風の想い 風の行方

木葉風子

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大切なこと②

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時刻は午後1時少し前
みんなの職場があるビル
従業員出入り口の前
2人の青年が立っていた

「ここで待つの?」
そう訊ねる毅
「約束の時間は
1時だからね」
敬が答えた
「でも、サイン会するって
めずらしいよね…」
敬の顔を覗き込む毅
「それって、どういう
ことなのかな?」
聞き返す敬
「だってさ、敬が人前に
出ていくなんていままでも
なかったよね…」
「まぁね」
少しはにかむ敬

ガチャリ
裏口のドアが開いた
「ふぅちゃん」
「待った?」
「今来たとこだから」
敬が言った
「どうぞ中へ」
楓子が中へ入るように促す
「じゃあ、オレ
店の方に行っとくね」
「打ち合わせだけだから
すぐ終わるよ」
敬がそう言って
奥に入った

❨でも敬は凄いよなぁ!
自分の力で生きてるよ…❩

ビルの表に周り
本屋へと続く階段を上る毅
本屋へ入る毅
普段の日の昼間のわりに
大勢の人で賑わっている
時間潰しに店内を彷徨く
小説のコーナーに行く
敬の小説が並ぶ本棚
発売したばかりの新刊は
平台に何冊も置いてある

❨この本で何冊目かな…
敬が小説家だなんて
いまだに信じられない
でも実際に並んでる本を
見ると不思議な感じだなぁ❩

ぼやっとする毅
「こんにちは」
いきなり声をかけられた
声のする方を振り向く
学生服姿の真人がいた
「おまえ、学校は…」
「今日はもう終わった」
笑顔で言う
「寄り道?」
「妹が来るから
待ってるんだ」
「妹…」
「今日はお話し会の日
だからね!」
「おにいちゃん」
ランドセルを背負った
女の子がやって来た
「妹の舞桜(まお)」
毅に紹介する
毅をじっと見て
真人を見直す
「ほら、挨拶は?」
妹に言う真人
「こんにちは」
ハキハキと言う

「ねぇ、おにいちゃん
この人が怜先生のお友達?」
真人を見て無邪気に訊ねる
「うん、そうだよ」
兄妹の会話を聞いた毅
「怜を知ってるの?」
おもわず聞いた
「うん、まおも和兄も
怜先生に診てもらったよ」
元気よく答えた
「なるほどね」
「おにいちゃん、早く行こう
前に座れなくなるよ」
兄を急かす妹
「座れない?」
意味がわからず
真人を見る毅
「今日はお話し会の日
だからね」
真人が言った

真人たちに連れられ
3階にやって来た
たくさんの子供たちが
椅子に座っている
目の前には小さなステージ
そこにテーブルと椅子
そして立て看板

〔お話し会
今日は《白雪姫》3時から〕

「でも、誰が話しするの?」
隣に座る真人に聞く毅
「えっ、知らないの?」
驚いた様子の真人
「ほら、この前僕たちに
声をかけてくれた
本屋の店員のおねえさん」
「そうなんだ…でも確か
怜や輝がいってたような…」
「ほんとに
知らなかったんだね」
真人に言われる
「だから、ふぅちゃんを
有名人だって言ったんだ」
彼の問いかけに頷く真人
立て看板を見直す

❨白雪姫って…
そういえば、ふぅちゃん
チビたちに絵本読んでた❩
子供の頃を思い返す毅

お話し会が始まるまで
子供たちは嬉しそうな様子
❨そういえば
あの頃もチビたちみんな
楽しみにしてたよな
オレや輝もそうだった…❩

満席になり立ち見までいる
「この人、有名人だから」
この間の真人の言葉通りだ


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