『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花

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第2話 牙を剥く呪い

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 数日後。ルディーナの訃報は、瞬く間に国中を駆け巡った。

 哀れな生け贄妻は龍の牙に掛かり、その命を散らしたということである。

 ――そんな悲劇の裏で、フォーコン公爵邸のサロンは、むせ返るような歓喜に包まれていた。

「いやー、めでたい!」

 高笑いを上げるのは、ルディーナの叔父であり義父でもある、現当主のロドルフ・フォーコンである。

「本当にうまくいきましたわね。あの薄汚い出来損ないを処分できただなんて」

 ロドルフの妻がワイン片手にほがらかに笑えば、愛娘シャルロットがケラケラと笑い、バターたっぷりのクッキーを口へ運んだ。

「ああ、お姉様ったらお可哀想! 龍なんて野蛮な生き物のお腹に収まるなんて!」

 だが。異変は、唐突に訪れた。

「え?」

 シャルロットの動きが止まる。

 クッキーを持つ白い指先。そこに、一滴のインクを垂らしたような、黒い染みが浮かび上がったのだ。

「なんですの、これ?」

 彼女が拭おうとした瞬間、黒い染みは生き物のように蠢き、手首へ、腕へと、猛烈な勢いで這い上がっていった。
 それは蔦のように絡みつき、美しい肌を毒々しい蔦模様で侵食していく――。

「いやぁっ!?」

 シャルロットの絶叫が、サロンの優雅な空気を切り裂いた。

 それは、終わりの始まりだった。

 黒い蔦は熱を帯び、シャルロットの体力を確実に削り取っていった。

 ロドルフはすぐ、高名な医者に頼った。次に頼ったのは地位の高い神官で、そのうち胡散臭い占い師も屋敷に出入るようになった。
 そして誰もが首を横に振って帰っていった。

「呪いです」「報いです」「贖罪を」

 誰も彼もが同じことを言う。

「ええい、役立たずどもめ! 誰か、誰かおらぬのか!」

 そんな時だ。門番が、一人の修道士の来訪を告げた。

「『フォーコン家から、裏切られた星龍皇帝の気配を感じる』と、旅の修道士が申しております」

 その言葉に、ロドルフは弾かれたように顔を上げた。

 フォーコン家が星龍皇帝に娘を差し出したのは、世間的に知られていることである。だがシャルロットの身代わりとしてルディーナを嫁がせたことは、家族しか知らない秘密のはずだった。

「通せ! すぐにここへ連れてこい!」

 やって来たのは、粗末な修道服に身を包んだ男と、黒いヴェールの女だった。

 男がフードを取る。現れたのは、驚くほど整った顔立ちの、白銀の髪と黄金の瞳を持つ青年だった。

「私は修道士ソラン。女神ノリジア様の信徒です。そしてこちらは――」

 青年は、隣に立つ小柄な影を恭しく示した。

「聖女ルーニー様でございます。女神との誓約により言葉を発することはできませぬが、星龍皇帝の呪いを解ける、世界でただお一人の尊きお方です」

「で、ではお前たちは我が娘の呪いを解けるというのか!」

 静かに無言で頷く黒衣の聖女ルーニーに、ロドルフはニタリと笑った。

「ではさっそく観てもらおう。さ、我が愛娘の眠るベッドへと参ろうぞ」

 しかしロドルフは気付かなかった。決して屋敷に入れてはなかった復讐者たちを、自ら招き入れたことに。

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