【旧版】探偵令嬢です。夜会で婚約破棄されたのできちんと反論していたら怪盗が宝石を奪いにきました。

卯月八花

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1話 婚約破棄された探偵令嬢

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 初恋の人……。
 私の場合、それは隣国の皇子様だった。
 黒い髪と黄金の瞳の、とっても可愛らしい男の子。
 初恋はかなうことなく終わったけれど、記憶のなかにずっとある。
 そして、十数年の月日が流れ……。

  * * * *

「殿下はここで、婚約破棄だシルヴィア・ディミトゥール、といいます」

「婚約破棄だシ――なにぃ!?」

 私に言い当てられたハルツハイム王国第二王子ルース殿下は唇をかみしめた。

 そのうえ、ちょっと涙ぐんだ青い瞳で私を睨み付ける。

「くっ……おのれえ、探偵令嬢め。何故俺の言いたいことが分かった!」

「それは分かりますよ。ここまで舞台を整えられたのは殿下なのですから……」

「いや、身に覚えがあるから今更驚きはしない、ということか」

「人の話は聞いてください、殿下」

 私はあたりを見回した。

「この夜会は殿下が主催なされたものです。しかも急に」

 ここは王宮にある大きくて豪華なパーティーホールで、今は舞踏会の真っ最中である。

 年若いルース殿下が主催した軽めの夜会で、社交界にデビューしたての令嬢令息たちが主に参加していた。

 踊ったりうわさ話を交換したり交際相手を探したり……といった社交の経験を積む場として、若き第二王子が主催する夜会ほど適切な場ないだろう。

「そして、この夜会に殿下は婚約者の私ではなく、そちらのベナビデス男爵家ご令嬢ルミナ様をともなって出席なさいました」

 ……そこへルース殿下がぶち上げたのだ。

 私への婚約破棄を。

「おそらく夜会自体、殿下が私に婚約破棄を宣言なさる舞台として開催されたものなのでしょう。いかにも派手好みの殿下がなさいそうなことです。それらを鑑みれば殿下がなさいたいことの予想はつきます……」

「ふん、いちいちカンに障る物言いだなシルヴィア」

 なんて毒づく金髪碧眼のルース殿下のとなりには、ピンク髪の男爵令嬢ルミナ様が控えている。

「ほんとですわぁ、さっすが探偵令嬢ですわよぅ。なかなかの屁理屈ですわぁ」

「探偵令嬢、ですか……」

 私は探偵小説が好きで、よく読んでいる。
 貴族令嬢が好むものとしてはかなり変わったジャンルであるため珍しがられ、私は探偵令嬢なんて影であだ名されていた。

 つまりは陰口だ。
 なのに面と向かっていってくる……。

 ルース殿下もルミナ様も、私のことはそういう扱いをしている、ということだ。

「いかにも、私は探偵令嬢です」

 と、私は頷いた。
 別に探偵小説が好きなのは悪いことではない。だから影で探偵令嬢と言われているにしても、それは歓迎すべきことである。

「探偵小説は好きですからね。あだ名にそぐわぬよう、精一杯頭を回転させてご覧に入れますわ」

「ほんといいご趣味ですわよねぇ、殺人事件なんか書いていあるものをお好みになるなんて。そんな怖いご本、ルミナなんか表紙見ただけで気絶しちゃいますよぅ」

 ルミナ様はとても綺麗に着飾っていた。ピンクのふわふわドレスにピンクダイヤモンドの首飾り。

 特に首飾りが一級品で、今こそ一世一代の晴れ舞台、といわんばかりの輝きを放っている。

 それから、手首にちょこっと巻いている包帯が気になる……。全身ピンクなのに包帯だけが哀れっぽく白いのだ。

「そんなご本を読んでいるから、ルミナにもこんなことなさったんですのよねぇ? いけないご本ですことぉ。令嬢が読むのは禁止にすべきですわよぅ」

「ええと、申し訳ありません。なにをおっしゃっているのでしょうか、ルミナ様」

「まぁまぁシルヴィア様ったらぁ。とぼけるのがお上手ですことぉ。自覚がおありなんですわよねぇ? だから分かったってだけですのよねぇ」

「自覚……?」

 私は閉じた扇の先端で頬をぷすぷすと刺す。

「……貴族の義務ノブレス・オブリージュのことですか? いくらなんでも浮気くらいで婚約破棄していいほど無責任な地位では……私も殿下もありませんものね」

「残念! 違うですぅ。正解は婚約破棄される理由の自覚ですぅ! ねぇルース殿下ぁ」

「うむ。シルヴィア、お前ルミナ嬢を殺そうしたな? 殺人は罪、そして殺人未遂も罪。それを知らぬお前ではあるまい。ゆえに俺から断罪を受けると予想していた。つまりは婚約を破棄されることを予想していたのだ。違うかシルヴィア!」

 好きだの嫌いだので婚約破棄を宣言するのならまだ許せたが、私に殺人未遂の罪まで着せるつもりなのか。

 もちろん、そんなこと私はしていない。

 私はさすがにため息をついた。

「意味が分かりません。私はルミナ様を殺そうとしたことなどありません」

「あらぁん、往生際の悪いご令嬢ですことぉ。殿下ぁ、この人こーんな大人しそうな顔してるけどぉ、ほんとは嫉妬に狂ってルミナのこと殺そうとしてるんですのよぅ?」

 と、男爵令嬢ルミナ様が殿下の袖を引く。

「だから早くこの国から追い出しちゃってくださぁい」

「おお、ルミナ。任せておけ。シルヴィアは本を読むからこういう屁理屈だけは一級品なのだ。だがすぐに罪を認めさせるからもう少しだけ待っていてくれ」

「もーぅ、あんまり時間が掛かるとルミナのおめめがまぶたとまぶたでごっつんこですよぅ?」

 いっている意味はよく分からないが、どうやら、夜遅くて眠いから用件は早くしてくれ、ということらしい。

「一言よろしいでしょうか、殿下」

「なんだ、探偵令嬢」

貴族の義務ノブレス・オブリージュ……、先ほども申し上げたとおりです。私たちの婚約は国王陛下が決めた極めて政治的なものです。殿下がどれだけルミナ様にご執心であろうと構いません。しかし、結婚が義務である私たちの間にお遊びを持ち込まれることのないようお願いいたします」

「遊びではない! 真実の愛だ!」

 突然、ルース殿下は私を怒鳴りつけてきた。

「お前では与えてくれることのなかった安らぎをルミナは与えてくれたのだ! 今まで俺はお前との婚約なんぞに縛り付けられていた。しかし真実の愛を教えてくれたこの天使……ああ、人間の言葉でルミナだが、この天使が俺に教えてくれたのだ。真実の愛というものの居心地の良さをな!」

「ですからそういったものは貴族の義務の関係である私の婚約に持ち込まないでください、と申し上げておりますのに……」


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