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第16話 怪盗皇子の正体
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衛兵に化けた怪盗皇子ブラックスピネル――すなわちアステル殿下に手を引かれた私は、城の前の馬車回しに連れてこられていた。
言いつけ通りに首飾りをルース殿下の私室に持って行って、その部屋にある金庫に入れるはずはない、とは思っていたけどね。だってこの衛兵、怪盗ブラックスピネルだもの。
だからってずいぶん、悩みなしの行動だったからちょっと驚いちゃったわよ。
まぁ私としても、今さら首飾りをルース殿下のために取り返そう、などとは思えなかったけどね。
ルース殿下のために何かをしようって気力は、もう根こそぎ刈り取られていたから。
あそこまで私のことを信用しようとしない王子だもの。あの人のために私が義理を通してやる必要ってあるかしら。
私がこのまま王子を見捨てたとしても、誰も私を攻めはしないと思うのよね……。
ちなみにピンクダイヤモンドの首飾りはいまだ私の手にある。手、というかスカートの隠しの中にだけどね。
この宝石は私の交渉材料となるのだから、大事にしないと。……宝石を切り札にしようなんて、ルミナ様と同じ事をしているようで少し自己嫌悪にもなるけれども。
でも目下の心配事といえば、私はどうなるのか、だから。
おとなしく家に返してくれるのか。それとも戦利品としてどこかに連れて行かれてしまうのか。
連れて行かれるとしたら、どこに? ――ビュシェルツィオ皇国?
怪盗に奪われた探偵の末路……どんなふうになるのだったかしらね。思い出そうとしているのだけれど、なかなか思い出せない。
でも、探偵というのはなんだかんだとピンチを脱して怪盗のアジトから脱出するものよ。
きっと私だってそうしてみせるわ。
まあ、いろいろ不安はあるけれど。
最終的には、この宝石はハルツハイム国王陛下に直接返したい、とは思っているのよ、一応は。
……だって、これだけの宝石だもの。やっぱりきちんと持ち主に返しはしたい。
だけど、今さらルース殿下に会うのも、もう……正直、嫌だった。だから直接国王陛下に返したいのだ。
さて、城前の馬車回しは大混乱していた。当然のことだった。城内のホールで怪盗が出たのだから。
城から逃げ帰ろうとする令嬢や令息、事態を把握しようとする従者たち……。それぞれが血相を変えて喋りながら動き回っているのだ。
そんななかを横切って、私と怪盗皇子は無言のまま静かに移動していった。
そして、すみのほうに目立たないようにして停められていた質素な馬車に、私は入れられた。
「……ふぅん、これはこれは」
馬車に入った私は思わずそう呟いていた。
外側は華美なところのない質素な馬車だったのに、内側はとても豪華なものだったのだ。
それだけではない。繊細な影を落とす壁付けの明かりに照らし出されていたもの、それは隣国であるビュシェルツィオ皇国の獅子の紋章だったのだ。
はいはい、なるほどね。私には隠す気はないのね。
御者になにかを伝えていた衛兵が、私のあとから馬車に入ってきた。
彼は私の向かいのベンチに座ると、美しい黄金の瞳で私をちらりとみた。
……だが、なにも言わない。
無言のまま馬車が動き出す。
それでも衛兵はなにも言わず、ただ窓の外を眺めていた。
「ルース殿下に言われたことはどうするのですか?」
沈黙に耐えきれず、私は聞いていた。
そんなこと、もう私自身さえもどうでもいいと思っているのに。
「この馬車はどこに向かっているのですか。あなたに奪われた私はどうなるというのです? アジトに連れていかれて、あなたのコレクションでも見せてもらえるのかしらね?」
「………………」
と……。
アステル殿下扮する衛兵はうつむいて、肩を細かくふるわせはじめたではないか。
ちょうど、ルース殿下に剣を差し出したときのように――。
「……ふっ……くくくくくくくくくく……」
まったく。人の気も知らないで楽しそうだこと。
私が呆れていると、衛兵は顔をあげた。
「あっははははははははは! はー、うまくいった! 完璧じゃないか、いや完璧以上……、あはははははは!!」
彼が笑う姿は、もはや衛兵のものではなかった。姿形はそのままなのにすっかり雰囲気が違っているのだ。
「……」
向かい合って座る私といえば、呆れてものも言えずに彼を見ていた。
まさか本当に怪盗になって犯罪を犯すなんてね……。
いくらあのルース殿下から盗んだとはいえ、これは盗みなのよ?
悪いことは悪いことなよ。この人は悪いことをしたの。
この人、その自覚があるのかしら。
「これでも僕、ルース君を誘導して首飾りを渡させるつもりだったんだ。まさか向こうから渡してくれるとは思ってもみなかったけどね!」
「それはあなたに才能があったのではありませんわよ。ルミナ様が小細工したのが原因ですわ。あの場にルミナ様がいたからこその幸運ですわ」
「運も実力のうちっていうだろ? 怪盗なんてものは特にそうさ。いやぁ、やっぱり僕って怪盗の才能があるんだな!」
運があるのは実に羨ましいけれど、それを怪盗の才能に使われるのは嫌だなあ、なんて思う私がいた。
怪盗の才能なんかよりだんぜん探偵の才能に使った方がいいわよね、運なんてものは。
「君も見ただろシルヴィア。みんな僕が本物の衛兵だって信じて疑わなかった!」
「私は気づいていましたけどね」
ムスッとしながら私は言う私に、アステル殿下はニヤリと笑った。
「へぇ、負け惜しみなんて君らしくないじゃないか。探偵は勝ち負けを気にしないとかいってなかった?」
「これは負け惜しみではありません。私はちゃんと気づいていたんです。いいですか殿下、これから変装するときには手袋をなさいなさいな」
「手袋?」
「殿下の手は綺麗すぎるのですわ。少なくとも顔に刀傷のあるような衛兵らしくありません。そんな人はもっと荒々しい手をしているはずですからね」
「……あ」
今気づいた、と言わんばかりに自分の手を眺めるアステル殿下。
「それに、目も、ですわ。こんなに綺麗な黄金色の目の持ち主なんてそうそういませんわよ」
ま、彼の正体に気がついたのは本当に最後の方だったけれどね。それは言わないでおきましょう。……探偵の見栄よ、これは。
「ふふっ。男に綺麗っていうのは誉め言葉にならないよ? でもありがとう、シルヴィア。嬉しいよ」
アステル殿下の笑顔はまるで少年のように無邪気で、その黄金の瞳はやっぱり綺麗で、私は一瞬でまた魅入られてしまったのだった。
おっと、いけないいけない。
相手は仮にも皇子様なのよ、対応はしっかりしないとね。だから惚けていては駄目。しかも怪盗なのよ、怪盗。
「ああ、しかし手落ちだったなぁ。手だけに……なんてね」
「まっ、上手いこと言っちゃって。でもほんとその通りですわね」
「だろ? 顔のメイクは我ながらよくできたんだよな。やっぱり変装メイクっていうのは全身で考えないと駄目だな……。初仕事で心が浮ついてたのが敗因かな、これは」
「あら、そのメイクご自分でなされたのですか?」
「そうだよ。怪盗たるもの、変装くらい自分できないといけないからね」
まったく、よくやるわねぇ。
まあ、私としても変装術には興味があるけどね。
「でもさ、君が気づいてそうなのも分かってはいたんだよ、僕も。シャンデリアのトリックをずいぶん不思議がっていたから」
「あぁ、あれですか……」
明かりの消えたパーティーホールで一つだけ光が灯ったシャンデリアがあった。そこに怪盗が乗っていた――あのことを言っているのだろう。
「人一人が乗っているにしては傾きもしていませんでしたし、さすがにあれは妙でしたわ」
「面目ない。何せ急ごしらえでね、人形を乗せることに精一杯で重さまで考えなかったんだ。トリックに気づかれやしないかとドキドキしたけど、気づいたのは君だけだったみたいだね」
ということは、やはりあれは人形で、人々の興味を引きつけるためのトリックだったのか。
「あれが見えたのは一瞬でしたしものね。すぐに暗闇に戻ってしまいましたし、パーティー参加者たちが見逃してしまうのもしようのないことですわ」
それにあのとき会場って大騒ぎになっていたもの。しっかりとシャンデリアを見た物好きなんてそう多くはなかっただろう。いわずもがな、私は物好きなのよ。
「ま、そういう君も『妙だな』くらいにしか思ってなかったみたいだけどさ」
「それは認めます。まさかこんなことを実際にする人がいるだなんて思いもしませんもの」
「ところで……」
ふと、アステル殿下が真剣な表情で私を見つめてきた。
「君との話し合いって、僕が誰だか分かってるってことを前提としてきたけどさ。君は僕が誰だか分かってるんだよね?」
今さら何をいっているのかしら。
私は頷いて、彼の名を告げた。
「あなたはアステル・ビュシェルツィオ殿下ですわ。ビュシェルツィオ皇国第一皇子の」
「正解!」
殿下はにっこり笑うと、パサパサした茶色の髪に手を伸ばした。髪はずるりと落ち、漆黒の髪が現れる。あの茶色の髪はカツラだったのだ。
顔のメイクはとっていないから、頬に刀傷のあるアステル殿下になってしまっているけれど……。
「君の観察眼は相変わらず大したものだね。ずいぶんと久しぶりだ、シルヴィア。元気だったかい」
「はい、お陰様で。おひさしゅうございます、殿下。本当におひさしゅうございます……」
立ち上がってスカートの裾を持ち上げる礼をしたかったが、馬車のなかではそうはいかない。私は上半身を優雅に倒し、礼とした。
十年越しに会う、私の初恋の人……。アステル殿下。
今この瞬間、正式に私たちは再会したのだ。
会いたかった。すごく会いたかった。それは確かなんだけど、できたらこういう会い方はしたくはなかったわね……。
言いつけ通りに首飾りをルース殿下の私室に持って行って、その部屋にある金庫に入れるはずはない、とは思っていたけどね。だってこの衛兵、怪盗ブラックスピネルだもの。
だからってずいぶん、悩みなしの行動だったからちょっと驚いちゃったわよ。
まぁ私としても、今さら首飾りをルース殿下のために取り返そう、などとは思えなかったけどね。
ルース殿下のために何かをしようって気力は、もう根こそぎ刈り取られていたから。
あそこまで私のことを信用しようとしない王子だもの。あの人のために私が義理を通してやる必要ってあるかしら。
私がこのまま王子を見捨てたとしても、誰も私を攻めはしないと思うのよね……。
ちなみにピンクダイヤモンドの首飾りはいまだ私の手にある。手、というかスカートの隠しの中にだけどね。
この宝石は私の交渉材料となるのだから、大事にしないと。……宝石を切り札にしようなんて、ルミナ様と同じ事をしているようで少し自己嫌悪にもなるけれども。
でも目下の心配事といえば、私はどうなるのか、だから。
おとなしく家に返してくれるのか。それとも戦利品としてどこかに連れて行かれてしまうのか。
連れて行かれるとしたら、どこに? ――ビュシェルツィオ皇国?
怪盗に奪われた探偵の末路……どんなふうになるのだったかしらね。思い出そうとしているのだけれど、なかなか思い出せない。
でも、探偵というのはなんだかんだとピンチを脱して怪盗のアジトから脱出するものよ。
きっと私だってそうしてみせるわ。
まあ、いろいろ不安はあるけれど。
最終的には、この宝石はハルツハイム国王陛下に直接返したい、とは思っているのよ、一応は。
……だって、これだけの宝石だもの。やっぱりきちんと持ち主に返しはしたい。
だけど、今さらルース殿下に会うのも、もう……正直、嫌だった。だから直接国王陛下に返したいのだ。
さて、城前の馬車回しは大混乱していた。当然のことだった。城内のホールで怪盗が出たのだから。
城から逃げ帰ろうとする令嬢や令息、事態を把握しようとする従者たち……。それぞれが血相を変えて喋りながら動き回っているのだ。
そんななかを横切って、私と怪盗皇子は無言のまま静かに移動していった。
そして、すみのほうに目立たないようにして停められていた質素な馬車に、私は入れられた。
「……ふぅん、これはこれは」
馬車に入った私は思わずそう呟いていた。
外側は華美なところのない質素な馬車だったのに、内側はとても豪華なものだったのだ。
それだけではない。繊細な影を落とす壁付けの明かりに照らし出されていたもの、それは隣国であるビュシェルツィオ皇国の獅子の紋章だったのだ。
はいはい、なるほどね。私には隠す気はないのね。
御者になにかを伝えていた衛兵が、私のあとから馬車に入ってきた。
彼は私の向かいのベンチに座ると、美しい黄金の瞳で私をちらりとみた。
……だが、なにも言わない。
無言のまま馬車が動き出す。
それでも衛兵はなにも言わず、ただ窓の外を眺めていた。
「ルース殿下に言われたことはどうするのですか?」
沈黙に耐えきれず、私は聞いていた。
そんなこと、もう私自身さえもどうでもいいと思っているのに。
「この馬車はどこに向かっているのですか。あなたに奪われた私はどうなるというのです? アジトに連れていかれて、あなたのコレクションでも見せてもらえるのかしらね?」
「………………」
と……。
アステル殿下扮する衛兵はうつむいて、肩を細かくふるわせはじめたではないか。
ちょうど、ルース殿下に剣を差し出したときのように――。
「……ふっ……くくくくくくくくくく……」
まったく。人の気も知らないで楽しそうだこと。
私が呆れていると、衛兵は顔をあげた。
「あっははははははははは! はー、うまくいった! 完璧じゃないか、いや完璧以上……、あはははははは!!」
彼が笑う姿は、もはや衛兵のものではなかった。姿形はそのままなのにすっかり雰囲気が違っているのだ。
「……」
向かい合って座る私といえば、呆れてものも言えずに彼を見ていた。
まさか本当に怪盗になって犯罪を犯すなんてね……。
いくらあのルース殿下から盗んだとはいえ、これは盗みなのよ?
悪いことは悪いことなよ。この人は悪いことをしたの。
この人、その自覚があるのかしら。
「これでも僕、ルース君を誘導して首飾りを渡させるつもりだったんだ。まさか向こうから渡してくれるとは思ってもみなかったけどね!」
「それはあなたに才能があったのではありませんわよ。ルミナ様が小細工したのが原因ですわ。あの場にルミナ様がいたからこその幸運ですわ」
「運も実力のうちっていうだろ? 怪盗なんてものは特にそうさ。いやぁ、やっぱり僕って怪盗の才能があるんだな!」
運があるのは実に羨ましいけれど、それを怪盗の才能に使われるのは嫌だなあ、なんて思う私がいた。
怪盗の才能なんかよりだんぜん探偵の才能に使った方がいいわよね、運なんてものは。
「君も見ただろシルヴィア。みんな僕が本物の衛兵だって信じて疑わなかった!」
「私は気づいていましたけどね」
ムスッとしながら私は言う私に、アステル殿下はニヤリと笑った。
「へぇ、負け惜しみなんて君らしくないじゃないか。探偵は勝ち負けを気にしないとかいってなかった?」
「これは負け惜しみではありません。私はちゃんと気づいていたんです。いいですか殿下、これから変装するときには手袋をなさいなさいな」
「手袋?」
「殿下の手は綺麗すぎるのですわ。少なくとも顔に刀傷のあるような衛兵らしくありません。そんな人はもっと荒々しい手をしているはずですからね」
「……あ」
今気づいた、と言わんばかりに自分の手を眺めるアステル殿下。
「それに、目も、ですわ。こんなに綺麗な黄金色の目の持ち主なんてそうそういませんわよ」
ま、彼の正体に気がついたのは本当に最後の方だったけれどね。それは言わないでおきましょう。……探偵の見栄よ、これは。
「ふふっ。男に綺麗っていうのは誉め言葉にならないよ? でもありがとう、シルヴィア。嬉しいよ」
アステル殿下の笑顔はまるで少年のように無邪気で、その黄金の瞳はやっぱり綺麗で、私は一瞬でまた魅入られてしまったのだった。
おっと、いけないいけない。
相手は仮にも皇子様なのよ、対応はしっかりしないとね。だから惚けていては駄目。しかも怪盗なのよ、怪盗。
「ああ、しかし手落ちだったなぁ。手だけに……なんてね」
「まっ、上手いこと言っちゃって。でもほんとその通りですわね」
「だろ? 顔のメイクは我ながらよくできたんだよな。やっぱり変装メイクっていうのは全身で考えないと駄目だな……。初仕事で心が浮ついてたのが敗因かな、これは」
「あら、そのメイクご自分でなされたのですか?」
「そうだよ。怪盗たるもの、変装くらい自分できないといけないからね」
まったく、よくやるわねぇ。
まあ、私としても変装術には興味があるけどね。
「でもさ、君が気づいてそうなのも分かってはいたんだよ、僕も。シャンデリアのトリックをずいぶん不思議がっていたから」
「あぁ、あれですか……」
明かりの消えたパーティーホールで一つだけ光が灯ったシャンデリアがあった。そこに怪盗が乗っていた――あのことを言っているのだろう。
「人一人が乗っているにしては傾きもしていませんでしたし、さすがにあれは妙でしたわ」
「面目ない。何せ急ごしらえでね、人形を乗せることに精一杯で重さまで考えなかったんだ。トリックに気づかれやしないかとドキドキしたけど、気づいたのは君だけだったみたいだね」
ということは、やはりあれは人形で、人々の興味を引きつけるためのトリックだったのか。
「あれが見えたのは一瞬でしたしものね。すぐに暗闇に戻ってしまいましたし、パーティー参加者たちが見逃してしまうのもしようのないことですわ」
それにあのとき会場って大騒ぎになっていたもの。しっかりとシャンデリアを見た物好きなんてそう多くはなかっただろう。いわずもがな、私は物好きなのよ。
「ま、そういう君も『妙だな』くらいにしか思ってなかったみたいだけどさ」
「それは認めます。まさかこんなことを実際にする人がいるだなんて思いもしませんもの」
「ところで……」
ふと、アステル殿下が真剣な表情で私を見つめてきた。
「君との話し合いって、僕が誰だか分かってるってことを前提としてきたけどさ。君は僕が誰だか分かってるんだよね?」
今さら何をいっているのかしら。
私は頷いて、彼の名を告げた。
「あなたはアステル・ビュシェルツィオ殿下ですわ。ビュシェルツィオ皇国第一皇子の」
「正解!」
殿下はにっこり笑うと、パサパサした茶色の髪に手を伸ばした。髪はずるりと落ち、漆黒の髪が現れる。あの茶色の髪はカツラだったのだ。
顔のメイクはとっていないから、頬に刀傷のあるアステル殿下になってしまっているけれど……。
「君の観察眼は相変わらず大したものだね。ずいぶんと久しぶりだ、シルヴィア。元気だったかい」
「はい、お陰様で。おひさしゅうございます、殿下。本当におひさしゅうございます……」
立ち上がってスカートの裾を持ち上げる礼をしたかったが、馬車のなかではそうはいかない。私は上半身を優雅に倒し、礼とした。
十年越しに会う、私の初恋の人……。アステル殿下。
今この瞬間、正式に私たちは再会したのだ。
会いたかった。すごく会いたかった。それは確かなんだけど、できたらこういう会い方はしたくはなかったわね……。
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