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第6話 真犯人は開きなおるもの
しおりを挟む「……さあ、ルミナ様。真実を話してください。どうして嘘をついてまで私に罪を被せようとしたのか。その包帯の中身とともにあなたの真実をさらけ出すのです」
「そ、そういえば俺も実際に傷を見てはいない……」
ルミナ様にしがみつかれたまま、ルース殿下が不気味そうにルミナ様を見下ろした。
そうだろうとは思っていたけど見もしないで信じていたのね、ルース殿下……。信じたいことは無条件で信じてしまうとは、よくいえば単純、悪くいえば頭が軽い方だわね。
「ルミナよ。その包帯の中身は……。そもそも本当に傷はあるのか? お前は本当にシルヴィアに襲われたのか……?」
「……う…………」
ルミナ様の様子がおかしい。
ピンクの目を瞑ってうつむき、小刻みに震えはじめたのだ。
「……う………………」
こ、これは。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ルミナ様が吠えた。
「何事だ!?」
ルース殿下が突然のことに叫び返している。
吠えながら、ルミナ様は手首の包帯に手をかけた。
ものすごいスピードでぐるぐるぐるぐるーっと包帯を解いていき、一気に白い手首が露出する。
その白い手首には……、傷の一つもなかった。
腕をふりほどき、ルース殿下が一歩下がる。
「ル、ルミナ。お前、傷などないではないか!」
「ちっ……!」
舌打ちしたルミナ様は可愛らしいお顔を醜くゆがめられた。
ピンク髪ピンク目はそのままなのに、別人かというくらいに人相が変わっている。
「あと少しだったのに。あと少しでようやくボンクラ王子の婚約者の座をゲットしてセレブ生活ができるってところまで来てたのに!」
人相どころか口調まで変わってしまっていた。
「よくもアタシの計画を邪魔しやがったな、探偵令嬢!」
「え、ちょ、待て。これはどういうことなのだ!」
「自爆……ですわね。ルミナ様の場合」
私は扇を広げ、口元を隠した。
もちろんニヤつきを隠すためだ。
「トリックに返却期限日という数字を使ったのが間違いだったのですよ。数字は嘘をつかない……。その数字をもてあそんだあなたは数字によって敗れたのです。まるで本のページが破れるようにね……」
「それでうまいこと言ったつもりか、この本の虫がァ!」
「え、衛兵! 衛兵!」
殿下が慌てて衛兵を呼ぶ。
「この女を捕まえて地下牢に入れよ!」
「はっ。かしこまりました!」
慌ててやってきた衛兵がルミナの腕をとった。
「やめろ、触るんじゃないよ!」
「大人しくしろ!」
「……?」
一方、その衛兵を見た私は妙な感覚にとらわれていた。
なんだか、変だ。
なにが引っかかるのだろう……?
衛兵は刀傷のあるよく日に焼けた顔をしていた。それに手入れの行き届いていないバサバサの茶色の髪で、いかにも荒っぽい衛兵らしい風貌である。
とくにおかしいところなんてないように見えるけど。
なにが引っかかるのだろう……?
「あっ、ルミナ!」
抵抗しつつも連れていかれていかれるルミナ様に、ルース殿下が声をかけた。
「待て。首飾りを返せ!」
「は? こんな時になにいってんだい殿下?」
「こんな時だからこそだ。その首飾り……ピンクダイヤモンドの――、ああ、そうか。それを見つけたのもお前であったな……!」
ルミナ様がしている妙に豪華なピンクの首飾り、あれってピンクダイヤモンドなのか。大きいし、納得のキラキラだわね。
「王家の宝を見たいというお前の願いを叶えるため宝物庫探検ツアーを開催したときのことだったな、宝物庫の奥深くで見たこともない金庫を見つけたのは。お前は迷うことなく手持ちの聴診器を宛ててカチカチやって金庫を開けた。そこに入っていたのがその来歴不明のその首飾りであった……。見つけたのはお前だし、どうせお前と結婚するのだから、と請われるがままお前に贈ったが……。いま思い返してみれば、お前はあのとき王家の宝物庫で堂々と金庫破りをしたのだな……!」
いやもっと早く気づけよ、と言いたい。
「いくら来歴不明とはいえその首飾りは我が王家の宝だ。お前がそのような女だと分かった以上、返してもらおう!」
「……あら、そうかい」
ニヤァッ、とルミナ様は笑った。
「でもこれ、アンタがアタシにくれたんじゃないか。これはもうアタシんだ、取り返そうったってそうはいかないよ! と言いたいところだけども……」
やれやれ、という感じで首を振るルミナ様。
「こういう状況だからねぇ。抵抗したってどうせ分捕られるだろうし、有効活用といこう。取り引きしようじゃないか、王子殿下」
「取り引きだと?」
「そうだよ。この首飾りは返してあげる。そのかわり、アタシのこと見逃してくれないかねぇ」
「なっ……!」
「お願いしますの、殿下ぁ……」
ルミナ様の口調が変わった。
人相も、夢見るようなトロンとしたものに戻っている。
さっきまでの凶悪顔が嘘みたいだった。
「ルミナ、痛いのも苦しいのもいやなんです。この首飾りもお返します。もう二度と殿下の前には現れないとお約束いたしますからぁ……」
哀れっぽく目を潤ませるルミナ様。
「う、うむ……」
ルース殿下は見るからに心がぐらついている。
やっぱり殿下ってこういう女の子っぽいアプローチに弱いのね……。チョロい王子様だこと。
「シ、シルヴィア。どうしたらいい?」
「は? 何故そこで私に話を振るのですか」
「お前は探偵令嬢だし」
「探偵というのは刑罰には詳しくありませんのよ。それにルミナ様の罪ですわよ、殿下がお決め下さいな」
「う、うむ。そうだな……」
しかし、ルース殿下がなんらかの裁定を下すことはなかった。
それどころではなくなってしまったのだ。
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