4 / 4
帰りがけの遭遇。
しおりを挟む
近所の豪邸での一件から1週間程が経過した。
俺はその後、特にこれといって何事もなく毎日を過ごしていた。
学校へ通い、帰りにはよくつるんでいる友達と遊び、親にうるさく言われない程度の時間には帰宅して……そんな当たり前の毎日だ。
そしてその日も普通に学校から自宅へと帰る途中だった。
最寄り駅から徒歩10分とかからない距離を、ただただのんびりと歩いていた。
だが、自宅へ向かう最後の十字路に差し掛かった時だった。
後ろから駆け足でこちらに近づく音と、聞き慣れない声が聞こえた。
「お兄さ~ん、秀人くんのお兄さ~ん」
反射的に振り向くと、ついこの間豪邸前で会ったお嬢様がいた。
まあ実際にはお嬢様という程ではないのかも知れないが、以前はオンボロの木造社宅、現在は公営住宅に住む俺にとっては、都心の立派な戸建てに住むこの子は十分にお嬢様だ。
誤解の無いように言っておくが、決して親に文句を言っている訳ではない。
働く苦労なんて未だバイト1つしたことない俺にとっては未知の領域だしな。
「あ、君は確か……」
あれ、そういえば名前聞いてなかったような……。
「覚えててくれました? 雪菜です!」
自分から言ってくれるとは、ツイてるな。
「あ、うん。覚えてるよもちろん。でも、さすがにご近所さんだね。普通にすぐ会えた」
「私、お兄さんにすっごく会いたかったです」
随分ストレートだな。
そんなこと言ってら普通の男子はすぐ勘違いしちゃうぞ?
まあ、俺の場合は女の子と付き合った経験もあるし?
このぐらい全然大丈夫だっつーの。
「あの、お兄さん?」
「あ、ああ。俺も雪菜ちゃんに会いたかったよ」
「え~? 本当ですか~? ……嬉しいですけど、無理してません?」
全然ダメでした。
「当たり前じゃん。こうして足を止めてるのが証拠ってことで」
なんだそりゃ、我ながら下手くそな返しだ。
「ん~? じゃあ……」
な、なんですか?
そんな上目遣いに覗き込まないでくれ。
ていうか気持ちの追及だけは勘弁して欲しいんですけど……。
「な、何かな?」
「ん~とぉ……そうですねぇ……」
それは一体何の溜めなんですか?
女の子の方が精神的な成熟は早いと聞いたけど、こういうことなのか?
歳が近ければ心理操作もお手の物なんですか?
「ず、随分焦らすね。雪菜ちゃん」
「考えてるんです。もしお兄さんと付き合ったらって」
「あ、そうなんだ~。ふ~ん、へぇ…………はい?」
「あ、そうだ。今度散歩しましょうよ。私んち犬飼ってるんで、一緒にどうですか? あと、番号教えてください」
あれ?混乱しているのは俺だけかな?
俺と付き合う?犬の散歩?番号?
女っていつも何考えてるの?
頭の中をぐちゃぐちゃにする作戦ですか?
恐るべしお嬢様……いや、もはや女全体か……。
しかし、ここで呑まれる俺ではない。
こっちだって様子見してやるさ、翻弄されるのもここまでだ。
余裕の態度でこっちが品定めしてやるわ。
それにこれは弟に近づく為かも知れないしな。
ていうかその線が濃厚と見てまず間違いないだろう。
「いいよそのぐらい、行こうよ」
「やった~! じゃあ、今度この日が学校早く終わるんで……」
◆◆◆◆◆◆
「それじゃまたね~」
「は~い、お兄さんまた~!」
俺はその後彼女と番号を交換し、何故か犬の散歩に付き合う約束をして別れた。
クソ……なかなか手強い女だ。
終始マイペースというのだろうか?
自分のペースに巻き込むのがあの子の得意技の様だな。
今回はまんまとしてやられたが、次はそうはいかんぞ。
自宅の玄関に近づくと夕飯のいい匂いが鼻腔をくすぐった。
「ただいま~、めっちゃいい匂いだね~」
「あら、いつもよりちょっと遅かったじゃない?」
「そ、そうかな? それよりも腹減ったよ」
「ふ~ん……女ね」
我が母よ、今まで半信半疑だったが、俺は女の勘てやつを信じる気になったよ。
「ま、まあね。そんなとこ」
「あんたは大体いつも振り回されるタイプなんだから、気を付けなさいよ~」
もうなんなの。
そんなに俺ってわかりやすいの?
「わ、わかってるよ! 先に風呂入る!」
「フフ、はいはい。今日はあんたの好きなチンジャオロースよ~」
「お、ラッキー! りょうか~い」
と、そういえば秀人のやつにはなんて言おう。
リビングから廊下を進み、ドアの開いている自室を覗くと、秀人が食い入るようにモニターを見つめ、パレスト2のコントローラーを握っていた。
「お、兄貴おかえり~」
「おう、ただいま~」
弟とは同部屋で、どうやら最近2人してハマっているゲームに熱中しているようだった。
ま、とりあえず今はスルーでいいか……風呂風呂。
「聞いたよ~。犬の散歩一緒に行くんだって?」
「は、早ぇ……」
「何が?」
「いや、なんでもないよ」
いや待て待て、これもお嬢様の仕込んだ秀人に嫉妬させる作戦の一環に違いない。
そんなので俺が動揺してどうする。
「ま、頑張って」
「……へいへい。後で俺も混ぜるわ」
「お、じゃあこのステージマジでキツいから急いでね~」
「ハッ、そこなら余裕だから任せとけ」
「お、マジで? じゃあ尚更急いで」
「わかったから急かすなよ。後でな」
「…………」
もう聞いてねぇし。
それにしても散歩ね……どんな格好していけばいいのかな。
俺はその後、特にこれといって何事もなく毎日を過ごしていた。
学校へ通い、帰りにはよくつるんでいる友達と遊び、親にうるさく言われない程度の時間には帰宅して……そんな当たり前の毎日だ。
そしてその日も普通に学校から自宅へと帰る途中だった。
最寄り駅から徒歩10分とかからない距離を、ただただのんびりと歩いていた。
だが、自宅へ向かう最後の十字路に差し掛かった時だった。
後ろから駆け足でこちらに近づく音と、聞き慣れない声が聞こえた。
「お兄さ~ん、秀人くんのお兄さ~ん」
反射的に振り向くと、ついこの間豪邸前で会ったお嬢様がいた。
まあ実際にはお嬢様という程ではないのかも知れないが、以前はオンボロの木造社宅、現在は公営住宅に住む俺にとっては、都心の立派な戸建てに住むこの子は十分にお嬢様だ。
誤解の無いように言っておくが、決して親に文句を言っている訳ではない。
働く苦労なんて未だバイト1つしたことない俺にとっては未知の領域だしな。
「あ、君は確か……」
あれ、そういえば名前聞いてなかったような……。
「覚えててくれました? 雪菜です!」
自分から言ってくれるとは、ツイてるな。
「あ、うん。覚えてるよもちろん。でも、さすがにご近所さんだね。普通にすぐ会えた」
「私、お兄さんにすっごく会いたかったです」
随分ストレートだな。
そんなこと言ってら普通の男子はすぐ勘違いしちゃうぞ?
まあ、俺の場合は女の子と付き合った経験もあるし?
このぐらい全然大丈夫だっつーの。
「あの、お兄さん?」
「あ、ああ。俺も雪菜ちゃんに会いたかったよ」
「え~? 本当ですか~? ……嬉しいですけど、無理してません?」
全然ダメでした。
「当たり前じゃん。こうして足を止めてるのが証拠ってことで」
なんだそりゃ、我ながら下手くそな返しだ。
「ん~? じゃあ……」
な、なんですか?
そんな上目遣いに覗き込まないでくれ。
ていうか気持ちの追及だけは勘弁して欲しいんですけど……。
「な、何かな?」
「ん~とぉ……そうですねぇ……」
それは一体何の溜めなんですか?
女の子の方が精神的な成熟は早いと聞いたけど、こういうことなのか?
歳が近ければ心理操作もお手の物なんですか?
「ず、随分焦らすね。雪菜ちゃん」
「考えてるんです。もしお兄さんと付き合ったらって」
「あ、そうなんだ~。ふ~ん、へぇ…………はい?」
「あ、そうだ。今度散歩しましょうよ。私んち犬飼ってるんで、一緒にどうですか? あと、番号教えてください」
あれ?混乱しているのは俺だけかな?
俺と付き合う?犬の散歩?番号?
女っていつも何考えてるの?
頭の中をぐちゃぐちゃにする作戦ですか?
恐るべしお嬢様……いや、もはや女全体か……。
しかし、ここで呑まれる俺ではない。
こっちだって様子見してやるさ、翻弄されるのもここまでだ。
余裕の態度でこっちが品定めしてやるわ。
それにこれは弟に近づく為かも知れないしな。
ていうかその線が濃厚と見てまず間違いないだろう。
「いいよそのぐらい、行こうよ」
「やった~! じゃあ、今度この日が学校早く終わるんで……」
◆◆◆◆◆◆
「それじゃまたね~」
「は~い、お兄さんまた~!」
俺はその後彼女と番号を交換し、何故か犬の散歩に付き合う約束をして別れた。
クソ……なかなか手強い女だ。
終始マイペースというのだろうか?
自分のペースに巻き込むのがあの子の得意技の様だな。
今回はまんまとしてやられたが、次はそうはいかんぞ。
自宅の玄関に近づくと夕飯のいい匂いが鼻腔をくすぐった。
「ただいま~、めっちゃいい匂いだね~」
「あら、いつもよりちょっと遅かったじゃない?」
「そ、そうかな? それよりも腹減ったよ」
「ふ~ん……女ね」
我が母よ、今まで半信半疑だったが、俺は女の勘てやつを信じる気になったよ。
「ま、まあね。そんなとこ」
「あんたは大体いつも振り回されるタイプなんだから、気を付けなさいよ~」
もうなんなの。
そんなに俺ってわかりやすいの?
「わ、わかってるよ! 先に風呂入る!」
「フフ、はいはい。今日はあんたの好きなチンジャオロースよ~」
「お、ラッキー! りょうか~い」
と、そういえば秀人のやつにはなんて言おう。
リビングから廊下を進み、ドアの開いている自室を覗くと、秀人が食い入るようにモニターを見つめ、パレスト2のコントローラーを握っていた。
「お、兄貴おかえり~」
「おう、ただいま~」
弟とは同部屋で、どうやら最近2人してハマっているゲームに熱中しているようだった。
ま、とりあえず今はスルーでいいか……風呂風呂。
「聞いたよ~。犬の散歩一緒に行くんだって?」
「は、早ぇ……」
「何が?」
「いや、なんでもないよ」
いや待て待て、これもお嬢様の仕込んだ秀人に嫉妬させる作戦の一環に違いない。
そんなので俺が動揺してどうする。
「ま、頑張って」
「……へいへい。後で俺も混ぜるわ」
「お、じゃあこのステージマジでキツいから急いでね~」
「ハッ、そこなら余裕だから任せとけ」
「お、マジで? じゃあ尚更急いで」
「わかったから急かすなよ。後でな」
「…………」
もう聞いてねぇし。
それにしても散歩ね……どんな格好していけばいいのかな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続きが超気になります。どーなるんだろー
お待たせ致しました。続き書きましたm(_ _)m