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強制

今出来ることを。

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 真尋と途中で別れた涙は、少し小走りに歩く。コンビニの近くに寄るとビック&クールサイダーの空のペットボトルをプラスチックゴミに捨てた。あえて言うならば、証拠隠滅。素直に言えば、怒られない為だ。

 いつも必要な分のお金をくれるのだ。無駄な買い物をしたと思われたら結局殴られることになるだろう。その為の対策、と言えば良いのだろう。

 涙は直ぐ様“今”の家に戻った。


ーーーーー
「おい、遅かったじゃねぇか。」
「っ!」

 急いで家に帰り、玄関のドアを開けると目の前に“あの人”がいた。
 驚いたが、顔を強ばってなんとか冷静さを保ちながら理由を言う。

「すみません、学校で少し用事がありました。」
「で、7時になんのか?お前部活に入って無いだろ?」
「………はい。」
「本当の事、言えよ?」

 あの人、蓮司(れんじ)さんの言葉は重い。迫力を越えて、上の者の支配者が言う言葉のようだ。逆らえない、それが彼の印象。

「………転校生と話していました。」
「で?」
「………それだけです、他には何もありません。」
「ふん、そうか。」
「っ!」

 蓮司さんは自分の前髪を掴み、自分の目と蓮司さんの目が合う近くまで引き寄せられた。

「次、嘘言ったら分かってんだろうな?」
「…………」

 涙はただただ目を見開き、呆然と立ち尽くすしかなかった。


ーーーーー
 涙はおばさんとおじさん、蓮司さんの食事を作ると余ったおかずとご飯を持って、自身の部屋に運んだ。
 おばさんとおじさんはここで食べなさい!と言ってはくれるが、自分は遠慮する。蓮司さんの事もあるが、これが普通の様になってしまっている。

 全ては、あの頃の事にあるのだろう。


ーーーーー
[ 二年前、●●家より ]
 一年たった今でも、なんとか耐えていた。東(あずま)の叔父さんは、自分の事が嫌いなのは分かるぐらい素直な態度で示してくる。
 例えば、ご飯。叔父さんが帰って来る時自分が食事をとっていると、くちゃくちゃして気持ち悪い、食べ終わってろよっ!などのことを言ってくる。
 その時編み出したのが部屋で食べる事だったのだが、部屋が臭い!ちゃんと掃除してんのかっ!と苦情が来てしまった。その時には部屋に入って、茶碗等をひっくり返してきた。
 その為茶碗は割れ、新しいのを買わなければいけないという危機に瀕したのだが。

ーーーーー
 まぁ、それはともかくだ。今は良いこと付くめだ。働けるし、服が雑巾代わりにならないし、そして勉強をやって遅く帰っても怒られることは余り無いと言うこと。自分に取っては好都合の良いことが訪れている。今の内に出来ることをしなければ…………


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