たとえ月しか見えなくても

ゆん

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第一部

最初に戻ってきたのは、後頭部の髪の毛をまさぐる透の指の感触。

はっと目を開けると、その指は僕の背骨をゆっくりと辿って降りていき、腰まで来ると今度は肩甲骨と肩甲骨の間を結ぶように横に滑った。



「何……?」



意味ありげな動きに訊ねると、「黒十字」と透が気怠げに答えた。

透はまだ僕の中に入ったままだ。

まだ衰えることなく僕のソコを拡げ、時折びくびくと揺れる。



「話に聞いたことしか無かったけど。ほんとに出るんだな」

「あ、背中?」

「うん。俺も出てるんだろうな。背筋に沿ってすごい衝撃走ったし」



番になると現れるという黒い十字架型の痣。

実は僕も一度も見たことがなくて、聞いた時はなんとなく不吉だな、なんて思ったものだけど。

身じろいで透を僕から抜き、「背中見せて」と振り返ると、ティッシュでゴムを取った透が僕に背を向けた。



「ほんとだ……」



確かにあった。広い背中にぼんやりと黒い、幅広の十字の線。なんか透にあるとカッコイイな……



「ロックバンドのボーカルとかやってそう」



僕がそう言うと、透はなんだそれ、と笑ってベッド脇へ立ち上がった。



「シャワー浴びてくるけど。あんたは寝てる?」



気怠くて、いつもなら寝てるところ。でも今日は離れたくなくて、手を伸ばして起こしてもらった。

互いにハーフパンツだけ履いて、部屋を出る。

ついに番になったのに、全然実感がわかない。いつものセックスの後と同じ感覚で……ただ、心が。これで僕と透は番だ、生涯にこの人だけだと考える僕の心がいつもと違ってた。

透の後ろをついて階段を降りていきながら、彼の十字架と同じものが僕の背中にもあるんだ、と引きの目線で想像してみる。

不思議と不吉さは感じなかった。

むしろエンゲージリングみたい……世界にたった一つの。輪っかじゃないけど、これ以上ない誓い。



「透」



ちょうど階段を降りきった透が、呼び止められて振り返った。

僕はトントントンと最後の段を降りて彼を見上げる。



「フツツカ者ですが、よろしくお願いします」



ぺこっと頭を下げたら、透は「不束者なんて言葉、知ってたんだ」と意地悪な笑みを見せて、僕の肩を抱いて歩き出した。



ふたつ並んだ黒十字。プロポーズされた日に交わした永遠とわの誓い。

僕と透は、今日から同じ道を歩き始める。

遥かな未来、死がふたりを分かつまで。





END

 
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