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第18話 怪盗皇子のプロポーズ
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ハルツハイム王が返そうとしない、もともとがビュシェルツィオ皇家のものであった首飾り。
幼いアステル殿下は首飾りを返してもらうため、使節団を率いてハルツハイム王都に向かおうとしていたのだが、我がディミトゥール領で足止めを食らっていた。
それが、あの滞在の正体……。
って。待って。アステル殿下っていま何歳なのよ。
「殿下、それは少し無理があるのではありませんか? 10年前の話なのですよ。殿下は当時まだ子供で、とてもそのような仕事を任されるとは思えませんわ」
今から十年前のことだから、アステル殿下だって10歳くらいの子供だったはず……。そんな子供をいくら第一皇子だからって使節団の責任者にするだろうか?
やっぱり、この言い分はちょっと怪しいんじゃない?
すると殿下はにっこり笑ったのだった。
「そりゃあ、僕は君に会うために使節団についていっただけだからね」
「え……?」
呆気にとられる私に、殿下は笑顔で続ける。
「探偵小説が好きなご令嬢がいるって噂を聞いてさ。僕は怪盗小説が好きだから、きっとそのご令嬢とは話が合うだろうな、と興味を持った」
「……」
「そのご令嬢の侯爵家が治める領を使節団が通るってきいたから、着いていくことにしたんだ」
では、アステル殿下が使節団を率いたのではなくて。
私に合うために、アステル殿下が使節団に着いてきた、と……。
「実際に会ってみたら、思っていた以上に気が合ったのは君も知っての通りだよ。推理小説の話ができるものだからすっかり楽しくなってさ。ごっこ遊びもずいぶんしたよね」
「ええ、はい」
「将来は僕の妃になってほしいと……そう思ってたんだ」
「……!」
そんなふうに思っていてくれたなんて。アステル殿下……。
当時の私たちって、両想いだったのね……。
「ビュシェルツィオに帰ったら正式に婚約を申し込むつもりでいた。それまでは、ただ楽しく君と遊んでいたかった」
アステル殿下の顔に影が差す。
「でも、それがいけなかった。僕がのんびりしているうちに、君は他の男のものになってしまった……」
私は息を飲む。
「それが、第二王子殿下と結婚せよとの王命――国王陛下からの婚約の申し込みだったのですね。……あのときアステル殿下はもうそれを知っていて……」
「うん、まあね。悔しかったなぁ。口約束だけでもいいから早く君に求婚しておけば、とずいぶん後悔したよ。でも、そんな僕に君は言った」
――殿下、私は名探偵になることに決めましたの。
――だって殿下は、おおきくなったら怪盗におなりになるのでしょう?
「あ……」
「これだ! って思ったよ。君が名探偵になって、僕が怪盗になったら……。勝負として、僕は君を奪うことができる。それに怪盗と探偵の勝負なんて面白いことを運命の女神は放っておかないからね。必ず再会できると確信した」
「そうだったのですか……」
私は胸が熱くなるのを感じた。
あのとき、アステル殿下は知っていたのだ。私がルース殿下の婚約者になるということを。そのうえで、再会を願ってあんな約束をした……。
『必ず会おうシルヴィア。探偵となった君と、怪盗になった僕でまた勝負をしよう。そのときには、僕は君を――』
「本当は、ハルツハイム王に奪われた宝石なんてどうでもよかった」
アステル殿下は黄金の瞳でまっすぐ私を見つめた。
「僕の真の狙いは君だ、シルヴィア・ディミトゥール」
「……っ」
真剣な殿下の眼差しに、思わず心臓が跳ねる。
「僕は怪盗で、シルヴィア、君を奪った。でも君は探偵で怪盗を追う側だ。……奪われたままじゃ終われないよね?」
「……ええ」
「だから――」
座ったまま大きく手を広げるアステル殿下。
「僕を捕まえてみせてくれ、君の全力の愛で」
「……」
「僕と結婚してくれ、シルヴィア」
私は――。
「……」
私は、
「――はい、喜んでお受けいたします」
顔を真っ赤にして、私は頷いた。
「皇子様としても、怪盗としても。絶対に捕まえて見せますわ」
「ふふん、望むところだよ」
アステル殿下はとても嬉しそうに笑う。その笑顔はすごく眩しいものだった。
「これからもよろしくね、ライバルさん」
「……こちらこそ、怪盗さん」
『ほらね。名探偵と怪盗って敵同士じゃなくてライバル同士だろ?』
幼い頃の殿下のそんな言葉が、ふとしたような気がした。
幼いアステル殿下は首飾りを返してもらうため、使節団を率いてハルツハイム王都に向かおうとしていたのだが、我がディミトゥール領で足止めを食らっていた。
それが、あの滞在の正体……。
って。待って。アステル殿下っていま何歳なのよ。
「殿下、それは少し無理があるのではありませんか? 10年前の話なのですよ。殿下は当時まだ子供で、とてもそのような仕事を任されるとは思えませんわ」
今から十年前のことだから、アステル殿下だって10歳くらいの子供だったはず……。そんな子供をいくら第一皇子だからって使節団の責任者にするだろうか?
やっぱり、この言い分はちょっと怪しいんじゃない?
すると殿下はにっこり笑ったのだった。
「そりゃあ、僕は君に会うために使節団についていっただけだからね」
「え……?」
呆気にとられる私に、殿下は笑顔で続ける。
「探偵小説が好きなご令嬢がいるって噂を聞いてさ。僕は怪盗小説が好きだから、きっとそのご令嬢とは話が合うだろうな、と興味を持った」
「……」
「そのご令嬢の侯爵家が治める領を使節団が通るってきいたから、着いていくことにしたんだ」
では、アステル殿下が使節団を率いたのではなくて。
私に合うために、アステル殿下が使節団に着いてきた、と……。
「実際に会ってみたら、思っていた以上に気が合ったのは君も知っての通りだよ。推理小説の話ができるものだからすっかり楽しくなってさ。ごっこ遊びもずいぶんしたよね」
「ええ、はい」
「将来は僕の妃になってほしいと……そう思ってたんだ」
「……!」
そんなふうに思っていてくれたなんて。アステル殿下……。
当時の私たちって、両想いだったのね……。
「ビュシェルツィオに帰ったら正式に婚約を申し込むつもりでいた。それまでは、ただ楽しく君と遊んでいたかった」
アステル殿下の顔に影が差す。
「でも、それがいけなかった。僕がのんびりしているうちに、君は他の男のものになってしまった……」
私は息を飲む。
「それが、第二王子殿下と結婚せよとの王命――国王陛下からの婚約の申し込みだったのですね。……あのときアステル殿下はもうそれを知っていて……」
「うん、まあね。悔しかったなぁ。口約束だけでもいいから早く君に求婚しておけば、とずいぶん後悔したよ。でも、そんな僕に君は言った」
――殿下、私は名探偵になることに決めましたの。
――だって殿下は、おおきくなったら怪盗におなりになるのでしょう?
「あ……」
「これだ! って思ったよ。君が名探偵になって、僕が怪盗になったら……。勝負として、僕は君を奪うことができる。それに怪盗と探偵の勝負なんて面白いことを運命の女神は放っておかないからね。必ず再会できると確信した」
「そうだったのですか……」
私は胸が熱くなるのを感じた。
あのとき、アステル殿下は知っていたのだ。私がルース殿下の婚約者になるということを。そのうえで、再会を願ってあんな約束をした……。
『必ず会おうシルヴィア。探偵となった君と、怪盗になった僕でまた勝負をしよう。そのときには、僕は君を――』
「本当は、ハルツハイム王に奪われた宝石なんてどうでもよかった」
アステル殿下は黄金の瞳でまっすぐ私を見つめた。
「僕の真の狙いは君だ、シルヴィア・ディミトゥール」
「……っ」
真剣な殿下の眼差しに、思わず心臓が跳ねる。
「僕は怪盗で、シルヴィア、君を奪った。でも君は探偵で怪盗を追う側だ。……奪われたままじゃ終われないよね?」
「……ええ」
「だから――」
座ったまま大きく手を広げるアステル殿下。
「僕を捕まえてみせてくれ、君の全力の愛で」
「……」
「僕と結婚してくれ、シルヴィア」
私は――。
「……」
私は、
「――はい、喜んでお受けいたします」
顔を真っ赤にして、私は頷いた。
「皇子様としても、怪盗としても。絶対に捕まえて見せますわ」
「ふふん、望むところだよ」
アステル殿下はとても嬉しそうに笑う。その笑顔はすごく眩しいものだった。
「これからもよろしくね、ライバルさん」
「……こちらこそ、怪盗さん」
『ほらね。名探偵と怪盗って敵同士じゃなくてライバル同士だろ?』
幼い頃の殿下のそんな言葉が、ふとしたような気がした。
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