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3章 夢かと思った
10話 再開と求婚
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★10 再会と求婚
かまどの鍋にスープを見つけておなかいっぱい食べはしたものの、やはりワタシの魔力は、つまり生命力はまだまだ回復を必要としていた。
だからワタシは食べ終わるとすぐにベッドに戻り、寝た。
そしてお腹が減って目が覚めると、何か食べようと台所に行き、またスープを見つけ……こんどは塩漬け鶏と青菜のスープだった……それを食べ、おなかを膨らませてまた寝る。
腹が減って起きて台所に行くとまた新たにスープが作ってあって……という日々を数日過ごし……。
ある日起きると、ワタシの身体からようやく重さと眠気が抜けきっていた。
何日寝たのかは知らないが、ようやく魔力が回復したのだ。
今回はスープに助けられた。
食べたい時においしい食べ物が用意してあって、あとは温めればいいだけというのはとても心強いし、栄養たっぷりのスープを毎食食べれば回復も早くなる。
窓から入る太陽光の角度から、今が遅めの朝だと分かる。
ぐうぅぅぅぅ、と腹の虫が鳴った。
今までずっと、起きたら食べるを繰り返していたので身体が勝手に食事を食べるモードに入ってしまったようだ。
軽い足取りでベッドから降り、台所に行く。
スープはあるかな。
そういえば、着ているのは黒いローブだし、肩から胸にたらした三つ編みはほつれまくっているし、何日も湯浴みをしていないから汗臭いし。
寝込んでいる間は格好にまで気が回らなかった。
何か食べたら湯浴みでもしてさっぱりしよう。
そんなことを考えながら居間に入ると、続き間の台所からいい匂いが漂ってきていた。
トントン、と包丁を使う音もする。
誰かが、料理を作っている。
これはタイミングがいい。今までは冷めたスープが鍋に入っているのを発見するだけだった。誰かが作っているのに遭遇したのはこれが初めてだ。
あなたのスープのおかげで命拾いしたと、礼を言いたい。
ワタシは足音を忍ばせて台所へ向かった。快気したばかりで心まで軽くなっていたワタシは、感謝の気持ちをサプライズで伝えたい、と思ったのだ。
台所に入ると……。
鍋の前に背の高い男性が立ち、オタマでスープをかき混ぜていた。
輝くような白銀の長い髪を一本の三つ編みにし、背中に垂らしていた。
その髪に、既視感がある。でもそんな筈はない。だって……。
肩越しに振り返った爽やかな空色の瞳が、流し目でワタシをとらえた。頭に被った紺色の三角巾が揺れる。
それから彼は、白い頬に優しい笑みを浮かべた。
「おお、ジャンザ。起きたか。すっかり顔色がよくなったな」
「アスタフェル……!」
どう反応したらいいのか、一瞬では判断しかねた。
いろいろと言いたいことはある。
オマエがあのスープ作ってたのかよ! とか、なんでオマエいるんだよ! とか、オマエその姿はどうした……とか。
だが一番困ったのは、どうしても嬉しさがこみ上げてきてしまうことだった。
無理に喜びを押さえたもので、おそらくワタシは泣き笑いみたいな表情になっていたことだろう。
混乱極まったワタシは、思わず口走っていた。
「お、おかえり」
「おう? ただいま」
オタマを鍋に入れなおすと、彼は体ごとこちらに向き直った。
角も翼もないが、たしかにアスタフェルだ。
前が開いている紺色の上衣を胸元で重ねて帯で締めるという、遠い異国のような出で立ちだった。腰から下はゆったりした白い下衣だ。
見慣れぬ異国風の服ではあるが日常着らしいこなれた感じがある。それに背が高く端正な顔立ちの彼にはよく似合っていた。
というかどうしたんだこの服。こいつは黒い長衣を着ていたはず……。この異国風の服は魔法で出したのか? そんなおとぎ話みたいな魔法、強力な魔力を持っていた師匠だって使えなかったが……。いや、相手は魔王だ。魔王ならそれくらいしてもおかしくはない。
「ジャンザが回復したら、言おうと思っていたことがあったんだ」
「ワ、ワタシも」
「結婚しよう、ジャンザ」
言って彼はにっこり笑う。
「……は?」
「ジャンザが言いたいことって?」
彼は笑顔でワタシの顔を見つめた。少し笑顔が引きつっているようにも見える。いきなりの求婚の、その答えを緊張して待っているらしい。
「あ、いや……」
言いたいことが、増えてはいた。
……ワタシはいったい、何に浮かれていたんだろう。
疲れるけど面白い奴。一人でいるよりは日々が楽しくなるはず。確かに。
冷静になっていく自分に気づく。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
切なげな音が尾を引いていく。
「それ、食べていいかな」
「ジャンザは食いしん坊さんだな。いま鶏を入れたところだ。あと少しでできるからテーブルで待っててくれ。出来上がったら持っていく。器はあれでいいな?」
とアスタフェルは食器棚の陶製の器を指差した。いつもワタシが使っているものだ。
そういえば、いつもスープ食べたら器はテーブルに出しっぱなしだったっけ。その食器も次に食べる時には戸棚に戻っていたし、アスタフェルが洗って片付けてくれていたんだ。
「うん、ありがとう……」
今更、オマエを維持する魔力なんかないけど一緒にいてくれないかな、なんて言う雰囲気ではなかった。
てかこいつ何してるんだいったい。
かまどの鍋にスープを見つけておなかいっぱい食べはしたものの、やはりワタシの魔力は、つまり生命力はまだまだ回復を必要としていた。
だからワタシは食べ終わるとすぐにベッドに戻り、寝た。
そしてお腹が減って目が覚めると、何か食べようと台所に行き、またスープを見つけ……こんどは塩漬け鶏と青菜のスープだった……それを食べ、おなかを膨らませてまた寝る。
腹が減って起きて台所に行くとまた新たにスープが作ってあって……という日々を数日過ごし……。
ある日起きると、ワタシの身体からようやく重さと眠気が抜けきっていた。
何日寝たのかは知らないが、ようやく魔力が回復したのだ。
今回はスープに助けられた。
食べたい時においしい食べ物が用意してあって、あとは温めればいいだけというのはとても心強いし、栄養たっぷりのスープを毎食食べれば回復も早くなる。
窓から入る太陽光の角度から、今が遅めの朝だと分かる。
ぐうぅぅぅぅ、と腹の虫が鳴った。
今までずっと、起きたら食べるを繰り返していたので身体が勝手に食事を食べるモードに入ってしまったようだ。
軽い足取りでベッドから降り、台所に行く。
スープはあるかな。
そういえば、着ているのは黒いローブだし、肩から胸にたらした三つ編みはほつれまくっているし、何日も湯浴みをしていないから汗臭いし。
寝込んでいる間は格好にまで気が回らなかった。
何か食べたら湯浴みでもしてさっぱりしよう。
そんなことを考えながら居間に入ると、続き間の台所からいい匂いが漂ってきていた。
トントン、と包丁を使う音もする。
誰かが、料理を作っている。
これはタイミングがいい。今までは冷めたスープが鍋に入っているのを発見するだけだった。誰かが作っているのに遭遇したのはこれが初めてだ。
あなたのスープのおかげで命拾いしたと、礼を言いたい。
ワタシは足音を忍ばせて台所へ向かった。快気したばかりで心まで軽くなっていたワタシは、感謝の気持ちをサプライズで伝えたい、と思ったのだ。
台所に入ると……。
鍋の前に背の高い男性が立ち、オタマでスープをかき混ぜていた。
輝くような白銀の長い髪を一本の三つ編みにし、背中に垂らしていた。
その髪に、既視感がある。でもそんな筈はない。だって……。
肩越しに振り返った爽やかな空色の瞳が、流し目でワタシをとらえた。頭に被った紺色の三角巾が揺れる。
それから彼は、白い頬に優しい笑みを浮かべた。
「おお、ジャンザ。起きたか。すっかり顔色がよくなったな」
「アスタフェル……!」
どう反応したらいいのか、一瞬では判断しかねた。
いろいろと言いたいことはある。
オマエがあのスープ作ってたのかよ! とか、なんでオマエいるんだよ! とか、オマエその姿はどうした……とか。
だが一番困ったのは、どうしても嬉しさがこみ上げてきてしまうことだった。
無理に喜びを押さえたもので、おそらくワタシは泣き笑いみたいな表情になっていたことだろう。
混乱極まったワタシは、思わず口走っていた。
「お、おかえり」
「おう? ただいま」
オタマを鍋に入れなおすと、彼は体ごとこちらに向き直った。
角も翼もないが、たしかにアスタフェルだ。
前が開いている紺色の上衣を胸元で重ねて帯で締めるという、遠い異国のような出で立ちだった。腰から下はゆったりした白い下衣だ。
見慣れぬ異国風の服ではあるが日常着らしいこなれた感じがある。それに背が高く端正な顔立ちの彼にはよく似合っていた。
というかどうしたんだこの服。こいつは黒い長衣を着ていたはず……。この異国風の服は魔法で出したのか? そんなおとぎ話みたいな魔法、強力な魔力を持っていた師匠だって使えなかったが……。いや、相手は魔王だ。魔王ならそれくらいしてもおかしくはない。
「ジャンザが回復したら、言おうと思っていたことがあったんだ」
「ワ、ワタシも」
「結婚しよう、ジャンザ」
言って彼はにっこり笑う。
「……は?」
「ジャンザが言いたいことって?」
彼は笑顔でワタシの顔を見つめた。少し笑顔が引きつっているようにも見える。いきなりの求婚の、その答えを緊張して待っているらしい。
「あ、いや……」
言いたいことが、増えてはいた。
……ワタシはいったい、何に浮かれていたんだろう。
疲れるけど面白い奴。一人でいるよりは日々が楽しくなるはず。確かに。
冷静になっていく自分に気づく。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
切なげな音が尾を引いていく。
「それ、食べていいかな」
「ジャンザは食いしん坊さんだな。いま鶏を入れたところだ。あと少しでできるからテーブルで待っててくれ。出来上がったら持っていく。器はあれでいいな?」
とアスタフェルは食器棚の陶製の器を指差した。いつもワタシが使っているものだ。
そういえば、いつもスープ食べたら器はテーブルに出しっぱなしだったっけ。その食器も次に食べる時には戸棚に戻っていたし、アスタフェルが洗って片付けてくれていたんだ。
「うん、ありがとう……」
今更、オマエを維持する魔力なんかないけど一緒にいてくれないかな、なんて言う雰囲気ではなかった。
てかこいつ何してるんだいったい。
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