風の想い 風の行方

木葉風子

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想い⑤

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「着いたよ」
車が止まり
みんなが下りる
「おとうさん」
英司が駐車場へやって来る
「おかえり輝、みんなも…」
なんだか様子がおかしい
「英司、どうかしたのか?」
尚登が聞いた
「希美ちゃんの母親が
来てるんだ」
「えっ!?」
彼を見る尚登

「母親って…でも、自分では
育てられないって言っただろ
それなのに今さら…」
怜が問い詰める
「確かにね、でも会ったら
だめだとは言ってないからな」
「そんなの勝手だろ!
育てる気持ちがないのに
会いに来るだけなんて!!」
興奮気味の怜
「怜、落ち着け!」
「尚さん、でも、そんな」
希美を見る
楓子に抱かれ寝ている

「でもね、怜
ノンちゃんは
会いたいはずだよ」
怜をじっと見つめる楓子
「ふぅちゃんは
会わせたほうがいいって
思ってるの?
俺は絶対反対だから!」
厳しい顔で楓子に言った
「でも、母親なのよ…」
「そうだけど、でも、
俺はイヤだ!」
ますます興奮する怜
「落ち着いてよ
とにかくノンちゃんを
病室に連れていかなきゃ」
「とにかく病室に戻ろう」
尚登が怜をなだめる

小児病棟に戻ってきた
怜と楓子
病棟の入り口に
女性がひとりいる

「希美」

2人の前に駆け寄って来る
怜が立ち塞がる
「あなたは…」
怜の顔を見る
「どうして、また同じ事が
できるんだよ?」
怒鳴りつける怜
「他人には関係ないわ!」
怒鳴り返してくる母親
「あんたはこの子の為に
何をしたんだ」
「だから、他人の事だから
ほっといてよ!」
楓子の腕の中でスヤスヤと
寝ている希美
「彼女は毎日毎日
会いに来てるんだ!」

「怜、やめて」

「誰が他人の為に
そんな事ができるんだ」

「あなたたち
静かにしなさい!」
看護師が飛んで来た
「すいません」
看護師に謝る楓子
「ノンちゃん
ベッドに寝かせてね」
看護師に希美を手渡す
「わかったわ
落ち着いて話しするのよ」
看護師が病室に入っていく

「怜!」
敬と輝が来る
彼らの後ろには
尚登と英司もいる

「なんなの
あなたたちは」
彼らを見る母親
「僕たちは
ノンちゃんの友達です」
落ち着いた態度で話す敬

「あなたがどんな生き方を
しようと関係ないけど
大切な友達を泣かすのは
許せないんだ」
穏やかに、だが厳しく言う
「あたしは母親よ!」
「そんなの関係ないよ!
僕は親に虐待
されてたんでね
親だからって
信用してないから!」
「あたしは
そんな事してないわよ」

「俺は母親に
置き去りにされたんだよ」

「わかったわよ
今日はもう遅いし
帰ればいいんでしょ」

3人の前を
通り過ぎようとして
輝を見る

「あなたも何か
言いたそうね」

「ぼくは赤ちゃんのとき
捨てられた…」

怒ったような顔をして
その場を去る母親

「敬、サンキュー」
「何が?」
「俺、あの母親
殴ってたかも」
「もしそんな事になったら
俺がぶん殴っても
止めてたよ!」
尚登が皮肉っぽく言った
「でも、怜の気持ちは
よくわかるよ」
敬が怜を優しく見る
    
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