それはもう愛だろ

ゆん

文字の大きさ
上 下
21 / 31
友郎

友郎くんのひとりごと

しおりを挟む

●トップス

カーキのオーバーサイズシャツ
下に白T

●ボトムス

シャツと同生地のスラックスでセットアップコーデ

●靴

白のアンクルソックス
黒のローファー

●アクセサリー

ゴールドの鎖型ネックレス
右耳 耳たぶにゴールドの小さい円形ピアス
左耳 耳たぶに右と揃い+耳介にシルバーの粒ピアスを縦にふたつ

◎補足◎

松下友郎 30歳 178センチ 細マッチョ 
口から顎にかけて無精ひげ
愛煙家(ラッキーストライク)
しばしば髪色が変わる。今は茶金、短髪、前髪長め
夏希と同業だが、ウェブデザイン系に力を入れている






 後悔はしないタチ。あ、タチってダブルミーニング?セックスはタチ専でさ。深く考えるっつーのが苦手で、仕事も手ェ動かしながら、身体動かしながら、そうやって仕上げてく。頭ン中だけで色々進めるとかマジ無理だし。

よく考えなさいとか、慎重にやりなさいとか。うっせーっての。考えても変わんねーよ。慎重って、ただトロいだけじゃねーかって……俺にしてみたらさ。

 まぁそんなわけで、思うままに突き進んで外から見りゃ失敗って分類される案件も多いっちゃ多いんだけど、いいんだよ。やりたいようにやりたいんだから、人からとやかく言われてその通りにやって無難な成功を収めるより、痛い目見たって好きにやりたい。そういう性分。

 だからさ、後悔なんか俺の辞書にねぇって断言出来たんだよ。夏希と別れるまではさ。



 大学にいた頃から夏希とは仲が良かったけど、でも最初はただの同期ってだけだった。あいつは完全にインドア派で、俺は止まったら死んじまうアウトドア派。仲がいい友達も休日の過ごし方も全然違うし、接点ってのがなかった。

 それが、たまたま一緒になった飲み会で、何故かウマが合ったんだよなぁ。飲みの相手としちゃ最高だった。個性的なヤツが多い同期の中でも群を抜いておしゃれで綺麗だったし、聞き上手っつーの?喋っててすげー楽しくてさ。

 下に4人も弟がいて面倒見がいいからなのかしんねーけど、よく気が付いてスマートに世話してくれんの。お節介感ゼロで。

 俺、割と惚れっぽいからさぁ、その夜の別れ際には付き合ってって言ってたと思う。あいつ、カミングアウトしてなかったからそりゃあびっくりしてて……でも、そんときはキッパリ断られた。友達のままでいたいって。

 俺や俺の周りの連中との付き合いで開き直ったのかその後から夏希はゲイだってことを隠さなくなって、だから俺もおおっぴらに口説き続けて、あいつが先輩と付き合い始めてもちょっかい出して、でももちろんその最中もせっせと遊んでたから、あいつにはどこまで本気か分かんねぇって苦笑いされたりした。



 俺は我がままだ。自分の中に生まれたものに正直でいたいってガキみたいな思いが消えずに残ってて、だから好きだとか、抱きたいとか、そーゆー気持ちをひとつも我慢しなかった。

 当然、特定の誰かと付き合うとか、そんなの早々に破綻した。それで良かったんだ。形を生み出して、破壊する。望むところだった。俺は後悔しない。傷ついても、傷つけても。

 それが……大学を卒業した年、夏希が先輩と別れてひどく落ち込んだのにつけ込んだ時。あいつは傷心を抱えて「浮気しないなら付き合う」という条件を出して来た。

 即了解したよ、そんなもん。付きあえりゃなんだっていいって思ったし、やっぱそこは俺も頭わりぃからさ、なんとでもなると思ったんだよ。付き合っちまえば。

 サイッコーだったね。抱きたくて抱きたくてたまんないの、ずっと我慢してたしさ。今まで以上に夢中になった。休みの日は一日に何度も抱いて、あいつが腰が立たねぇってお預け食らわしてきても、粘って頼んでまた抱いてさ。

 夏希のメシが食いたいとか、夜中に今から逢いたいとか、色々我がまま言った。それをブツブツ文句言いながら聞いてくれて、ウチに来れば掃除をしてくれて、なんかさ……すげぇ心地よかったんだよ。楽チンだったから、その微妙で繊細な気持ちは、自分の我がままの陰に隠れちまったけど。




 付き合い始めてひと月かふた月か……そのくらい経った頃に仕事の出張先で浮気した。浮気っつーか……飲み屋で出会ったヤツと意気投合して寝たってだけなんだけど、それを世間一般では浮気って言うって知りつつ、いーじゃんいーじゃんって。

 もちろん出張から帰る頃には忘れてるような関係。連絡先も交換してないし。でも、たまたま出張帰りの夜に逢った夏希は気づいた。

「お前、浮気した?」

 そう訊かれて、一瞬いや、と首を振った。それは俺の中じゃあ浮気じゃなかったからピンと来なかっただけなんだけど、その後、そういや他のヤツと寝たわと思い至って頷いた。

「どっちなんだよ」
「浮気じゃねーけど、他のヤツと寝た」

 夏希はほんの少しだけ傷ついた顔をして、その次には大きなため息を一つついて「約束しただろ」と俺を睨んだ。その目がさ、すげー愛情感じたっつーか……あ、もう許してくれるつもりって、瞬間に分かったっつーか。

 謝って、もうしねぇって約束して、なんかそういう優しいとこに触れたら無性に抱きたくなって、抱いてさ。すっげぇ好きだなぁって、奥までしみ込む感じにさ。それは明らかに大事なもんだったのに、柔らかで掴もうとすれば消えるような不確かなそれに気付かずに、最高の射精感に取って変わられたんだよ。クズだよな。

 そんなこと、3回か4回か繰り返して、夏希から引導を渡された。後で思い返して分かったんだけど、あんなにしつこく口説き続けたの、夏希だけだったんだよな。あちこちで暇さえありゃあナンパしてたから、そんな簡単なことにも気づかなかったんだけどさ。

 つまり、夏希だけが特別だったんだよ。それが分かった時には、夏希は哲雄と出逢っちまっててさ。



 後悔なんて、ヒマなヤツがするもんだって持論は翻さざるを得ない。だってどんだけ仕事で忙しくしてようと、あいつを思い出せばなんか胸の奥のどっかが疼くから。

 まぁでも、嬉しそうに哲雄の話をする夏希を見るのは、嫌じゃないんだ。その時感じる気持ちが、あの頃気付かなかったほのかであったかいなんかと似てて……あいつと別れてはっきりと知ったそれが大事なもんだって、今の俺は分かってるからさ。

 あっさり諦めるつもりもねぇけど、今んとこ、友達面で大人しくしとくつもり。それが ”愛” ってやつだろ?なぁ、夏希。



END

しおりを挟む

処理中です...