風の想い 風の行方

木葉風子

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大切なこと①

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朝、食事の用意をする怜
テレビのスイッチをつける

『昨日の夜
マンションから
12歳の少年が落ち
亡くなりました
事故か自殺か
調査中です』

画面から流れるニュース
テレビをじっと見つめる

❨どうして?
死んでしまったら
終わりだろ!
君の周りには
誰もいなかったの?

12歳
俺も死のうと思った
母親が死んで
俺なんか生きてても
何の意味もないって…❩

画面から目を離し
天井を見上げ
昔に想いを馳せる

❨でも、尚さんや英司さんは
探しに来てくれた
敬も毅も輝も
待っててくれた
そして、ふぅちゃんも

「泣いていいのよ」
「………」
「私がいたら
泣けないよね
あっち行くね」
「一緒にいて」

あのとき
彼女の前で
素直に泣けた
何もいわずに
側にいてくれた
一緒に泣いてくれた
彼女の涙は
温かったんだ❩

「怜」
「えっ…」
「何してるの
遅くなるわよ」

パンが焼けた匂い
「冷めないうちにどうぞ」
「ふぅちゃん
仕事は昼からだろ
まだ寝てていいのに」
「珈琲入ったからね」

「いってきます」
「いってらっしゃい」

❨ねぇ、ふぅちゃん
俺は君がいてくれるだけで
幸せだからね❩

❨ねぇ、怜
あなたにとって
いい奥さんなのかな?
ほんとに私でいいの?
あなたなら
他にいくらでも
いい人がいるよ…❩

「おはよう」
「毅、おはよう
相変わらず早いね」
まだ眠そうな敬
「ご飯は?」
「僕、朝食べないから」
呆れ顔で敬を見る
「何?」
「怜が心配するわけだ」
ため息をつく
「悪かったね
大丈夫だって
言うんだけど
輝と怜
覗きに来るんだよ」
「おまえ
ひとりでいるからだよ」
「そんなこと言ったって…」
困った顔をする敬
「おまえの性格は
わかってるよ」
優しく彼を見つめる毅

職場のエレベーターの
前にいる江莉香
「おはようございます
九条先生」
こちらに来た彼に挨拶する
「おはよう」
「最近、早いですね」
「怜がいないからな」
「でも、どうして?」
エレベーターが来て乗る
先ほどの話しを続ける尚登
「あいつに任せてたから」
苦笑いをする
「新しいドクターは
まだ来ないんですか?」
尚登を見た

「来週には来るけど
怜のようにはいかないなぁ」
小さくため息をする
「先生と怜くんは親子
みたいなものですからね」
「どこがだよ!」
大きな声で言った尚登
エレベーターが止まった
「先生、着きましたよ」
下りていく尚登

❨九条先生が
怜くんの父親なら
彼女にとっても
おとうさんになるんだ…

おとうさん
寂しがるだろうなぁ
ふぅちゃんのこと
娘みたいに思ってるからね

あなたは
私にとっても
大切な人だから…❩



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