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場面1
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「たすけてっ、だれかたすけてぇ」
「へ、声?」
とつぜんひめいが聞こえて、スズ子はハッと立ちどまった。
朝の通学路は、ランドセルをしょった生徒でいっぱいだった。
「へ、なに? どこどこ?」
けれど、ほかのみんなはひめいに気がついていないようだった。
「たすけてぇぇ」
「やっぱり、声がする。ど、どこですかー?」
「ここよ、ここ。ガードレールの、下ーっ」
「へええ!」
その声に、いっしゅんスズ子はドッキリかと思った。
「ええ、どうしよう。声はやっぱり、自分にしか聞こえていないみたいだし……うーん、まさかねぇ」
ほんとうにガードレールの下なら、小人だってことになる。
「きのう、算数ドリルやりすぎたかなぁ」
「ブツブツ言ってないで、はやく! はやくしないと、あたし、車にひかれちゃうぅ」
「きっと、わたしはつかれてるんだぁ。あーあー」
やっぱりこわかったから、スズ子はカラスのように鳴いた。
こんなことなら、クラスのだれかのイタズラであってほしい。
「もーお。わたし、そっちけいは、にがてなのにぃ」
「ほら、はやくしなさいってぇ」
しかたなく、ビクビクしながらも、スズ子はガードレールの下を見まわした。
「そう。ほら、ここよ」
ガードレールの下には、スマホがせをむけて落っこちていた。
「さっさとひろってぇ」
「へえええ! うそだぁ。スマホって、ベラベラしゃべるっけ?」
「うそじゃないわ。ほら、はやくぅっ!」
なんど耳をうたがっても、スズ子に話しかけてくるのはそのスマホからだった。
「あー、やっぱりつかれてるんだ。社会のテストも、六十点だったからなぁ。あーあー」
けっきょくまよったあげく、スズ子はスマホに手をのばした。
はじめてのスマホに、すこしだけきょうみがあったのだ。
ドキドキ。
「うわ、かるーい。スマホって、こんななんだぁ」
おそるおそるスマホをひろったスズ子は、ビクビクワクワクしながら画面をのぞいた。
パッ、ジャジャジャーン!
するととつぜん、えきしょう画面にえいぞうがながれた。
「たすけてくれて、どうもありがとう」
「ひっ、へ、へえ」
なんと画面のなかに、アーモンドがたの大きな目をした女の子があらわれたのだ。
「あたしはアンドーロイコ。ロイちゃんよ」
「ロイちゃん? へ、へえ……わたしは、井上スズ子」
「スズちゃんね、よろしく」
にこりとしたロイちゃんは、画面のなかであざやかにまわった。
「へ、ウインク? は、はじめてだぁ」
「スズちゃんは、命のおんじんよ。だってあとすこしで、あたしの人生はペシャンでグッバイだったもん」
かわいく、かたをすくめるロイちゃんは、アニメの世界の人のような、ピンク色のドレスをまとっていた。
キラキラキラ!
動くたびに、いちいち体のまわりで光がはじけていく。
「あーあー。スマホって、こんなだっけぇぇ……。あ、そうだ。と、とにかく、けいさつにとどけなきゃ」
「交番はいやよ、いやいや! だって、あそこにはろうやがあるんだもんっ。ろうやは、悪いことした人が、入るのよっ」
「ち、ちがうって。わたしはただ落とし物を」
「いやよ、いやいやっ。あたしはとっても良い子だもんっ。ロイちゃんは、すっごくかわいい女子だもんっ」
「じ、自分で言うかな……」
ピいいっ、ピロピロっ!
するといきなり、スマホからぼうはんベルのような、ものすごい音が鳴りひびいた。
「いやよっ、いや! イジワルするなら、もっと泣いちゃうもんっ!」
ビビビッ、ビイイイイイッ!
「ひ、ひいいぃ」
さすがにその音に、小学校へとかけていくランドセルのだん体が、通学路でいっせいに耳をふさいだ。
「ぎゃああ!」
「うちゅう人のこうげきだあ!」
ばく音のせいで、あたりはもう大パニックだ。
「わ、わかったからっ、どうか、そのベルをとめてぇ」
耳に指をつっこみながら、スズ子はロイちゃんにお願いした。
ビビビッ、グスグス、ビイっ。
「ぐす、ぐすぐす……」
「ろうやには行かないから。だからもう泣かないでぇ」
「ほんとに、ろうやにブチこまないって、約束する?」
ビビッ、グスグス。
「約束、約束よっ、ウソついたらっ、わたしがハリセンボンのろうやに入ってあげるからぁ、それで、どぉ?」
キラキラキラ!
「よかったー。これで、あたしたちはお友だちね」
「はー、たすかったぁ。あとすこしで、わたしもグッバイするとこだったぁ。それにしても、スマホってこんなだっけぇ……あれっ、みんなは?」
気がつくと、通学路にはもうだれもいなかった。
「うちゅう人て、ほんとに最強なんだぁ。学校、いくぅ?」
「もっちろん」
「だよねぇ」
スマホをじっと見つめるスズ子は、しばらく想ぞうにあけくれた。
「ふー。スマホがバレたら、先生にブッ飛ばされるかなぁ」
「学校、学校、たのしみ、うふふっ」
さんざんまよったあげく、スズ子はスマホをにぎりしめた。
「わたしだって、スマホデビューしたいもん。あーあー」
こうして、スズ子はドキドキしながらも、ロイちゃんを小学校につれていくことにした。
「へ、声?」
とつぜんひめいが聞こえて、スズ子はハッと立ちどまった。
朝の通学路は、ランドセルをしょった生徒でいっぱいだった。
「へ、なに? どこどこ?」
けれど、ほかのみんなはひめいに気がついていないようだった。
「たすけてぇぇ」
「やっぱり、声がする。ど、どこですかー?」
「ここよ、ここ。ガードレールの、下ーっ」
「へええ!」
その声に、いっしゅんスズ子はドッキリかと思った。
「ええ、どうしよう。声はやっぱり、自分にしか聞こえていないみたいだし……うーん、まさかねぇ」
ほんとうにガードレールの下なら、小人だってことになる。
「きのう、算数ドリルやりすぎたかなぁ」
「ブツブツ言ってないで、はやく! はやくしないと、あたし、車にひかれちゃうぅ」
「きっと、わたしはつかれてるんだぁ。あーあー」
やっぱりこわかったから、スズ子はカラスのように鳴いた。
こんなことなら、クラスのだれかのイタズラであってほしい。
「もーお。わたし、そっちけいは、にがてなのにぃ」
「ほら、はやくしなさいってぇ」
しかたなく、ビクビクしながらも、スズ子はガードレールの下を見まわした。
「そう。ほら、ここよ」
ガードレールの下には、スマホがせをむけて落っこちていた。
「さっさとひろってぇ」
「へえええ! うそだぁ。スマホって、ベラベラしゃべるっけ?」
「うそじゃないわ。ほら、はやくぅっ!」
なんど耳をうたがっても、スズ子に話しかけてくるのはそのスマホからだった。
「あー、やっぱりつかれてるんだ。社会のテストも、六十点だったからなぁ。あーあー」
けっきょくまよったあげく、スズ子はスマホに手をのばした。
はじめてのスマホに、すこしだけきょうみがあったのだ。
ドキドキ。
「うわ、かるーい。スマホって、こんななんだぁ」
おそるおそるスマホをひろったスズ子は、ビクビクワクワクしながら画面をのぞいた。
パッ、ジャジャジャーン!
するととつぜん、えきしょう画面にえいぞうがながれた。
「たすけてくれて、どうもありがとう」
「ひっ、へ、へえ」
なんと画面のなかに、アーモンドがたの大きな目をした女の子があらわれたのだ。
「あたしはアンドーロイコ。ロイちゃんよ」
「ロイちゃん? へ、へえ……わたしは、井上スズ子」
「スズちゃんね、よろしく」
にこりとしたロイちゃんは、画面のなかであざやかにまわった。
「へ、ウインク? は、はじめてだぁ」
「スズちゃんは、命のおんじんよ。だってあとすこしで、あたしの人生はペシャンでグッバイだったもん」
かわいく、かたをすくめるロイちゃんは、アニメの世界の人のような、ピンク色のドレスをまとっていた。
キラキラキラ!
動くたびに、いちいち体のまわりで光がはじけていく。
「あーあー。スマホって、こんなだっけぇぇ……。あ、そうだ。と、とにかく、けいさつにとどけなきゃ」
「交番はいやよ、いやいや! だって、あそこにはろうやがあるんだもんっ。ろうやは、悪いことした人が、入るのよっ」
「ち、ちがうって。わたしはただ落とし物を」
「いやよ、いやいやっ。あたしはとっても良い子だもんっ。ロイちゃんは、すっごくかわいい女子だもんっ」
「じ、自分で言うかな……」
ピいいっ、ピロピロっ!
するといきなり、スマホからぼうはんベルのような、ものすごい音が鳴りひびいた。
「いやよっ、いや! イジワルするなら、もっと泣いちゃうもんっ!」
ビビビッ、ビイイイイイッ!
「ひ、ひいいぃ」
さすがにその音に、小学校へとかけていくランドセルのだん体が、通学路でいっせいに耳をふさいだ。
「ぎゃああ!」
「うちゅう人のこうげきだあ!」
ばく音のせいで、あたりはもう大パニックだ。
「わ、わかったからっ、どうか、そのベルをとめてぇ」
耳に指をつっこみながら、スズ子はロイちゃんにお願いした。
ビビビッ、グスグス、ビイっ。
「ぐす、ぐすぐす……」
「ろうやには行かないから。だからもう泣かないでぇ」
「ほんとに、ろうやにブチこまないって、約束する?」
ビビッ、グスグス。
「約束、約束よっ、ウソついたらっ、わたしがハリセンボンのろうやに入ってあげるからぁ、それで、どぉ?」
キラキラキラ!
「よかったー。これで、あたしたちはお友だちね」
「はー、たすかったぁ。あとすこしで、わたしもグッバイするとこだったぁ。それにしても、スマホってこんなだっけぇ……あれっ、みんなは?」
気がつくと、通学路にはもうだれもいなかった。
「うちゅう人て、ほんとに最強なんだぁ。学校、いくぅ?」
「もっちろん」
「だよねぇ」
スマホをじっと見つめるスズ子は、しばらく想ぞうにあけくれた。
「ふー。スマホがバレたら、先生にブッ飛ばされるかなぁ」
「学校、学校、たのしみ、うふふっ」
さんざんまよったあげく、スズ子はスマホをにぎりしめた。
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こうして、スズ子はドキドキしながらも、ロイちゃんを小学校につれていくことにした。
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