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002_第四王女
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002_第四王女
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さて、今日は王立レイジング学園の入学試験日だ。
貴族はもとより平民も入学試験に受かれば、入学できる。
入試の成績が良ければ学費は免除されるが、貴族はそういった金銭的な優遇を受けることはない。
学費の免除は平民枠なのだ。平民の中でもあまり裕福ではない者に、こういった制度が行き渡るように貴族は辞退するのが一般的だ。貴族でも貧乏な家はいくらでもあるが、そこは見栄や虚栄心が邪魔をして学費を払うのだとか。
「あなたが、ボルフェウス公爵家のスピナー殿ですね」
学園内を歩いていると、不意に声が欠けられた。
振り向くと、明るい紫の髪が特徴的な美少女が居た。瞳の色が金に赤が混ざっているのは、王家の特徴だ。
俺は跪いてその美少女に頭を下げた。
「始めて御意を得ます。私はボルフェウス公爵が四男、スピナーと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
この美少女は第四王女、リーン様だろう。
人違いだととても恥ずかしいが、パパから聞いていたリーン様の特徴に合致する。
それにリーン様は俺と同じ年齢だったはずだから、この場に居て不思議はない。
ちなみに、俺は四男ということを盾に、社交界には顔を出していない。
パパはパーティーに出ろと言うが、貴族には面倒な奴が多いそうなので断固として断っている。
その交換条件ではないが、学園に通うのは絶対だと言われていた。
「わたくしのことは知っているようね。第四王女のリーンよ」
一応、俺の婚約者候補。パパが断りにくそうにしていたので、俺から断られるように仕向けるつもりだ。
婚約しても破棄されればいい。時間はまだあるのだから。
「楽にしなさい」
「はい」
立ち上がると視線をやや上に向ける。
9歳だと女の子のほうが発育が良いようで、俺よりも5センチ程背が高い。
良く見ると本当に美少女だ。視線がややキツいが、マイナス要因ではない。
「わたくし、あなたとの婚約は承知してないわ。婚約者面しないでくださるかしら」
えー、婚約を申し込まれたのは、俺のほうだよね。
でも、本人がこう言っているのだから、これはチャンスだ!
「「姫様!?」」
リーン様の後ろに控えていた執事と護衛の騎士が、声を揃えてリーン様を窘めた。
しかし6人も従者を引き連れて歩くなんて、正気のさたではない。俺なら、速攻で逃げてやる状況だ。
「承知しました。以後、お見かけしましても、声などをかけぬように心がけます」
このチャンスを逃してなるものかと、俺はリーン様の言葉を了承した。
これでパパにも良い報告ができる。
リーン様から断って来たのだから、大手を振ってお断りができるというものだ。
「あいや、しばらく!」
騎士が前に出た。
帯剣しているが、鎧は着てない。近衛騎士用の真っ赤な軍服を着ている20歳程の女性だ。
「姫の今の発言は公式なものではありません。スピナー様」
必死に取り繕おうとしているのが分かる。
国王はこういう判断ができる騎士をつけていたようだけど、王女が考えなしだと優秀な騎士でもフォローできないよね。
執事のほうも姫に「なりません、姫様」とか言っているけど、言葉というものは一度発したら最後、引っ込めることはできないんだよ。
「あなたは近衛騎士様ですか」
俺は冷静に、ゆっくりと騎士に名を名乗れと促す。
「これは失礼しました。私は近衛騎士団所属、メリル・パルマーと申します」
彼女は慌てて名を名乗った。
俺にその気がなくても、公爵家のネームバリューは俺について回る。
パパがその気になれば、近衛騎士の1人や2人や10人くらいは簡単に首を斬れる。物理的に。ウチのパパはそんなことをしない人だけどね。
「近衛騎士のパルマー様に、王女殿下の発言を否定する権限があるとは初めて聞きました。今時の近衛騎士団には絶大な権力があるようですね」
「そ、それはっ!」
「そもそも公式とか非公式とか関係ないのです。リーン様は私との婚約を望んでいないのですから、私はそのことを父に報告するだけです。あとは、お互いの父親同士が話し合いで決着をつけることだと思いますよ」
こんなチャンスが転がり込んできたんだ。絶対に逃してなるものか。
「で、ですから……」
俺の言葉くらいいくらでも反論できると思うが、この騎士パルマーは口ごもってしまった。ここは畳みかけておこう。
「リーン様。これから試験の時間になります。以後はお声をかけることのないように心がけますので、これにて失礼いたします」
「「「………」」」
俺はリーン様一行に慇懃に礼をし、背を向けてその場を立ち去った。
スキップしたいほど心が躍っていたが、なんとか押さえ込んだよ。
「今ので婚約話をなしにできるとか思っているのですか?」
「なしに出来るというより、なかったことにするんだよ」
こいつは俺の従者のロック。同じ年齢で立派な体躯をした赤毛の少年だ。将来はさぞ女にもてるんだろうな。そんなことで羨むことはないから構わないけど。
「またご当主様が苦労なさいますね」
「そこは親としてがんばってもらうしかないな」
ロックが俺の従者になったのが5歳の頃だから、かれこれ4年以上の付き合いか。
最近は俺の考えをよく理解してくれるようになったが、貴族側の考えが抜けてない。
貴族の間では奇人変人として有名な俺のことを、ここまで分かってくれているだけでもロックには感謝しているよ。
さて、入試などかったるいが、パパとの約束だ。手を抜かずに合格するとしますか。
002_第四王女
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さて、今日は王立レイジング学園の入学試験日だ。
貴族はもとより平民も入学試験に受かれば、入学できる。
入試の成績が良ければ学費は免除されるが、貴族はそういった金銭的な優遇を受けることはない。
学費の免除は平民枠なのだ。平民の中でもあまり裕福ではない者に、こういった制度が行き渡るように貴族は辞退するのが一般的だ。貴族でも貧乏な家はいくらでもあるが、そこは見栄や虚栄心が邪魔をして学費を払うのだとか。
「あなたが、ボルフェウス公爵家のスピナー殿ですね」
学園内を歩いていると、不意に声が欠けられた。
振り向くと、明るい紫の髪が特徴的な美少女が居た。瞳の色が金に赤が混ざっているのは、王家の特徴だ。
俺は跪いてその美少女に頭を下げた。
「始めて御意を得ます。私はボルフェウス公爵が四男、スピナーと申します。以後、お見知りおきくださいませ」
この美少女は第四王女、リーン様だろう。
人違いだととても恥ずかしいが、パパから聞いていたリーン様の特徴に合致する。
それにリーン様は俺と同じ年齢だったはずだから、この場に居て不思議はない。
ちなみに、俺は四男ということを盾に、社交界には顔を出していない。
パパはパーティーに出ろと言うが、貴族には面倒な奴が多いそうなので断固として断っている。
その交換条件ではないが、学園に通うのは絶対だと言われていた。
「わたくしのことは知っているようね。第四王女のリーンよ」
一応、俺の婚約者候補。パパが断りにくそうにしていたので、俺から断られるように仕向けるつもりだ。
婚約しても破棄されればいい。時間はまだあるのだから。
「楽にしなさい」
「はい」
立ち上がると視線をやや上に向ける。
9歳だと女の子のほうが発育が良いようで、俺よりも5センチ程背が高い。
良く見ると本当に美少女だ。視線がややキツいが、マイナス要因ではない。
「わたくし、あなたとの婚約は承知してないわ。婚約者面しないでくださるかしら」
えー、婚約を申し込まれたのは、俺のほうだよね。
でも、本人がこう言っているのだから、これはチャンスだ!
「「姫様!?」」
リーン様の後ろに控えていた執事と護衛の騎士が、声を揃えてリーン様を窘めた。
しかし6人も従者を引き連れて歩くなんて、正気のさたではない。俺なら、速攻で逃げてやる状況だ。
「承知しました。以後、お見かけしましても、声などをかけぬように心がけます」
このチャンスを逃してなるものかと、俺はリーン様の言葉を了承した。
これでパパにも良い報告ができる。
リーン様から断って来たのだから、大手を振ってお断りができるというものだ。
「あいや、しばらく!」
騎士が前に出た。
帯剣しているが、鎧は着てない。近衛騎士用の真っ赤な軍服を着ている20歳程の女性だ。
「姫の今の発言は公式なものではありません。スピナー様」
必死に取り繕おうとしているのが分かる。
国王はこういう判断ができる騎士をつけていたようだけど、王女が考えなしだと優秀な騎士でもフォローできないよね。
執事のほうも姫に「なりません、姫様」とか言っているけど、言葉というものは一度発したら最後、引っ込めることはできないんだよ。
「あなたは近衛騎士様ですか」
俺は冷静に、ゆっくりと騎士に名を名乗れと促す。
「これは失礼しました。私は近衛騎士団所属、メリル・パルマーと申します」
彼女は慌てて名を名乗った。
俺にその気がなくても、公爵家のネームバリューは俺について回る。
パパがその気になれば、近衛騎士の1人や2人や10人くらいは簡単に首を斬れる。物理的に。ウチのパパはそんなことをしない人だけどね。
「近衛騎士のパルマー様に、王女殿下の発言を否定する権限があるとは初めて聞きました。今時の近衛騎士団には絶大な権力があるようですね」
「そ、それはっ!」
「そもそも公式とか非公式とか関係ないのです。リーン様は私との婚約を望んでいないのですから、私はそのことを父に報告するだけです。あとは、お互いの父親同士が話し合いで決着をつけることだと思いますよ」
こんなチャンスが転がり込んできたんだ。絶対に逃してなるものか。
「で、ですから……」
俺の言葉くらいいくらでも反論できると思うが、この騎士パルマーは口ごもってしまった。ここは畳みかけておこう。
「リーン様。これから試験の時間になります。以後はお声をかけることのないように心がけますので、これにて失礼いたします」
「「「………」」」
俺はリーン様一行に慇懃に礼をし、背を向けてその場を立ち去った。
スキップしたいほど心が躍っていたが、なんとか押さえ込んだよ。
「今ので婚約話をなしにできるとか思っているのですか?」
「なしに出来るというより、なかったことにするんだよ」
こいつは俺の従者のロック。同じ年齢で立派な体躯をした赤毛の少年だ。将来はさぞ女にもてるんだろうな。そんなことで羨むことはないから構わないけど。
「またご当主様が苦労なさいますね」
「そこは親としてがんばってもらうしかないな」
ロックが俺の従者になったのが5歳の頃だから、かれこれ4年以上の付き合いか。
最近は俺の考えをよく理解してくれるようになったが、貴族側の考えが抜けてない。
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