夢なしアカネ、地球へ行く!

泉蒼

文字の大きさ
16 / 17
第十六章

地球とお別れ

しおりを挟む
地球滞在もあとわすか――。
残った時間のさいごをつかっておとずれたのは、「北極ミュージアム」でした。
そこでは、本物のオーロラを見ることができました。
「うわあ、空にカーテンがかかってるみたい」
 銀河遊園地にきてからずっと演奏の練習に明け暮れていたカレンちゃんは、北極ミュージアムの空を見あげて、青と緑のオーロラに息をのみました。
「ねえ、見て。地面は雪だよ。わっ、冷たい」
 アカネは真っ白につもった雪に手を突っこみました。
 すると、ピンポーンパーンと館内のお姉さんの声が聞こえてきたのです。
「オーロラとは、地球の大気と太陽風との、摩擦で起きる現象なのですよ」
「摩擦かぁ」
アナウンスを聞いて、アカネは感心しました。
そんなアカネに、カレンちゃんは不思議そうに首をかしげたのです。
「アカネちゃん、どうしたの?」
「うんとね」聞かれたアカネは、照れくさそうに答えました。「なんだかね、パパが大気で、ママが太陽風に見えてきちゃったんだ」
「大気と、太陽風?」
「うん。パパね、ここにきてからさ、ずっとママの手をにぎってるでしょう」
二人は、雪ダルマのちかくでオーロラを見あげる、パパとママに目をやりました。
「パパの瞳がなんだか涼しげで、見てると地球の大気のようだなあって」
 アカネの言葉に、カレンちゃんは笑顔になりました。
「あ、なるほど! そういえば、アカネちゃんのママも顔が真っ赤だね。きっとパパさんに手をにぎられてるから、頬がアツくなってるんだよ、うふふ」
「だよね……。うつむいたママの顔なんて、ほら、どう見たって太陽みたいでしょう」
「アハハ。だから大気と太陽風か、フフ」
 そこでアカネは、二人を見て浮かんだ一句をつぶやきました。
「パパとママ、ケンカもするが、美しい」
「わあ、アカネちゃんて俳句の天才だね」
アカネの目には、また元の仲良しにもどってくれたパパとママのすがたが、いつも以上にキラキラとしてうつっていたのでした。
「でも、ここでイチャイチャしなくてもなぁ……」
アカネは二人を見ていて、だんだんとお腹がこそばゆくなってきました。
(おーい、カレンちゃんもいるんだぜ!)
アカネは二人にむかって、心のなかでそう念じてみました。けれど、パパとママの世界には、まるで届いていきそうにはありませんでした。
(もう……)
 だからアカネは、ただ時間が過ぎていくのをじっと待つしかありませんでした。
そのとき、カレンちゃんがアカネにこんなことをたずねてきたのです。
「アカネちゃん、ケンタくんの発明は、どうだった?」
「え、発明?」
 ポカンと口をあけるアカネに、カレンちゃんも「あれ?」と首をかしげました。
「そういえばケンタ。自分で大発明家なんて言っておきながら、あたしにはまだ一つも発明品を見せてくれてないよ」
「でもその麦わら帽子は、ケンタくんからもらったんでしょう?」
「あ、これ? ううん、あずかってるだけなんだ」アカネは首をふりました。「麦わら帽子は、宇宙旅行が終わったら、ちゃんとケンタに返すって約束をしてるの」
「あ、そうなんだ……」
 そこで、カレンちゃんは意味ありげに口をとじたのでした。
 しばらく考えこんだように黙ると、カレンちゃんはポツリと言いました。
「ケンタくん、がんばれだね」
「え、なんのこと?」
「ううん、なんでもない」カレンちゃんが、アカネの手をにぎりました。「もうすぐ、地球とお別れだね。ゼッタイにまた、銀河遊園地に遊びにきてね」
「うん。またゼッタイに遊びにくるからね」
「わたしとアカネちゃんは、ずっと友だちだから」
「うん! ずっとずっと、友だちだよ!」
 アカネとカレンちゃんは、お別れを惜しむように、おたがいの顔を見つめました。
 そこに偶然、青と緑のオーロラのすぐ脇を、大きな流れ星が走っていったのです。
「わあっ、すぐに願いがっ、叶っちゃいそうだっ!」
「ウフフ、アカネちゃんたら」
「プッ、あっはは」

「楽しかったなあ、銀河遊園地」
 その日の夕方に、予定どおりアカネたちは、自分たちの星へと旅立つことになりました。
 ブイイイィィン、ズッギュウウウッン!
 桜木家の赤い車は、無事に地球の大気圏を突き抜けていったのです。
宇宙に飛びだすと、すぐに車が、また地球へと接近していきました。
 ギュイイインッ!
「パパ、車が地球に引き寄せられてるよ!」ちかづく地球にアカネはあわてました。「このままだと、また地球にもどっちゃうよ!」
 そんなアカネの言葉に、パパは不敵に笑ったのです。
「だろ、そう思うよな? ふふふ、でも違うんだよな」
「え、どういうこと?」
「スイングバイで、帰るってことだよ。ふっふっふっ」
「わかんないよ。なにそれ?」とアカネがまた聞くと、「うん、そうね。地球の引力を利用して、桜木家の車の軌道と速度を修正して、わたしたちの惑星へと、送りだしてもらうってことかなー」と、こんどはママが教えてくれました。
「軌道と速度……」
しかしアカネには、その意味がさっぱりわかりませんでした。
「ねっ、パパ」
そんなアカネをよそに、
「うんうん。そうだよ、ママ」
とハンドルをにぎったパパが、なんどもママにうなづいていたのでした。
 アカネはまだまだ、二人の世界には入っていけそうにありませんでした。
「もう、二人だけの秘密みたいにしないでよ! ブー」
「あはは、うふふっ」
(まったくぅ。オーロラを見てから、やけに仲良しなんだからぁ)
 ブツブツと心のなかでつぶやくアカネでしたが、桜木家はいま、宇宙旅行が始まる前にくらべて、家族の仲がずっとずっと良いことにも気がついていたのでした。
「だから、まあ、いっか」
 シュウイイィィンッ!
 そのとき、桜木家の車が、地球をかすめるようにして宇宙を走り抜けました。
 ガタガタガタッ……グン、グウウゥウン……ブゥーッ、ブッポッオーンッ!
そしてすぐに、車は地球の公転軌道から、そっと弾きだされていったのです。
大きくて力強い、そしてやさしい力を、アカネは背中に感じていたのでした。
アカネは、車のなかから、地球に大きく手をふりました。
「いつかまた、ゼッタイに遊びにくるよ! それまで、バイバーイ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

勇者と聖女の息子 アレン ランダムスキルを手に入れて愉快に冒険します!

月神世一
児童書・童話
伝説のS級冒険者である父と、聖女と謳われた母。 英雄の血を引く少年アレンは、誰もがその輝かしい未来を期待するサラブレッドだった。 しかし、13歳の彼が神から授かったユニークスキルは――【ランダムボックス】。 期待に胸を膨らませ、初めてスキルを発動した彼の手の中に現れたのは…プラスチック製のアヒルの玩具? くしゃくしゃの新聞紙? そして、切れたボタン電池…!? 「なんだこのスキルは…!?」 周りからは落胆と失笑、自身は絶望の淵に。 一見、ただのガラクタしか出さないハズレスキル。だが、そのガラクタに刻まれた「MADE IN CHINA」の文字に、英雄である父だけが気づき、一人冷や汗を流していた…。 最弱スキルと最強の血筋を持つ少年の、運命が揺らぐ波乱の冒険が、今、始まる!

処理中です...