ俺の1コ上だね」

「あ、でも彼氏いますよ? フフっ」

いや、聞いてねぇし。

「ア、アハハ……そ、そうなんだ」

「兄貴、帰ろう。そろそろメシだってさ、メールきた」

「そっか、わかった」

「いいな~! 私も秀人くん家でゴハン食べたい」

「いや、先輩それはマジ無理ッス」

え、断んの?正気かお前……。

「え~! いつもツレないな~」

「先輩も早く高校で彼氏見つけてくださいよ」

お前いくら嫌でもその言い方はエグくないか?

「ヒドい! 私ももう帰る!」

「お疲れ様で~す」

「ムカつくぅ……あ、秀人くんのお兄さん」

「ん?」

「また会ったら声かけてもいいですか? だいぶご近所ですし」

「あ、ああもちろん。全然大丈夫、俺も見かけたら声かけるよ」

「やったー! ヘヘ、ありがとうございます。それじゃあまた!」

「うん、またね」

「秀人くんのバーカ!」

「うぃ~っす」

秀人を無視して、こちらに全力で手を振ってくれている彼女に、俺は軽く手を振り返した。

「……秀人、あの子の何が嫌なの?」

「ん~単純に顔と性格がタイプじゃないんだよね」

「あ、そう」

それは仕方ないけど、普通女の子から好意を寄せられたら、少しぐらいは揺れないか?

それが男ってもんじゃないのか?

「兄貴はどう?」

「どうって何が」

「先輩」

「いや、普通に可愛いと思うよ」

「それ言っとくわ」

「は?」

「メールで言っとく」

「いや、やめろよ」

「無理」

「どういうつもりだよ」

「マジで腹減った。おっさき~!」

「おい!」

秀人は徒歩1分の自宅までの距離を、全力で駆けて行った。

普通嫌だからって、自分を好いてる女を兄に近づけるか?

我が弟ながら、完全に理解の外にいるヤツだ。

ていうかあの子はそれになんて返してくるんだろうか……3年も好きでいる男に、兄が自分を可愛いって言ってたっていうことに、どうリアクションするんだろう。

嫌がらないかな。でも、褒められて嫌がるものなのか……?

正直想像もつかない。

でも、なんだろう。

俺は……少しだけ胸が高鳴るのを感じていた。
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