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3話 防御創を説明する令嬢
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「ルミナ様」
手首をさするルミナ様に対して、私は宣言した。
「よろしいですか、あなたは私を探偵令嬢とおっしゃいました。ならばその探偵令嬢の謎解き、とくとその身で味わわれますように」
「え、なんですの突然?」
「ルミナ様、あなたは私に殺されそうになった、とおっしゃいます。それは間違いありませんね?」
「ええ、そうですのよぅ? シルヴィア様が急にナイフを振りかざしてきて、それで……」
「私がナイフを振りかざして、ルミナ様はどうなさったのですか?」
「あっ、あの……」
ルミナ様は顔を青くして首を振った。
「こっ、怖かったんですぅ……。思い出したくもないですぅ……」
「シルヴィア、やめよ!」
ルース殿下が鋭く私を止める。
「ルミナは怖い思いをしたのだ。思い出したくもないというか弱い乙女心が分からんのか! しかも襲ってきたお前に説明しろなどとはなんという屈辱……!」
「ルース殿下ぁ、ありがとうございます。ルミナ、負けないですぅ!」
と、ルミナ様は涙をためたピンクの瞳でキッと私を睨み付けた。
「この探偵令嬢にきっちり言ってやるです。あなたはナイフを振りかぶってルミナのこと殺そうとしてきたです。ルミナの顔を狙って……きっとルミナのお顔が嫌いだから傷つけてやる! って感じだったんですぅ」
「それで、ルミナ様は防御なさったのですね?」
「そうですぅ。そのときにできた傷がこの手首の傷なんですぅ」
「いつ、どこで、私はそのような凶行に及んだのですか?」
「えっ!?」
ルミナ様の声がひっくり返った。
「え、えっと……、あの、この前のお昼ですぅ……」
「この前っていつですか?」
「こっ、この前っていうのはぁ……あの……」
顔を青くして首を振るルミナ様。
「一週間くらい前、でしたかしら……」
……もしかして、冤罪を被せることだけが先行して、細かいところは決めていないのかしら。
それにしては杜撰がすぎるけど……。
「ではどこで?」
「え、えっと、お城の大階段で……、ルミナがルース様にお会いしようとしてたら、急に背後からシルヴィア様が出て来て……」
「私は最近、このお城には来ていませんよ。理由はご存じでしょう? ルミナ様がルース殿下にべったりだから私とは会えなくなったのですよ」
「そっ、それはぁ……。あっそうだ、あの、シルヴィア様の手下が来たんです。それならシルヴィア様ご本人がこなくても大丈夫でしょう?」
ええ……?
さっきまで、まるで私自身がルミナ様に切りつけた、みたいな物言いだったのに。
いきなり証言を翻すというの?
それを信じていたルース殿下の手前とか考えないわけ?
……まあ、こう言い逃れられては、残念だけどそれを反証する手立てなんかないか……。
「……では、私の手下によって一週間前に城の大階段でつけられたというその手首の傷を、見せてください」
「えっ、なにを言ってるんですの、シルヴィア様……」
「よろしいですか、傷からはいろいろなことが分かるのです。専門的には防御創といいます」
私は両手を揃え、振り上げた。――そしてまるでナイフで切りつけるように振り下ろす。
手に持っている扇をナイフに見立てるのは、さすがにやめておいた。
「……これが、『ナイフで上段から切りつける』という動作ですね。そして――」
私は顔の前に手をかざした。
「これが、『ナイフで上段から切りつけられた際に人間がごく自然にする防御の動作』です」
私は顔を手でかばう動作のまま、言葉を続ける。
「いいですか、よく見てください。この場合、上から振りかぶって降りてきたナイフの刃はどこに当たるかというと、主に手から手首にかけて、ですね。この防御しようとして付けられた傷、これを防御創といいます。なお――」
私は拳を握り、それで顔面を防御した。
「本当ならこのように拳を作り、外側に甲を向けてガードするのがいちばん被害は少ないのです。ナイフの刃が骨に当たって滑りますからね。ですがそれは格闘技の経験がある人間がすることです。ルミナ様は格闘技の経験はおありですか?」
「な、ないですの」
「では咄嗟に防御しようとしたのですね。手首の傷もそういった傷になっていることでしょう」
「え? どういうことですの?」
「つまり、その手首の傷を見せていただければ、ルミナ様がどのように防御なされたのかが分かる、ということです。それだけではありません、犯人の身長や利き腕も分かります。防御創というのは本当にいろいろな手がかりを与えてくれるのです」
「で、でもあの……!」
「これが『探偵令嬢』の知識ですわ」
私は腰を下げてスカートを摘んでお辞儀をした。カーテシーというやつだ。
「この私を罠にはめようというのです、ものすごいトリックをしかけてきてくださるのですよね。期待していますわよ、ルミナ様」
「え、えーと。ル、ルース様……」
涙目のルミナ様がルース殿下にか細い声で助けを求めれば、
「いい加減にしろシルヴィア!」
ルース殿下が顔を真っ赤にして私を怒鳴りつけてくるのだった。
手首をさするルミナ様に対して、私は宣言した。
「よろしいですか、あなたは私を探偵令嬢とおっしゃいました。ならばその探偵令嬢の謎解き、とくとその身で味わわれますように」
「え、なんですの突然?」
「ルミナ様、あなたは私に殺されそうになった、とおっしゃいます。それは間違いありませんね?」
「ええ、そうですのよぅ? シルヴィア様が急にナイフを振りかざしてきて、それで……」
「私がナイフを振りかざして、ルミナ様はどうなさったのですか?」
「あっ、あの……」
ルミナ様は顔を青くして首を振った。
「こっ、怖かったんですぅ……。思い出したくもないですぅ……」
「シルヴィア、やめよ!」
ルース殿下が鋭く私を止める。
「ルミナは怖い思いをしたのだ。思い出したくもないというか弱い乙女心が分からんのか! しかも襲ってきたお前に説明しろなどとはなんという屈辱……!」
「ルース殿下ぁ、ありがとうございます。ルミナ、負けないですぅ!」
と、ルミナ様は涙をためたピンクの瞳でキッと私を睨み付けた。
「この探偵令嬢にきっちり言ってやるです。あなたはナイフを振りかぶってルミナのこと殺そうとしてきたです。ルミナの顔を狙って……きっとルミナのお顔が嫌いだから傷つけてやる! って感じだったんですぅ」
「それで、ルミナ様は防御なさったのですね?」
「そうですぅ。そのときにできた傷がこの手首の傷なんですぅ」
「いつ、どこで、私はそのような凶行に及んだのですか?」
「えっ!?」
ルミナ様の声がひっくり返った。
「え、えっと……、あの、この前のお昼ですぅ……」
「この前っていつですか?」
「こっ、この前っていうのはぁ……あの……」
顔を青くして首を振るルミナ様。
「一週間くらい前、でしたかしら……」
……もしかして、冤罪を被せることだけが先行して、細かいところは決めていないのかしら。
それにしては杜撰がすぎるけど……。
「ではどこで?」
「え、えっと、お城の大階段で……、ルミナがルース様にお会いしようとしてたら、急に背後からシルヴィア様が出て来て……」
「私は最近、このお城には来ていませんよ。理由はご存じでしょう? ルミナ様がルース殿下にべったりだから私とは会えなくなったのですよ」
「そっ、それはぁ……。あっそうだ、あの、シルヴィア様の手下が来たんです。それならシルヴィア様ご本人がこなくても大丈夫でしょう?」
ええ……?
さっきまで、まるで私自身がルミナ様に切りつけた、みたいな物言いだったのに。
いきなり証言を翻すというの?
それを信じていたルース殿下の手前とか考えないわけ?
……まあ、こう言い逃れられては、残念だけどそれを反証する手立てなんかないか……。
「……では、私の手下によって一週間前に城の大階段でつけられたというその手首の傷を、見せてください」
「えっ、なにを言ってるんですの、シルヴィア様……」
「よろしいですか、傷からはいろいろなことが分かるのです。専門的には防御創といいます」
私は両手を揃え、振り上げた。――そしてまるでナイフで切りつけるように振り下ろす。
手に持っている扇をナイフに見立てるのは、さすがにやめておいた。
「……これが、『ナイフで上段から切りつける』という動作ですね。そして――」
私は顔の前に手をかざした。
「これが、『ナイフで上段から切りつけられた際に人間がごく自然にする防御の動作』です」
私は顔を手でかばう動作のまま、言葉を続ける。
「いいですか、よく見てください。この場合、上から振りかぶって降りてきたナイフの刃はどこに当たるかというと、主に手から手首にかけて、ですね。この防御しようとして付けられた傷、これを防御創といいます。なお――」
私は拳を握り、それで顔面を防御した。
「本当ならこのように拳を作り、外側に甲を向けてガードするのがいちばん被害は少ないのです。ナイフの刃が骨に当たって滑りますからね。ですがそれは格闘技の経験がある人間がすることです。ルミナ様は格闘技の経験はおありですか?」
「な、ないですの」
「では咄嗟に防御しようとしたのですね。手首の傷もそういった傷になっていることでしょう」
「え? どういうことですの?」
「つまり、その手首の傷を見せていただければ、ルミナ様がどのように防御なされたのかが分かる、ということです。それだけではありません、犯人の身長や利き腕も分かります。防御創というのは本当にいろいろな手がかりを与えてくれるのです」
「で、でもあの……!」
「これが『探偵令嬢』の知識ですわ」
私は腰を下げてスカートを摘んでお辞儀をした。カーテシーというやつだ。
「この私を罠にはめようというのです、ものすごいトリックをしかけてきてくださるのですよね。期待していますわよ、ルミナ様」
「え、えーと。ル、ルース様……」
涙目のルミナ様がルース殿下にか細い声で助けを求めれば、
「いい加減にしろシルヴィア!」
ルース殿下が顔を真っ赤にして私を怒鳴りつけてくるのだった。
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