桜色の思いで

木葉風子

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「こんにちは」
顔馴染みの看護師が来た

「詩織ちゃん
熱、計ってね」

そう言って体温計を
手渡してくれた
ベッドに座り脇に
体温計を挟んだ

「今回はどうしたの?」

私の顔を見ながら
聞いてくる

「少し熱っぽいだけ…
みんな大袈裟なんだから」

拗ねた顔をする詩織

「何、言ってるの
親が子供の心配を
するのは当たり前」

そう言うと病室を
出ていく母親

「私の病気
もう治ったんでしょ?」

カルテに記入中の看護師に
訊ねる詩織
その顔は不安そうだった

「もちろんよ」

そんな詩織に優しく言う

「あんなに心配されると
まだ治ってないのかって
思っちゃうわ」

「そんなに心配なら
神谷先生に聞いてみなさい」

そう言って病室を出る看護師

❨私だって
わかってるよ…

パパやママが
あんなに心配するのは
五年前の病気のせいだ…

あのとき
ドナーが見つからなければ
死んでいたかもしれない…❩

ガチャとドアが開き
母親が戻ってきた

「まだ着替えてないの?」

「いまから着替えるよ」

「じゃあ、その前に…」

詩織の目の前に
袋を差しだした

「えっ?」

「アイスクリーム
食欲なくても、これなら
食べられるでしょ」

病室にある丸椅子に座り
袋の中のアイスを取りだした

「バニラとチョコ
どっちがいい?」

屈託のない笑顔で
訊ねる母親

「じゃあ、チョコ」

「はい、これね」

紙カップのアイスを
私の手に乗せた

「溶けないうちに食べよう」

そう言って木のスプーンで
アイスを掬って食べだした
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