【旧版】探偵令嬢です。夜会で婚約破棄されたのできちんと反論していたら怪盗が宝石を奪いにきました。

卯月八花

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2話 そんなことはしていない令嬢

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「黙れ! なにが貴族の義務だ。真実の愛を知った俺には貴族の義務などもはや無用の長物だ!」

「そうですぅ、殿下ったらおかわいそうですぅ」

 男爵令嬢ルミナ様は怖そうにくねくねと身体をくねらせた。

「いくら貴族の義務っていったって、嫉妬に狂ってルミナのこと殺そうとする人なんかと婚約してたんですよぅ? ぶるぶるぶるぶるぶるすけった、ですぅ」

「素敵だルミナ、こんどブルスケッタを一緒に食べような」

「はいですぅ!」

「……なるほど」

 私は深く頷いた。

 なにを『なるほど』と納得したのかというと、これはダメだ、ということ、である。

「しかも殺人未遂だ! 殺人本など読みすぎるからこうなるのだ」

「……え? もしかしてそれは探偵小説のことですか?」

「なんでもいい! 根暗で不細工なお前がなにを読もうと俺は興味がない。そんな本を読んでいるからこうなる、というだけでな!」

「それは……、論理が飛躍しすぎているといいますか……」

「なにが論理が飛躍だ、馬鹿らしい。真実とは辛辣なものなのだ!」

「はぁ、そうでございますか……」

 私はルミナ様を見つめながら呟いた。

 真実とは辛辣なもの、ね……。
 この全体的にピンクのご令嬢が殿下にもたらした真実って、そんなに辛辣なものだったのかしらね。

「証拠ならここにありますのよぅ、シルヴィア様ぁ?」

 私の視線に気づいたルミナ様が、にいっ、と笑って手首を見せつけてきた。
 ……手首に巻かれた白い包帯を。

「その怪我がどうかなさったのですか?」

「殿下っ殿下っ、聞きまして? シルヴィア様ったらこれが怪我だっていったですよぅ!」

「うむ。包帯で隠していたら怪我をしているかどうかなど分からないのにな!」

「……は?」

 思わず、素で疑問の声が出てしまった。

「包帯というのは怪我の治療のためにするものです。違うのですか?」

「もしかしたらアザとか隠してるだけかもしんないですよぅ!」

「まあそういうこともあるかもしれませんが……」

「はい認めた! 認めたですぅ! 殿下、この人犯行認めましたのよぅ!」

「いえあの、ルミナ様? 少し落ち着いてくださいませ?」

「はぁ……。ルミナ、最近男爵令嬢ってのになって、頑張ろうって思ってたんですの……ああ、なのに、なのに……」

 突然、ルミナ様はいかにも哀れっぽく声を落とした。

 ルミナ様の家……ベナビデス男爵家は爵位を買って貴族になったばかりの豪商である。そのことをいっているのだろう。

「でも貴族の人たちがルミナのこと庶民のくせに貴族になるなんて生意気だっていじめてきて……。でもそんなルミナを助けてくれたのがルース殿下だったんですぅ」

 キラキラとピンクの目を輝かせるルミナ様。

 ルース殿下は深く頷いた。

「俺がいればもう安心だぞルミナ。ルミナのような心の綺麗な天使をいじめるなど、今後一切俺が許さん!」

「ルース殿下かっこいーですぅ!」

「うむ。存分に讃えよ!」

 と、ここでルミナ様は私にそっと視線を送ってきた。

「でもそしたら殿下の婚約者っていうこの人が急に出てきたですぅ。この人ルミナのことすごーくいじめてきたんですぅ」

「いえ、私とルース殿下と婚約が決まったのはずいぶん昔のことですし、公表されてからも久しいです。ルミナ様も当然殿下に私という婚約者がいることは知っていたはずです。そのうえでルース殿下に近づいたのでしょう」

「殿下のこと盗られるって嫉妬にかられてっ、この女がルミナのこと殺そうとしたんですぅ!」

 と、手首の包帯をこれみよがしにそっと押さえた。

「シルヴィア様がナイフで……。ルミナ、怖かったですぅ……」

 ああ、そう来たか、という感じだった。

 もちろん、私はそんなことしていない。

 というかルミナ様に会ったのですらこれがほぼ初めてだ。

 顔合わせ程度の会釈が一回か二回あったとは思うけど。

 そんな相手をいつナイフで襲ったというのか。

「おお、ルミナ! なんということだ、なんという……なんという!」

 ルミナ様の隣で殿下が大げさに騒いでいる。

「言い逃れできないぞ、シルヴィア! 切られた本人がこう証言しているのだからな!」

「一言いいでしょうか? 私、ルミナ様にナイフで切りつけた覚えなどありませんよ」

「犯人の弁など聞く価値もない!」

 さて、と。

 そろそろ、この真実の愛とやらにのぼせ上がったルース殿下の目を覚まさせないといけないとね。


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