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第9話 怪盗襲来

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 突然、灯っていた明かりが全て消え、夜会会場パーティーホールは真っ暗になった。

「なんだ!? いったいなにが起こったんだ!」
「まあっ!」
「なんと!」
「これは……!」
「次は何が起こるというのです?」

 ルース殿下も、ルミナ様も、連行しようとしている衛兵も、そして私も、他のパーティー参加者たちも。その場にとどまってあたりをキョロキョロと視線で探っている。

 が、パーティーの参加者たちはわりあいと落ち着いていた。

 ここにいるのは、婚約破棄劇――から強引に移行した推理劇を遠目から面白がって観戦していた若き貴族たちである。

 今度はなにが始まるのか、と期待するざわめきが会場にはあったのだ。

 しかし。

「はははははははは!」

 男の高らかな笑い声がホール全体の闇に響き渡る。

「やあ皆さん、ごきげんよう!」

「な、なに者だ!」

「我が名は怪盗皇子ブラックスピネル。宝石の価値もわからぬ愚か者から我が宝石を取り返しにつかまつったっ!」

 怪盗皇子? ……それは私の大切な人が名乗っていた名称だけど……。まさかね。ただの偶然だろう……。怪盗ネームなんてそんなに種類があるとは思えないし。

 なんて思っていたら、パァン! パァン! パァン! と会場のあちこちから祝砲のごとき爆発音と光が上がったのだ。

 その光で、暗闇の夜会会場パーティーホールにいる人々の姿が場面ごと切り抜かれたように浮かび上がる。

「なんだっ!?」
「きゃあああああ!」

 すぐに暗闇に戻ってしまったが、一瞬だけ見えた参加者たちが見えた。
 事態は一変していた。
 怖さに身をすくめて動けなくなったり、我先に動いて会場から脱出しようとしたり、安全を確保しようとテーブルの下に隠れたり。
 さすがに突然の怪盗襲来にパニックになっていのだ。

 え、ちょっと待って。

 怪盗が宝石を盗みにきた、ですって……!?
 殺人未遂の濡れ衣を晴らしたと思ったら今度は怪盗のご登場だなんて。

 ……今夜って、なんて面白い夜なんでしょう!

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