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第15話 青年との別れ
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……と。話していたら、青年はなにやら苦しそうに顔をしかめて頭を振りはじめた。
その様子はまるで頭痛を堪えているようで……。
もしかしたら、先ほど私を助けてくれたときに頭をぶつけていたりしたのかもしれない。
「お兄さん、大丈夫ですか?」
「え、ああ。なんでもない、なんでもないんだ。ははっ、いかんなぁ。気の巡りをよくしないとな。龍帝じゃないけど挨拶しまくるか。こんにちは!」
「あはは」
心配させまいとしているのだろうか、こんな冗談をいうなんて。
面白いし、気遣ってくれる優しさもあるし、私を助けてくれたくらい腕っ節も強いし。いい人なんだなぁ、この人。
「あ、そうだ。これ」
青年は手に持っていた袋に手を突っ込んだ。中からひょいっと包み紙を取り出す。
「いいことを教えてくれたお礼に、これをやろう」
「え、そんな……悪いですよ」
助けてもらったうえに何かをくれてしまうなんて……。さすがにいろいろと貰いすぎだわ。
「遠慮するな。口に合うかどうかは分からないが身体にはいいからな……。丹花茶だ」
「!」
丹花茶……! 私が市場に買いにきた目的のものだ!
「あ、ありがとうございます。でもいいのですか?」
「いいんだ。お前のおかげで、俺は……俺は助かりそうだ」
「でも……」
「俺用にはたくさん買ってあるから心配するな」
と青年は袋を示した。袋はけっこう膨らんでいる。あれまさか全部丹花茶なの?
「ええと。かんざしもありがとうな。いつか俺からも……お前にかんざしのお返しでもできたらいいな」
「え……」
それって……。
ドキッ、としてしまうではないか。
一生愛してくれる……ってこと?
「ふ、深い意味はない。お前もそれだけ可愛いのだから彼女の一人くらいいるだろ?」
な、なんだ。そんなことか……。つまりは私がお兄さんにしたことと同じってことだ。
「その子に贈ってやれ……きっと喜ぶ……」
でもいないからね、そんな人。
……いや、敢えていうなら龍帝陛下ってことになるのかしら? 一応私の夫ってことになるみたいだしね。
「お前、俺の家にくるか?」
「え?」
思わずドキッとしてしまった。いまこの人なんていった? 不意打ち過ぎて……よく聞き取れなかった。
「……う、すまん」
男は視線をそらし、ポリポリと頬を指先でかいた。
「今のは忘れてくれ。……どうも調子がおかしいな……」
ええっと、これって。
もしかしてナンパってやつ、なの? 悪い人じゃないってのは分かる。助けてくれたしね。
でも、なんていうか初対面の男の人の家にいくっていうのは……いや、私はいま男装しているからいいのかな。よくないのかな。
もう訳が分からなくなってきた。でも、私もこの人ともっとお話ししてみたい、なんて私も思ってしまう。なんだろう、これ。
「じゃあ、俺はもう行くわ。ここにいたら理性が飛びそうになる」
「え」
「じゃあな、少年」
男はにこりと笑って背を向けた。そして、そそくさと雑踏の中に消えていく。
「…………」
私はその場に立ち尽くしてしまった。
少年、じゃないんだけどね……本当は……。
なんだか、心臓の音が妙にうるさい。
「あの人……いったい……」
私は手渡された包紙を見た。乾燥した花――花茶が入っている包み紙があった。
「……ま、いいか」
きっともう会うこともないだろう。
……寂しいけど、行きずりの関係、って奴なんだと思う。
ちょっと意味は違うけどね……。
ていうか名前も教えてもらってないし。助けて貰ったんだし、名前くらいは教えてもらってもよかったかもなぁ……。
そんなことを思いながらも、私は男が行った方向とは反対方向に歩き出した。
心残りはあるけど、この心残りのままに彼を追いかけていったら……きっと深みにはまってしまう、そんな気がしたから。
これでも一応龍帝陛下の妃だからね。正々堂々暗殺したいのよ、私は。
こうして人にまみれて歩いていると、あの朱い瞳の男と出会ったことは、もしかしたら夢とか幻とか思い過ごしだったのかもしれない、なんて思えてくる。
チンピラにからまれて、そこを格好いいお兄さんに助けてもらって……。
ああ、ほんと。私、夢でも見たんじゃないのかしら。
……って、いつまでもそんなこと考えてないで、現実に戻らないと。
私、家麗さんとはぐれてたのよね。
だから気分を変えて家麗さんを探さないと。
とりあえずお茶屋さんにいったら合流できないかしら? もう目的のものは手に入ったけど二人の目的地はそこだったのだし。
お茶屋さんてどこだろう。人に聞いたほうが早いよね……。
なんて考えていると、突然人々の歓声があたりに巻き起こった。
「「「「「「「きゃああああああ!!!!!」」」」」」」
「「「「「「「「「龍様だあああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「ありがあやあああああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
え、龍様?
同時にばさばさと翼をはためかせる音がする。
『ごっめーん、水氷ーっ! おまんじゅう食べてたら遅くなっちゃった。ちこくちこくー!』
口におまんじゅうをくわえたままの灰色の翼龍――真琉が空から降り立ってくるところだった。
思わず遠い目になる。
ああ、これ。
また女官長に怒られるやつだわ。
その様子はまるで頭痛を堪えているようで……。
もしかしたら、先ほど私を助けてくれたときに頭をぶつけていたりしたのかもしれない。
「お兄さん、大丈夫ですか?」
「え、ああ。なんでもない、なんでもないんだ。ははっ、いかんなぁ。気の巡りをよくしないとな。龍帝じゃないけど挨拶しまくるか。こんにちは!」
「あはは」
心配させまいとしているのだろうか、こんな冗談をいうなんて。
面白いし、気遣ってくれる優しさもあるし、私を助けてくれたくらい腕っ節も強いし。いい人なんだなぁ、この人。
「あ、そうだ。これ」
青年は手に持っていた袋に手を突っ込んだ。中からひょいっと包み紙を取り出す。
「いいことを教えてくれたお礼に、これをやろう」
「え、そんな……悪いですよ」
助けてもらったうえに何かをくれてしまうなんて……。さすがにいろいろと貰いすぎだわ。
「遠慮するな。口に合うかどうかは分からないが身体にはいいからな……。丹花茶だ」
「!」
丹花茶……! 私が市場に買いにきた目的のものだ!
「あ、ありがとうございます。でもいいのですか?」
「いいんだ。お前のおかげで、俺は……俺は助かりそうだ」
「でも……」
「俺用にはたくさん買ってあるから心配するな」
と青年は袋を示した。袋はけっこう膨らんでいる。あれまさか全部丹花茶なの?
「ええと。かんざしもありがとうな。いつか俺からも……お前にかんざしのお返しでもできたらいいな」
「え……」
それって……。
ドキッ、としてしまうではないか。
一生愛してくれる……ってこと?
「ふ、深い意味はない。お前もそれだけ可愛いのだから彼女の一人くらいいるだろ?」
な、なんだ。そんなことか……。つまりは私がお兄さんにしたことと同じってことだ。
「その子に贈ってやれ……きっと喜ぶ……」
でもいないからね、そんな人。
……いや、敢えていうなら龍帝陛下ってことになるのかしら? 一応私の夫ってことになるみたいだしね。
「お前、俺の家にくるか?」
「え?」
思わずドキッとしてしまった。いまこの人なんていった? 不意打ち過ぎて……よく聞き取れなかった。
「……う、すまん」
男は視線をそらし、ポリポリと頬を指先でかいた。
「今のは忘れてくれ。……どうも調子がおかしいな……」
ええっと、これって。
もしかしてナンパってやつ、なの? 悪い人じゃないってのは分かる。助けてくれたしね。
でも、なんていうか初対面の男の人の家にいくっていうのは……いや、私はいま男装しているからいいのかな。よくないのかな。
もう訳が分からなくなってきた。でも、私もこの人ともっとお話ししてみたい、なんて私も思ってしまう。なんだろう、これ。
「じゃあ、俺はもう行くわ。ここにいたら理性が飛びそうになる」
「え」
「じゃあな、少年」
男はにこりと笑って背を向けた。そして、そそくさと雑踏の中に消えていく。
「…………」
私はその場に立ち尽くしてしまった。
少年、じゃないんだけどね……本当は……。
なんだか、心臓の音が妙にうるさい。
「あの人……いったい……」
私は手渡された包紙を見た。乾燥した花――花茶が入っている包み紙があった。
「……ま、いいか」
きっともう会うこともないだろう。
……寂しいけど、行きずりの関係、って奴なんだと思う。
ちょっと意味は違うけどね……。
ていうか名前も教えてもらってないし。助けて貰ったんだし、名前くらいは教えてもらってもよかったかもなぁ……。
そんなことを思いながらも、私は男が行った方向とは反対方向に歩き出した。
心残りはあるけど、この心残りのままに彼を追いかけていったら……きっと深みにはまってしまう、そんな気がしたから。
これでも一応龍帝陛下の妃だからね。正々堂々暗殺したいのよ、私は。
こうして人にまみれて歩いていると、あの朱い瞳の男と出会ったことは、もしかしたら夢とか幻とか思い過ごしだったのかもしれない、なんて思えてくる。
チンピラにからまれて、そこを格好いいお兄さんに助けてもらって……。
ああ、ほんと。私、夢でも見たんじゃないのかしら。
……って、いつまでもそんなこと考えてないで、現実に戻らないと。
私、家麗さんとはぐれてたのよね。
だから気分を変えて家麗さんを探さないと。
とりあえずお茶屋さんにいったら合流できないかしら? もう目的のものは手に入ったけど二人の目的地はそこだったのだし。
お茶屋さんてどこだろう。人に聞いたほうが早いよね……。
なんて考えていると、突然人々の歓声があたりに巻き起こった。
「「「「「「「きゃああああああ!!!!!」」」」」」」
「「「「「「「「「龍様だあああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「ありがあやあああああああああああ!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」
え、龍様?
同時にばさばさと翼をはためかせる音がする。
『ごっめーん、水氷ーっ! おまんじゅう食べてたら遅くなっちゃった。ちこくちこくー!』
口におまんじゅうをくわえたままの灰色の翼龍――真琉が空から降り立ってくるところだった。
思わず遠い目になる。
ああ、これ。
また女官長に怒られるやつだわ。
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