家族

クラゲEX

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友人日記

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埃くさい部屋だ。
何とも言えない臭いも立ち込めている。
一人暮らしにしても質素過ぎる。家具は必需な物のみ。趣味の本も昔とは比べ物にならない程に減っている。
しかし、部屋は汚く食べカスや容器のゴミが所々に散乱している。
整理のために態々やって来た俺の身にもなって欲しい。
叔父さんが肺が悪くなり入院してからというもの、誰も彼の部屋を見ていないからか、大学時代とはえらい違いだ。やはり彼にとって世話というのは大袈裟だが、見てくれる距離の近い異性や血縁者が必要だったのだ。ただの友人一人では彼の欠けた心を埋め続けられなかった。大学からの付き合いで、俺自身約二十年も交流を続ける程に親しくなるとは思わなかった。大学時代は美貌に加え、頭脳優秀で寡黙な性格から周囲には女を主軸とした輪がいつでもあるような高嶺な存在だった。しかし、喋ってみると案外普通な、いや、寡黙と言うには臆病過ぎると言った弱気な性格の持ち主だった。
性格こそ相容れないものの、本の趣味や話さずとも心地の良い性格から一緒にいることがいない日よりも多い程に増えた。大学卒業からは流石にそれは減ったが、といっても社会人にしてはよく遊ぶ仲であり、二人とも仲の良過ぎるためか他に親しくなれる友人も出来ず、誰が見ても感じるであろう仲の良さの関係に変わりはなかった。
それでも分からないことは沢山あったのだろう。
無ければこんな結末にはならなかった。
もう少し彼の本質に、核心に土足で踏み込むべきだったのだ、悔やんでも悔やみきれない。彼と最後に会ったあの夜、その日まで小汚くとも健康的な様子だった彼は、浮浪者と見違える程に痩せこけ、見窄らしく、生気を感じられぬ、死気を漂わせた風貌だった。
親友なのだから金や健康の心配はするが、彼自身心配は不要だと言うものだから何も言わずに呑み始めた。今思えば、本人が何と言おうとも追及すべきだっただろう。
いつもと何ら変わりない呑み会はいつもの他愛無い趣味や身辺雑記をそのまま読み合わせる様な会話のみで終わってしまった。だが、またここでも俺は取り返しのつかないヘマをした。他愛の無い会話の中でとりとめのある重要な一言を聴き逸らしていたのだ。「お前は家族が好きか?」確かに当時の俺ならその様なことを聞かれても適当な煮え切らぬ哲学紛いの返事をしただろう。しかし、今になって思う。彼の経歴とあの様な神妙なる顔つきで鋭く見つめていたときの心情含め、よく考えて応えるべきだった。「何かあったのか?」と聞くべきだったのだ。だからあの時動けなかった罰として、私は大切な親友を失う羽目になったのだ。


首吊りだった。翌日の夜には括っていたのだと。 
死因はどうしようもなく阿保らしかった。
「彼女に裏切られた。」涙でよれた紙切れにそう書いてあったという。
彼は彼女が出来た当時、嬉しそうに話して来た。
元来、女性には困らない成りをしているが、話の合う人がいないとの一点張りで作ろうとはしていなかった。
だが、条件に合う女性と巡り会えたと言う。運命だと言わんばかりに目を輝かせていた。しかし、俺自身あまりそれは良く思えずにいた。あまりその女性に良い噂を聞かないからだ。やれ男遊びが過ぎるだの、簡単に捨てられるだの、彼は知ってて付き合ってるのか分からない。
そんなこと知っていても聞かれたくはないものだろう。
知らないなら尚更だ。それでも軽く助言はするべきだったのだろう。
その女性が原因で死んでしまったのだから。
その程度で死ぬとは何処まで彼は彼自身の命を軽く見ていたのだろう。いや、分かっている。これは一般論だ。
彼が所謂一般的な道を辿って来た人間なら呆れるところだが、彼はそうではない。
この現代社会に置いてとても稀有な道を辿って来た。
そしてその道は彼の人生観や精神に歪な曲線を作るには充分なものだ。彼の叔父さんから、そして偶に酔った彼の口からこぼれた言葉で、其れはよく分かる。でも言いたくなってしまったのだ。そんなことで死んでは欲しくなかった。彼女が出来たと、嬉しくそしてその先を重く語っていた彼の将来を見たかった。そんな願いはもう叶わないと思うと、やるせない感情で溢れる。私より彼の叔父さんの方がもっと苦しいだろう、あんなにも気にかけていた実の息子のような彼がいないのだから。先が短いと思っていた自分よりも短く終わってしまったのだから。そんな考えが頭をよぎっては思い出すことが多く、全く集中出来ない。一度、外に出るか。
もう日が落ち始めている。この日が落ちてはいなくとも暗くなりはじめの時間が一番落ち着く。そんなことをアイツは言ってたな。あぁ、もう駄目だ、少し整理したら今日は帰ろう。扉が重い。床の軋む音が響く。埃くさい。なるべく他のことを考えておくか。会社の書類も散らばっている。でも一つだけ明らかに違う、会社用ではない汚らしい手帳がある。なんなのだろう、これは。
開くのを一瞬は躊躇うが開く。ただの日記帳だ。一日に起きた大体を書いてあるだけだ。しかし、もう更新されないことと、段々と粗くなっていく文字に耐えられなくなった。最後に見たページには「叔父さん、そしてアイツにはお世話になった。今までありがとう。」と短く書いてあった。そこから先はなかった筈だ。もう見れなかった。家から逃げるように去ってしまった。それからはもう彼の家へ向かうことは出来ず、整理なんて出来る訳もなかった。
その後は全て叔父さんが業者に任せたらしい。
遺品の整理を手伝わせてくれと自分から言っておいてこの体たらくとは、情け無い。これからもまだやることは少し残っている。それらが全て終わったら、彼の骨を家族の下に埋めてやろう。よく笑顔で語っていた家族の下に。
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